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19日目:花園には秘密がいっぱい

 シークレットガーデンってなんだっけ。

 いや、単語の意味だけ見ると隠された庭、ってことだよね。それはわかる。でもなんかリアルで結構知名度高い単語じゃない? 映画かドラマでそんなタイトルのがあったのかな。

「歌手じゃなかったか?」

「え、そうなんだ。僕知らないなあ」

 なんて、ちょっと現実逃避気味な会話をしてしまうのには理由がある。テトが見つけた空間魔法で隠された通路、あれの先に歩を進めたら、なんかとてつもない光景がそこに広がっていたからだ。


 イオくんが先頭に立って隠し通路に歩を進めた僕たちだけど、あの通路は結構長かった。途中で【ダークアイ】をかけてみたんだけど見え方は変わらなかったから、あの通路そのものが魔法で作られたものなのかも。

 1分くらい真っ暗な通路を歩き続けて、唐突に表に出た時、たどり着いた場所には光が溢れていた。まばゆさに目がくらんで、なれるまで少し待ったくらいだ。でも、ここって地下のはずなのに、なんで光が……? と、僕は真っ先に天井を見上げて確認したんだけど。

 どうやら、マジックミラーみたいに向こう側からの太陽光は通すようなガラスっぽい天井になってるみたい。地上で見渡したときに花畑が途切れている場所はなかったと思うから、ここの出入り口みたいに造花でカモフラージュしてるか……あるいは、もしかしてあの長い通路ですごく遠い所にまで飛ばされてる可能性もあるかなあ。

 まあとりあえず、天井がガラス張りだから明るいのは納得した。うむ、と頷いて視線をそのまま下へ移して……。

「うっわ……!」

 そのまばゆい美しさに、しばし呆然とする。

 しゃらしゃらと揺れるのは、黄色からオレンジに近い色の、桔梗みたいな形の花々だった。それが一面にずらーっと、所狭しと植えられている。それだけならまだ良いけれど、その花びらがどう見てもべっこう飴。光を受けてきらきらと輝いている様子は、飴細工のようだ。


「なにこれ……美味しそう……」

「ぶは」

 思わず僕が本音を漏らすと、イオくんが隣で思いっきり吹き出す。

「まずそこかよ、さすがナツ、食いしん坊」

 けらけら笑いながらそんなことを言われた。いやでも美味しそうじゃんどう見ても。飴だよ!?

 おいしそー!

 ほらテトも美味しそうだって言ってる! お目々キラキラで言ってる! と主張した所、イオくんからは「お前たちは本当にそっくりだよ」という一言をいただきました。

「とりあえず<鑑定>。えーと、蜜花?」

「すげえぞ、全部★7だ」

「フラワーワームが生成する種からしか咲かない特別な蜜の花。花びらをお湯に溶かすことではちみつとして利用できる。花だけ摘めば茎から新しい花が咲く……イオくんこれ株ごと欲しい」

 無限はちみつ製造ができるじゃん……! 最高では? ホットケーキにたっぷりつかえるのでは? とワクワクしながら言った僕に、答えたのはイオくんではなかった。


「あら、株はだめよ」


 空間に響き渡る、楽器のような美しい声だ。

 はっと顔をあげると、空中にひらひらと舞う蝶が一匹。……僕の背丈くらいはありそうな大きさの、デフォルメデザインの蝶だけど、その羽根はステンドグラスのように光を受けてキラキラと輝いている。ふわっと羽を羽ばたかせて移動するたび、その軌跡に沿ってキラキラが振りまかれるような感じだ。

 ちょうちょー。きれーい。きらきらー!

 テトがうっとりしたようににゃーんと蝶を褒め称えているけれど、あの大きな蝶は神輝蝶さん、だよね? 巨大な石像とすごく似てる感じだし。

「こんにちは」

 とりあえず反射的に出た言葉は挨拶から。会話の基本だね!

「はい、こんにちは。人類がここまでくるのはすごく久しぶりね」

 すいっと僕たちの方へ来てくれた蝶は、その大きな瞳で僕たちを見つめる。

「僕はナツ、こちらは僕の頼れる親友のイオくんです。こっちは僕の契約獣のテトです」

 テトだよー!

