18日目:憩いの広場にて
さて、時刻は14時半を回っている。
ぎりぎりだけど憩いの広場に顔を出して、メガさんかギガさん、あるいはリィフィさんあたりがいたら挨拶出来たらいいなって感じ。あそこ美味しそうなものが山程あるからお菓子欲しくなるんだよなあ、旅に出るためにインベントリを空けないといけないから、自重せねば。
他に必要なものがあるとしたらポーション類をなるべく多く買い足したい。僕もイオくんも<調薬>は持ってないから在庫が尽きたら困るんだよね。でもゴーラまで徒歩旅するのに何日かかって何戦するかもわかんないから、買えるだけ買う? 僕のMPが今460なので、★3の300回復のMPポーションをたくさん買って、★4の400回復のMPポーションを少しストック……って感じか。
イオくんのHPは360……今は最大HPを上昇させるお守りを持ってるけど、それでも400台のはずだから……やっぱり★3のHPポーションをたくさん買うべき。
「どうしようイオくん、インベントリ足りない気がする」
「アイテムボックス買うか? 無一文になるかもしれんが」
「破産は避けたい」
テトはこべるー! はこべるのー!
にゃーっと元気に手を挙げるテトさん、そういえば魔力水も持ってもらってるんだったっけ。だとしたら同じように液体のポーションも持ってもらっていいかもしれない。
しかし君、直前まで「落ち込んでるの!」って顔してたのに立ち直りと切り替え早いね。
ポーション類は瓶に品質保持の効果がついているから、瓶が勝手に割れたり中身が劣化することはないのである。テトの空間収納がどういうものなのかまだ良くわかんないところもあるんだけど、こうなったら大量購入して箱でテトに運んでもらおうかな。
「テトいっぱい持ってもらってもいい?」
いいよー!
すごく嬉しそうに飛び跳ねるテトさん、君は本当にお仕事が好きだね……。
「イオくん、ポーション系箱で買ってテトに運んでもらおう!」
「あ、それ俺も思ってた。200本くらいまとめて買っておきたい」
「え、そんなに入るかな……? テトにどのくらい収納できるか聞きながら買ったほうが良いか」
いっぱーい。
「そうだね、いっぱい運べてえらいねテト……」
うっきうきのテトを撫でると、にゃふーっと得意げに胸をはるテトである。テトの<空間収納>、レベル5に上がってるんだよねー。レベルが上がるほど収納できる数が増えるっぽいから、余裕で持ってもらえるかもだ。
そんな話をしながら、憩いの広場に一歩足を踏み入れれば、どこからともなくかぐわしい……カレーの匂いが! これはスープの方かな! ちょっと変わったスパイスの香りが混ざってるからね!
「そういえばこの現地のスパイス、なんかすげー長い名前だったぞ。自動翻訳されないから、リアルにはないスパイスっぽい」
「そうなんだ?」
「気になって休憩中に調べたけど見つからなかった。なんか近い味のものを見つけて再現してみたいんだが」
「探究心があってえらいと思います!」
「もう一声」
「近い味のものが見つかったら何を再現してくれる予定で……?」
「さっきヴェダルのところで食った鶏団子スープ」
「ぜひぜひぜひ探して! イオくんならできる! 不可能を可能にしてきた男! よっ料理人!」
「料理人じゃねえんだわ」
けらけら笑うイオくんである。こういうノリの時はわりと目星ついているのではないかと推測しますね。楽しみだなー!
イオはスープつくるりょうりにんー?
「イオくんは何でも作るよー」
えらーい。ナツはなにつくるのー?
「テト、お料理はね、選ばれしものだけが作る素晴らしいものなんだよ……?」
そっかー!
