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18日目:レーナさんの事情

 レーナさんは魔法士で、あの西の砦では唯一魔法を使える人だった。

 そうすると砦の清掃から索敵、飲水の確保や火種の管理まで、そりゃあもうたくさんの仕事があるわけで、できる人がレーナさんしかいない以上はレーナさんがやるしか無い。そんなわけでレーナさんは常に魔法を使い続けているような状態。

 1日2日の話ではなく、そんな気の抜けない状況が10年続いたわけで、それが突然終わったからといって、即座に日常に戻れるかというと……無茶言うな、である。

 人間、習慣づいた行動というものはなかなか抜けない。例えば毎朝7時に起きる習慣がある人は、目覚まし時計を設定しなくても自然とその時間に目覚めてしまう……なんてのが身近な例かな?

 つまりレーナさんの体は今、魔法を常に使っている状態に慣れきってしまっているのだ。


「それで、どうやら私は今、常に魔力を垂れ流しているような状態にあるらしいんだ」

 ものすごく軽く言うレーナさんだけど、全然軽い内容じゃないねこれ。どう思うイオくん? と親友に視線を向けると、イオくんも難しい顔をしている。

「常に魔法を使い続けているということか?」

「意識してやっているわけじゃないんだ。ただ私の魔法の師匠が、自分の周辺に魔力を流すと、自分と異なる魔力に当たったときに距離や方角がわかるって教えてくれたから、砦ではそれをずっとやっていたんだよ」

「索敵か」

「そうそう。あそこでは大事なことだったからね」

 まあ確かに、西の砦は外壁もぼろぼろで、何度か魔物の襲来があったんだろうということはわかる。レーナさんがそうやって索敵して、危険があれば仲間に知らせていたんだろう。自分たちを守る手段が限られているあの砦では必要なことだったのも理解できるけど……。

 MPが常に減り続けてるってことだよね? 魔法士としては、MPは温存するくらいでちょうどいいはずなのに。


「止められないんですか、それ」

「止められたらよかったんだけどね。止め方がわからなくなってしまって」

 困ったよね、とレーナさんは頬に手をあてた。

「はじめは自覚がなかったんだけど、甥っ子が魔法を教えてほしいと言ってきてから発覚したんだ。見本を見せようと簡単な魔法を使おうとしたのに、不発になってしまって。なぜだろうと思ったらMPが足りなかったんだ」

「そうなるまで自覚は全然なかったんですか?」

「なかったねえ」

 結構重症じゃないかなそれ? 

「別に、だからといって致命的な不都合があるわけではないんだけどね。でも、無意識に魔力探知をかけ続けてしまって、日常用の魔法に過剰反応してしまうし……ちょっと疲れてしまってね」

「いやいやいや結構不都合あるじゃないですか、その状態!」

「そうかな。命を脅かすほどではないよ?」

「その基準がそもそも間違ってると思います……!」

 どうしよう、レーナさんもしや過酷な状況に置かれすぎて感覚が鈍っている……? いざ魔法を使おう! というタイミングで使えないくらいMPが常に減っているって、普通にまずい状況だと思うんだけど……!

 魔法士って、魔法以外に自分の身を守る手段が無いことが多い。僕みたいに、基本筋力にPP振らないから直接攻撃の手段は持ってないことが多いと思う。プリンさんみたいに弓を持つこともあるだろうけど、レーナさんの手持ちの武器は杖だけだから、多分弓も使わないはず。つまりMPは生命線ってことなんだけどな。


「それで、診察の結果はどうだったんだ?」

 考え込んでしまった僕の代わりに、イオくんが問いかける。レーナさんは軽く首を振った。

「特に、魔法を使うために必要な器官に異常はないそうだよ」

 え、お手上げじゃんそんなの。もう完全にクセってこと? どうにかしてあげないとそのうち魔力枯渇しちゃうんじゃないだろうか。トラベラーはMP枯渇してもだるくなるだけで死んだりしないけど、住人さんたちはMPが枯渇したらどうなるんだろう。

「もー、大変なことじゃん! これからのレーナさんに魔力は必要でしょ、魔法を職業に使ったりしないの?」

「うーん、まあ、必要なんだけどね。でもどうすれば改善するのかわからなくて手詰まり気味なんだ。考えるのも疲れてきたし、しばらくは放置でもいいかなと思えてきて」

「よくないよ!?」

「ははは。ミーアにも良くないと言われてしまったから、なんとかしたいとは思っているよ。流石に魔法を使いたいときに使えないのは困るしね」

 病院に来れば何かわかるかと思っていたんだけどね、とレーナさんは肩をすくめる。


「夢があってね。本当は師匠に協力してもらって叶えたい夢だったんだが、師匠は戦争で川へ行ってしまったらしい。私一人でも形にできるなら、ハイデンに協力してもらえないだろうかとも思ってたんだ。だが、この状況では難しい。さっきお見舞いのついでに私の現状を話して、しばらくは無理そうだと告げたんだが、とても心配されてしまった。参ったね」

「師匠さん……って、もしかして」

 オーレンさんの師匠さんと同じ人かな。えーっと、確かあの人は……。

「ジドさんのことですか?」

「おや」

 レーナさんは目をぱちくりさせて、意外そうに僕を見つめた。どうしてその名前を知っているのか、という表情だろうか。

「あ、えっと。実は北の別の砦を探索しまして……」

 僕は簡単に、北の砦へ行ったこと、そこで空間魔法で隠された場所を見つけて子どもたちを救い出したことを話した。オーレンさんの名前もだした所、レーナさんは懐かしそうな表情で何度か頷く。

