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17日目:キヌタくんの秘密基地へ行こう!

いつも誤字報告ありがとうございます。助かってます。


「なんだかすごい列でしたけど、何だったんですか?」

「ああ、えっと、うちの猫がアイドルでして……」

 いっぱいなでてもらったのー。

「お前才能あるな……」

 イオくんが買い物を終えて、船頭さんが「そろそろお昼に」と言い出すまで、テトのアイドル握手会は続いた。朝市に比べて妖精類さんたちの数は少ないんだけど、その分何回もぐるぐる並び直すというサイクルが途切れず……。途中で最初にサケフレークをくれたケット・シーさんに話を聞いたところ、「妖精の朝市に行ったって聞いて、羨ましくて羨ましくて……っ!」と語ってくれた。

 テトの話、結構妖精類さんたちの中で広まってたらしいよ。契約獣の卵の状態で見られるチャンスってすごく少ないらしくて、ましてや自分たちの祝福を受けて生まれてきた契約獣なんてかわいいの極みみたいな状態らしい。

 卵に祝福したってだけでも羨ましいのに、しかもその後生まれた契約獣が朝市へお礼に来たと聞いて、川魚市場の妖精類さんたちはハンカチ噛みちぎる勢いで悔しがっていたとのこと。こっちの市場にも来てほしい! と願っていたところに出現した巨大猫。そりゃーテンションも振り切れるってなものである。


 そんな感じでモテモテだったテトだけど、イオくんが戻ってくるとピッと背筋を伸ばして「おわりー!」と自ら宣言していたのでやはり賢い。うちの猫、オンとオフを切り替えられる子……!

「さ、こちらの店が川魚の専門店「かわせみ」になります。この市場でしか食べられないものもありますよ」

 船頭さんに案内されたのは、この市場の中にある小さなお店だった。主に市場で働く人達が通う店で、一般の人たちはあまり来店しない、知る人ぞ知るって感じのお店らしい。こぢんまりとしたそのお店の二階が座敷になっていて、ツアーのお客さんはそこに案内されるんだって。

 メニューは何かなー? と、実はあんまり期待しないで待ってたんだけど、運ばれてきた料理のこの香り……このお重は……もしや……!

「まさか……うな丼!?」

「うな重だろ、重箱に入ってるんだから」

「あっ、そうか。え、高級料理じゃん……!」

「それより味付けが気になるな。蒲焼は醤油もみりんも酒も入るぞ」

 へー! 蒲焼のタレってそんな色々使うんだなあ。料理する人ってぱっと材料出てくるんだからすごいよ。っていうか僕は人生でうなぎを食べたことが数えるくらいしかないので、うなぎというのは高級食材だということだけは知ってる……!

 そしてテトの前にもお皿に乗せたうなぎの蒲焼が、多分僕たちの半分の量かな? 置かれている。お米もいりますか? って聞かれたけど、テトに聞いたらたくさんは食べられないって言うのでなしにしてもらったんだけどね。テトはすんすんと蒲焼の匂いを嗅いで不思議そうな顔だ。


 ナツー、これおさかな?

「え、イオくん、うなぎってお魚?」

「魚類だぞ?」

 おさかなかあ……。

 とても不思議そうなテト。どうしたのー? って聞いてみたところ、おさかななのにあまいにおいがするのー、と返ってきた。あー、たしかに蒲焼のタレって甘い匂いするかも?

「甘じょっぱい感じのタレだよー」

 しょっぱいもあるー? わかったー。

 何か納得したらしいテトである。

 なにはともあれ、僕にとってはめったに食べられない高級品だし、テトは初めて食べる味だし、イオくんにとっても味付けが気になるところでしょう! 早速食べましょうとも!

「それではいただきまーす!」


 僕が箸を手に取ったのを皮切りに、イオくんとテトもいただきますを言って食べ始める。

 イオくんは出会ったばっかりの頃あんまり挨拶をしない子だったんだけど……あとから家庭環境的に挨拶する相手が不在の場合が多かったというのは察した……最近ではきちんと挨拶するのでえらいと思います!

 テトはなんか僕が挨拶すると真似っ子するので覚えたって感じかな? ただたまに食べ物の美味しさ故にごちそうさまを言い忘れて歌ってることがよくある。かわいいので許されます。

「……んー! ちゃんと蒲焼だ! すごい!」

「おお……普通に蒲焼のタレの材料だな」

 んんー! あまい……しょっぱみ……よくわかんないけどおいしー!