さて、やってきたスープカレーの屋台には、今日はメガさんとギガさんが両方揃っていた。何しろちょっと並んでいるのだ、しかも全員トラベラーだなこれ。やっぱりカレーの香りには抗えないよねー。
「ここでカレー味に出会えるとは……!」
「やっべえこの匂いまじで腹減る」
「カレーライスの屋台もあるらしいぜ」
「それも探さなきゃじゃん! 俺達何日この屋台広場に通い詰めなきゃならんのだ!?」
「うおおお5杯分ください!!!」
……うん、情熱に溢れたトラベラーたちだ。どうしよう、挨拶に来ただけなんだけど、並ばないとギガさんとメガさんに話しかける余裕が無さそうだなあ。
「イオくんどうする?」
「前鍋に入れてもらった分のスープカレーは食べきったから、補充しておくか?」
「よしそれで! カレーなら許されます!」
「俺もカレーなら許す」
うむ、カレーは特別枠なので。
とはいえテトは辛い食べ物にはあんまり興味ないので、メガギガ兄弟への挨拶はイオくんに任せて、僕とテトは他の知り合いを探しにぐるっと広場を回ることにした。今日はハモンさんのジェラート屋台もないし、ピタさんやキヌタくんの姿も見えないな。まあ、あそこは神蛇さんの脱け殻渡したときに挨拶してるからもういいんだけど。
ラリーさんの本の屋台も無さそうだし、とキョロキョロしていたら、テトがにゃっ! と鳴いて僕の背中をぐいぐい押した。
「テトさん!?」
なでてくれるひといるのー。
ざざざざざーっとそのまま押される僕である。下手に抵抗すると転げそうだからもう諦めの境地だよ。テトさんそんな頭でぐいぐいしなくても……!
「リィフィさん!」
「あら! ナツさんテトちゃん! こんにちはー!」
この前出してた屋台の場所と違うし、今リィフィさんがいる屋台は名前も違っている。それに、店員さんとして忙しくしてそうなフェアリー族さんが3人くらいいるから、お手伝いでもしてるのかな?
と思ったら「このお店は友達のお店なのよー」とあっさり答えを教えてくれた。ですよね。
「へー、お花の砂糖漬け? あ、このレモン色はキランの花かな?」
「正解よ!」
おはなー? しろいのあるー?
「テト白いの欲しいの? これかなー?」
おいしいー?
「甘いよー。これは普通はどういう食べ方するものなのかな、リィフィさん」
お砂糖漬けの花なんてリアルで見たことないし、このまま食べるべきなのかなんか食べ方があるのかよくわかんない。おいしいかって聞かれても食べたこと無いからなあ。でも砂糖漬けだから、甘いことだけは確信してるんだけど。
「そうねー、可愛いからお菓子のデコレーションに使う人は多いわ。あと飲み物に入れるといいわよ。お湯に入れるだけでもほんのり甘くてお花の色が綺麗に染まって見た目が素敵だし、温めたミルクに入れると眠る前のリラックスタイムに最適よ。お酒に入れる人もいるけど、あれは好みが分かれるわ!」
「あ、なるほど。そのものを食べるんじゃないんだね」
おかし……モンブラン……?
あ、テトが白い花にデコレーションされたモンブランを想像している……? 微妙な顔だな。テト的にはモンブランはモンブランのままであってほしいらしいです。
あ、隅っこの方にリィフィさんの飴がある!
「これも売ってるの?」
「あ、私の飴ね! フェアリー仲間でお店を出すときはちょっとずつ置いてもらってるの。私のお店にも他の人が作ったものを置いてるのよ!」
「なるほど、相互扶助!」
お客さんの目に留まる機会は多いほうがいいもんね、賢いなあ。この飴、赤炎鳥さんにあげたとき喜ばれたから実は仕入れておきたいんだよね。今後も炎鳥さんに会いやすい状態なので、やっぱりお会いした時に喜ばれるものを渡したいじゃん?
「リィフィさん、これ何個ある? 諸事情あって買い占めたいんだけど」
「あら! 今日は20個くらい持ってきてたと思うけど……あ、そう言えばこの前交換した魔力水があるでしょう? あれを使った飴が出来たのよ! ナツさんに10個くらい譲るわ、ちょっとまっててね!」
「えっ、あ、リィフィさーん!?」
びゅっと空に舞い上がるリィフィさん、相変わらずものすごく素早く飛び去っていく。み、身軽……! なんか物々交換のときもこんな感じだったよね!? とポカンとしていると、スープカレーを無事に買い込んだイオくんが合流してきた。
「おう、どうした?」
「イオくん、リィフィさんがなんか力いっぱい飛び去っていったんだけど……」
「テト、ナツを支えてやりなさい」
わかったのー!
