17日目:クエストは増えるもの!
「首輪、確か材料を集めてシーニャのところに持っていけば、オーダーって形で組み合わせてくれるらしいぞ」
「テト、ちょっと首に巻いてみていい? ……なるほど、この長さなら足りるね」
くびわー? にあうー?
「似合うよー。紫でいいの? テトの好きな白いのもあるよ」
むらさきがいいのー。
自分の首輪を作ってもらえるらしいとさとったテトさん、ご機嫌に耳をぱたぱたしている。首輪目的ならもう少し幅広でもいいんだけど、テトがこれがいいっていうんならこれにしますか。
「イオくんこれ共有から出して良い?」
「テトにかかる費用は経費で落ちる」
「社長が太っ腹で助かるー!」
「いい色だな、ナツの契約獣だってひと目でわかるようにしたいんだろ? それに白猫に白は埋もれて見えないぞ」
「あっ、確かに」
よくみるとこの組紐、僕の髪色より少し紫濃いめくらいのきれいな藤色。これをテトが身につけたら、僕の色味とほぼ同じだ。えー、そこまで考えることができるうちの猫めちゃくちゃ賢いな? 素晴らしいと思います!
「じゃあテトのはこれにしようねー。僕はこっちのピンズが欲しい」
しろいのー! すてきー!
にゃにゃーっと歓声を上げるテトである。この盛り上げ上手さんめ。
最初に目をつけていたピンズは、「光魔法のピンズ」というアイテム名だった。ケープに穴開けるのはなんかもったいないので、内側の白いシャツにつけておこう。イオくんは今買った組紐を、お守りを下げている紐と付け替えた。前の紐は焦げ茶色の革紐だったから、これはこれでまたどこかで使えそうなアイテムだね。
「皆さん満足の行くものが買えたかしら?」
おっとりと微笑んだグロリアさんに、お礼と、そろそろゴーラへ向かう予定であることを告げる。一応知り合いには挨拶してから旅立ちたいと思っての報告だったけど、「あら」とグロリアさんは胸の前で手を組んだ。
「これもスペルシア様のお導きかもしれないわね。ナツさん、イオさん、お二人にお使いを頼んでも良いかしら?」
「お使いですか?」
「ゴーラにか?」
おしごとー!
あ、目をキラキラさせたテトさん、尻尾をイオくんの背中にばんばんぶつけてるんですが……落ち着いて欲しい。商品にぶち当てるより良いけども。
「間に合えばプリンさんに託したかったのだけれど、残念ながら依頼の手紙が来たのはつい昨日のことなの。ゴーラにあるスペルシア教会に、荷物を届けてほしいのよ」
ああ、そういえばプリンさんはこの店に結構通っていたんだっけ。でも、もうプリンさんはゴーラに向けて旅立った後だ。もちろん運ぶのはやぶさかでないけど、僕たちはゴーラに歩きで行くつもりなんだよね。
「僕たちでよければ運びますけど、それって期限はありますか?」
さすがに1週間以内とか言われたら断るしか無い。確認のために尋ねると、グロリアさんは「それは大丈夫だと思うわ」とにっこり微笑んだ。
「3ヶ月以内という依頼なの。もしナツさんたちがゴーラに到着するのがそれより遅くなるようなら、他の人に頼むけれど……少し高価なものだから、信頼できる人に頼みたいのよ」
「ああ、ゴーラへは歩いて行くつもりだが、流石に3ヶ月は使わないと思う。だが高価なものと言われると不安になるな。荷物は何だ?」
「これなのだけれど」
グロリアさんは、カウンターの内側から白い箱を持ってきた。高さ3センチくらい? 目算で縦30センチ、横20センチくらいの薄い長方形の箱だ。よくシーツとかはこういう箱に入ってるイメージがある。
「もしかして中身、グロリアさんが編んだ編み物とかですか……?」
「ええ、私が編んだレースが入っているわ」
あ、やっぱりそういうのだよね。雑に扱わないように気をつけなきゃ……インベントリから出さないようにするけども。レースってあの、装飾品のレースだよね? あんな細かいものを手編みするんだから、グロリアさんすごいなあ。っていうかレースって高いんだ……? もしかしてマギスパイダーの糸とか使ってて、原材料が高い系かな?