「イオだ。すまん、道を見つけたから入ってきてしまったが大丈夫だったか?」

「あらあら。私は神輝蝶と呼ばれている存在、名前はエクラよ。あなた達は炎鳥と縁があるのね、それなら入っても良いわ、お花が欲しいの?」

 あまいのほしいのー!

 僕たちがなにか答える前に、ぴょいーんとその場でジャンプしたテトが答えてしまった。僕は慌ててテトをなだめてから、テトから降りる。エクラさんの前でテトに乗りっぱなしというのもなんか失礼だもんね。


「料理に使えるなら少し分けてもらいたいが、駄目なら無理にとは言わない。……炎鳥と縁があることは、見ただけでわかるのか?」

 僕がもたもたとテトから降りている間に、イオくんが質問してくれている。それ僕も知りたかったやつ! さすがイオくん、察する能力に長けている……!

「そうねえ、50個以下なら持っていってもいいわよ。花のところだけぽきっと折ってね、そうすれば次の花がそこから生えるから。1度に持ち出していいのはそのくらいだけど、また欲しいというのなら貰いに来てもいいわ。……炎鳥のことは、だって、その白い子の首輪に羽があるじゃない?」

「ああ」

 なるほどそれか。

 テトのご自慢の首輪に、模様のように巻き付けてもらったソウさんの羽。炎鳥さんと会いやすくなるアイテムとしか思ってなかったけど、言われてみればソウさんの持ち物をもらっているわけだから、見る人が見ればすぐわかってしまうね。

 これねー、ソウにもらったのー。

 テトは首輪が褒められたと思ったのか、ちょっと自慢げにお澄ましポーズをしてみせた。胸を反らせて首輪がよく見えるようにしている……モデル猫さんかな? かわいいね。

「サンガでソウさんっていう青炎鳥さんにもらったんです。えっと、対になる赤炎鳥さんの卵石を届けたご縁で」

「あら、素晴らしいことだわ。あなた方は人助けをしているのね」

 たまごはこぶのー!

「卵を運ぶお手伝いですね。テトが頼まれてるんです」

 ねー! と言いながらテトを撫でていると、にゃっふーと得意げな顔をしたテトに、エクラさんがすすっと近づいた。


「赤炎鳥の加護を感じるわ。この子は生まれたばかりなのね」

「あ、はい、実はまだ生まれて数日……10日くらい? です!」

「そうなの。子供は宝物よ、良い子に育ってね」

 エクラさんはそう言って、サラサラと光の粉をテトに向けて撒いた。あ、これ祝福……? エクラさんは神獣さんだけど、妖精類に分類されるのかな。

 僕とテトがエクラさんと話をしている間に、イオくんはさっそく蜜花を摘み始める。イケメンがキラキラした花畑で花を摘むの図……うわあなんかゲームのスチルとかにありそうなやつだ。イオくんに後光がさして見えるなあ。

 あ、テトがイオくんの方に行った。甘いもの食べたいというおねだりですねわかります。イオくんはまとわりつくテトに苦笑している。

 どう考えても<収穫>スキル持ちのイオくんに任せたほうが良さそうなので、僕はエクラさんとの会話に集中しよう。多分、イオくんも聞いてるだろうし。


「ここはエクラさんのお住いなんですか? ソウさんは妖精郷に住んでましたけど……」

「そうね、世界には妖精郷のかけらがたくさん残っているから、そういうところに住んでいる神獣や聖獣は多いわ。私の場合、ここは一応ナルバン王国よ。ただ、戦争のときに協力してくれた人がいて、隠してもらっているわ」

「隠す?」

「そう。空間を切り離して、特定の入口からしか入れないようにしてもらっているの。あなた達が入ってきたところは、一番古くからつながっている扉ね。あれは切り離す前、100年くらい前かしら。もっと前かもしれないけれど、そのくらいの時期によく使われていた扉よ」