僕の背中にびとーっと張り付くテトさん。いやそんなまさか二度も同じことを繰り返しませんよ、僕も学習しますので! とか言ってみたけどイオくんには真顔で首を振られ、テトさんにはもっふもふの尻尾でなんか撫でられましたね……。げ、解せぬ。
悔しいので足に力を込めて踏ん張って待ってたんだけど、ぶわっと風を撒き散らしながら戻ってきたリィフィさんの風圧に負け、見事にテトに全身を預ける事になった貧弱エルフなのであった。僕が悪いのではなく、これはエルフという種族の弱さなので甘んじて受けようではないか……っ!
「はい、これこの前もらった魔力水で作ってるのよ!」
ぺぺぺぺっ! と飴玉の瓶を流れで渡してくるリィフィさんからそれを受け取って、僕は1個だけ残して全部インベントリへ突っ込んだ。手に取ったそれは、ボックスクッキーみたいに赤と青が組み合わさった板状の飴だ。透明感のある、ガラスみたいな色である。
「わー、きれい! これは何の魔法込めたやつ?」
「これは、火魔法と水魔法よ! 結構きれいでしょう?」
「わー、なるほど反発しそうな魔法同士だ……!」
「あの魔力水のおかげよ! それはプレゼントするのだわ!」
「ありがとう!」
青と赤の色合いは、炎鳥のペアを連想させてとてもいい感じだ。炎鳥さんたちに会えたら配りたいと思ってたし、すごくぴったりなものを頂いてしまったな……!
僕はもらえるもの遠慮しないので! お礼を言って大事にしまっておくよ。
「ついでにそこにある普通の飴もください! テトが気に入ってるので!」
「テトちゃん、ありがとう! あら、首輪新しいのかしら。素敵ね!」
とテトを撫でるリィフィさん。テトもやっと撫でてもらえた上に、ご自慢の首輪を褒められたので大満足の顔をしている。通じないけどリィフィさんに向けて「これねー、ナツのいろなのー。しろいおはなもすてきなのー」と首輪の解説をにゃんにゃん言って、リィフィさんもにこにこしながら聞いてくれてありがたいね。
そろそろゴーラに行くから、その前に挨拶回りをしているんだよという話を切り出せたのは、20分くらい雑談をしてからのことだった。そろそろ午後の屋台が撤収する時間で、周囲が慌ただしく動き始めたころだ。
「僕たちはサンガを気に入ってるからまた戻って来る予定なんだけど、リィフィさん何かお土産に欲しいものとかあるー?」
「あらありがとう! 気遣いだけでも嬉しいわ! そうねえ、見つけたらでいいのだけれど、ゴーラにはシースライムというスライムがたくさんいるの。とても低い確率で、シースライムが体内で生成しているボーンパールという宝石が取れることがあるから、もし余ったら売って欲しいのよ」
「ボーンパール……?」
骨真珠……? って意味だよねこれ。スライムって骨あったっけ。……いや無いはず。
「シースライムは海の中に生息していて、魚を取って食べているの。その食べた魚の骨を核として作られる宝石なのよ。とっても良い杖の素材になるの」
「あ、なるほど」
スライムの骨じゃなくて、食べ物の骨だったか! そして杖素材なら僕もぜひ欲しいところだから、何としてでも2個見つけたい。とても低い確率でって、どのくらい低い確率かなあ。いや、でも僕は今幸運自信がある男なので! 自力で2つ拾ってみせましょうとも!
「わかった、もし見つけたらお土産それにするね」
「ありがとう! 無理しなくても大丈夫だけど、持ってきてもらえると助かるわ!」
よし、クエストはたしかに承りました!