「ナツさん、レースは大きいものほど高いのよ。稀に、宝石より高く取引されることもあるくらいよ」
「グロリアさんにまで心読まれた……!?」
「あら、ごめんなさい、わかりやすかったものだから。<魔法図案>がたくさん入っているし、良い糸を使うとそれだけでもかなりの金額になるわ。まして花嫁の使うヴェールに使われるのは真っ白の糸……ルクススパイダーと呼ばれる魔物からしか取れない、淡く輝く糸なの。特別な品物なのよ」
丁寧に説明してくれるグロリアさんだけど、ありがたいけど、なんで初対面の人に心読まれ続けるんだ僕は……! おかしい、そんなにわかりやすいはずがないのでは……?
僕が解せぬって顔をして両手で顔を揉んでいる間に、イオくんが苦笑しながらグロリアさんから箱を受け取った。期待に目を輝かせたテトが、わくわくとイオくんを見ているけど、これは流石にテトには渡せないかな。
「確かに受け取った。必ず届ける」
グロリアさんに力強く請け負ってから、即座にインベントリへ。一応僕も確認したところ、ちゃんと共有インベントリの大切なものの方に別収納されたので本当に良かった。細かな気遣い、助かります。
イオー! テトはこべるよー!
にゃあにゃあと抗議の声を上げるテトだけど、イオくんは静かに首を振った。この場合は何を言っているのか予測できるから、イオくんの対応も慣れたものである。その後もしばらくテトは運びたいという主張をしていたけれども、イオくんが駄目と言ったら駄目なのです。
その後少し雑談してからグロリアさんの店を出ると、日がすっかりくれていて夕飯の時間だ。レストさんに聞いていた猫の形のお皿のお店がこの近くだったので、閉店前に駆け込んで一通り買い求める。色んな動物の形が置いてあってめっちゃかわいい店なんだけど、獣人さんたち御用達なんだとか。
割れ物のお店なのでテトは外に居てもらったんだけど、買い物を終えて「テトの猫のお皿買ったよ!」と報告したら、ふんすっ! って感じに怒っていたテトの機嫌が少し良くなった。テトは何か運ぶのは全部自分の仕事だと思っているから、グロリアさんの箱を渡してもらえなかったのがとってもご立腹なのだ。
「テトー、良い子だから機嫌直して。さっきのは僕とイオくんのお仕事だからね」
むー。テトはこべるのー。
まだちょっと拗ねているテトだけど、イオくんが仕方ないなって顔をしてインベントリをゴソゴソして、さっきの箱とちょっと似ている白い箱を取り出した。さっきの箱より高さがある。
「テト、これは俺の大事な魔導コンロが入っている箱だ」
あ、魔導コンロの箱か。そう言えばまだ西の砦でしか使ってないやつだ。
少しかがんでテトに視線を合わせるイオくんに、テトは何か重要な任務がもらえるに違いない、という期待を込めた眼差しでびしっと背筋を伸ばした。一生懸命きりっとしている。
「グロリアの荷物は俺達の仕事だから渡せないが、これは次の旅に必要な、大事なものだ。テトを、これを運ぶ係に任命する」
おしごとー!
「大事なものだからな。しっかり運べよ?」
まかせろー!
にゃっ、にゃー! と力強く請け負うテトさんなのであった。
*
さて、テトの機嫌も良くなったし、時間もちょうどいいし、腹が減ってはなんとやら。本日の夕食は「南西の風亭」で決まり!
なんだかんだ言って、サンガではこの店に来ることが多いのかな? ランチでもディナーでもメニューと値段が変わらないし、定食だからかすぐに料理が提供されるところがありがたい。
本日の定食3種は、「チーズ春巻きと肉まん」「鮭とほうれん草のクリーム煮」「定番コロッケと唐揚げ」である。肉まんのやつにはセットにスープとサラダが、他の2つには更にプラスしてライスかパンが付く。今日は昼にうなぎを食べたから……アナトラで肉まん見たの初めてだし、春巻きと肉まんにしようかな。
「イオくん何にするー?」
「コロッケと唐揚げ。ナツ肉まんだろ?」
「なぜわかった……!」
「お前はすぐに初めて見るものに飛びつくから」
くっ、おっしゃる通りでございます……!
