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18日目:善は急げと言うけれど

「……ちょっと、待ってほしい」

 差し出した神蛇さんの脱け殻を見て、レーナさんはこめかみに手を当てた。あ、この様子は覚えがあるね、如月くんがよくやってるやつです。これはあと一押しが必要だ!

「あの、自分たちの分は確保してるので遠慮なく!」

 と意気込んで言ってみたところ、レーナさんは微妙に引きつった笑顔を見せた。あ、そういう話じゃないというやつか。こんな珍しいもの気軽に出すなって言いたいんだろうけど、あいにくと僕はエリクサーとか賢者の石とかマスターボールとかは使っちゃうタイプの人間だからなー、しまい込むのってもったいないじゃん?

 なにか言いたそうに口をモゴモゴさせるレーナさんの言葉を大人しく待ってみるんだけど、やがてレーナさんは長く息を吐いて視線をイオくんに向けた。

「その、本当に受け取っていいのか、これは……?」

「ああ、まだ余ってる」

 力強く頷くイオくんを見て、レーナさんはようやく脱け殻を手にとった。丁寧に手のひらで広げて、じっと見つめて……あ、多分<鑑定>したね今。


「す、ごいな。とても気軽に人に渡せるものではないと思うけれど」

「まあまあ。それよりどうかな? それ持ってれば解決する?」

 正直、魔力の流れを正常にって言われても、僕にはよくわかんない世界の話なんだよね。外から見てるだけだと変化もないし。レーナさんが困ってたことが改善するんならいいんだけど、本人じゃないと何が違うとか、わからないからなあ。

 そもそもこの脱け殻だけで解決する問題なんだろうか、と不安になっていると、レーナさんは小さく息を吐いて頷いた。

「うん、すごいな。さっきまで外に向けて出ていくだけだった私の魔力が、今は体内を巡っているのが感じられるよ。見えない膜で抑え込まれているかのようだ」

「おお! じゃあ、効果あるんだね!」

 テトビタDお供えしといて良かったー! あのときピンときたのは多分<グッドラック>さんのおかげかな? このスキルには本当に感謝しておこう。

「解決して良かったー! 魔法学校の件、これで進むね!」

「ああ。……なんだか、驚きだな。君たちに会ったお陰で悩みのタネがこうもあっさりと取り除かれるとは。助かったよ、ありがとう」

 拍子抜けって感じなのかも? レーナさんは気が抜けたように笑って、僕とイオくんに改めてお礼を言ってくれた。ありがとうという言葉は何度聞いても良いものです。感謝してもらえると、やってよかったなーって気持ちになるので大事だよね。僕もなるべく感謝は口にして行きたい。


「じゃあ、早速ハイデンの病室に戻って、話を進めてもらうか」

「え」

 イオくんそれは流石に性急すぎない?

 って思ったのは僕だけだったようで、レーナさんも「それが良いね」と言って立ち上がったので、あっこの人たちめっちゃ即断即決系……! って思った。行動力の塊かな? あー、でもイオくんとレーナさん、クールな感じが似ているかもしれない。こう、不言実行系の雰囲気を持っているというか。物事を淡々とこなしていつの間にか目標達成してそうというか……!

「ナツ何してんだ、行くぞ」

「アッハイ」

「ふふふ、病室に舞い戻って問題が解決したと言ったらハイデンはびっくりするだろうね」

「あれっ意外といたずらっ子かな!?」

 さあ行こうすぐ行こうと引っ張られるようにハイデンさんの病室へ向かう。あの僕の俊敏低いので! もう少しゆっくりお願いしたいのですが!? と喚いた所、イオくんが背中を押してくれました。片手で。……逆に凹むやつ……!


 わちゃわちゃしながら戻ったハイデンさんの病室では、ナルにブラッシング中のハイデンさんと、そんなハイデンさんに通じないけどモンブランの美味しさを語っているテトの姿があった。そんなテトさん、僕たちを視界にいれるとびゅんと飛んできて、おるすばんしてた! と褒めることを求めてくる。

「テトお留守番えらいねー」

 でしょー。もっとなでていいよー。

「よしよし」

 全人類は自分を撫でるべきだと思っているらしいテトだけど、特に僕は世界で一番撫でるべきと思っていそう。まあ契約主なので撫でるけれども。

 僕がテトと心温まる交流をしている間に、レーナさんはハイデンさんに意気揚々と魔法学校を作りたいというプレゼンと想定される費用や回収スキーム、長く存続させるためにどうすれば良いのかという話をしている。時々イオくんが隣から意見を追加したりして、めちゃくちゃ理路整然としているので、すごくわかりやすい。わかりやすいけど、ハイデンさんが置いてきぼりにされた感じの顔をしている……!

 いや、まあ、そうだよね。急にそんな話されてもだよね。わかる。


「ーーというわけなんだ。どうだろう?」

 ぽかんとするハイデンさんを置き去りにしたまま、レーナさんの魔法学校プレゼンはものすごくスムーズに終わった。「え、ええと」と一生懸命話を噛み砕こうとするハイデンさん。

「やはり一番のネックは先行投資の部分なんだ。開校資金さえクリアできれば、他はなんとかなると思うんだよ。それで、ハイデンにはどこか格安の土地か校舎になりそうな建物に心当たりがないだろうかと思ってね」

「あの」

「もちろん最初からうまくいくとは思っていないから、青空学校から始めるのも良いと思っている。ただその場合にも土地が必要になるからね」

「レーナ」

「うん」

 ハイデンさんがすっと片手をあげた。今までの話を聞いて何か言いたいことがあるらしいと察したレーナさんは、口を閉じて話を促す。興奮気味に目を輝かせているレーナさんの顔をじっと見てから、ハイデンさんは少しだけ緊張気味に息を吐く。

「まず、学校を作るというアイデアはいいと思う。サンガには必要になるものだから」

「うん」

「そのために資金が必要だと言うのもわかる。だが、借金をするのはまず一旦待って欲しい」

「おや。その理由は?」

「個人が行うものではないと思う」

 ……お。なるほど。確かに学校って基本的に行政が作るもの……かな?

