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18日目:未来へ歩き出したんだな。

いつも誤字報告ありがとうございます、助かります。

 そうと決まれば、買い物! 買い物である!

「とりあえず布地が売ってそうなのは問屋通りかな?」

「もう閉まってるだろあの辺。たしか、冒険者通りあたりに服屋があったし、あの辺がワンチャン」

「あー、ちょっと遠方だけど行ってみよう。帰りに「月夜の調べ」まで足を伸ばして納品してくれば無駄もないし」

 というわけで早足で橋を渡って北門方面の冒険者通りへ舞い戻った僕たちである。昼間この通り来たのになー! まあ、あのときはまさか集落を探す話になるとは思ってなかったし、無駄が多いのは仕方ないか。

 えーと、アウトドア用品、魔物素材のアクセサリ、こっちは冒険服……っと、あった! 布地売ってるところ! 服屋さんの片隅に置いてある感じだけど、それでも十分だ。

「すみませーん、ここの布地っておいくらですか!」

「ん? なんじゃあ、大声で」

 店の奥に声をかけると、のっそりと出てきたのは鬼人のおじいさんだった。おじいさん……っていうより、ご隠居って感じ? 眼光鋭く只者ではない佇まいで、強者感がある。おお、と思わず息を呑む僕である。


「うるさくしてすまんな。布地を売って欲しいんだが」

 すっとイオくんが前に出たのは、交渉事だから。この人、交流じゃなければ誰とでも無難に話せるんだけどねー。本人曰く、疲れることは極力したくないんだそうで。

「布か? 服ではなく?」

「ああ。これからゴーラへ向かうんだが、その途中にあるらしい鬼人たちの集落に立ち寄って道を繋げないかと思っている」

「何!?」

「それで、どうせ集落へ向かうのなら必要そうなものを差し入れに持っていく事になった。布地や調味料が良いのではないかと言われてな、今探しているところだ」

「まさか、あそこか! 火山の麓の!」

 え、そうなの?

 僕は慌てて地図を確認する。えーと、古い地図だと地形も乗ってるけど、煤けててよく見えないんだよね……あ、でも近くに高い山があるらしいのはなんとなくわかる。これが火山かな。 ……ん? 待てよ?

 地図を切り替えて、一度白地図を表示する。それからまた古地図へ、もう一度白地図へ。あ、やっぱり! 鬼人さんの集落の近くにあるこの高い山、聖獣の住処かもしれないところだ! 表示されている聖獣マークは赤、つまり、火竜の可能性が高い。となると、ここは火山で間違いないかも。


「多分、そこです。先ほど古地図を見せてもらって、ちょうど通るところにあるみたいなので」

 僕が横からフォローを入れると、おじいさんは「おお!」と目を輝かせた。それから一つ咳払いをする。

「そういうことなら金などどうでもいいわい、持っていけ! 箱ごと持っていけ、裏にある分全部持っていけ!」

「え、でも」

 流石に無料でもらうのはよろしくない、と思ったけれど。

「儂の故郷だぞ! 金など取れるか、むしろ儂が金を払ってでも持っていけ! 全部だ!」

 と続けられて、思わず背筋が伸びた。

 そうか、近くにあった集落なら、そこ出身の人も居るよね、と今更思い当たる。そう言えばサンガには結構鬼人の住人さんが多い。ひょっとして、帰りたいと思っている人たちもたくさん居るのかな。

「ああ、トラベラーはそのために呼ばれているんだ、任せてくれ。だが、流石にただでもらうわけにはいかないぞ、そっちだって生活の糧だろう」

「お前な、仕送りしたいと思っても出来ないまま溜め込む虚しさがわからんのか。溜め込めば溜め込むほど虚しいぞ」

「それは……なんと言えばいいのか」

「何も言わんでいい。とりあえず……箱3つ、いや、4つになるが、お前さんら収納はあるのか?」

「それなら心配いらない」

「よし、こっちへ来い!」

 大きく手招きするおじいさん。なんかこう、頑固一徹な感じが、すごく僕の父方のおじいちゃんっぽくて懐かしい気持ちになるなあ……。


「テト、木箱収納できるか?」

 はこぶー!

「よしよし、ここにある箱全部だ、運んでくれ」

 わーい!

