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16日目:スピード解決!(物理)

毎度、誤字報告ありがとうございます。

「あの時俺も死んだらよかった、とは思わないが、かといって生き延びたことを幸運に思ったこともないんだ」

 サラムさんは、視線をぼんやりと彷徨わせたまま、ぼそぼそとそう言った。

「妹が死んだ時、ああもう無理をして生きる必要はないか、と思った。それでも、かわいがってくれた人たちが居て、アーダムみたいに未だに気にかけてくれる友人もいて。仕事もある。……結局、そういうものを改めて確認して、まだ生きようと思う。ここ数年は、ずっとそんな感じだよ」

 なんというか、気力の無い言葉だった。

 すべてを投げてしまいたいが、そうするにも気力がない、とでも言うような。あんまり僕の回りにいないタイプの考え方でよくわかんないなあ、と思いながら、僕はもう一つ質問する。

「アーダムさんに会いに、イチヤには行かないんですか?」

「……会いたいとは思う。だが……もう、俺は十分頑張ったんじゃないかとも思うんだ。これ以上なにかを頑張らなくても、いいんじゃないかと」

 ……ん?


 あ、今なんか、すごく引っかかった。

「それってマロネくんと同じこと言ってますね」

「え」

 ハッとしたように見開かれるサラムさんの目。静かに僕とサラムさんのやり取りを見ていたイオくんがなにかに気づいたようにサラムさんを見る。如月くんは、何が起こるのかとハラハラしている感じだ。

「……そう……、そう、なのか? あいつと同じことを、俺が? なんで……俺は」

 ぱちぱちと瞬きをしながら独り言のようにつぶやくサラムさんに、その時、明確に何かが引っかかる。やっぱりこれってあの時と同じ感覚だ。

 つまり……!

「サラムさんすみません! <鑑定>、<鑑定>、ネックレス! イオくんこれ、レストさんから買った浄化の聖水!」

「如月、サラムを抑えろ! できれば両手無効化してくれ!」

「え!? え、何……!?」

「テト、ナツと一緒に下がれ!」

 わかったー!

 テキパキと指示を出すイオくんの勢いに飲まれるように、如月くんがわけがわからないって顔をしたままサラムさんの後ろに回り込む。テトが僕のケープを咥えて後ろに引っ張ったので、僕はソファの後ろへ。如月くん素早いなあ、俊敏極振りっぽい動きだ。そのまま羽交い締めして両手を無効化。


「放せ!」

 その日一番はっきりとした声で怒鳴ったサラムさんに、イオくんはひるまず近づいてネックレスを引っ張り出した。服の中にしまい込まれていたからわからなかったんだけど、シンプルな金属プレートのついたネックレスは、オーレンさんの指輪と同じ様に真っ黒になっている。

 イオくんは無言で手早く、その真っ黒プレートに聖水をぶちまけた。じゅわーっと黒煙が空に溶けていき、「あああああ!」と大声で叫んだサラムさんがふっと気を失う。ここまでほんの数秒の出来事である。

 完全にオーレンさんの時と同じような状況だ。それにしてもなんという解決スピード。

「え、マジで何……? あの、イオさん?」

 意味がわからないという顔をしている如月くん。僕がその疑問に答える前に、先にイオくんが口を開いた。

「呪いって意外と蔓延してんのか?」

 すっごい素朴な疑問、みたいに聞かれたので、僕としてもちょっと考えてしまう。でももう戦後10年でしょ、すごく流行ってるってことは無いと思うんだけどなあ。

「イオくん、僕たちが聖水を手にしたから呪いが出現した可能性も……」

「呪い? あの、ちょっと説明してほしいんですが」

「おう」

 イオくんは気を失ったサラムさんをささっとソファに寝かせ、ペンダントを首から外した。すっかりきれいな金色になった金属プレート。それを如月くんに向けて、イオくんは短く告げた。

「<鑑定>してみろ」

「ハイ。……呪いのアイテム!?」

 話すと長くなるんだけど、さて、どこから話そうかなあ。



 結局イオくんがテキパキと要点をまとめて説明してくれたので、僕はそれを聞きながらテトの前足を揉んでたよ。にゃははーっとくすぐったそうにしつつも逃げないテト、昨日丁寧にブラッシングしたので毛並みツヤツヤなのだ。触り心地が良い!

 今後も丁寧にブラッシングして行こう。

「……なるほど。そう言えば破邪の聖水ってありましたね。ってことは、この「呪い」の存在には、もしかして聖水を手に入れないと関われない可能性が高い……」

「多分そうだと思う。俺たちが聖水を使って呪いを解呪するのは2回目だが、どっちの場合もインベントリに聖水が入っている状態だった」

「じゃあ俺が単独で関わろうと思ったら、聖水を手に入れるところからですね……」

「ナツは聖水の作り方も習ったぞ。<光魔法>を育てれば作れるらしい」

「あー、もう育てるって時点で俺には無理そうです」

 一通りの説明を終えると、如月くんはながーいため息をついた。まあちょっと一気に色々起こりすぎたかもしれないからね、心労かな? テト、如月くん慰めておいでー。

 って冗談で言ってみたところ、テトはてててーっと如月くんのそばに寄っていって、「だいじょぶー? なでるー?」と気遣っている……いや単に撫でられたいだけかもしれないけど。僕がしょっちゅうテトを撫で回して「癒やされるー!」とか言ってるせいですね、はい。


