19日目:ゴーラへ向けて
旅。
なんかその響きだけでわくわくして、楽しみで夜眠れなかったり、やたら早起きしちゃったりしない? 僕はする。それで目的地までの移動中爆睡するのが常だった。
子供の頃は旅行というより遠出が多かったし、泊まりに行くっていうと、田舎のおじいちゃんの家って決まってたけどね。初めてホテルというものに泊まったのは小学校高学年の修学旅行の時だったかなあ。あのときは大部屋に大人数で寝たから、深夜まで遊び倒して2日目がめちゃくちゃ眠かった記憶しかない。トランプの大富豪で大勝ちしたのは覚えてるんだけど、他の記憶が曖昧なんだよね。
「イオくんも小学校の修学旅行で徹夜トランプした?」
「俺んとこは花札だったぞ、俺はやらなかったけど」
「なぜやらぬ」
「誘われなかったから」
「悲しい理由だった」
「いや普通に眠かったし」
夜は寝ろよ、というイオくんである。いや、そりゃ眠いよ。眠いけどそこを敢えて夜ふかしするのが醍醐味というか! と力説した僕に、イオくんは冷めた視線を向ける。
「ナツは前日のテンション上げすぎなんだよなあ」
「テンションは上がるものじゃん!?」
「お前さては今日もリアルであんまり寝てないな」
「旅の前日は眠れないもんなんだよ……」
「寝落ちだけはするなよ? アナトラで寝落ちすると強制ログアウトだからな? その場で消えて、次回ログイン時に消えたところから再開になるぞ」
「えっ、マジで? 気をつけます!」
流石にフィールドの真ん中とかで寝落ちしたらまずいね。次ログインと同時に魔物とエンカウントから死に戻り、とか余裕でありえる。昼休み多めにもらって昼寝しようかなー。
リアル朝食後の9時にログインした僕とイオくんは、贅沢に喫茶店でモーニングを食べた後、東門からゴーラへ向けて出発した。門を出てすぐの川を足場を作って南方向に渡って、そこからは徒歩の旅だ。
……というか僕の場合はテトに乗ってるだけなので快適なんだけど。楽しそうにぴょんぴょん歩くテトに、普通の歩幅で余裕でついていけるイオくんの俊敏……! 普段いかに僕に合わせて歩いてくれているかわかるやつだねこれは、さすがイオくん優しい! えらい! 性格がイケメン!
と力いっぱい褒めちぎると、テトも真似して「イオよいこー!」と褒め始めたので、なんかイオくんはむず痒い顔をしていた。
アナトラにはいろんなプレイヤーがいるけど、旅といえば掲示板でよく見るプレイヤーネーム「旅好き」、通称タビーさん。この方は先行体験会初日の朝からログインして、正道を通ってすべての街をいち早く踏破することを目的としている。今はなんと6つ目の街に到達した所らしい。イチヤ、ロクト、ゴーラ、サンガ、ヨンド、ナナミと回って、次はクルムなんだって。そこからジュード、ハチヤ、ニムでゴールらしい。
まだ体験会も3日目だから、全部の街を踏破したって報告はなくて、多分タビーさんが最初の一人になりそうだし、こっそり応援してるんだよね。乗合馬車を使うとイベントが必ず起きるから、低レベルプレイなら馬車は使わないほうが無難なんだとか。タビーさんは小さい馬タイプの契約獣とロクトで契約してるから、完全徒歩よりも速いみたいだし。
まあ、人の旅も気になるけど、今は自分の旅を楽しまなくちゃ。
川を渡ったこっち側は前回、経験値の美味しい敵が出てきたところだけど、流石に二度目は無い。代わりに出てきたのは全長30センチくらいの、短い触覚のあるワームっぽい敵だった。
この辺、あんまり草木が生えてなくて、地面に砂が混じってる場所がぽつぽつある。多分、そこに敵が潜んでるんだよね。試しに砂に石を投げ入れて見るとずずずっと沈んでいったので、このワームのモデルは蟻地獄とかかもしれない。それにしてはでかいけど。
「<鑑定>。……サンドワーム」
「砂虫か、そのままの名前だな」
「なんか状態異常持ってそうだなあ。レベル13……あ、あっちが15!」
「1匹は倒して、どんなもんか確認しよう」
「OK」
というわけで、ノンアクティブの敵だけど、試しに1匹倒してみることにする。テトに一旦避難してもらって、イオくんの初撃から。
「っし、行くぞ、【強撃】!」
サンドワームは今までの敵と比較すると、一番体が小さい。
イオくんのプレイヤースキルが高いので攻撃を外すことはないけど、どんくさそうに見えてやたらすばしっこい敵だった。ちょこまかと動き回るその敵には、しかし特効とも言うべき魔法が存在する。