 あ、僕がなんか色々考えている間にイオくんがテキパキと話をまとめていましたね……相変わらず仕事早い! とても偉い! さすがのイオくんである。

 おそらく布地が入っているのであろうでっかい木箱を4つ、テトはにゃんにゃか呪文を唱えて影に収納する。それからテトはふんすっと胸を張った。ほめて! のポーズである。イオくんはちょっと考えてから、わしわしとテトを撫でた。

 しっかり撫でられて満足したテトさん、僕の前までてててっと戻ってきてぴっとお座りして、ほめられた! と恒例のご報告がありました。うんうん、社長に褒められて良かったね……。

「……ふむ、この……と、こっちの…………このあたりが鬼人に馴染み深い調味料じゃな。それから、可能ならこの…………をいくつかもっていってやると良い」

「なるほど。他に何かあるか?」

「金属類は手に入らんじゃろ、鍋類は溶かして武器にしている可能性もある」

「ああ、それはありえるな……」

 イオくん相変わらずえげつないほどスムーズに色々聞き出すなあ。


 イオくんみたいな人って外交官とかになったらものすごく活躍するのでは? って思ったりもするんだけど、あんまり大人数と交渉するのとかイオくん嫌いそうだなあ。才能があることと好きなことって別だから世知辛いよねえ。

「なるほど、助かった。協力を感謝する」

「何、礼には及ばん。必ず届けてくれ、それだけでいい」

 テトちゃんとはこぶのー。

「テトがとても張り切っているので、ちゃんと運びます!」

「ああ、頼むぞ猫!」

 テトだよー。

 うにゃ。と不服そうな声を上げるテトさんだけど、こっち名乗ってないからね! 新しい知り合いできちゃうとクエストが連続発生しそうで怖いんだよー、いつまでもサンガから離れられないのは困る! ので、このおじいさんの名前を聞くのは、無事に鬼人さんたちの集落に物資を届けて、ゴーラにたどり着いたあとにサンガに戻ってきてからにしよう。

 ……ってな感じなことを多分イオくんも考えているはず。ふふふ、僕は意外と空気の読める男。と一人でドヤ顔していたらイオくんに撫でられました。

 テトと同じ扱いです! 解せぬ!



 おじいさんに色々聞いたおかげで、鬼人さんたちがよく使う調味料とか、必要そうなものとかを色々と買い込んだ。あとついでにポーションも! ギルドで買うより若干安く仕入れることが出来たので、個人店も良いなーと思った。ゴーラいったらちょっと探してみるのも良いかもだ。

「テト、結構いっぱい持ってもらったけどまだ大丈夫? 荷物もう無理ってなったら言ってね」

 んー、もうちょっとへいきなのー。

「もうちょっと入るんだ。すごいねえ、テト立派な運び屋さんだねえ」

 えへへー。

 いや本当にかなり荷物増やしたんだけど、ほんとにまだ入るんだ? テトの収納広いなあ。えらいえらいって言いながら撫でていたところ、買ったものをパーティー掲示板にメモしていたイオくんが「よし」と声を上げる。

「このくらいで大丈夫だろう。レストの店が開くまで時間つぶして、納品終わったら明日の朝に出発にするぞ」

「了解であります!」

 わーい!

「うーん、とは言えもう少し時間があるねえ。あ、この辺サラムさんの家あったし、様子見に行こうよ」

「お、いいな。あれからマロネがどうなったのか気になってたんだ」


 というわけで、近くにあるサラムさんの家に向かう僕たちである。テトがマロネくんという単語を聞いてからモンブランの歌をまた歌い始めたので、マロネくんのことかぷっとしないように一応注意しておきました。しないよー。って首かしげてたけど、まあ一応ね。

 久々……ってほどでもないんだけど、毎日イベント目白押しだから久々に思えるサラムさんの家。今日は門扉が開け放たれていて、中からわいわいと人の声が聞こえてくる。何かやってるのかなー? と思ってちょっと覗いてみると、サラムさんとばっちり目が合った。

「おうナツ! 入ってこいよ、今日は宴会だ!」

「こんばんはー! 宴会って……ってすごい人数いる!」

 声をかけてもらったので遠慮なく中に入ると、マロネくんと池以外は取っ払ってほぼまっさらにしていた庭に、20人くらい? もっといるかも、ってくらいに人が集まっている。

「いらっしゃいトラベラーさん。今日はバーベキューだよー、なんか出してー」

「えっ、はい! えーと、イオくん何がある?」

「バーベキューか……。じゃあもうこれだろ、インベントリ1枠空けるか」

 そんなことを言いつつイオくんが出したのは、トウモロコシを20個くらい。そして醤油を小瓶に詰めたもの……あっ、約束された勝利の焼きトウモロコシ……!! 美味しいやつじゃんそれ、絶対美味しいやつじゃん!!


