2日目:贈答品を作る
カフェでゆっくりした後は、ギルド裏通りをマッピング。教わったお菓子屋さんはすぐに見つかって、僕の個人資産から買いだめをした。イオくんがクッキー1枚で満足するなら僕は5枚無いと満足しないから、燃費が悪いんだよな。
イオくんはイオくんで、珈琲の粉とハンドドリップ用品を個人資産で購入している。
「イオくんは苦いのが好みなんだっけ」
「酸味が苦手でなー。エチオピアとかキリマンジャロは避けてる」
「自分でブレンドとかするの?」
「そこまで手出したら焙煎まで行きそうだから自重」
浅煎りとか深煎りとかの世界かあ。僕は適度に美味しければインスタントでも文句ないから、よくわかんない世界だな。でもイオくんの家に遊びに行くと目の前で丁寧に豆を挽くところから実演してくれるから、なんか特別美味しい気がするよね。
歩いてみた感じ、ギルド裏通りは娯楽に関するお店が多い。遊び道具とかお菓子とか、カフェみたいなくつろぎスペースとかだね。古い本屋さんもあったけど、置いてあるのは戦前に書かれた本の写本なんだって。まだ戦争が終わって10年で、作家さんも新しく出てきていないとかなんとか。本と言う娯楽に労力を割けないのかも。
魔石屋さんと言うのもあって、これは魔道具を動かすのに使うらしい。敵を倒すとドロップすることもあるんだとか。魔石っていかにもファンタジーって感じだなーと思っていたけど、魔道具の動力以外にはまだ使い道がないんだって。
「魔道とつくものは魔道具です。料理をするなら魔道コンロ、鍛冶をするなら魔道炉、調薬にも魔道浄水器なんかがありますね」
と説明を聞いて、イオくんは魔道コンロに興味を覚えたみたいだった。現物を入手したらまた来ることになりそうだね、魔石屋さん。
一通りのマッピングと買い物を終えたら、ギルドのすぐ近くのわき道からギルド前通りへ出る。広場の近くにいるテールさん……と探したけど今日はいなかった。そういえば1日おきに出店するって言ってたなあ。あてが外れたので明日改めて肉を売りに来るとして、そうするとちょっと資金が心もとないかも。
「作ったお守りって売れないかな?」
「ギルドで聞いてみるか」
と言うわけで一度ギルドへ。余っているのは商売繁盛のお守り★1と★2、頑健のお守り★1の3つか。イオくんが金運上昇のお守りを2つもっているので、★1は売ってもOKとのことだ。
売れる場所があるなら教えてもらいたい、という話をギルドですると、受付のお姉さんは即座に電卓をたたいた。
「その3種類でしたら★1が3,000G、★2が6,000Gです」
「おお……売ります」
「ありがとうございます。お札の方が買取価格は上がりますのでご一考ください」
合わせて15,000Gの売り上げ。お札がどのくらいのお値段なのか気になったけど、お札はまだ彫れない。キガラさんのところで買った木材はまだ半分以上残っているので、今日もせっせと生産しよう。
共有財布の中身が心もとないので、一応ツノチキンの肉がいくらになるか聞いてみると、ギルド買取価格は1個1,800Gだった。人気のある肉なので、レストランなどではもっと高く買い取るかも……とのこと。やっぱりテールさんに売りたい。
なると、武器屋に行く前に金策……。
「ちなみに今、ギルドでほしい魔物素材ってありますか? 高く買ってもらえるようなものだと嬉しいんですけど」
えーい、迷うなら聞いてしまえ!ギルドの求めるものを納品できればWin-Winなのだ!
