17日目:キヌタくんへのお土産
さて、確認したところ、神蛇の抜け殻は(大)が3つ、(小)が3つだった。(大)の方は30センチ四方、(小)は15センチ四方くらいの正方形。どちらも品質は★7で、<鑑定>結果は以下の通り。
「神蛇の抜け殻 希少な神蛇の抜け殻。大きさによってアイテムや装備に加工でき、薄くて軽いが丈夫。大きさにかかわらず、持ち主の魔力の流れを正常に保ち、魔力の回復を早める。少しだけ金運が上がる。 品質★7」
素晴らしいアイテムな気がしている……! 特に金運が上がるってところ! 今金欠だから非常にありがたい。とか思いつつイオくんを見ると、イオくんも同じ考えのようで、一つ頷いた。
「ナツ、大きいの1個持っとけ。テトも、1個収納しといていいぞ。じゃれるなよ」
「やったー!」
わーい! おしごといっぱーい!
テトはじゃれたい欲求よりも、運びたい気持ちのほうが高いようで、大喜びで収納していた。いっぱい仕事を任されて嬉しくなってぴょいんぴょいんしてるテト、かわいいと思います。
ソウさんたちにお別れを言ってから妖精郷の外に出ると、時刻はすでに夕暮れ時だった。時計は午後5時頃、まだ夕飯には少し早い。
ステータス画面から住人情報を確認してみると、キヌタくんの居場所は憩いの広場にいるようだ。妖精郷を教えてくれたのはキヌタくんだし、この抜け殻みたいな希少なアイテムをもらえたのもキヌタくんのおかげってことで、1つ渡したいんだよね。
って相談したところイオくんも快くOKしてくれたので、すれ違わないように急いで憩いの広場に向かう。屋台がすっかり片付いた広場は、この時間帯は子どもたちの遊び場になっているようだ。追いかけっこや木の枝を使ったチャンバラをしている子が多いかな? 遊具とかなにもないから、できる遊びも限られている。
キヌタくんを探すと、彼は端っこのほうで本を読んでいた。隣にはいつぞやの犬耳少女がいて、相変わらず仲良しそうで微笑ましい。そっと近づいてみると、どうやら少女が読み方を教えてあげている感じだ。
「からすくんは、えっと……おおきな、うーん」
「なきごえ、よ。カラスはカーって鳴くでしょ」
「なるほどー」
あ、「ねずみくんのぼうけん」読んでる。送り主としてはちょっと嬉しいな。と僕がほっこりしていると、隣でテトが「からすくーん」と嬉しそう。テトの推しだもんねー。にゃーんというその鳴き声で、キヌタくんが振り返った。
「おにいちゃん!」
「キヌタくん、こんばんはー。絵本気に入った?」
「うん! マルゥちゃんよんでくれたよー」
にぱーっと笑って言うキヌタくんの隣で、犬耳少女がえっへんと胸を張った。なるほど君がマルゥちゃんか。名前を教えてくれたからにはこっちも名乗らないとね。
「そっかー、本読んであげてえらいね! 僕はトラベラーのナツ、こっちは僕の親友のイオくん、契約獣のテトだよ、よろしくね」
「マルゥよ! 大きな猫……と、王子様……!」
マルゥちゃんはイオくんを見上げてほわっとなった。頬がみるみる内に赤く染まっていく。イオくんと一緒にいると割と見る光景……黙ってるイオくんは割と初恋泥棒やってると思う。まあ確かにイオくんは美形なんだけど、中身が塩対応脳筋なので……っ!
……変に夢を見られる前に、話をそらそう。
「キヌタくん、メモありがとうね。さっき行ってきたよ」
「あ! ひみつだよー?」
しーっと人差し指を立てるキヌタくんに、もちろんと頷いてから、さっき拾ったばかりの神蛇の抜け殻(小)を「お土産だよ」と差し出す。一応、他の人がこっちをみてないことを確認してから出したよ、珍しいものらしいからね!
