表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/328

2日目:イオくんの剣を選ぶ


「ザフの坊やと知り合いか。なるほど、星級を知っていたのはそのせいか」

「ああ、ファミリーネームが長いほど偉いから逃げろと」

 握手から解放されてしばらく、僕が机の下に手を隠して痛みをなだめている間に、イオくんはお得意の謎話術でイライザさんと会話を弾ませている。そつがないなー。イオくんにもできないこととか苦手なこととかあるんだけど、それに比較して圧倒的にできることとか得意なことが多いんだよね。頑張ってできることを増やしているイオくんはえらいのだ。

 べ、別に僕がサボってるわけではないので!そこんとこは誤解しないでほしいんだけどね!ほら人って向き不向きがあるじゃんやっぱり。


「……本当か? 助かる。2人で旅をする予定だから装備はしっかり準備したくてな」

「ああ、お安い御用だ。その代わり、他の街へ行ってもお守りや札は卸してくれ」

「もちろん」

 ……うん? なんの話これ?

 ちょっとボーっとしている間にすごく会話が進んでいて、イライザさんはイオくんに手紙とショップカードらしきものを手渡した。それを受け取ったイオくんが満面の笑みで僕の方を振り返る。

「よし、これでナツも良い杖買えるな!」

「い、イオくんマジで何なのその話術……! 天才では!?」

 僕の杖の店かー!


 そういえばイライザさんって魔法士風のローブ着てる、けど普通それだけで「杖の店教えてもらおう」ってならないよ。これはイオくんがファインプレー過ぎるね、僕の親友超頼れる!

「とりあえず今日は剣の店に行ってみて、金額の目安をつけてそれ次第ではまだ生産してもらうことになるが、その予定でいいか?」

「いいよ! イオくん用の「生産成功率UPのお守り」もじゃんじゃか作るよ!」

「それはマジで頼む。じゃあ、先に昼飯食ってから「剣の道」で」

「了解!」


 そういえばゲーム内時間はいつの間にか昼を過ぎている。

 えーと、このゲームはリアル1時間がゲーム内12時間になるから……リアルの方はまだ2時間経ってない感じかな? リアルで3時間連続でダイブし続けていると警告の上強制ログアウトを食らうので、その前にはどこかでログアウトしておかないと。

 イライザさんにお暇を告げてギルドを出ると、僕たちは迷わず「陽だまりの猫亭」へ急いでランチをいただいた。今日のお昼は、僕が3種のキッシュセット、イオくんは魚介と野菜のフライセット。昨日の夜利用した定食屋さんも良かったけど、僕はお店の雰囲気込みで「陽だまりの猫亭」が今のところベスト食べ物屋さんだ。まあ、ギルド前通り西側の店とか、まだほとんど行ってないんだけど。

 ランチを食べつつイオくんと話し合って、今日の夜生産が終わったら一度ログアウト休憩を取ることにした。システム上3時間は連続ログイン可能だけど、ギリギリになってせかされるよりは余裕をもって休憩を挟んでいった方がいいだろう、ということで。

 ゲーム内時間の経過は早いから、リアルの方で時間を合わせてログインするんだけど、その時アカウント連動でお互いのアカウントを紐づけておくと大体同じ時間軸でログインできたり、時間経過が共通だったりするらしい。この辺は謎技術過ぎてちょっと僕にはわからないやつ。


 さて、それじゃあいざ行かん、「剣の道」!

「さっき教えてもらった杖の店も、同じ通りだな。武具通り18番地」

「ギルド前通りの東側から北にまっすぐの通りだね」

 当然空白地なので、どこかに道が増えているはず。ショップカード一覧でチェックしたら、杖のお店は「マジカルワンド」というお店で、カードの絵は杖ときらきら光る星のエフェクトのポップな感じだった。でも光ってるカードはこれと「剣の道」のメタリックなカードだけだから、もしかしてショップカードにレアリティがあるなら両方レアかもね。


 ギルド前通り東側の、「薬屋アンゼリカ」横から、少し広めの道ができていた。前見た時には植木鉢が並んでいたところだ。不自然にスペース取ってるなと思ってたら、条件を満たせば道になるんだな。

 足を踏み入れると、ほんの少し抵抗を感じた。水の膜に突っ込んだような感じ? すぐに消えたけど、多分あれが条件を満たさない人にとっては見えない壁になるんだろう。


「おお、甲冑」

 と横でイオくんが声を上げる。

 さすが武具通り、入ってすぐのところには甲冑専門店があった。金属製の甲冑は、お値段がなんかすごいので、当分縁は無さそうだけど。でもめっちゃ目立つし格好いい。

「弓の店、槍の店、剣の店もいくつかあるねえ」

「あ、あそこ胸当て売ってるな。革でいいから欲しい、値段も手ごろだし、ナツの頑健お守りも使いたいし」

「初心者装備を変えたいよねー。……あった、あれだね、「剣の道」!」

 さすが良いお店なだけあって、通りに直接面した店構えではなく、看板とアーチ型の門が設置されていてすぐに店に入れないようになっている。表札みたいに「剣の道」とだけ文字が刻まれている門を軽く押してみると、抵抗なく開いた。門の奥は石畳の細い道が奥へ続いていて、隣の店舗の壁に沿って折れ曲がっている。


「一見さんお断り感がすごい」

「実際これ入りづらいよな。えーと、ソルーダからもらった紹介状準備しとくか。よし、行くぞ」

 一人だったらあまりの入りづらさに「また今度にしよ……」って逃げてるレベルだよこれ。イオくんと一緒で良かった、どんな気難しい店員さんが出てきてもイオくんの謎話術なら何とかなるはず。

 門の奥へ続く道を、手前の店舗の壁に沿って折れると、正面に堂々とした重厚な雰囲気の店が鎮座している。ガラス張りの扉を開けると、来客を告げる鐘が鳴った。


「……いらっしゃいませ」

 すっと、音もなく奥から銀色の髪の女性が現れる。……エルフだ! プレイヤーには結構いるけど、住人さんでは初めて見たかも!

