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16日目:マロネくんの呪いを解こう

 さて、南西門に向かったところ、すでにサラムさんが待っていました。

 仁王立ちで。

「……サラムさん、通行の邪魔だと思います!」

「む。そうか」

「もう少し端に寄りましょう。あ、そういえばすごくさっぱりしましたね!」

「おう。聞いてくれ家の風呂場! 地獄のような汚さだったぞ!」

 ヒゲを剃って髪をさっぱり切ったサラムさん、言わねばならぬ! って感じにボロボロと愚痴が飛び出る。やる気も気力も全く無い状態で長い事過ごしていたものだから、家中汚い! 手入れがされてない! 庭もひどい! などなど。……サラムさん、本当に元気だな? この人実際めちゃくちゃ覇気のある人だったんだなあ。

 身振り手振りも大きいし、声も通るし、シャッキリ背筋を伸ばしていれば背が高い。長年の無気力で食欲も減退していたからか痩せてるけど、これで体型が戻ったら迫力ありそうだ。

「……で、虫がよ! わんさかと!」

「あ、その話はパスでお願いします!」

 グロい話はいらないよ!


 それから少しして如月くんが合流したので、とりあえずサラムさんと如月くんにパーティーを組んでもらった。正道を外れるから絶対に必要。と説明するまでもなく、サラムさんもそれは理解していたみたいで、あっさり「よろしく頼む」とのこと。

 それでも、住人が正道を外れるっていうのはこの世界の人たちに取っては重大事件のようで、詰所に待機していた兵士さんたちが心配そうに見守っている。西の砦に来てくれた兵士さんたちも居るなあ。あ、あそこに居るのはドロガさん! わーいと手を振ったら、苦笑しながら手を上げて挨拶してくれるドロガさんである。

 そのドロガさんが、「あのトラベラーさんたちは西の砦と北の砦で生存者を見つけてくれた人たちだぞ」と僕たちのことを紹介してくれたので、おかげで心配そうな視線が大分減った。ちょっと居心地悪かったからありがたい。

 ところでテトさんがさっきから静かに唸っていたので、どうしたのー? と聞いてみたところ、すごく真面目な顔で、サラムもさもさどこいったのー? と聞かれた僕です。返答に、返答に困る……!


「よし、行くぞ。ナツはテトに乗っとけ、ソードリモは基本無視でいく」

「はーい。テトよろしくー」

 わーい!

 なんかこういう時、僕だけ楽してる感じがちょっといたたまれないんだけどね……! でもテトが楽しそうに乗せてくれるので気にしない。えーと、マロネくんの場所は前回地図に載ってたから……。南西門から出て、サンガの真南方向へ。

 歩きながら、如月くんもサラムさんに「さっぱりしましたね」って話をしてて、また同じ愚痴が繰り返されようとしていたので、会話に割って入ることにした。僕は虫の話平気だけど、如月くんは嫌いかもしれないし。

「如月くん、聖水売ってるところ行けた?」

「あ、それなんですけど、行けましたよ!」

 この通り! と見せてくれた浄化の聖水。残念ながら白光は売ってなかったそうだ。レストさんも、作り手が少なくてなかなか流通しないって言ってたから仕方ない。

「おー、良かった!」

「なんとグロリアさんのツテで手に入りました。ダメ元で行ってみて良かったです」

 なるほどあそこからか。そう言えばグロリアさんのお店も、もう一回見に行こうと思ってたんだっけ。メモしておこう。


 如月くんは問屋通りの常連で、あそこの店はたいてい網羅した! という状態らしい。結構いろんなクエストをこなしているらしく、テアルさんの息子さんとも知り合ったんだって。

「その時急に仕入れた商品の消失事件が起こって、いきなりミステリー始まったんですよ」

「えー、すごいね! 名探偵如月くん?」

「大半、一緒にいたプリンさんが解決してました」

 名探偵プリンパフェさんだったかー。

 と思ってたら、テトがちょっと得意げににゃにゃーっと鳴いた。テトもめいたんてなのー。だそうです。僕の褒め言葉覚えてたかあ、そうだね、テトは名探偵だよ!