 んにゃー! と鳴いたテトの声を聞いて、そわそわっとこっちを伺っていた妖精類さんたちがガッツポーズをしている。かわいい契約獣が自分たちが取ってきたうなぎ食べて喜んでるから嬉しいんだろうなあ。目をキラキラさせたテトは、んにゃんにゃっと鳴きながらうなぎを食べるので、やはり「うまうま」って言っているようにしか聞こえなくて僕は大変和みます。

「すごい、僕リアルでもうなぎなんて数えるほどしか食べたこと無いのに、アナトラ世界でこんなにも美味しいうなぎをたべている……! 全世界に感謝の気持ち……!」

「大げさなんだよなあ。……まあ普通に美味いな。それなりのお店の味だぞ」

「噛めば噛むほど味わい深い……うなぎ美味しい……」

 イオくんがそれなりって言うんなら良いお店の味ってことだ。つまりこんなにも美味しいうなぎをリアルで食べようとすると結構なお値段がかかるという……うん、噛み締めて味わって食べよう。



 超絶美味しいうなぎの昼食を終えて、僕たちは川魚市場を出た。

 最後まで妖精類のみなさんがテトを構いに来てくれたお陰で、うちのアイドル猫はとても上機嫌、尻尾もぴーんと立っているし、なんかこころなしかドヤ顔で「またねー」とご挨拶していた。かわいいかわいいって褒められたのが大変お気に召したらしいよ。

 まあうちの子かわいいので、当然ですね……って僕もちょっとドヤ顔していたら、イオくんがなんか呆れてたよ。

「よし、午後はキヌタの秘密基地に行くんだったな」

「あ、そうそう! ここから西の壁沿いの……北西方向かな?」

 キヌタくんに教えてもらった秘密基地は、本当にギリギリ外壁沿いって感じの場所だったから、当然空白地だ。僕としてはもう少しうなぎの余韻に浸ってるのも良いんだけど、腹ごなしに歩くのもまたよしってことで。

「うなぎ美味しかったねー」

 おいしかったー!

 とテトと感想を言い合いつつ、水辺通りから細い道に入り、住宅地っぽいところを抜けていく。サラムさんの家があったところに似てて、かなり生活感のある通りだった。

 本当に、普通に住人さんたちが暮らしてるところって感じ。当然自分たち以外のトラベラーはいないと思われる。


「えーと、こっちかな?」

 地図を頼りになんとか歩いていくと、ちょっとした空き地にたどりついた。資材置き場のような、ドラム缶がいくつか置いてあるだけ、みたいな空き地で、ぱっと見ただけではなにもないけど……。

「んー? なんだろう、なんかうっすら膜で覆われてるような……?」

 ちょっとだけぼやっとした視覚効果が出ている。えーと、<鑑定>できるかな?

「……妖精郷だって」

「おお、眼がないと入れない場所だったか」

 そういえばメモもらったのって、<妖精の眼>をもらった後だ。特定のスキルはないと入れない場所だから、前提条件とか色々あるんだろうな。

 ナツー、こっちにすきまあるのー。

 ちょっと左の方にトコトコ歩いていったテトが、にゃーんと鳴いて僕たちを呼んだ。さすが名探偵テト、入口探しもお手の物だね。

「イオくん、テトが隙間あるって」

「入ってみるか。キヌタの秘密基地なら、危険もないだろうし」

「確かに」


 まだまだ小さいキヌタくんが秘密基地にしているくらいだから、安全な場所だと言うことはおそらく確約されているだろう。テトが張り切って「ここー!」と教えてくれたところから、思い切って妖精郷に足を踏み入れてみる。

 ざーっと、風が駆け抜けていくような感覚。

 一歩足を踏み入れると、そこは美しい森の中だった。なんとなく空気が清浄……というか澄んでるというか……? とにかくどことなく空気が違うのがわかる。すぐ近くを小川が流れていて、河原は子供が遊べるくらいのスペースがあった。そこからずーっと奥の方まで森が続いていく。

「外?」

「いや、異空間だろうな。妖精の朝市もそうだって言ってただろ?」

「あー、じゃあこの中は道迷いの呪いも効かないのかな」

「多分な」

 でないとキヌタくんがここに出入りするの危ないもんね。なるほどなるほど、と回りをキョロキョロしていると、不意に服を引っ張られる。

 のるー?

 と、期待に満ちた眼差しのテトさんである。……そ、そうだね、街の外だし足場も悪い感じだし……! よろしい、乗せてもらいましょう!