「行くよ! 【バインド】!」
「よしよくやった!」
そう、<上級土魔法>の【バインド】。僕のイメージだとバインドって闇魔法っぽいなーと思ってたんだけど、地面に関する魔法はアナトラでは土魔法らしい。地面に対して歩きやすくるするのが【サンドウォーク】で、極限まで動きづらくするのが【バインド】みたいな感じ。
この【バインド】に足をとられたサンドワームは、必死に自由を求めてじたばたするわけなんだけど、その間完全に無防備で絶好のチャンスだ。
「【アドウインド】! 【風刃】!」
敵が土属性だったみたいで、魔力が低めのイオくんの風属性攻撃もよく効く。僕が<風魔法>で攻撃しちゃうと一気にHPを削ってヘイトを稼ぎそうなので自重中なんだけど、こいつ多分魔法にも弱いな。
「イオくん、アロー同時に撃って!」
「よし、じゃあせーので!」
「せーの!」
「「【ウィンドアロー】!!」」
ぴったりじゃなくても、前後3秒くらいのズレは同一タイミングとみなされる。これはイオくんが掲示板から拾ってきた情報なんだけど、同じ魔法や攻撃アーツを2️人以上で合わせて放つと、威力が1.5倍される。イオくんは魔力そこまで強くないから単体での魔法の威力は低いんだけど、僕と同一タイミングで発動することで単純に僕の魔法の威力が1.5倍になるわけだ。
これがなかなか強力! 難なくサンドワームを倒し切ることが出来た。
「よし、強い!」
「単純にナツの火力底上げだなこれ。ヘイトが半々で分散されるのも助かる」
「イオくんもっと魔法覚えない?」
「SP無えわ」
ですよねー! いや正しくはイオくんはSPはあるけど、使う予定があるから使えないわけだ。僕ももっと貯めないとまずいんだけども。
その後も何匹かサンドワームを倒して、ドロップするのが「砂塵の粘液」とかいう錬金素材なのを確認してから先に進む。今日はテトがやたら張り切っていて、軽くジャンプしながら進んだり、たまにぴょいーんと空を駆けてみたり、意味なくイオくんの周りをグルグルしたりして楽しそうだ。
「テト、危ないからあんまり俺の周りではしゃぐなよ」
とイオくんに注意されたけど、「だいじょうぶー!」と返事だけは良い子だった。テトは旅に向けてたくさんお仕事を託されているのでやる気に満ちているんだろう。えらい。
やがてだんだんと木が増えてきて森に突き当たった。ここからは森を突っ切っていく予定なんだけど……<感知>してみると結構敵が多いなあ……。
「イオくん敵の種類わかる?」
「フォールバードが山程いる」
「あー」
北の砦に行ったときに出てきたフォールバード。あいつはアクティブな上に木の上から不意打ちしてくる。前回はシスイさんが弓でバシバシ落としてくれたから良かったけど、流石にイオくんと僕だけだと遠距離攻撃手段が乏しいなあ。
「さっきの【風刃】って飛距離どのくらい?」
「流石に木の上までは無理。っつーかフォールバードは風属性だろ、<風魔法>は分が悪いな」
「うーん、たしかHPは低かったよね? 【ファイアランス】で一撃で倒せたり……しないか」
「流石に一撃はな」
僕にもう少し魔力があれば……! と思いつつ、どうしようかと相談。僕は<迷彩>があるからワンチャン見つからない可能性もあるんだけど、そうするとイオくんばっかり奇襲を受けることになりかねない。
「<原初の呪文>でなんとかなんないか? 【隠匿】とか」
「出来たとしても<原初の呪文>は継続性がないから、すぐ剥がれるよ」
「それもそうか。……多少奇襲は受けるが、俺が<敵鑑定>でなるべくフォールバードがいないところを探す。直線で突っ切ろう」
「出たよ脳筋」
「クレバーだろうが」
これだからスマートヤンキーは。クレバーとは言い難い力押しの戦法だけど、今回は他に良い案があるわけでもないしなあ。
「じゃあ、それで行こうか。テト、ごめんだけどホーム戻ってー。攻撃してくる敵がいるから危ないからね」
えー。
と不満そうなテトさんに、森を抜けたらまた乗るからね! と約束をしてホームに戻ってもらう。とっても不服そうなので休憩にも呼んでなんか美味しいもの食べさせないと。せっかく移動得意なテトがいるのに、乗れないのは僕も残念だよ。フォールバードの群生地さえ抜ければテトに乗っても大丈夫だと思うんだけど。
僕はちらっと自分のHPを確認した。物理防御にPP振ってないのでHP150から変わってないし、お守りで最大HPを上げてても200には届かないわけで。試される体力……!