「素晴らしい活躍だね、ナツさん、イオさん。君たちでなければ救えなかった命だ、誇ってほしいよ」

「いえいえ。子どもたちが結局無事だったのかまだ確認してないので……。イオくん、今日オーレンさんの所に行ってもいいかな?」

「おう。結果気になるしな」

 もうすぐサンガを出るつもりだから、その前に忘れずにあの子どもたちの行く末を確認しないと。オーレンさんが無事に魔法を解除してくれたかも気になるし。


「良いね、オーレンは私の兄弟子に当たる人だ。……と言っても、彼はジド師匠にとっては戦前からの一番弟子だし、私は戦時中に才能を見出されてちょっと教わっただけの、青空学校の生徒だけどね」

「ジドさんがみんなに魔法を教えてたんですよね?」

「そうだよ。あの人は教えるのが上手だったから」

 レストさんが言ってたんだったかな? ジドさんが便利な魔法とかをみんなに教えてたって。なんかその時の雑談で、ラリーさんが使ってた【複製】の魔法とかは、ジドさんのオリジナル魔法だったって話を聞いたような。

「師匠はとにかく幅広く色んな人に魔法を教えていたんだ。日常で便利に使えるものを中心に、戦いを有利に進めるために必要なものなんかを」

「みんなの先生だったんですね」

「私みたいに、青空教室で魔法の才能があるとわかって魔法士になったやつはたくさんいるよ。私はその中でも特別優秀というのではなかったけどね。ただ、魔法を使うことが好きになれたのは、師匠の教え方が上手だったからだと思う。感謝しているんだ」

 あの師匠が、まさか川へ行ってしまったとは思わなかった。そう言ってレーナさんは目を伏せた。

「べらぼうに強い人だったんだがね。人生、何がどうなるのかわからないものだな。未来は無いだろうと思っていた自分が助かり、殺したって死なないだろうと思っていた師匠が死ぬなんて」

「レーナさんは、その師匠さんに、何を協力してもらおうと思っていたんですか?」

「学校だよ」

「学校?」


 レーナさんは顔をあげて、穏やかなほほえみを浮かべる。

「魔法を教える学校を作りたいんだ。戦争が終わって、読み書きや計算を教える学校は出来たらしいんだけど、サンガにはまだ魔法学校がないというから」

「……でも、それだと……」

「そう、どうにかして魔力のコントロールを戻さなければならない。でなければ、教えるなんてとてもできないからね」

 やっぱりめっちゃ深刻な事態なのでは……!

 でもレーナさんが先生になるのか。それってなんか似合うというか、イメージがピッタリだな。付き合いは短いけど、ミーアさんに寄り添っていた砦の様子を見るに、面倒見が良さそうなイメージがあるし。それに、ジドさんの教え方が上手だったって話をしてるけど、その教え方を実際体験しているレーナさんなら、同じように人に教えることができるはず。

 すごく良い先生になれるんじゃないだろうか。

「レーナさん、それすごく良いと思う、やるべきだよ!」

「良い夢だな」

 イオくんも軽く微笑んだ。だよねー、向いてるよねレーナさん。穏やかな雰囲気も良いと思うし。

「ありがとう。私としても諦めるつもりはないんだが、資金調達から始めるつもりだし、何より肝心の私がこんな不安定な状態では話を進められない。かくなる上は、別の教師役を雇って裏方に回ることも考えなくてはいけないね」

「もしかして、ハイデンさんに協力をって、敷地とか資金の面ですか?」

「彼は4等星だからね。もし余している土地があれば紹介してもらえないかと思っていたよ」


 この様子だと、レーナさんの中では結構計画が出来ているのかもしれない。魔法のことなら僕が何かアドバイスできることがあったらいいんだけど……コントロールなんて全然意識したことないところだなあ。ここでズバッと解決策とか出せたらかっこいいんだけど……。

「うーん、残念だけど僕にも魔力のコントロールについての知識はないし、図書館で情報収集とかするのが良いかも? イオくんなにか思いつく?」

「ナツは、拾ったアイテムの情報をもっと覚えておくべきじゃないか?」

「え?」

「最近拾った中にあっただろ、最適のものが」

「ええ!?」

 なにそれ知らない。と首をかしげた僕に、若干呆れたような視線を向けてから、イオくんはインベントリを開いた。間もなくして取り出されたのはやたらきらきらと輝くサラッとした布地のようなーー。

「あ、神蛇さんの脱け殻……!」

「ほら<鑑定>結果言ってみろ?」


 神蛇の抜け殻 希少な神蛇の抜け殻。大きさによってアイテムや装備に加工でき、薄くて軽いが丈夫。大きさにかかわらず、持ち主の魔力の流れを正常に保ち、魔力の回復を早める。少しだけ金運が上がる。 


「……持ち主の魔力の流れを正常に……!」

 あー!

 そう言えばそんな感じのアイテムだった! 金運のことしか頭に残ってなかったけど、そういえば! え、ということはこれさえあればレーナさんの魔力の流れは正常になる……?

「大きさにかかわらず、だからな。1つレーナに譲ろう」

「イオくん天才! よく覚えててえらい! さすがイケメンそつがない!」

「うむ。……というか覚えとけ」

「無理かな!」

 僕の記憶力そんなに良くないので!

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