キヌタくんはきょとんとして抜け殻を見ていたけれど、やがてそれがきらきらと輝いているのを確認してぱあっと表情を明るくした。
「きれーい! これ、どうしたの?」
「キヌタくんが教えてくれたところで拾ったんだ。でも、すごく広かったから奥に行っちゃ駄目だよ。迷子になっちゃうからね」
「はあい。あそこはねー、すごーくまるい、いしがあるんだよ」
こんなにまるいの! とキヌタくんが手で丸さを表現しようとしてくれるんだけど、グーにしかみえない。微笑ましいね。
「あら、ナツさん?」
キヌタくんが一生懸命説明してくれてるのを聞いていると、背後からピタさんの声がした。子供を遊ばせている間、主婦さんたちはベンチに集まって井戸端会議をしていたのかな? 僕がキヌタくんに話しかけたから慌てて様子を見に来たらしい、ちょっと申し訳なかった。
「ピタさん、こんばんはー」
「まだ晩にはちょっと早いわよ。……テトちゃん、大きくなったわねえ」
おおきくなったのー!
にゃあん、とご機嫌にお返事したテト。前回ピタさんに会った時、テトはまだ中型犬くらいの大きさだったから、その時に比べたらすごく大きくなったよね。まあかわいい、と笑顔のピタさんに、キヌタくんは早速神蛇の抜け殻を差し出した。
「これ、おにいちゃんがくれたよー!」
と、ちょっと得意げだ。そしてマルゥちゃん、そんなにじーっと見つめてもイオくんは目を合わせないと思うのでそろそろ諦めて欲しい。
「まあ、きれい。何かしら……」
ピタさんは差し出された抜け殻をじっと見てから、僕に視線を移す。
「これ、頂いてもいいの? なんだかすごいものだと思うんだけど」
「あ、じつはキヌタくんに教えてもらったことが縁で入手したので。他にもいくつかあるのでどうぞ」
「でも希少よ?」
「僕たちの分はありますし」
「そう……。良かったわねキヌタ。ありがとう言った?」
「あ! ありがとうおにいちゃん!」
「どういたしましてー」
ふ。これでキヌタくんからの尊敬の念みたいなものは僕が頂いた……! 僕のことを頼れるお兄ちゃんだと思ってくれる子が1人でもいてくれれば僕は嬉しいのだ。ほんわかしながらも、そろそろイオくんが逃げたがっている気配を感じるので、この辺で話を区切ろう。
「喜んでもらえてよかったです。僕たちそろそろゴーラに向けて旅に出る予定だったので、その前に挨拶してきたかったんですよー」
「あら、そうなの。良い旅をして、またサンガにも戻ってきてくれると嬉しいわ」
「おにいちゃん、いっちゃうの?」
「ゴーラでお土産買ってくるねー」
「わあい」
無邪気に喜ぶキヌタくん、癒やしの存在。そしてイオくんをじっと見つめるマルゥちゃんの視線を遮るように、テトがにゅっと二人の間に割って入った。相変わらず空気読める猫でえらい。
なにしてるのー? なでるー?
にゃ? と小首をかしげてかわいいポーズを取るテトに、10歳くらいの少女は流石にイオくんから視線を外した。魅惑のもふもふボディに恐る恐る手を伸ばし、もふっと触れると、「わあ」と感嘆の声が上がる。ふふふ、僕が手入れしているテトの毛並みは最高の毛皮だからね、自信あります。
イオくんがこっちに目配せして、先に憩いの広場を出ていく。さささささっと音もなくその場を去っていくイオくんには絶対に忍者の才能があると思う。マルゥちゃんはちょっと視線を外した隙にいなくなってしまったイケメンに驚いていたけども。
「王子様……夢のような存在……」
ぼそっとつぶやいて切なそうに胸の前で手をくんでいたけれど……夢は大切にしてほしい。僕からは何も言えないや……。
憩いの広場を出てから、次に向かうのは問屋通りのグロリアさんのお店だ。
ずっと行こうと思っていたけど、なんだかんだあって毎回忘れちゃってたから、今度こそ。今はアクセサリ枠が空いてるので、なんでもいいから装備品が欲しい気持ち。
「イオくんはアクセサリ2枠空いてるし、最低でもイオくんの分1個は欲しいなあ」
「ステータスが器用貧乏だからな。魔法防御上がるやつがあったら欲しい」
「【リフレッシュ】も【レジスト】もあるけど、純粋に魔法ダメージ軽減しないと。イオくんという盾を失ったら僕が死ぬので」
「それな」
イオくんの特殊スキルのためにも死ぬわけにはいかないし、物理寄りステータスなイオくんの魔法防御力は現在20。装備で+5されるけど、素のステータスだとなんと僕の半分である。ついでにイオくんの物理防御力と比較してもほぼ半分。