「いざとなったらイオくん、引っ張って歩いて!」
「無茶言うな。ほら、行くぞ」
結構本気でお願いしてみたけどやっぱり軽く流された僕なのだった。知ってた。
結論。
弓士がいないと、フォールバードとかいう魔物マジで厄介。
「イオくんヘイト! 吸って!」
「【ロックオン】! あー、無理だこれ剥がれねえ! 自衛しろ」
「【ファイアウォール】!」
「よし、【強撃】!」
バックアタックが決まったのでクリティカルで攻撃力アップ! なイオくんのアーツを持ってしても、一撃目に【ファイアランス】をぶち込んだフォールバードのヘイトは僕に向いたままだった。HP7割削ったからね! 仕方ないんだけど!
「顔が凶悪ぅうう!! 【ライトウォール】!」
「魔物の顔はたいてい凶悪だぞ、っと、【連撃】! 【打撃】!」
イオくんよくこんな凶悪な顔の敵相手に平然と戦えるね! 僕無理こんなの! 怖いじゃん! 夢に出るよ!
「【ダークウォール】!」
「別ゲームの敵のほうが凶悪だと思うけどな。【斬撃】! おっしゃ斬属性弱点!」
ギョエエエ! みたいな断末魔の声を上げてHPバーが砕けたフォールバード、光の粒子になって消える。っていうかなんか鳴き声が北方面で会ったフォールバードと違うんですが、なんで?
ぜえはあ息を切らしながらそんな疑問を口にすると、イオくんはやっぱり答えを知っていた。
「なんか鳴き声のパターン5種類あるらしいぞ」
「なんで!?」
「頭のてっぺんについてる羽の色で変わるらしい。これは赤だから暑苦しい鳴き声」
「こだわるポイントが違う気がする……!」
先制攻撃するには僕が【ファイアアロー】か【ファイアランス】で釣るしかないんだけど、それやっちゃうとヘイトが僕に一直線なんだよなあ。奇襲受ける時は100%でイオくんに入るから、<迷彩>は相変わらずいい仕事する。
なるべくスルーしたいんだけど、避けて通れないところも多い。何回か戦闘を繰り返しながら1時間ほど歩くと、ようやく少し開けた場所に出た。
「お、この辺花畑だな」
「メルヘン……!」
木々が少ないところなら何でもいいよ僕は! フォールバードは木の上から奇襲してくるから、木がないところには生息してないんだ!
「んー、<識別感知>すると敵がたくさんいますけどイオくん……!」
「<敵感知>によるとノンアクティブだからセーフ」
「それはセーフ。よかったぁ!」
でも花畑に居る敵って何? この世界、一定の大きさがないと魔物化しないはずだから、蝶や蜂ではないはずなんだけど……と思いつつそーっと花畑に近づいてみる。目をこらして……えーと。
「<鑑定>。あ、この赤い花品質★5だ」
「鑑定対象たくさんあるとミスるよな。あれはフラワーワームだそうだ」
「またワーム……!」
なんかうにょっとしていてサンドワームよりだいぶ気持ち悪い感じの魔物。全長は1m位ありそうだ。気持ち悪いけど、温厚な魔物で、花畑の花を摘まない限りは襲ってこない、という鑑定結果が出た。絶対花には手を出さない!
「地図に百花の園って地名出てるな」
「セーフエリアは無い感じ? この花畑の外側をグルっと回って進もうか、森には当分戻りたくない」
「おう」
まあ、外側を回るって行っても、花畑がだいぶ大きいから、結構時間掛かりそうだけどね。色とりどりの花を愛でつつ、フォールバードから開放された喜びで一息ついた、そのときだ。
「「あ」」
イオくんと僕、同時に声を上げた。同じものに反応したのは間違いない。
「<罠感知>引っかかった」
「あれって隠されたものを見つけるスキルだから……どっかになにか隠されてるね」
思わず同時に花畑へ視線を向ける僕たち。
隠されているなら……探すしかないね!




