18日目:察する能力は個人差があります!
ところで焼きトウモロコシってお祭りとか屋台のイメージ強いよね。
ナルバン王国の四季ってよくわかんないんだけど、夏祭りとかこの世界にもあるのかなあ。と疑問に思いつつもぐもぐと焼きトウモロコシを食べる。うんまい。やっぱりこんがり香ばしい醤油って最高だな……と思う僕の横で、イオくんが丁寧にほぐしてくれたトウモロコシを同じくもぐもぐするテト。
しょっぱいのにあまーい。
と不思議そうにしつつガツガツ食べている。結構気に入ってるっぽいね。
トウモロコシと醤油を提供したのが僕たちだから、焼き上がった完成品は真っ先に僕たちに提供されたのである。まあ醤油ってここにいる人達にとってはあんまり馴染のある調味料じゃないから、ほんとにこれ美味いの? みたいな反応もあって、様子見されてるのも多少あるんだけど。
なお、そんな人達ですら、僕とテトが食べているところを確認するとなんか納得して食べ始めるので、よっぽど美味しそうに食べてる説ある。まあ美味しいから当然ですね。
僕とテトが美味しいねーって食べている横で、イオくんは僕たちと同じ量をあっという間に食べきっている。一口の大きさが違うんだよなー、上品に食べるのに僕の倍くらい早く食べきるんだもん。
「イオくんもう少しゆっくり食べなよー」
「ん。今日は串焼きがあるから負けられん」
「あー、味の研究か。それは頑張れ」
「うちにグルメが増えてしまったからな」
「テト、イオくんによろしくーって言っておこうか?」
よろしくなのー。
にゃーん、とかわいく鳴いたテト、なんだかよくわかってないけどイオくんならなんか素敵なことになるはずだ! という信頼を感じるね。
イオくんはどうやら様々な肉が持ち込まれているのを見て、味を確認したいみたいだ。実は横目で蛇肉を確認している僕、何も言わずに口をつぐんでおく。食べればいいんだよあの蛇肉を、美味しいから! ちょっとピリ辛で美味しいから! フォレストスネークのお肉、僕も後で食べたい。
食べかけのトウモロコシを一旦皿に置いて、先にお肉確保しとこうかな? よし、そうしよう!
「串焼きくーださい!」
もらいに行くと、焼き担当の男性が「食え食え!」と陽気に笑って串焼きを6本くらい皿に乗せてくれた。全部違うお肉だ! やったね! とほくほくしながら戻って、お食べ……と手渡した所、「どんな顔だそれは」と笑いながら受け取るイオくんである。
イオくん普段そんなに大食いって感じじゃないんだけどねー。なんかびっくりするくらい食べる時あるからなあ。まあ僕は串焼きはトウモロコシ食べてからにしよう。
「ん、これ美味いな。グラスシープ」
「羊肉かあ。この世界の羊肉あんまりクセがなくて食べやすいよね」
「歯ごたえあるのがいい。……あ、これうま……」
言いかけて言葉を失うイオくん。それはフォレストスネークですね!
「美味しいよねそれ!」
「…………悔しいが美味い」
めちゃくちゃ悔しそうにするじゃん。でもそれは食べる前に<鑑定>しなかったせいなので自業自得というやつだよイオくん。
「……なんで蛇肉がこんなピリ辛なんだ? 毒とか?」
「え、怖いこというじゃん……。いや、<鑑定>に出ないから大丈夫!」
「それもそうか。……食っちまったもんはしょうがない。今度唐揚げにする」
「やったー!」
ふう、ようやく蛇肉の美味しさを認めたか。全く手間のかかるイオくんだよ!
次々と皿に肉を追加され、満腹になった僕たちは適度なところでサラムさんにお別れを言って宴会場を後にした。ゴーラに行くって言ったら、サラムさんは「マグロがうまいぞ!」とサムズアップをしてくれたけど、そりゃマグロは美味しいよ、間違いないね。
最後にマロネくんに「お土産忘れないでね」と念押しされたので、なんか素敵なものを探したいと思います。頼むよ<グッドラック>さん! 頼りにしてるからね!