「物理防御より優先して振るステータスでもないからな。アクセサリで補えるならそれでいい」
「イオくんの場合アタッカー兼ねる盾だから、純粋に防御極振りするわけにもいかないよねえ」
幸い、筋力や各種防御力に関しては、街で売っているアクセサリで+10になるものが結構確認されている。そういうのを求めて、やってきました二度目の「フラワーベル」。カランと音を立てて店内に足を踏み入れると、紺色の服を上品に纏ったグロリアさんが「いらっしゃいませ」と穏やかな声をかけた。
「あら、ナツさんとイオさんね」
「こんばんはグロリアさん! 今日はアクセサリを見に来ました」
「まあ、うれしいわ。気に入るものがあるとよいのだけれど」
相変わらずおっとりした感じのグロリアさんは、何か編み物をしていたようなんだけど、それをカゴにしまってカウンターから出てきた。どうやら商品を説明してくれるようだ。
「どんなものが欲しい、という希望はあるかしら?」
「身につけるのはイオくんになると思うので、シンプルなものがあればいいんですけど」
「男性用の品もちゃんと置いてあるわよ。こちらなんてどうかしら」
グロリアさんはイオくんをしっかり見てから、合いそうなものを選んでいくつかピックアップしてくれる。どれもシックな感じの小物だ。
「こちらは軍事用の懐中時計よ、1日1回ネジを巻く必要があるけれど、とても頑丈で人気があるの。シルバーのシンプルなボディだけど、このあたりにイニシャルをいれる事ができるわ」
最初に紹介された銀の懐中時計は、蓋がないシンプルなもの。<鑑定>してみると、物理防御力+10の効果付きだった。時計を手に入れると、アラームを鳴らす設定が解禁されるらしいんだけど……僕たちに必要かどうかは一考の余地があるね。
「こちらはヨンドで開発された、持ち運びのできるペンよ。カートリッジを付け替えることで書き続けることができるのですって。少しお値段が張るけれど、特に学者先生にはすごく人気の品なの」
次に差し出されたのは、どう見てもボールペン。この世界にもあったんだ……という気持ちだ。イオくんがちょっと気になるらしく、「色は他にないのか?」と質問をしている。文字色は黒だけだけど、本体の方はいくつか種類があるというので、それも見せてもらった。
忘れずに<鑑定>しておくと、こちらは器用+5だ。これはこれで貴重なアイテムなんだよねえ。器用と幸運を上げるアクセサリが少ないっていうのも、未だに+10が見つかってないらしいし。
「こちらは魔物素材のピンズよ。最近は男性がボタン穴につけるのが流行っているの。小さなものだけど、<魔法図案>から少しだけ効果を付与できるから、冒険者さんには人気があるわ」
3つ目に紹介されたのは、よくある円形のピンズ。学生証とか社員証に使われることもある、布を挟んで留めるタイプのやつ。
今グロリアさんが差し出してくれたのは5種類で、それぞれ魔法防御力+5ともう一つささやかな効果がついている。水魔法効果+10%とか、バフ効果延長10%とか、どのくらい効果があるのかよくわかんない感じのばっかりだけど、デザインはガラスっぽくて結構きれいだ。
僕これ欲しいかも。
せっかくだし一番右端の光魔法効果+10%とかいいなあ。
「最後に、こちらはマギスパイダーの糸で編まれた組紐よ。ちょっとしたものをベルトにぶら下げるのに使ったり、荷物の目印につける人もいるし、髪を縛ったり、腕に巻く人もいるわ」
グロリアさんのおすすめ4つ目は、色を組み合わせて編まれた組紐。ミサンガみたいなのもあれば、普通に紐として使えそうなものもある。これは効果が結構バラバラで、色の組み合わせに何か意味がありそうかな?
研究してみるのも面白そうだけど、イオくんは少し考えてから青と白の組紐を選んだ。無難なミサンガタイプだ。魔法防御力+10、本来欲しかった効果だね。
ナツー、テトこれー。
そしてなぜかテトもお気に入りの組紐を見つけたらしく、にゃにゃにゃと主張したので確認すると、光沢のある紫色に白の刺繍が入った、幅広の組紐……あ!
「イオくん! テトの首輪これにしよう!」
「そういえばでかくなったら改めて作るって話してたな」
すっかり忘れてたけど、効果も俊敏+5でテト向きだと思う。これを素材に、いい感じの首輪作ってあげなきゃ!




