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18日目:オーレンさんを訪ねて

 さて、大満足の昼食を終えて、オーレンさんの居場所を確認してみると、現在在宅中となっている。

「一旦アイアンガード行けばいいかな」

 見た感じ、あそこは住宅兼店舗だと思うんだよね。店の奥に居住スペースがありそうな作りだったし、エーミルさんも「店に帰る」みたいな言い方していた記憶がある。

「裏側に住宅用の玄関あったと思うんだよな。行けばわかると思う」

「OK、それじゃあ行こう。如月くん、例によってレアカードのお店なのでついてきて」

「了解です」

「テトー、そろそろ戻ってきてー」

 モンブラン……おいしいのかたまり……。

「テトさーん?」

 すごくうっとりした感じのまま夢心地で歩いているテトさん、そのままだと通行人とぶつかりそうで怖いので、一旦ホームに戻る? ってブローチを指さしてみると、にゃあんと甘えた声を出して戻っていった。余韻に浸りたいのかな。まあ今日はそのまま休んでていいよ、モンブランを噛みしめるといい。

 ヴェダルさんのモンブランは、インベントリに残っているのが残り4つ。あとはマロングラッセが23個くらいかな? マロングラッセはなんかテトが良いことをしたときにご褒美としてあげているので、ちょいちょい減っている……けど、旅に出ちゃうと補充できないし、今のストックの管理は大事にしないとね。

 ゴーラについたら、一度転移装置使ってサンガに戻って仕入れることも検討しよう。多分、社長イオくんからの許可は出ると思うし。

 

 アイアンガードが店を構えている冒険者通りは、昼間から結構賑わっていた。前回来たときは夕暮れ時だったかな? あの時よりも昼間のほうが活気があるね。

「うわー、俺この通り初めてです」

「そうなんだ? ここは冒険者通りって言って、冒険者関連の装備品とか魔物素材で作ったものとかを売ってるんだよ」

「めっちゃ後でゆっくり見たいですね!」

 確かに、僕も後でゆっくり見たいと思ってたんだよなあ。でもまあ、次にサンガに来たときのために取っておく感じで良いかな。くまなく見て回ろうとしてたらきりがないしね。

 こっちだよー、と如月くんを案内しながら、向かうは武器屋・アイアンガード。お店は閉まっているみたいで、「店主の都合の為、しばらく店を閉めます」という張り紙があった。あの子どもたちのことがあったからかな? と思っていると、

「あ、イオさーん!」

 とどこからか声をかけられる。

 ぱっと顔を上げると、どこかでみたことのある黒っぽい犬獣人さんが……あ! ビストさん! うっすらレストさんの面影があるのでなんとなくわかったぞ。でも僕直接は会話したこと無いんだよね、ビストさん。エーミルさんとの結婚決まったんならお祝い言いたいんだけどなー。


 ちらっとイオくんを見ると、イオくんが軽く頷いて「ビストか」と声をかけた。ここの会話は任せよう。

「お義父さんの店の前でどうしたんですか? 今日はお休みですよ」

「ああ。オーレンに用があって来たんだが、今は在宅か?」

「ご在宅です。でも、子どもたちが2人居るので、ちょっと余裕がないかもしれません」

「それだ。実は、北の砦でその子どもたちを見つけたのは俺達なんだ」

「おお」

 感心したように声をあげたビストさんは、それならぜひ会って行ってください、と言って玄関まで案内してくれた。話を聞くと、さっきまでその子どもたちと遊んでいて、これから珈琲店へ戻るところなんだって。昼休みを2時間ほどとって、子どもたちの顔を見に来たとの話だった。

「俺は昔からなぜか子供に懐かれるので、遊び相手になっているんです」

 とか言ってたけど、レストさんの話を聞くと納得というか……。子供に好かれそうな人だなーと思っていたんだよね。素直な人っぽいし。

「オーレンは子供はあまり得意じゃなさそうだしな」

「そうなんですよ。お義父さんは小さな子供の扱いがわからないようで、しかも男女でしょう。俺とミルが時間を見つけて世話をするようにしているんです。男の子の方はついさっき身内の方が見つかったと連絡がありましたよ」