「じゃ、あとはレストのところにテトビタDを納品すれば一旦区切りだな」
「うん、今日は夜はインしないんだっけ?」
「見たい映画あるんだよな。ナツ一人でやってもいいけど」
「ははは、いらないクエスト山程引き寄せる自信があるのでやめておきます」
「賢明だな」
うーん、リアルの方は、夕飯前に近くのスーパーで買い物だけしておこうかなー。野菜だけはちゃんと食べないとお母さんに怒られるから、カレー作ってなくなった野菜類買い足して、ついでに今夜はお刺身食べたい。マグロ……サラムさんがあんなに力強く言うから食べたくなっちゃったじゃん……!
夜の惣菜は割引が入るから、貧乏学生にも多少優しいし。ついでにおにぎりでも買えば今日は料理しなくてもいいか。
夜風が気持ちいい住宅街をてくてくと進む。テトが尻尾をぴーんと立てて「おさーんぽー♪」と歌ってる楽しげな声をBGMに、たどり着いた「月夜の調べ」……あ、なんか、中に人の気配がある……?
どうしよう、と一瞬イオくんに視線を向けたけど、イオくんはこういう時敢えて無神経なので、遠慮などかけらもせずに扉を開けた。あっ、ちょっ、なんかそっとしておきたい予感があったのに……! と僕が半端に手を伸ばした状態で中を覗き込むと、そこには……。
泣きじゃくる女性と、戸惑いつつその背をさすっているレストさんの姿が!
「……イオくんお邪魔だからここは帰ろう……!」
「お、おう」
「待て! 待て待て待て! 違うんだよぉ!」
すっと扉を閉めてそのまま帰ろうとする僕たちを、焦って引き止めるレストさんの図である。そして第三者に驚いて顔を上げた女性、涙をボロボロ流しているけどその顔には見覚えが……。
「あ、ミーアさん」
砦にいたころよりかなり元気そうになっているミーアさんだ。服もガラッと変えて印象が全然違うから、一瞬わからなかったけど。……あれ、レストさんとミーアさん知り合いなのかな?
ミーアさんは慌てて涙を拭って、「お久しぶりです……!」と僕たちに頭を下げてくれた。良かった覚えててもらえたらしい。
「あー、ほら、これ貸すから。とりあえずミーアは泣き止めよぉ。ナツは納品に来たんだろ、カウンターの上に頼む」
レストさんは慌てた様子でミーアさんにハンカチを握らせてから、カウンターを指差す。確かに納品に来たんだけどねー。ミーアさんのほうが気になる……でもなー、別にミーアさん悲しくて泣いたって雰囲気でもないんだよなあ。
なきむしさんー? テトなでるとげんきでるよー。
にゃーんとテトがミーアさんに懐きに行ったので、この隙にカウンターに納品用のテトビタDを出して、っと。シエラさんもそうなんだけど、猫獣人さんのことをテトが仲間だと思っているっぽくて、割と積極的に懐きに行くんだよね。ミーアさんもハンカチ握りしめながらもテトを撫でてくれているので、なんか仲間意識があるのかもしれない。
「じゃあこれ納品で。……で、本当に何かあった?」
「いや、その……まあ」
納品を終えてお金をギルドカードに入れてくれつつ、レストさんは歯切れ悪く視線を彷徨わせた。怪しいなー? ちらっとミーアさんを見ると、ミーアさんはなんかじっとレストさんの方見てるし。……もしかしてミーアさん、レストさん狙い……?
