15日目:やる気UPするとこうなる
いつも誤字報告ありがとうございます、ほんとに助かってます。
やる気が溢れた僕とレストさんは、偶然出来た栄養ドリンクの商品化に向けてめちゃくちゃ議論を交わしてしまった。
約1時間ほど、やる気UPバフがめちゃくちゃ仕事してたなこれ……。
頑張っただけあって、結構いい感じに色々決まったと思うんだよね。まずは商品名なんだけど、「テトビタドリンク」が長いというレストさんの要望に答えて、「テトビタD」となりました。
ドリンクのDだよ!
レストさん曰く、「訳わかんねえけど、それが何故かしっくり来る」とのこと。
最初に「長い」って言われたの、どうやら文字数制限だったみたいなんだよね。作り出したものの名前を変更できるのって、新しいアイテムを作成したときとかによくあるんだけど、物によって文字数制限が違う。例えば僕が【フリードロー】で作った新しいお守りは、基本的にどれも名前を自由に変えられる。僕が面倒くさいしわかりやすいって理由でそのままデフォルト名を採用してるだけなんだけど、あれも「◯◯のお守り」の◯◯の部分が可変部分で、7文字以内の制限がついている。
どうやら作った物の難易度とかによって、文字数が変わるらしいんだけど、そのあたりの詳しい法則はまだわかっていないんだよね。
で、聖水(改)の文字数上限は5文字。テトビタドリンクだと文字数オーバーになってしまうのだ!
そんな理由があって、ドリンクのところを泣く泣く「D」と置き換えたのである。
ちなみにアナトラ世界で「ビタミン」は、自動翻訳で「元気の素」みたいに訳されるみたいだ。レストさんに「この世界にビタミンって存在する?」と聞いてみたところ、「元気の素のことだろ?」と不思議そうな顔をされた。
住人さんたちとトラベラーたちの間の会話は、お互いにお互いの使っている言語に最も適した形で自動翻訳されている……という設定だから、トラベラーが見ると「テトビタD」という商品名も、住人から見ると「テトゲンキD」とかに訳されてるのかもしれないね。それはそれで良いと思います。
「ナツの謎のテト推しなんなんだよぉ」
「元気といえばテトなので!」
「内輪ネタぁ!」
というツッコミはあったけど、テトという響き自体は割と良いとのことだった。
次に検証したのは、テトビタDの濃度について。
レストさんの<鑑定>では10倍希釈って出たらしいんだけど、ほら、リアルの栄養ドリンクってプレミアムなやつもあるじゃん? ということは、もっと濃くしてもいけるのではあるまいか。
そんな僕の提案により、10倍希釈、9倍希釈、8倍希釈の3種類を作成して、それぞれ<鑑定>していった。8倍のやつは文章に「とても飲めない」と記載があったので、流石に強すぎるという判断。でも9倍のものは「とても強い味だが、ここぞと言うときの強烈な後押しが欲しい時に」と何かの商品紹介みたいな文面が出た。
これだよこれ、この二段構えのラインナップが必要なのだ。
「いやこれ……いるかぁ? テトビタDだけでも一部の人たちをゾンビみてえにしそうなのに、さらにその上……?」
レストさんはちょっと懐疑的だったけど、そして確かにその通りなのだけれども。人にはやらねばならぬ時が必ずあるのだ。常に飲めるようなものではなく、どうしてもというときにだけ手に入れられる特別な品……という扱いで、値段も気軽に買えないようにちょっと高くして置けば……。
「普段は売らないけど、切羽詰まっている人にだけ売るとか」
「それ判断するの俺だろぉ? 面倒そう」
「それこそ<鑑定>とかでその人の健康状態とかわからないのかな?」
「分かるけどぉ」
そう言えばそれはやったことなかった。でも他人の健康状態を見るのってプライバシーの侵害になりそうだしなあ。勝手に見るのはなんか申し訳ないし。
「許可をとって健康状態を確認して、大丈夫な人にだけ売るとか?」
「転売対策はできねえし、完全な対策は無理だろぉ」
「それはそう」
でもそのくらいのリスクはなあ、何にでも起こり得ることだし。
「んー、まあでも通常テトビタDを3,000Gで売るとして、こっちは30,000Gとかバカ高くして、販売にはカウンセリングが必須とかにして……面談して判断するとかかなぁ」
10倍はふっかけすぎでは??