「うちは紹介状をお持ちの方にしか商売をしておりませんが」

「ああ、これはソルーダ=ザフからの紹介状だ、検めてくれ」

「お預かりします。そちらでおかけになってお待ちください」

 紹介状を持って、エルフさんは一度奥へ引っ込む。多分、あの人は接客担当で、経営者さんは別にいて、その人に紹介状を見せに行くんだろうな。

 指定されたソファに座って――すっごいふわふわのソファだこれ。とりあえずそのふわふわソファに座って待つ。


 ちなみに種族エルフに関しては、プレイヤーの中でも人気は微妙だったりする。事前アンケートの結果が公式サイトにあるんだけど、それによると種族人気は、ヒューマン>獣人>鬼人>エルフ>ドワーフ>フェアリー。魔法使うならエルフかフェアリーだろ! って僕は思ってたんだけど、案外ヒューマンか獣人の狐でステ振りを頑張る人が多いみたいだ。

 獣人さんは、パワータイプが犬系、素早さタイプが猫系、魔法タイプが狐系、防御タイプが蜥蜴系。今のところこの4種類のみだけど、今後追加実装されそう。

 魔力の伸びやすさは、フェアリー>エルフ>狐系獣人。ヒューマンはほら、ランダムだから。でも、エルフの何が不評って、もれなく中性的な外見になってしまうところなんだよね。それがあって、特に男性はエルフを避けたがると言うわけ。まあ、顔立ちによってはだいぶ違和感の残るモデリングになっちゃうからなあ。見た目って大事だし、気持ちは分かるよ。

 あとは公式サイトで一部公開されている種族専用スキルって言うのがあるんだけど、それがあんまり有用じゃないっていうんで、ヒューマンか狐系獣人で魔法士を選ぶ人が圧倒的に多いってことらしい。その種族専用スキルはプレイヤーレベル20からじゃないと取得できないけど。


 しばらくすると、エルフさんと一緒に30代くらいの男性が店舗にやってきた。

「ザフ様の紹介状を受け取りました。私が商品を紹介いたします」

 落ち着いた声色の男性で、背が高くてスーツをビシッと着ている。多分ヒューマン、かな?

「俺はトラベラーのイオ、こっちは連れのナツだ」

 イオくんはスムーズに立ち上がってスーツ男性と握手をした。僕も横でぺこっとしておく。ここでの買い物はイオくんの物であって僕のじゃないから、目立たないようにしておこうっと。

「ご丁寧に。私は「剣の道」店主のジェドです。こちらは妻のシルヴァ」

「シルヴァです」

 エルフさんがにっこりした。わあ、ご夫婦だったんだ。


「早速ですが、どのような剣をお探しですか?」

「ああ、長く使えるものを――」

 ジェドさんとイオくんが商談に入ってしまったので、僕は口を挟まないようにぐるっと店内を見渡した。「剣の道」という店名を持つだけあって、ありとあらゆる刀剣が展示されている。刀とかもあるね、最初から実装されているのは良いことだ。あとはなんか特殊そうなのも……円系のやつとか特殊な形のやつとかもある。

「店内、見て回っても構いませんか?」

 とシルヴァさんに聞いてみたところ、「どうぞご自由に」との返答だったから、遠慮なくそうすることにした。イオくんはこだわりが強いから、話し込んだら長そうだし。


 わー、これすごい宝石だなー。きらきらしてる。えーと、儀式祭典用……見せ武器ってやつか。こっちはニムの職人さんの作った短剣、形が超格好いい。ここに並んでるのは槍の穂先部分かな?こうしてみるといろんな形があるね。

 結構楽しく店内を見学していると、やがてイオくんたちの間で条件の折り合いがついたらしい。「ナツ」と呼ばれたのでソファに戻る。ローテーブルの上には、一本の長剣が置かれていた。


「これにしようと思うんだが、どうだ?」

 柄の部分は黒だけど、刃は淡いブルーの氷のよう。剣としては細身で、余計な宝飾の付いていないシンプルな剣だ。鞘も黒をベースに作られていて、落ち着いた感じ。

「綺麗だね、ごちゃごちゃしてないところがイオくんらしい」

「だよな。これが一番持った感じしっくり来たし、効果もかなり良くて長く使えると思う、が」

「が?」

「高い」

「あー。それは仕方ないね」

 えーとお値段は……1,000,000G……。うん、全然足りないなこれ。今、確か共有財布の中身は、200,000Gくらいだったような。


 ギルド前通り東側で売っていた一般的な刀剣は200,000~300,000Gくらいの価格帯だったから、現時点で買える最高峰の物なんじゃなかろうか。イオくんが買おうとしてるってことは、ステータスやレベルの制限に引っかかることもないんだろうし。

「しばらく金策に走れば行けるんじゃないかな?なんなら個人財布に入れずに全部共有に入れて貯めればそこまで時間かからないと思う」

「でもこれで終わりじゃないぞ」

そうだね、杖も買わなきゃいけないし、出来れば防具類も欲しい。でも、それはそれ。


「取り置きしてもらえそう?」

「それは大丈夫だってさ」

「じゃ、お金貯めてまた来よう。今日明日頑張れば届くよ多分」

「ナツのその前向きなところ、ほんとありがたい」


 サンキュ、と軽く言って、イオくんはジェドさんに取り置きを頼んだ。3日以内に買いに来るなら、との条件付きでOKが出たので、しばらくレベル上げより優先して金策だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