「ミーアさんと知り合いなの?」
「幼馴染、っていうか、まあ、そんな感じだなぁ」
「へー……。告白でもされましたか」
「うっぐ」
言葉に詰まったレストさんである。なるほどねー。ミーアさん見る目あるなあ、レストさんいい人だもんねー。
なんとなくにんまりしてしまう僕に咳払いをして、レストさんは納品したテトビタDの原液をカウンターの奥に仕舞い込んだ。そのまま薄手の上着を持って店内に戻ってくる。
「ナツたちは明日からゴーラへ向けて旅だろぉ、帰ってしっかり寝ろよぉ」
「ふーん、追い返したい理由が何かございますかねー?」
「ナツなにニヤニヤしてんだ? レストはどっか行くのか」
「察しろよぉ! 夜中に女一人で家に帰すわけにはいかねえの!」
薄手の上着を羽織ったレストさん、ミーアさんを送っていくというわけですね。もー、そういうとこだよなー、レストさん絶対自分で気づいてないだけでモテるタイプだと思うんだけどなー。あ、イオくんがわかってない顔で首をかしげている……!
「ふふふー。ミーアさん頑張ってね、応援してるねー」
「あ、あわわわ」
なんのはなしー? がんばれー?
恋のお話だよテトさん、さあ邪魔者はとっとと帰ろうか。ってさっそうとお店を出ようとした僕、扉を開けられなくて激突するの図。重い、重いんだよこの世界の扉! ふんぬーって開けようとしていたらイオくんが横からすっと開けてくれまして、無事に外に出ました。……筋力め! 絶対PP振らないからな! 意地でも振らないからな!!
全員で外に出て、レストさんが店の鍵を閉めてOPENになっていた木製プレートをひっくり返す。当然、裏側の文字はCLOSEDだ。視線をぎこちなく彷徨わせつつ、レストさんはミーアさんに、
「送ってく」
と告げて、ミーアさんは「あ、ありがとう……!」と嬉しそうにはにかんだ。まだレストさんのハンカチを握りしめたままである。
青春……!
「さ、イオくん、テト。僕たちもギルド帰ろう」
「おう。なんでそんなこそこそしてんだ?」
「いいからいいから」
僕は多少強引にイオくんの背中を押してその場を退散。微妙な距離感で夜道を歩き出すレストさんとミーアさんの後ろ姿を見送り、がんばれー、うまくいけー! と念じるのであった。
いやでもレストさんだからなー、初恋です! とか言えばミーアさんの完全勝利じゃない?
「はー、ミーアさんうまくいくといいなあ。レストさんの結婚式も遠い話じゃないねこれは」
「え。あの二人そうなのか」
「イオくん、あの雰囲気でなぜ察せないのかなー? 恋愛映画見て勉強して」
「恋愛系は見てて眠くなるからちょっと」
わからん、という顔で首をかしげるイオくん、そしてその真似っ子をして首をかしげているテトさん。まあイオくんだから朴念仁でも許されるよ。テトは何しててもかわいいね。
「夜道だし、女性を送っていくのなんて当然のことだろ。どこから察しろと」
「……イオくんもモテ男だからなー! もー、あのミーアさんのはにかんだ表情から何か感じ取ってよー!」
「無茶言うな」
まあイオくんがやたら他人の恋愛感情に対して聡かったらそれはそれでなんか嫌なので、良いとして。これ以上気遣いのできるイケメンになってしまったらイオくんなんかパーフェクトじゃん、イオくんは脳筋なのが付き合いやすくて良いところなので変わらないでほしい。
「まあまあ、あの二人のことは流れに任せることにして。良い時間だし、ギルド行ってログアウトしちゃおうか」
「なんかごまかしたなナツ」
「今のままのイオくんが良いと僕は思います。ねーテトー?」
イオはすてきなりょうりにんなのー。
「ほらテトもイオくんのこと素敵な料理人って」
「料理人じゃねし……いやもうそれでいいわ」
肩をすくめるイオくんである。でもテトに素敵って言われてまんざらでもない顔してるので、やっぱイオくん身内に甘いと思います。
多分ここで第一章完。
閑話とか住人さんリストとか挟んでから第二章旅に出る編やっていこうと思います。
そう、この日は「閑話:とある住人の希望」の日でした。




