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17日目:温めておきました。

 社。

 確かにそう表現するのが正しいのかな? リアルだと何かを祀ってる感じの小さな木製の建物。円形の広いスペースの真ん中にぽつんと配置してある。

 この広間にも澄んだ空気が満ちていて、すごく清々しいような気持ちになるんだけれども。とりあえず社に近づいてみようかと思ったその時、テトが動いた。僕を乗せたままで。

 こーんにーちはー!

 と、テトののびのびとした声が僕には聞こえる。他の人達にはにゃーーーん! と元気な鳴き声が届いていたことでしょう。テトは、てててっと社の前まで駆け寄って、そんな声をかけつつ、てしっとその扉に前足を置いた。ノックのつもりなのか、何度かてしてしと扉を叩く。

「……テトさん、それは大丈夫なやつ……?」

 ちょっとあまりに突然の行動だったのでどう聞いたらいいのかわからなくて、僕は考えた末にそう尋ねてみる。テトは大丈夫の意味がよくわかんなかったみたいで、なにー? と首を傾げてから、自信満々でこう言った。

 おとどけものなのー!

 そうしてもう一回、社の扉をてしっと。いや、その行動大丈夫? ともう一回聞こうとした僕の目の前で、その時、ぎぎっと扉が軋む音がした。


 ギィッと古びた音が響き、ゆっくりと、その扉が開く。

 その扉の内側から、どこか輝かしいような空気がざあああっと溢れて周囲に溶けていく。清浄な空気の中に、ばさりと広がる鳥の羽。

 ーー青の。

 深い海の色、あるいは真夏の空の色、身近に例えるならイオくんの目の色もこの色かな? コバルトブルーとか言われるのがこの色だと思う。そんなきれいな青の翼を広げて、その社の中から外に出てきたのは、きりりとシャープな感じの一羽の鳥である。ピーちゃんの10倍くらいはありそうな大きさだ。

 どう見ても、神聖な生き物。

 やっぱりあんなに扉どんどんしちゃいけなかったんでは?

「あ、あの、こんにちは……!」

 とりあえず言葉通じそうな気配があるから、声をかけてみる。ラメラさんと遭遇した時と同じような感覚があるんだよね、なんかこう、圧倒的強者というか……アッレベル180ですかそうですか。僕たち敵ではありません……!!

 思わずホールドアップの姿勢を取る僕に、青い鳥は厳かに口を開いた。


「ふむ。呼んだのは汝らか」


 お、おう。超絶低音の激渋ボイス……! 対話してくれそうなのでセーフ!

「はじめまして、トラベラーのナツです。こっちは僕の契約獣のテト、そこにいるのは僕の頼れる友人のイオくんです」

 テトだよー!

「うるさくしたのは申し訳ない。俺達は人に教えられてここまできたのだが、この場所は一体……?」

 口々に挨拶をした僕たちを順番に見てから、鳥さんはゆったりと頷いた。それからほんの少し不思議そうに首をかしげる。

「懐かしい気配があったかと思ったが。まあ良い、我は青炎鳥と呼ばれている。個体名は特に無いが、昔近しいものはソウと呼んだな。まあただの呼び名だ、そう呼ぶがよい」

「ソウさんですね」

「ああ。そしてこの場所がなんであるか、か……。それは複雑な疑問であるな。簡単に言ってしまえば旧時代の遺跡のようなものになるだろう」

 ソウさんはひょいと社の屋根へと飛び上がり、大きく体を広げた。人間でいうと、伸びをするような感じかな。青い空にもことさら映える美しい青色……あ、そういえば青炎鳥って確か、北の砦で話題になってたよね。死者を川へと導く青い炎、だったかな。

「妖精郷がそちらの世界と融合したのは、もう何百年と前の話だ。ここはその時融合しきれんで残った場所だ。こういった場所は、各地にいくつも残っているぞ。大抵は、我のようにそこを住処としている存在がいるのでな、きちんと礼儀を尽くせ」