 ちなみにペンダントの<鑑定>結果は以下の通り。

 呪いのペンダント。使用者のプラスの感情を吸い取って無気力にするペンダント。長く装着し続けるほど呪いの濃度が高まり、何もかもどうでもよくなっていく。呪いは専用のアイテムか聖職者の魔法でしか解くことが出来ない。


 オーレンさんが身につけていた指輪は負の感情を増幅するタイプだったから、呪いのアイテムにも何種類かあるようだ。行動に出やすい増幅タイプより、どんどん気力がなくなっていくこっちのほうが発見しにくそうだなあ。

 極端な話、やる気がなくなってひきこもっちゃったらもう誰の目にも触れないわけだし。

「あー、なんかもう。ナツさんたちほんとにアナトラやってます? 俺のやってるゲームと違う気がする……!」

「正真正銘アナトラやってるが」

「アナトラ楽しいなー!」

「くっそ、後で聖水買える店教えてもらえませんか? 俺も持っておきたい」

「あ、ごめん。実はレアカードで」

「これだからショップカードは!」

 ぐぬぬとしている如月くんである。まあでも全てのショップカードを配れるようにしちゃったらなんか特別感が薄れるから、レアカードの存在は大事だと思うんだよね。カードゲームだってレアが欲しくて買うわけじゃん?キラキラのカードってだけでテンション上がるし。


「うーん、でも呪いか……。俺も聖水はなんとかして売ってるところさがすとして、入手できるかはわからないので、このペンダントはナツさんたちに任せていいですか?」

「もちろん! なんかクルムのスペルシア教会に持ってくクエストがあるんだよね」

「じゃあ、お願いします。あとは気絶したサラムさんをどうするか……回復魔法かけてみます?」

 テトをもふもふしながら如月くんが言うので、やってみようか? とユーグくんを手に取る僕。【アクアヒール】でいいかな? と思っていると、イオくんから「待て」が入った。

「さっきまで呪われてたんだし、浄化系の呪文じゃないか?」

「あ、そっか」

 呪いが残ってたら大変だし、言われてみればそうだね。とすると、浄化魔法……聖水を作るためにめちゃくちゃ使った【ピュリファイ】か。お陰で<上級光魔法>のレベルが上がったし、すごく使い慣れたような気がしている。レストさん、ラリーさんよりスパルタだったからなー、自分を甘やかすんじゃねえよ、って何度言われたことか。

 お陰でこの魔法だけは即時発動できる自信があるけれども。

 さあユーグくん、今度はレーザーで殴らなくてもいいから、普通にふわっと広げるように……頼むよ!

「いくよー、【ピュリファイ】!」

 ぱあっと光が円を描き、きらきらと地面に向かって落ちていく。ペンダントは首から下げていたわけだから、胴体を中心に……と使った浄化魔法に、如月くんが「おおー」と軽く拍手している。この魔法きれいだからねー、いかにも<光魔法>って感じで見てて楽しい。


 さてサラムさんは、と状態を確認しようとしたところ、

「う、」

 とうめき声が漏れた。

 おきたー? 

 テトがぴょいっとサラムさんのお腹辺りに前足を乗せてみょーんと伸びる。あの、テトさんそれ結構体重かかると思うんだけど……と止めようとしたところで、サラムさんの目がカッ! と開いた。

「うお!?」

 そして迫る巨大白猫に驚いて声を上げたので、僕はそっとテトを引き寄せた。すみません家の子、すごく人懐こくて。

「な、なんだ? これは……あれ、俺は……!?」

 混乱しつつも起き上がるサラムさんにイオくんが「大丈夫か?」と気遣いを見せる。サラムさんは僕たちの顔を見て少しの間考えて、ハッとしたように顔を上げた。

「聖水!」

 お、どうやらオーレンさんと同じで記憶は残っているらしい。僕は空の聖水の瓶をちらっと見てから、なるべく深刻にならないように明るめに……えーっとなんて言えば良いんだろう。すぱっと端的に告げたほうがダメージ少ないかな。


「残念! サラムさんは呪われていました!」

「やっぱりかぁああ!」


 サラムさん元気な声出るじゃん、これはバッチリ呪いが解けたってことだね。

 記憶もばっちり残っているサラムさんは、今までの自分の態度やら何やらを思い出して頭を抱えた。やはり本意ではない行動だったようだ。

「くっそ、なんだあの無気力状態は……!」

 と悔しそうにうめいている。

「このペンダントが呪いのアイテムだった。アーダムも、急に人が変わったから魔族になり変わられたんじゃないか、と心配していたぞ。ちゃんと手紙かいてやれよ」

「くっ、すまんがそれいつ頃からだ……?」

「詳しくは知らないが、戦後処理の合間を縫って何度も手紙を書いたと言っていたから、そのころじゃないか? 長い事呪われていた可能性がある」

「感謝する! あー、あとはマロネだな、うん、あの野郎もぶん殴る!」

「落ち着いてください」

 お、おう。割と沸騰しやすい人なのかな、サラムさんって。こんな勢いのある人があの無気力ぼそぼそ喋りになったら、そりゃ魔族のなりすましも疑っちゃう気持ちもわかるな。


「そのペンダントが呪いのアイテムだったんなら、それはサフルと揃いで買ったものだ。多分、マロネの野郎も持ってるはずだ」

 サラムさんが大きく息を吐き出しながらそんな事をいう。

 なるほど。

 やっぱりマロネくんも呪われてるのかあ……!

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