と思ったけど、まあ、安くして常飲されても困るしなあ。
「んでパッケージについてだけど」
「ポーションと同じ瓶でラベルシール貼れば良いかなと思った」
「いや、ポーション瓶の半分くらいの容量だ。特注しねえと」
あー、確かに。リアルでいうと、ポーションは小さい缶コーヒーくらいの量があるんだけど、栄養ドリンクってもっと少ないもんね。1口2口で飲み終わっちゃうくらい小さい瓶もある。
「瓶ってどこで買える?」
「品質保護機能付きのポーション瓶売ってるのは錬金工房だぞぉ。ミィティいるし、あいつに頼めばいいんじゃねぇ? あいつ可愛いのとかきれいなのとか好きだから、テトイメージのかわいいラベル作ってから依頼すりゃ、多分受けると思う」
「ミィティさんって錬金術師だったの!?」
「ナツは住人に<鑑定>使わねえんだなぁ」
へ、へー。知らなかったなあ。でも住人さんにそんな気軽に<鑑定>使っていいものなの? って聞いてみたところ、レストさんの返事は「俺はヤダ」だった。
「全然平気なやつもいるけど。ナツも知ってるだろうけど<鑑定>って使ったらなんとなく分かるからなぁ。勝手に使われたら……なんていうか、勝手に寝室を見られたみたいな気分になると思う」
「それは嫌だね」
じゃあ今後も使わないようにしていこう。
「でもかわいいラベルか……。ドヤ顔の白猫イラストを入れて、こう……肉球マークをこのへんに配置して、商品名を……」
あ、待ってイラスト誰に頼もう。僕の画力なんて棒人間でお察しだし、イオくんは模写なら出来るけど、って感じだし……あ、そうだラリーさん! ねずみくんの絵本で挿絵描いてくれてた人を紹介してもらえないかな? 図々しいとは思うけど、あの丸いタッチならテトのこと可愛くデフォルメ出来そう。ダメ元で一回お願いしてみよう。
と考えていた僕の視界に、フレンドメッセージが届きました、のテキストが表示された。
「あ、ごめんレストさん、ちょっとイオくんから連絡」
「おぉ」
なにかあったのかな? とメッセージを開いたところ、
『3時間半過ぎたけど、苦戦してるのか? 一度区切って明日に持ち越ししたほうがいいんじゃないか?』
という心配のメッセージが届いており……3時間半……?
ここで僕はようやく我に返った。
めっちゃくちゃハイになって楽しく議論を交わしていた僕とレストさんだけど、おそらくこれはテトビタDのやる気UPがバフによるものである。そして時間を忘れてしまうほど集中していたのも、集中力UPの効果だろう。ということは。
「忘れてた! イオくんとテトを完全放置してたごめん!」
「あ」
レストさんも僕の言葉でそんなに時間が経っていたんだ、と気付いたようだった。時刻はすでに午後5時を回っている。<聖水作成Ⅰ>を取得できた時点で報告しておくべきだった、マジでごめんイオくん!