「各地にあるんですね。分かりました、見かけたらご挨拶したいと思います」

「うむ」

 ソウさんがゆったりと頷く。すごく貫禄を感じるなあ。


 とか思っていたら、テトが僕の方をくるっと向いてにゃうにゃうと何かを訴えた。

 ナツー、おとどけものあるのー。

「お届け物? あ、僕降りようか?」

 おねがーい。ソウにとどけるのー、だいじなのー。

 おお、僕を乗せるの大好きなテトが降りてほしいと言うなんて、とても大事なことなんだろうな……! でもテトさん、僕そのお届け物とやら知らないんだけど、ちょっと詳しく教えてくれる?

 伏せたテトからもたもたと降りると、テトはにゃにゃにゃっと呪文を唱えてからぽんっと自分の影を前足で叩く。影の空間収納から出てきたのは……あ、これツノチキンの群生地にあった小屋で見つけた、あの温かい卵石だ。テトはそれをささっと咥えて僕に差し出した。

「これをソウさんに渡すの? あ、めっちゃ温かいな!?」

 これ前回触ったときより温かくなってる! 確実に温度上がってる! 素手で触ってるのギリギリの熱さ……火傷するほどじゃないけど、なんか不思議な温度だな。

 わたすのー。テトのおしごとー。

 にゃあんとテトが肯定したので、僕は卵石をソウさんのところに差し出してみる。テトが言うんだから大丈夫のはず、この子お仕事大好きだし仕事にプライドが有るからね。


「家のテトからこれお届け物なんですが」

「おお、それは……!」

 差し出した卵石を見て、ソウさんは歓喜の声を上げた。ばさりと社の上から降りてきて、目を輝かせて僕と視線を合わせる。

「我に預けてくれるのか!」

 おう、めっちゃ身を乗り出してくるねソウさん。これはソウさん的にも大歓迎のお届け物ってことかな? テトがにゃふっとドヤ顔をして、「テトはこんだのー」と褒められ待ちの顔をしている。ここは契約主として、テトの功績も伝えておきましょう!

「テトが頑張って運びましたので、褒めてあげてください」

 ほめてー!

「うむ、よくやった」

 シンプルなお褒めの言葉を頂いたテトは、ドヤ顔を更に輝かせている。さすがに撫でてもらえないことはわかっているようで、イオくんのところに「なでてー!」と体当たりしに行っていた。僕は卵石持ってるからイオくんを選んだらしいよ、なんて賢いんだテト。えらい。


 ソウさんが上機嫌に、中に入って寝台にそれを置け、と言ったので、僕たちは社の中に足を踏み入れた。中の空間は外から見るより何十倍も広い……というか、社の中のはずなのに、静かな泉と木々の生い茂る全体的になんかきらきらした森があるんだけれども……。

 まりょくいっぱーい。

 とテトがはしゃいでぴょいんと飛び跳ねたので、あ、このきらきらしてるの魔力かあ、とわかった。そういえばキャラメイクした時、エルフでキャラクター作ると髪と目がやたらきらきらしてうるさいって話をイオくんにした記憶があるなあ。やっぱり、魔力を多く含んでいるものは光るのが正解なんだろうか。

「ナツ、あそこだ」

 イオくんが指さした先には、僕たちの腰くらいまでの高さの台が設置され、その上に鳥の巣が置いてあった。抜け落ちたソウさんの羽を集めたらしいその場所に、僕が卵石を置くと、ソウさんは満足そうに一つ鳴いてその場所に降り立つ。満足そうで何よりだけど、それって結局卵なの? 石なの?

「これは我が対のもの。赤炎鳥の卵だ。よくぞ届けてくれた、もはや忘れ去られ朽ちてゆくばかりかと思っておったぞ」

 あ、結局卵なんだ?