「それは良かった」


 こちらです、と案内されたのは、店の裏手だ。魔力を流すチャイムが設置されている。

 ビストさんにお礼を言ってから、イオくんがゴーラに向かうという話をして、またサンガに来たら店に寄ると約束していた。僕もそこでそっと会話に入って、エーミルさんとの結婚おめでとう、とお祝いを告げる。ビストさんは照れくさそうに「ありがとうございます」と返答してくれた。

「結婚式は半年後位になると思います。もしタイミングが良ければ、ぜひ出席してください!」

「ああ、連絡をくれ」

 というような話をして、ビストさんは元気に帰っていった。その間ずーっとにっこにこの笑顔。

「幸せ真っ只中って感じだねえ……」

「そりゃ結婚が決まったばかりだから浮かれるだろう。それよりナツ、チャイム押してくれ」

「了解」

 如月くんにはわからない話しちゃったので、さっきの人はこれから会うエルフさんの娘さんと結婚する予定なんだよーと軽く説明だけしておく。如月くんはエーミルさんともビストさんともオーレンさんとも面識が無いから、へーそうなんですかーって感じで受け流している。

 まあ、ビストさんたちはともかく、オーレンさんにはちゃんと紹介しておきたいな。

 というわけでチャイムを鳴らすと、しばらくしてから玄関のドアが開いて、中からオーレンさんが顔を出した。

「おや、ナツさんとイオさん」

「オーレンさんこんにちは! 子どもたちの様子どうですかー?」

「元気すぎて困っていますよ。そちらは?」

「あ、如月くんです! 北の砦に一緒に行った人です!」


 僕が簡単にオーレンさんに紹介すると、オーレンさんは姿勢を正して丁寧に自己紹介をした。と言っても名前と北の砦にいたジド師匠の一番弟子だということだけを簡単に伝えただけで、それ以上の情報は追加されない。

「それで、子どもたちにかかっていた魔法は無事に解除出来たんですよね?」

「停止魔法ですね。あれは大変高度な魔法で、ジド師匠のオリジナル魔法の中でもとりわけややこしい魔法ですが、他の弟子たちに声をかけたりしてなんとか。どうぞ、会っていってください」

 というわけで、家の中に入れてもらう。あ、そうだ忘れる前に伝えておこう。

「そう言えば、ジドさんのお弟子さんのレーナさんって狐獣人の女性知ってますか?」

「レーナ? 懐かしい名前ですね。確か彼女は青空学校の生徒から魔法師になった人でしたか」

「あ、よかった知ってた。実は彼女、今魔法学校を作る計画をしてるみたいで……」

 勝手に話しちゃって大丈夫かなーとは少し思ったけど、どっちにしろレーナさんとハイデンさんだけで進められる計画じゃないと思うんだよねあれって。ハイデンさんはまだ入院中だし、レーナさんもある程度の計画を立てているけど、一人でできる作業量じゃない。どのみち、どこかから協力が必要になるはずだ。

 余計なお世話かもしれないけど、レーナさんは西の砦で10年すごして戻ってきたばっかりだし、すぐに協力者を募って集められると思えない。そうなると必然的に、多分オーレンさんのお弟子さんたちに、っては話になるのは確定路線なんじゃないだろうか。

 もちろん、すでに協力者を確保している可能性もゼロではないだろうけど。

 それでも同じジドさんから魔法を習った人たちなら、教え方をまとめたりすることだってできるだろうし。

 というわけでレーナさんがやろうとしていることについて簡単に話して、オーレンさんの反応を見てみる。うんうんと話を聞いていたオーレンさんは、「なるほど」と感心したように頷いた。


「素晴らしい話ですね。実は仲間内で、そろそろ魔法士の育成に力を入れるべきではないか、という話は出ていたんですよ」

「そうなんですか!」

「はい。ジド師匠が残してくれた魔法をまとめる作業は、私が終わらせていますし。ただ、土地や予算の関係でなかなか進められていないのが現状です。それに、師匠の弟子はエルフやフェアリーが多いので……寿命が長い分、どうしても他の種族よりのんびりしているんですよね」