 そんな感じで雑談しながら移動していたんだけど、サラムさんは厳しい顔で周辺を見回しながら進んでいる。正道から一歩を踏み出す時、大きく息を飲んだのを見たし、やっぱり住人さんにとって正道から外れるって大きなことなんだよなって思う。

「サラムさん、あそこです」

「おお。……ずいぶん、寂しいもんだな」


 マロネくんの栗の木は、数々の墓標を守るようにぽつんとそこにある。

 木としても、こうしてみるとかなり細いというか、栄養が足りて無さそうな感じだ。干からびた大地、立ち並ぶ墓標……言われてみれば確かに、かなり寂しい景色だな。

「ナツ、相手が呪われてるとなれば、四の五の言わせる必要はない。とりあえず一発ぶちかましてくれ」

 そしてイオくん、そんな切なさを蹴っ飛ばすような強気の物言い。さすがイオくん、パワータイプだよ!

「えーと、それでいいの?」

 一応サラムさんにお伺いを立ててみたわけなんだけど、サラムさんは真面目な顔で力強く頷く。あっさりGOが出てしまった。えー、なんかこう言うのって、とりあえず話し合いから入るものだと思ってた……!

 ま、まあいいか。サラムさんが良いと言うならば。

「じゃあ【ピュリファイ】から、えーと、レストさん情報だと、呪われてると黒いモヤが出るらしいんだ。それで、そのモヤが一番濃いところに呪いのアイテムがある可能性が高いんだって」

「ナツが魔法撃ったら俺がすぐ<鑑定>して呪いの程度を確認するから、如月とサラムは黒いモヤの濃いところを探してくれ」

「了解です」

「わかった」

「クールタイムあって連発できないから、一回でわからなかったら時間稼ぎが必要だよ!」

「おう、そのときは殴ろう」

 サラムさん、拳を鳴らさないで欲しい。なんでこんな好戦的な人が多いんだろう僕の回り。くれぐれも倒さないようにお願いします!


 精霊さんがどんなふうに暴れるのかわからないので、テトには一旦ホームに戻ってもらう。これだけの移動でも、テトに運んでもらわなかったら僕1人遅れてたんだろうなーと思うと……騎乗用の契約獣さんの恩恵、心の底からありがたいものです。

 テトは栗好きだから、マロネくんが栗の木だと聞いて目を輝かせていたし、「くりはこぶよー」とめっちゃ張り切っていたんだけどね。とりあえず説得が終わるまではホームにいてね! 今回は事前に乗ってきたのが良かったのか、あんまりごねずにひょいとホームに戻っていった。お仕事を適度に与えておかないと、やだやだーって地面ごろんごろんするからね家の猫。かわいいけど。

 さて、それじゃあお仕事だよユーグくん! あの栗の木を中心に、なるべく広範囲で……。

「まずは【魔力強化】を宣言して……、いくよー! 【ピュリファイ】!」

 降り注げ、浄化の光っ!


 魔法を発動した瞬間、栗の木の上に魔法陣が出現する。……どう考えても範囲が足りない。木は根が広がるものだから、幹だけ浄化してもあんまり意味ない気がするな。でも、【ピュリファイ】にはクールタイムがあるから連発は出来ないし……前から気になってたやつ、できるかどうかやってみるか。

「……【拡大】!」

「ぅえ!?」

 どっかから如月くんの声が聞こえたような気がするけど、とりあえずスルー!

 <原初の呪文>の効果は一時的だし、使った魔法の総合的な威力が変わるわけじゃないから、予測としては、範囲が広まれば効果が薄まるんじゃないかと思う。でも呪いが反応してくれればそれでいいので、この場合は効果が薄まったとしても範囲が広い方がわかりやすい……はず!

 【拡大】を唱え、魔法陣が問題なく広まる。さっきのが直径1メートルくらいの魔法陣だったとすれば、これでその倍くらいにはなったはず。ざーっと光が降りていく様子、少し色味が薄くなってるなっていうのがよくわかった。僕のイメージ通りに、効果を薄めてその分広範囲に影響したはず。と、栗の木周辺からぶわわーっと黒いモヤが発生しはじめる。


「<鑑定>! ……ナツ、重度だ! 白光使うぞ!」

「了解!」

 僕も一応<鑑定>っと……マロネくんもう気力根こそぎ奪われてるじゃん! 早く解呪しないと!

 慌てて周囲を見渡した僕の視界の隅っこで、如月くんが手を上げて大きく振った。

「イオさん! ここ!」

「今行く!」

 如月くんが指さしたのは、栗の木のすぐ根本のあたり。あそこに呪いのアイテムが埋まってるってことなんだろう。掘り出す時間が必要になってくるから、そうすると僕にできることは……練習で作った普通の聖水が余ってるから、これを周辺にばらまいて気をそらすとか?