僕が慌てて返信しようとしていると、レストさんが、
「ナツ、イオとテト呼んでいいぞ。夕飯くらい作ってやるよぉ」
と言ってくれたので、思わず手を止める。
「えっ、ほんとに? 地元の人のお家でごちそうになるの初めてだけど、材料とか大丈夫? イオくんに買ってきてもらおうか?」
「大丈夫、大丈夫。それよりイオにテトビタDのこと説明したほうがいいんじゃねえか? 流石に相方がやべえドリンク作ってるって、隠されたら解散の危機じゃね?」
「言い方ぁ!」
完全にレストさんにからかわれたけど、でも確かにイオくんには言っておいた方がいいな。隠すことでもないし、3時間半遊んでいた訳では無いということを証明するためにも。
『イオくんへ、聖水は無事に作れました。レストさんが夕飯食べさせてくれるとのことなので、テト連れて来てください。玄関はお店の裏側です』
*
メッセージを返してすぐ、イオくんとテトはレストさん家にやってきた。多分途中まで迎えに来てくれてたような気がする。僕の親友めっちゃいい奴、知ってたけど。
レストさんは料理中で手が離せないから、代わりにイオくんたちを玄関まで迎えに行って、忘れずにテトに【クリーン】をかけつつ……イオくんはもう自前で【クリーン】使えるからね……リビングへ足を踏み入れると、ダイニングテーブルを見てイオくんが「おお」と声を上げた。
「中華じゃん」
「そうなんだよ! レストさん手際が良い! 鮮やか!」
僕もうっきうきである。
いや、アナトラ世界にも中華料理があるのは知ってたよ? イチヤの、陽だまりの猫亭でも日替わり定食に出てたもんね。でも一般家庭で違和感なく食べられているほど定着してるっては思って無くてさ。レストさんが「チャーハンでいいか?」って聞いてきた時思わずバンザイしたよね。
「はー、中華。たまに無性に食べたくなる中華。イオくん餃子食べに行かない?」
「ああ、リアルの方の昼飯か? 良いけど、そしたら今日は早めに落ちるか」
「うん!」
僕が一人暮らしをしているワンルームマンションと、イオくんが悠々自適生活をしているマンションは距離が比較的近いので、徒歩15分くらいかな? 生活圏がそこそこかぶる。
それなりに暮らしやすい環境のところだから、外食チェーンやスーパーなんかも充実しているんだけど、中華は僕のマンション近くの個人経営のお店が美味しいのだ。よく行くから名前も覚えられてるし、いつものアルバイトのお兄さんが「今日のおすすめ」を教えてくれるし、良い店だよ。
まあ、それはさておき。
ちゅうかってなあにー? あまいー?
と首をかしげるテトをわしゃわしゃと撫でる。
「中華は料理のカテゴリーだよ。甘くはないかなあ、むしろ辛いものが多い?」
からいのはあんまりー。
「そっかー。甘露煮美味しいの作れた?」
いっぱいおうえんしたのー。おいしかったー!
あ、やっぱり味見させたんだねイオくん。従業員に甘い社長さんだからねだられるままに大量に食べさせたんじゃないかと僕は危惧してるよ。僕の分残ってるかな?
でもナツいないからちょっとさみしかったのー。
「テト、なんていい子……!」
にゃあにゃあと一生懸命お話してくれるうちの子めちゃくちゃ良い子だな? たくさん撫でてあげよう。
「今日、ビストはいないのか?」
「あぁ、愚弟ならオーレンさんと大事なお話があるんだってよぉ。なんか今日は北の砦で生き残りの子供が見つかったとかで、世話に駆り出されてるらしいなぁ。あいつ、子供っぽいせいか子供の相手上手いからなぁ」
「「あ」」
思わず声を上げた僕とイオくん。テトが少しだけ遅れて真似するように「にゃ!」と鳴いた。そんな僕たちの反応に、胡乱な眼差しを向けるレストさん。
「……まさかまたお前たちかぁ?」
「テトです! 家の自慢の名探偵が見つけました!」
みつけたのー!
「マジか。えらい猫だなお前」
なでてー!
テトは「褒められるイコール撫でてもらえる」、と思っているので、レストさんのところに突撃して撫でてもらおうとした。普段なら放置するんだけど、今回ばかりは慌てて止める僕。
「テト! レストさんはお料理中で火を使ってるからだめだよ。後で撫でてもらおうね」
むー? レストもりょうりにん? あまいのつくれる?
「レストさんは料理人じゃないから、甘いのは作らないよ」
ざんねんなのー。
なんかテトの中で料理人=美味しい甘いのつくる人、になってるんだな……。今度、甘いの作らない料理人もいるんだよーって教えるべきだろうか。でも料理人じゃなくても料理する人がいるよってこともあんまり理解してなさそうだからなあ……!
とりあえずテトはレストさんの代わりに僕がたくさん撫でておきます。
もふもふ。