「テト食べたいのある?」
しろいのー。
「テトさん白いのはクリーム煮? 肉まん? どっちだろ」
「肉まんを追加料金払って1つ追加してもらうか。白くて丸いから肉まんでいいだろ」
「確かに」
イオくんに注文と受取を任せて、僕とテトはいつものように2階席へ上がる。端っこの前回も座った席が空いていたから、とりあえずそこをキープしておいた。
ナツー、ねこのおさらー。
「猫のお皿出すの? ちょっとまってねー」
おねだりされたので、さっき買ったばかりの猫のお皿を出すと、テトはにゃふーっと満足げに息を吐いた。レストさんの家でもずーっとにこにこしながら見てたし、よほど気に入っているんだなあ。微笑ましいテトを見ていたら、すぐにイオくんが定食のトレイを2つ持ってきてくれた。
「早速出してるのか? ほらテトの分」
しろーい!
ちゃちゃっとトレイをテーブルに置いたイオくんは、1つ追加した肉まんを早速猫のお皿に乗せる。それを見たテトは、肉まんの白さと丸さにご満悦の表情である。さっきまで拗ねていた猫とは思えないよね。
そして僕の前に出されたチーズ春巻きと肉まん定食……思ってたよりボリュームがある。肉まんはよくある、コンビニで見るサイズのやつが2つで、春巻きは4つ、サラダは普通の感じだけど、スープはちゃんと中華風のやつだ。ごま油の良い香りに目を輝かせてしまう。
イオくんの定番定食はこれ以上にボリューム感がある。大きめのお皿に千切りキャベツを置いて、その上にこれでもかと乗せられたコロッケが2つ、唐揚げが5つ。別途僕のと同じサラダと、スープはミネストローネ風のものがついている。コロッケ……コロッケも良いよね、ちょっと食べたかった。でもパリパリ春巻きも乙なものなので……!
「いただきます!」
と手を合わせてから、まずはほっかほかの肉まんを……いきなりかぶりつくと舌を火傷するので、ふーふー冷ましてから一口。うむ、もっちりとした厚めの生地だね。
ナツー、てきおんってしてー。
僕が真っ先に肉まんにかじりついたのを見ていたテトが、猫のお皿を押しておねだりの構えだ。僕がふーふーしている=熱いというのを覚えた家の猫、とても賢い。
「はーい、【適温】……よし、これで大丈夫だよー。中にお肉入ってるからねー」
ありがとー!
嬉しそうに肉まんにかじりつくテトさん、最初の一口で具材までたどり着けなかったらしく、微妙な顔で首をかしげてからもう一口。
おにくあったー。
とちょっと楽しそうでした。宝探しみたいな感覚なのかも。
続いてのチーズ春巻き、ピリ辛スパイスで味付けもされててちょっと予想と違う味。カレーチーズ春巻きみたいな感じ? カレーじゃないけどエスニック風味の味でかなりチーズに合う。もう少しパリパリしてたほうが好きだけど、これはこれでかなり美味しいね。個人的にリュウさんの春巻きが一番だけども!
定食屋さんの春巻きと中華屋さんの春巻きを比較するのは酷ってなものだ。
「イオくん、この後レストさんのお店に行って良い?」
「おう、何かあったか?」
「ショップ取引画面の掲示板に連絡来てて、テトビタDの瓶できたって。それでミィティさんが会いたいって言ってるらしいから」
よんだー?
「テトの絵描いてもらったでしょー? あれを使った瓶ができたんだよ」
よくわかんないけどふーん、って感じの顔をするテトである。あんまり興味無いかな? とは言え、作ってくれる錬金術師のミィティさんが直接会いたいと言ってくれるのならば、お礼もしたいし、ぜひ会っておきたいのだ。
「手土産がいるんじゃないか?」
と提案するイオくんの言葉で、聖水のお店教えてもらったときに要求されたのを思い出した。きれいなアクセサリーがほしいって言われたんだっけ、あのときは。レストさんの言葉だと、可愛いのでもOKらしいから……金平糖の瓶、最後のを出しますか。