「じゃあお願い」

 わーい!

 無邪気に喜ぶテトが伏せるので、僕はその背中にひょいっと飛び乗っ……嘘ですちょっともたもたしながら乗りました! 誇らしげに立ち上がるテト、尻尾をぶんぶん振ってやる気十分だ。

 あのねー、おくにまってるよー。

「え、何が? イオくん、奥で何か待ってるらしいよ」

「ナツの<グッドラック>的にはどうだ?」

「悪い存在では無さそう。会っといたほうが良いと思う」

「よし、じゃあ行くか」

 こういう時のイオくん話が早くて助かるなあ。行動方針が合わない人とゲームで組むと、話し合いだけで時間くっちゃって進まないことあるもんねー。


 別に、違う意見の人と一緒に遊ぶことは何の問題もないし、何なら視点が違って良いこともあるし、同じ意見の人とだけ組みたいって意味じゃなくてね。行動指針に齟齬がないのが大事というか。

 例えば僕とかは、いざというときの判断力そこまで無いから、急に強い敵が現れた時どうするかって即断出来ない。でも、誰かが戦うとか逃げるとか判断して指示してくれれば、それに反射的に乗ることはできるんだ。だから、判断力があって指示出しにためらいがないイオくんとは噛み合う。

 でも、例えば僕と同じタイプばっかりでグループ作っちゃうと、「どうするどうする」って言ってる間に全滅するんじゃないかな?

 逆にイオくんは一人で考えて一人で決断できるけど、複数人で行動するときは他人の意見を極力聞きたい人。全部お任せしますってタイプの人とか、自分の意見言うの苦手な人とは相性が悪い。僕に対しても「ナツはどうだ?」とか「どうしたい?」とか聞く姿勢があるし、僕も意見を言うことは苦手じゃないから問題がないというわけ。

 どこが譲れるか、譲れないのか。意見や方向性に相違があっても、そこさえクリアできていれば人付き合いはなんとかなるものだ。逆に言うとどれだけ趣味が合うとか意見が合う相手でも、譲れないところが噛み合わなかったらだめってことだね。


「足場悪いから【サンドウォーク】かけとくねー」

「おう。なんだかんだ一番使ってる魔法、【クリーン】とそれだな」

「便利なので……!」

 正直【サンドウォーク】とか使い所あるのかな? って最初は思ってたけど、使い所しか無いよ今のところ。リアル世界の整備された道と違って、こっちの道は基本凸凹していて当たり前、あぜ道で当然、なんなら獣道でもあるだけましって感じだし。

「テト、案内できるー?」

 まかせろー!

 やっぱりちょっとキリッとして答えたテトは、ふんすっとやる気まんまんで歩き出した。にゃっにゃっ、にゃんっ、にゃーっ♪ と楽しげに歌っている歌の歌詞は、「ナツとおさーんぽっ うーれしーいなー♪」である。やはりうちの猫は最高では。


 弾むような足取りで、ぴょいぴょいと森の奥へ進むテト。

「お、ワイルドブルーベリー」

 とか言いながら途中で足を止めて<収穫>したりしているイオくん。テトは、イオくんが足を止めるイコール美味しいものを集めている、ということを学んだので、イオくんが止まるとピタッと止まって期待に満ちた眼差しを向ける。あまいのー? と毎回聞くので、足を止めると同時にイオくんが「これは甘い」「これはナッツ系」「これはキノコだから甘くない」とか解説を入れてくれるようになった。

 当然甘いのには反応が良い、わかりやすいテトさんである。

「全然魔物いないね、安全でいいんだけど」

「まあ異空間だしな。妖精郷ってことは、妖精類はいると思ったんだが」

 今のところフェアリーさんも、森の動物さえも見てない。なのに空気はきれいで、どこか神聖な気配すらする。……何か、すごく強い聖獣さんか神獣さんがいるのかも? と僕が思ったのと同時に、イオくんも同じことを考えていたらしい。

「まあナツが引いてきた情報だしな……」

「なんか風評被害がある気がする!」


 そんな話をしながら、30分以上は歩いたかな? テトがにゃ! と一つ鳴いてヤブの向こうに飛び込むと、そこには少し開けた広場があった。

「お? イオくん何かあるよ!」

「どれ?」

 イオくんもがさがさとテトの後ろについてきて、広場にたどり着く。その中央に人工的な建物が一つ建っていた。とはいえ、家のように大きくはなくて、1辺3mくらいかな?

「これは……社か?」

 うむ、神聖なものがいそうです。

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