 目を輝かせた僕に苦笑しつつ、焼き担当の人にトウモロコシを焼いて醤油を塗るように指示しているイオくんである。ほんとはバターとかあると更に美味しいらしいんだけど、醤油塗るだけでもかなり違うはず。焼き担当の人は、初めて見る醤油という調味料に興味津々だったみたい。イチヤで買えるよーという情報は僕の方から渡しておいた。

 ナツー、マロネおおきくなったー。

「え? ほんと?」

 トウモロコシに釘付けだった僕だけど、テトに前足でてしてしされてはっと我に返った。そう言えばテトは僕には優しくタッチするように心がけているんだっけ……? 本当に賢い子です。 

 まあそれは置いといて、テトに言われて見てみれば、ちょうどこっちにマロネくんがやってくる所だった。崖の近くで会ったときにはサームくんくらいの少年に見えたけど、今の姿は高校生……如月くんと同年代くらいまで成長している。

「わー、マロネくんって姿変えられるの? すごいねー」

 と思わずじろじろ見てしまった僕に、マロネくんは苦笑を浮かべて「そうだね」と肯定を返す。

「でもすごくはないよ。精霊だから。たくさんの人に認識されると力が強くなって、自由自在になるね」

「便利!」


 僕の言葉になぜだかマロネくんは笑って、確かに便利かもね、と肯定した。

「でもあのままでも、消えることはなかったんだろうな。サラムが僕を忘れないから、きっとずっと残っていたよ」

「あー、そうだよね。でも呪い解けて良かったね」

「うん」

 軽く頷くマロネくんに、テトがすり寄りに行く。にゃーにゃー言っているのは「テトがはこんだんだよー、おぼえてるー?」って感じの内容だったけど、マロネくんには当然伝わってないから首をかしげている。それから恐る恐るって感じでそーっと撫でてくれた。

 力強く撫でられるのが好きなテトさんだけど、撫で撫で初心者に優しいので満足げにゴロゴロしている。そんなご機嫌な巨大猫に、小さく微笑むマロネくん。うーん、大きくなるとなんか神秘的な雰囲気があるなあ。

「今日、あの子はいないの? 緑の」

「如月くんはイチヤに一度戻ったよ。すぐサンガに戻ってくるけど、用事が出来たから」

「そうなんだ」

「あとで顔を出すように言っておくね!」

「うん。僕もだいぶ力が戻ったから、この周辺くらいなら歩き回れるけど、サラムがうるさくて」

「あはは!」

 なんか反抗期の弟みたいなこと言ってるなあ。サラムさんにとっては妹の結婚相手なわけだから、正しく弟になるのか。


「でも歩き回れるなら、ぜひ歩き回ってほしいな。サンガ面白いよ、色々あって楽しいし、美味しいもの多いし」

「色々変わったんだろうね。でも、きっとサフルなら変わったものも楽しんで、変わらないものも愛おしむだろうから、僕も、そういうふうに思いたい」

 多分まだそう思うには色々と追いついていないのであろうマロネくんは、それでも優しいほほえみを浮かべて、噛みしめるように言う。

「生き残ったことを、いつか本当に良かったと思える日が来るって、サラムが言うから。それを信じたい」

 とてもきれいな笑顔だ。そして、ちゃんと前を見て、未来へ歩き出したんだなと思った。だってああしたいこうしたいなんて、未来を想定していなければ出てこない言葉だ。だから僕はすでに、助けられて良かったなって思っている。

「じゃあ、次にサンガに来た時に、マロネくんのおすすめ教えてね!」

「次に?」

「僕たち、明日からゴーラに向けて旅に出る予定なんだ。あ、お土産買ってくるね!」

 マロネくんはきょとんと瞬きをして、お土産、とつぶやいて、そして。

「ナツのおすすめ? 楽しみにしてる」


 あ、初めて名前、呼んでくれた!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 描かれる住人さんたち、みんな好きになるから、本当にサンガから離れがたい(読んでるだけなのに)です。今回も、帰りたくても帰れず、仕送りしたくてもできない鬼人のおじいさん、その心境を思うと………
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