「そうなんですね。向こうにエクラさんの石像があったから、宗教施設なのかと」

「あらあら。確かに信仰対象だったことはあるわね。昔は甘いものがあまり、自然界から取れなかったでしょう? だから、信者たちは私が育てたこの花を取りに来て、お礼を言って、祈って、なにか不都合があればお申し付けくださいと決まり文句を言っていたわ」

「そうなんですね」

「でも、戦争が起きたでしょう? 私のお友達が、私を心配してこの空間を隠してくれたの。とても大変な魔法だったみたいだから、私も少し力を貸して、隠してもらったのよ」

 エクラさんはとてものんびりとした口調で、穏やかにそんなことを説明してくれた。なんかすごい人がこの花園を隠したというのはわかったけど、僕たちが入ってきたところが一番古い扉ってことは、もっと新しい扉があるってこと、だよね?


「ここは、他にはどことつながっているんですか?」

「色々よ。フェアリーの国とか、王国内でも5・6箇所扉があるの。私の花を欲しがる人たちのところにつながっているわ。戦後の食糧難の手助けもしたのよ」

「おお、エクラさんも色んな人を手助けしているんですね」

「困ったときはお互い様なのよ」

 どうやらだいぶフレンドリーな神獣さんらしい。今のところ出会った神獣さんたちはみんな友好的だったけど、敵対することってあるんだろうか。個体差があるのかな、そういうの。

「あなた達は、あの子が言っていたトラベラーさんかしら。この国の人達と少し違うわね」

「あ、はい、トラベラーです。あの子って?」

「ここを隠してくれた子よ。魔法を使うの。もう長いこと私の友人なのだけれど」

 ここを隠してくれた子、ということは住人さんで間違いないね。そしてかなり高度な魔法を使う人ということはわかる。

「その人は、今どちらに?」

「今はナナミにいるんじゃないかしら。あなた達はどこから来たの?」

「あ、僕たちはサンガから。ゴーラへ行く途中です」

「あら」

 エクラさんさんはゴーラと聞いて、少しうれしそうな声を上げた。それから「ちょっとまっていて頂戴」と言い残してひらひらと奥へ飛んでいく。


 ちょうちょさんいっちゃったー?

「ちょっとまっててって」

 頃合いを見計らったようにイオくんとテトが花畑から戻って来る。テトが土をくっつけているので【クリーン】をかけて、っと。

「イオくんはちみつ料理のレパートリーあるの?」

「正直ヨーグルトに入れる以外の使い方したことねえな」

「パンケーキにかけよう」

「それはナツが食いたいだけだろ。カップケーキに混ぜてみるか」

「素晴らしいと思います!」

 わーい! いつつくるー? いつー?

「テト、ぐるぐる回るな危ない。落ち着け」

 にゃにゃーっとテンション上がっているテト、いつにもましてイオくんの周りをぐるぐるしている。これはテトのおねだり体勢で、回りながら体を擦り付けているやつですね。イオくんはストレートに甘えられるのに弱いから、多分作れるようになったらすぐに作ってくれることでしょう。


 微笑ましい光景をにこにこしながら見ていると、突如として花畑の左側の壁に魔法陣が浮いた。ぱあっと派手に光ったそれは、やっぱり歯車のように回転して扉の形を作っていく。エクラさんが何かしたのかな? とぼんやりそれを見ていた僕は、その魔法陣が木製の扉になったのを見てあれ? と思った。

 あれが転移魔法陣みたいなやつだとしたら、奥に行くときここから使えばよかったのでは? ということは、この魔法陣を使っているのはエクラさんではない……?

 僕がそう判断できたところで、すでにイオくんは一歩僕の前に出てかばうような姿勢を見せている。さすが前衛頼りになる! でも最初は対話可能なら対話からということで、剣までは抜いてないところがえらい。状況判断が的確だね!

 僕とイオくんがちょっと緊張したけれど、テトはのほほんとのびーっとしている。そんな中でガチャっと扉が開いて、向こう側から20台後半くらいの男性が顔を出した。

 ばちっと目が合う。

 水色の髪に青い目という派手な色合いの男性は、上品そうな顔の眉間にシワを寄せた。小難しい顔をしていても美形だけど……あ、耳尖ってるからエルフさんだ。


「……見ない顔だな。何者だ?」

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