 さすがハイデンさん、4等星なだけあって視点も違って助かるね。星級の人たちは立場が上の人たちだから、もしサンガの公立学校ができるとしたら、そのトップも4等星がやるのかな。


「……サンガの公立魔法学校を作るというのかい? でも、全員に魔法の才能があるものではないし、公立にするには不公平感があるんじゃないかな」

「確かに、全員が魔法を使えるという訳では無いけれど。レーナはジド師匠の弟子だったわけだから、ジド師匠の創作魔法が使えるだろう? あの魔法は魔力が少ない人も使えるし、今も複製魔法なんかは需要が高いよ」

「なるほど……」

 腕を組んで考え込むレーナさん。眉間にシワが寄っている。

「だが、私の計画に街の予算を当てるわけには行かないだろう?」

「それなんだけど……4等星の計画なら、いけるんじゃないかなと」

「ハイデンが表に立って作るということかい? でも、」

「あ、いやそうじゃない。僕には話をまとめられるほど魔法に理解がないし。そうじゃなくて……」

 ハイデンさんはレーナさんをじっと見た。……あ、これはもしかして。

「レーナが僕と結婚してくれるなら、リダ家の発案として計画書をあげられると思ったんだ」

「え」


 ……これはちょっと50点くらいの切り出しですね。どう思うイオくん。って思ってイオくんの方を見たら、イオくんはなんでいきなりそんな話になった? みたいな解せぬ顔をしている。そういえばイオくん朴念仁だったっけ。昔から恋愛関係でろくな目にあってないからそういうの避けがちなんだよね。

 僕はそういうの人並みにわかる方なんだけど、今のハイデンさんの言い方だと学校作るために結婚を提案されてるのかと思われちゃうのであんまり良くないと思うんだけどなー。

 と思っていたらレーナさんが怪訝な顔して、

「そこまでしてくれなくてもいいんだよ」

 とか言い出したので、やっぱ伝わってない。ハイデンさん言い直して、今すぐ言い直して!

「あ、いや、そうじゃない。そうじゃなくて……!」

 しどろもどろのハイデンさん、懸命に言葉を探している。そこら辺でようやく察したイオくんが、そっと2人から距離を取った。すすすっと僕とテトの横まで下がって、小声で「あの二人ってまさか」と問いかけるので、「そうだよ」と頷いておく。

 めっちゃ助言したいけどここでしゃしゃり出たら雰囲気が台無しなのでぐっと我慢……! ハイデンさんそこは告白から入らないとだめだよ! まずあなたに好意を持っていますというのをわかってもらってからの、僕と結婚して一緒に魔法学校を作りませんか、が正しいよ! 多分!


 ハラハラしながら見ていると、ハイデンさんはようやく言うべき言葉を見つけたようだった。

「その、砦にいた頃は、あなたが隣に居るのが当たり前で。そうやって過ごしていたので、これから先も当然そうなるものと思っていたんだ。だからこうして、いざ一人になってみると、無意識のうちにいつもあなたの姿を探してしまって」

「……うん」

「僕は、あなたが隣にいて、穏やかに微笑んで居るのが、とても心地よくて」

「うん」

「だからこの入院中、ずっと考えていた。僕はあなたのことが、その……」

 ……イオくんここは一旦外に出ようか。ほら、野暮だからさこの状況。好奇心がないわけではないんだけど、邪魔になりたいわけじゃないし。僕たちはまだいいとして、テトがそのうち飽きて歌いだしたらちょっと雰囲気ぶち壊しだからね!

 というわけで、そーっとハイデンさんの病室を抜け出して、そーっと待合室へと逃げた僕たちである。


「なんか僕まで緊張した……!」

「なんでだよ」

 さて、待合室へ逃げた僕たちは、とりあえず少し待ってみるか、とベンチに座った。だってさー、ハイデンさんすっごく緊張してたから、僕もはらはらしちゃったんだよー。

 ナツぐったりー?

 にゃ? とちょっと気遣ってくれるテトを撫でつつ、うまくいきますように! と心の中で祈る。

 ハイデンさんもレーナさんも10年苦労してきたわけだから、どかんと幸せがやってきていいと思うんだよ。ナーズさんは妻帯者だし、ミーアさんは2人よりかなり年下だし、多分ハイデンさんとレーナさんの間に何かが生まれるのは必然的だったんだろうな……!

 2人とも穏やかそうだし、気も合いそう。

 それにさっきの感じだとレーナさん、まんざらでも無さそうじゃない?

「ねえイオくん! うまくいくかな!?」

「いやめっちゃ目えきらきらしてんな!? 他人の恋路に口出しすんなよ」

「しないけど気になるじゃん!」

「いや別に」

「クール!!」


 僕は俗物なので人の恋路は気になるんです!

 ハイデンさん頑張れー!

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― 新着の感想 ―
[一言] そうね、他人事の恋バナは楽しいのですよ 自分の事は遥か上空に置き去りだったとしても! イケメンの頼れる相棒と可愛いテトくんいたら 今のところ万事OKって話だよね。
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