「赤炎鳥……、青炎鳥とペアで行動する鳥だと聞いたが」

 イオくんが話を促すと、ソウさんはうんうんと頷いて見せた。


「そこなエルフが不思議に思っていた通り、それはどこからどう見ても石であろう?」

「アッ、ハイ」

「これはな、対に巡り会わぬ限りは石なのだ。対に巡り会えれば、その相方の魔力を吸って孵る。巡り合うまでは決して死なぬので、そのために石に擬態する。どれほど長くかかろうとも、石となり魂を守る。見ておるが良い」

 ソウさんが、卵に向けてフーッと青い炎を吐く。

 卵石はその青い炎に包まれると、しばらくして表面にヒビが入って、やがてバキッと少しずつ割れていく。表面が剥がれ落ちたところから、白銀に輝く卵が現れた。

 ソウさんが優しくそのヒビの入った石の表面をくちばしでつついて、白い卵を手伝った。青く美しい炎の中で、温かみを感じさせる優しい光景だ。なんだかすごくきれいで、ついぼーっとその様子に見入っていると、いつの間にか僕の右側にテトがいて、左側にはイオくんがいた。

 ぴとーっと僕に寄り添うテトさんのもっふもふ、さっきまでよりちょっとだけ温度が下がったなあ。なんとかの加護っていう効果がついてたけど、あれって赤炎鳥の加護だったんだよね、多分。イオくんが言ってた、生命の誕生を祝うっていうのが、あの加護なんだろう。

 思い返せば家のテトさん、あっという間に大きくなっちゃったけど、まだ生まれたばっかりの赤ちゃんのようなものだからなあ。


 テトの健康に加護をくれたんだと思うとすごくありがたいから、お礼が言いたいね。

 そんなふうに思いながら、青い炎の中の卵を見つめる。ようやく表面に張り付いていた石のかけらが全部剥がれて、きらきらの卵の全容が現れた。

 卵は、青い炎をどんどん吸収していって、ソウさんは追加の炎を吐き出す。それを何度か繰り返すと、卵は祝福をてんこ盛りもらったテトの卵と同じように虹色つやっつやになっていった。

 その表面に、稲妻のようなヒビが入る。

 ピシ、ピシ、と細かなヒビが何度か入って、やがてペキッと穴が開く。小さな鳥の足が見えた。思わず息を呑む僕である。

 もう一度、今度はくちばしが卵を突き破って、小さな鳥の鳴き声がぴ、と響いた。ソウさんはその声にとろけるような眼差しを向けながら、一生懸命外に出ようとするひよこを手伝っている。

 ひよこは、青い炎に包まれながら何度か卵の殻に頭突きを繰り返し、やがて卵の中からころんと転げ落ちた。片手にすっぽり乗ってしまいそうなほど小さな、赤いひよこ。鮮やかなルビーのような艶のある赤だ。ひよこはそのままころころとテトの真ん前まで転がっていって、ぴゅ、ぴゃ、と何度かぎこちない鳴き声を上げようとした。じたばたと短い羽を広げようともがきながら。


 おたんじょうびおめでとー!

 テトの脳天気な声が響いて、ソウさんが嬉しそうに目を細める。ひよこの無垢な眼差しはきょとんとテトを見上げている。この子は生まれたばかりでも目を開けられるんだね、イチゴみたいできれいな色だなあ。

 テトおしごとがんばったよー。あおいとりさんのところにはこんだのー。ほめてー!

 そしてテトさん、生まれたての赤炎鳥にまで褒められようと身をかがめている……! そ、そっかー。テトのお仕事は卵石からの直接依頼だったのか……! さすがの契約主でもそれはわからんね。できれば次からはなんか依頼を受けたときに教えてほしいよテト……!

 ひよこさんはぷるぷるしながら立上がると、て、て、て、とぎこちなくテトの前まで歩いていって、小さい羽でふわっとテトの鼻先を撫でた。

「ぴ!」

 力強く鳴いた声は、多分褒め言葉だろう。なぜならテトが大満足の顔をしているからね!

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― 新着の感想 ―
[一言] テトお仕事お疲れ様! 名探偵の次は配達員ー! 赤と青の炎鳥さんとお会いできるとは、流石の一言に尽きる! どんなお話が聞けるか楽しみ!
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