僕の問いかけに、受付のお姉さんは「そうですね」と考えて、
「魔物素材なら、西のバイトラビットの毛皮がやはり一番需要が高いです。それ以外ですと……先ほど売っていただいたお守りにつきましては、★が上がる度3,000Gずつ値段が上がります」
「……★5で15,000G、ですか?」
「はい。お札になりますと★1つごと5,000Gです。最も効率が良く需要も高いのはこのあたりかと」
「ありがとうございます、なるほど」
となると、狩りに行くより手っ取り早いのはお守りの品質を上げることかな。狩りに行ってもいいんだけど、今時間は10時くらいだし、午前中は生産でもよいのでは。
そんな思いを込めてイオくんに視線を向けると、イオくんは鷹揚に頷いた。
「1時間、作業場を借りるか」
レベルアップのおかげでMPは全回復しているから、340あるMPをフル活用してお守りを作る。
<彫刻>のレベルが4まで上がったおかげか、作成時間も短くさくっと4種類のお守りを作ることができた。品質は全部★3、1個9,000G、4つで36,000Gだ。
「さすが贈答用、価値が高い……!」
そしてスキルレベルも上がって、また新しいアーツが来た。えーと、【インスピレーション】……【フリードロー】を使用時、図案を仮置きすることによって品質や希少性、性能についてある程度の予測を行えるスキル……だと……?
【フリードロー】で作ったオリジナルの魔術式でお守りを作った場合、価値ってどのくらいつくんだろう。一度そっちも売ってみたい……よしやってみよう。
昨日と同じように【フリードロー】を指定すると、MPをどのくらい込めるか問われる。昨日50だったし、70入れてみよう。それから【インスピレーション】っと……。
指先でどんな模様にしたいか下書きができるみたいなので、とりあえず人の形にしてみる。……予測効果が体力回復促進……か。うーん。あ、羽を生やしたら飛べたりしないかな? ……今度は落下ダメージ軽減、微妙な感じ……。そもそもそんなに落下とかしないし。
えーと、一回消して、鳥のマークとかは? ……鳥類の敵に対するダメージUP。なんかもっとこう、汎用性の高いものがいいんだけど。その後も色々と図案を変えてみるんだけど、予測効果がどれもこれもパッとしない。何が原因なのか品質も★3から5までを行ったり来たりするし、なんでだろう? あと光の色も微妙に変わるんだよね、ヘルプ読まなきゃ。
あ、色が希少性か。普通の白っぽい光が希少性低くて、濃い金色に近いほど希少性が高い、と。まあ希少性は今回は考えないことにしよう。それより★5でもっと良さそうな効果のものが欲しい。色々図案を変えてみたんだけど、どれもこれも絶妙に使いづらそうな効果ばっかりでいまいちしっくりこない。がま口財布の図案にしてみたら、絶対にお財布を落とさないお守りとかになって、ちょっと面白そうではあったけども。なんか、もう少し、こう、さあ!
もう面倒になってきて棒人間が剣を持っている図案を書いてみたところ、予測効果が「体をいたわる」になって、品質が★5予想、希少性もそこそこ金色に光った。今までの中では一番良さそうな組み合わせだ。
じゃあこれで決定、っと。
【インスピレーション】で確定させた図案は、そのまま<魔術式>を使ってお守りを彫る時のように、なぞるお手本となって木材に固定される。彫刻刀でそれをサクッとなぞっていくと、すべての線をなぞり終えた時ぱあっと光ってお守りが完成した。
腰痛のお守り 作成者:ナツ
このお守りを手に入れた者は、腰痛から解放されるだろう。
腰痛軽減80% 期間:1か月
品質★5
「なんで!?」
いや確かに体をいたわるお守りだけどさあ!?
普通その表記されたらヒール系のお守りだと思うじゃん!? まさかあの図案の剣、杖と判断されたパターン!?
つ、使えな……あ、待てよ。住人さんにならもしかして需要、ある?ひどい腰痛のお年寄りとかに……80%軽減って結構効果高いよね。しかも1か月続くわけだし……。
ワンチャン高く売れるかも、ということで、3つくらい作ってみた。MPかなり使うけど、おかげで<彫刻>のレベルがまた1つ上がる。【フリードロー】の方が経験値良いみたいだね。
MPも尽きて作業場のレンタル時間も終わったのでギルドの受付に戻ると、キャンプ用品を見に行っていたイオくんはすでに戻ってきていた。パーティー掲示板に欲しい物と値段のメモがごっそり増えてたけど、バーベキューセットは許可できない……断固却下しなければ。
「終わったかナツ。どうだった?」
「うん、まあたぶん売れるでしょ、たぶん」
★5なんだから15,000Gになってくれるといいな。このゲーム割と住人さんたちのAIが頭いいから融通利かせてくれないだろうか。祈りつつ、さっきの受付のお姉さんに作ったお守りを見せたところ。
「……! これは!」
なんか驚かれた。
「少々お待ちを!」
そしてお姉さんは走って奥に引っ込んだ。腰痛のお守りを持って。
……。
えー……?