「マロネ! 出てこい!」

 忙しなく動き回る僕たちを尻目に、サラムさんは仁王立ちでそう怒鳴った。どうやら正々堂々と喧嘩を売ることを選んだらしい。声に応えるように木が震えて、やがてぐらりとふらつきながら半透明なマロネくんの姿が現れる。そして、そのままふらふらと地面に膝をついた。

「う、ぐ……っ」

 冷や汗をかきながら呻くマロネくん、小さい子供の姿だから余計に申し訳無さを感じるんだけど、ここはサラムさんのほうが適任だろう。僕はイオくんたちに合流しよう。

「サ、ラム……?」

「腑抜けてんじゃねえ! てめえ俺に啖呵切った時の気力どこにやった!?」

 お、おう。サラムさんに啖呵切ったのかマロネくん。意外と豪胆なんだね……!

 と思いつつ一生懸命走ったんだけどこの体マジで足遅いです。


「ナツ、なんかスコップとか持ってないか?」

「無い! 場所はここで合ってる?」

「多分。<罠感知>引っかかる」

「あ、ほんとだ」

 さて、問題のアイテムを掘り出すのに苦戦しているイオくんと如月くんに合流できたので、僕はもう一度ユーグくんを手に取る。如月くん、剣で地面掘ろうとしてるけどやめときなよ!

「万能なのが<原初の呪文>の良いところ! 行くよ、【掘削】!」

 穴を掘れ! 掘るのだ!

 イメージは近場でやってた道路工事で、重機を使って穴を掘ってるあれ! そして掘削した土は横に盛る! 1回で30センチ掘れればよし!

 イメージさえしっかりしていれば、だいたいその通りにできるのが<原初の呪文>。ユーグくんを地面に向けると、一瞬淡く地面が光って、直後に30センチ四方くらいの穴がぼこっと掘削された。よし!

「ナツさんやっぱり別ゲーやってるでしょ!?」

 如月くんがなんか叫んでるけど聞こえないーってことで!


「ナツもうちょい!」

「OK、【掘削】!」

 30センチ掘っても出てこないとは結構深く埋められてるんだなあ。ぽかっと空いた穴の奥に向けてもう一回呪文を唱えると、横に積み上がった土の中に何か袋のようなものが埋まっているのがわかる。如月くんが素早くそれに手を伸ばして、中身を地面にぶちまけた。

 もう原型が何だったのかわからないような、日用品の数々。そしてその中で形を保っているのは金属だけだ。サラムさんの持っていたペンダントと同じものと、もう一つ、これは……金属製のボタンかな? ひとまず今はペンダントに用がある。

「それに触らないで……!」

 割と近くからマロネくんの声が聞こえたけど、直後にサラムさんがマロネくんを羽交い締めにして取り押さえた。「マロネ!」と怒鳴りつけるサラムさんの声にも反応せず、マロネくんはただペンダントを取り返そうと必死でイオくんの方に手を伸ばしている。だけど、イオくんに慈悲とかないので。

「よし!」

 掛け声とともにざばーっと白光の聖水がペンダントに降り注ぐ。

 同時に、ぶわーっと湧き上がる黒いモヤ。そしてそのモヤは栗の木からも一気に放出された。人の形をした精霊のマロネくんからは何も出てないあたりが、精霊という種族のあり方を示しているような気がした。あくまでも、本体があってこその精霊ということなんだろう。


「ああ……!」

 力なくその場に崩れ落ちたマロネくん。そして黒いモヤが抜けたペンダントを<鑑定>したイオくんは、一つ頷いてインベントリに収納した。うっかりもう一度住人の手に渡って呪われても困るからね。

「あ!」

 収納されたことに気付いたマロネくんは、慌ててイオくんに飛びかかる。サラムさんは解呪したら倒れてたけど、マロネくんの場合は動けるのか。

「返して! サフルのペンダント……!」

「あれは呪いのアイテムだ」

「でも、サフルの……!」

 言い募ろうとしたマロネくんを、もう一度サラムさんが押さえてイオくんから引き剥がす。

「あんなもんくれてやれ! どうせ大した思い出なんか無いだろ、隣の隣の爺さんが俺とサフルにってくれたのは、終戦間際だったぞ!」

「でも、サフルが最後まで持ってた!」

「サフルがもっと大事にしてたものなんて、俺の家にいくらでもある! そっちにしろ!」

 サラムさん、言い方はかなりきついんだけど、さっきまで呪われていたマロネくんに優しく説明したところでよくわからないかもしれないし、これが最適解なんだろうな。

 サラムさんの視線はマロネくんから外れない。これは、多分、身内に向ける表情だ。サラムさんはマロネくんの家族として、今ここに立っているんだ。


「マロネ、お前は、勝手に消えんな!」

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