 おお、やっぱりレーナさんだけじゃなくて、同じことをやりたいと思ってる人たちはいるんだね。ラリーさんも私立図書館を作るときは仲間を集めるところからだったって言ってたし、やっぱり同士を集めるのは大事なことだ。

「レーナがすでに具体的な計画まで持っているのであれば、ぜひ話を聞かせてもらいたいところです。今度、こちらの方から話を振ってみますよ」

「よかった、ぜひお願いします!」

 うむ、これでレーナさんの計画も前進するでしょう! 次にサンガに戻ってきた頃には、どのくらい話が進んで居るか楽しみだね。



 オーレンさんが紹介してくれた2人の子どもたちは、それぞれヒューマンの男の子・フィズくんとドワーフの女の子・ミミムちゃんというらしい。

 2人とも警戒心が強く、ソファーの後ろからこちらをじっと見てくる。

「2人共、こちらの3人は君たちを北の砦から救出してくれたトラベラーさんですよ」

 オーレンさんがそんなふうに声をかけると、それでようやく2人はソファーの影から出てきて、おそるおそるという感じで僕たちの前に出てきた。

「こんにちは。僕はナツ、こっちは親友のイオくんで、その隣が友達の如月くんだよ」

「如月でーす、どうも」

 如月くんはにこやかに挨拶してくれたんだけど、イオくんは軽く頭を下げるにとどめた。この人見知りめーと思いつつ、まあイオくんだからなあ。よろしい、イオくんの分まで僕が愛想よくしておきましょう!

「……ミミム」

「フィズだよ。 お兄さんたちが助けてくれたの?」

 若干かたい表情ながら、そう問いかけるフィズくんに、「そうだよー」と返す。えーと、どこまで聞いていいのかな。流石に起きたら10年経っててびっくりした? とか気軽に聞けないし……。


「フィズくんは身内の人が見つかったらしいですね。ミミムちゃんは……?」

 僕が迷っている間に、如月くんがさくっとそう切り込んだ。そう、それ気になってたんだよ僕も! でもそれ聞いちゃっていいやつかな? ちょっとはらはらしつつミミムちゃんの様子を伺うけど、ミミムちゃんはすぐ隣りにいたオーレンさんの足にぎゅっとしがみついてしまった。

「あー、フィズは明日迎えが来ることになっています。ミミムは、どうやらご家族が他の街へ移ったのではないかという話で」

 言いにくそうにオーレンさんが答える。何でも、ミミムちゃんは一人娘ですごく可愛がられていた子なのだそうで、ご両親は終戦後に一人娘を失ったショックからか、いつの間にかいなくなってしまっていたのだという。

 ……実際には失っていたわけじゃないんだけど。でも砦に閉じ込められたとなれば、もう助からないと絶望してもおかしくない。戦後生き残っていたことだけは確かみたいなんだけど、その後の足取りを追えないことから、おそらくサンガに居続けるのが辛くなって他の街へ移ったのではないか、というのが近所の親しくしていた人たちの推測なんだそうだ。

 でも、他の街……っていうと、どこのことだろう。

「どの街なのかわかってるんですか?」

「今問い合わせているんですが……何分終戦後は何年かごたごたしてましたから……」

「ミミムちゃん、親戚の人とか知らないかな? もしかしてその人を頼っているかも」

 僕がしゃがみこんで視線を合わせつつ問いかけてみると、ミミムちゃんはこわごわとオーレンさんの足から顔をあげて、「えっとね」と答える。

「……イチヤに、ササラおばさんがいるよ」

「ササラさん!」

「あ、冒険靴の店の!」

 思いがけない名前が出てきて、僕と如月くんは同時に声をあげた。そうそう、そういえば冒険靴ラン・ハイのショップカードは如月くんからもらったんだよね。御縁があるなあ、とちょっとびっくりだ。

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