「なんだ?なんかすごいお守りでも作ったのか?」
不思議そうな顔をするイオくん。すご……い? かな? 腰痛のお守りが……?
「住人さんにとっては、すごいかもしれない」
「なんのお守りなんだ」
「腰痛」
「……は?」
「腰痛80%軽減。期間1か月」
「……お、おう」
プレイヤーには微妙なんだよね、分かる。
「……いやよく考えたら医者に行かなくて済むわけだし、腰痛で満足に動けない人とかが動けるようになるってことは、すごいような。よくそんなお守り作れたな」
「それが、新しく覚えたアーツがね……」
イオくんに【インスピレーション】のことを説明し、予測効果「体をいたわる」が「腰痛80%軽減」に化けたことを告げると、苦笑が返ってきた。間違ってないけどズレてるよね。あのお姉さんの反応からすると普通に喜ばれているのかもしれない、と思いつつ大人しく待っていると、しばらくしてからお姉さんはお年を召したおばあさんと2人で戻ってきた。白髪の、目力のある貫禄十分なおばあさんだ。
「このお守りを売ってくれるのは貴殿か」
く、口調も貫禄があるぞ。
「はい。トラベラーのナツです。こちらは僕の頼れる友人のイオくんです」
「どうも」
「ふむ。私はこのギルドの長、イライザ=ラタ。良いものを作ってくれた、住民を代表して礼を言おう」
ファミリーネームがある、2文字ってことは4等星の方かな? お貴族様だ。そういえばソルーダさんが、組織の頭はたいてい4等星って言ってたような。
「4等星の方だったか。ということは、このお守りは買ってくれるんだな」
イオくんが背筋を正して問いかけると、イライザさんは「もちろんだ」と頷いた。
「1つ50,000Gで買い取ろう。ここまで効果の高い物はなかなか無い」
「5っ!?」
「良かったなナツ。3つとも売っちまえよ、また作ればいいさ」
「うううう売ります、売りますけどずいぶん高いですね!?」
元手800G纏め売りの木材と僕のMP70ですが! そんなにもらっていいの? 消耗品だよ??
慌てているのは僕だけで、イオくんもイライザさんも落ち着いた表情だ。イライザさんは早速受付のお姉さんに支払いを命じ、僕とイオくんのギルドカードは速やかにお姉さんに預けられた。
「護符を作る職人はほとんどいなくなって久しい。技術が失われる前に育成をという話は出ているが、現状なかなか厳しいものがある。こういった体の調子を整えるものには需要があり、必ず売れる。札ならもっと良かったが、お守りでも効果期間が長ければ高値が付くのだ」
「そう、なんですか。じゃあ、札だったらどのくらいのお値段になりますか?」
「札は1年は持つ。今の3倍は行くだろう」
たっかい。これ金策としてすごく有能なんだね……。普通の<魔術式>で集めたやつだと★1につき5,000Gって話だったから、な、何倍…?
「ナツにしか作れないものの方が高いってことだな」
「当然だ。街中で拾える魔術式は図案をまとめた本もある。いずれ取り戻せる技術だ。だが、これは今まで誰も作らなかった図案だ。当然、価値は跳ね上がるとも」
オリジナル作品の方が高値で売れるのは理解した。とすると、ゲーム的にはこの図案を他の人に使えるように、って感じの話になりそうだけど……。
今は職人さんが少ないんだっけ。じゃあ、図案だけ公開してもあんまり意味がないか。
「このお守りは今後も持ってきてくれれば同じ値段で買い取る。品質が上がったら相応に支払うことを約束しよう。ぜひまた持ってきてくれ。可能なら札も」
「わかりました。今後もギルドに卸します」
「ああ、ぜひ頼む」
イライザさんは微笑んで握手を求めて来たので、反射的に応じる。うぐ、力強い。僕筋力5ですのであの、手加減を……っ。