15日目:聖水を作ろう!
「まぁ、茶でも飲みながらきいてくれよぉ。聖水っていってもさぁ、別になんか神聖な力とかは必要ないし」
きれいなレモンイエローのマグカップに並々と紅茶を淹れて差し出しながら、レストさんはそう切り出した。
ティーカップじゃなくてマグカップなところが男所帯らしさを感じる。僕の家もティーカップ置いてないから、緑茶も紅茶も珈琲も、なんならジュースも全部マグカップで済ませてるからね。あ、ちなみにイオくんの家にはちゃんとティーカップもガラスのコップもおいてるからえらい。
「ミィティさんもそんなこと言ってたかも。とりあえずマフィンどうぞー」
「おぉ、サンキュー。重要なのは<光魔法>だし、後の材料なんて簡単なもんだぞ。品質★5以上のきれいな水と、マギプランツの粉だけ」
これとこれ、とレストさんがテーブルの上に2つの瓶を置く。片方がさらさらの白い粉で、ほんのりキラキラしているもの。もう一つがきれいな水の入った瓶だった。
「マギプランツって、妖精類が売ってるやつかな? お酒の材料にもなるっていう……」
「それそれ。これ結構特殊な薬草でなぁ、妖精類は触っても大丈夫だけど、それ以外だと魔力50以上はねえと枯らすなぁ。ナツはエルフなんだし、自分で粉にしたほうが安上がりだぞ」
「うーん」
手間次第ではそれもありかなあ。でも粉にするために何かしらのスキルを取得する必要がありそうだし、SPに余裕がないと無理かも。お金が多少かかっても、SPを貯めなきゃいけない理由があるんだ僕には。具体的には<原初の呪文>の発展スキルのために!
一応、取得可能スキル一覧を確認したところ、たぶんこれかな? ってスキルは<素材加工>っていうのがあった。基本スキルだからSP3だし、取ってもいいけど……。今はまだちょっとやめておこう。
「聖水を作るには、<光魔法>の【ピュリファイ】が必要。<上級光魔法>で【ピュリフィケーション】、<聖光魔法>で【ハイピュリフィケーション】と覚えていくから、それらを使って浄化の聖水と白光の聖水も作れる。俺はここまでしか使えねぇけど、更に上の魔法系統を覚えて……えーと、たしか、【サンクチュアリ】だったかなぁ? その魔法を覚えると破邪の聖水になるんだよ」
「<聖光魔法>の上かあ……当分先になるね」
「だろぉ。今の説明でも分かる通り、【サンクチュアリ】だけちょい系統が違うんだ。難易度も高いし、そもそも<聖光魔法>の上なんて、住人がたどり着けるもんじゃねえからなぁ」
だから、破邪の聖水だけは難しいし、作れる人もめったにいないんだね。
それにしても、レストさんは<聖光魔法>を使えるってことでいいのかな? それってフィールドで戦闘できない住人にとってはかなりすごいことに思えるけど。
「で、作り方な」
レストさんはマグカップを置いて、ビーカーのようなものに半分、水を注ぐ。
「配分は自分で考えて調整しろよぉ。まず水に、マギプランツの粉を溶かす。これはあんまり入れすぎても良くないし、少なくても効果が薄くなるんだ。目安としては、日の当たる場所で作った時、ほんの少し水がきらきらするくらい……って俺は思ってる」
ふむふむ。つまりレストさんのレシピではそのくらいだけど、人によって異なるって感じ?
「そんで、これに浄化魔法を込める。基本はこれだけなんだけどなぁ」
「込める……?」
「それが一番難しいとこなんだよぉ。この水に【ピュリファイ】をこう、押し込めるような感じでぎゅぎゅっと」
「ぎゅぎゅっと……」
いや、言ってる意味は分かる、分かるよ。
【ピュリファイ】は範囲魔法だ。その範囲は直径2メートルくらいの狭さだけど、それでも範囲魔法なのだ。例えばこれがアロー系魔法なら、矢の形をした単体攻撃魔法だから水に込めろと言われてもなんとかなりそうな気がするけど……。
範囲魔法を、ぎゅぎゅっと……って言われましても。
「ま、とりあえずやってみなぁ」
ほら、とマギプランツの粉を溶かした水を差し出される。その前に僕、【ピュリファイ】を使ったことまだ無いんだよなあ。
「ちょっと一回無駄撃ちするね。【ピュリファイ】」
試しにそれを唱えると、杖の示した先、空中にぱあっと円形の輪が現れ、それがするすると地面に向かって降りていく。うん、きれい。演出は超きれい。
で、これをどうやってぎゅっと??
「はい、レスト先生! ヒントください!」
「おぉ。うーん、そうだなぁ。俺の場合はこれが杖で、これに、こうやって指を添えて……」
レストさんが取り出した杖は、超シンプルな木製の杖。宝石類は持ち手の辺りに埋め込まれていて、先が細くなった指揮棒のような細い杖だった。長さは15センチくらいで、それをレストさんが持つとほとんど手のひらに収まってしまう感じ。
人差し指を杖の先に沿わせて、ほぼ指差しのような感じで【ピュリファイ】を唱えるレストさん。
その途端、ビーカーに入っている水がばああっと白色に光り輝く。
「……と、まあ、こうだなぁ」
「んんんめっちゃきれいだけど……!」
わからん、どうするんだこれ、全然わからん。
えーと、広がるものを集束していくわけだから……そのまま杖で何も考えずに呪文を唱えたら絶対に無理なんだよね。ユーグくんはレストさんの杖と違って、杖の先にごてごてと彫刻と紫水晶が飾られているから、レストさんと同じ持ち方は出来ない。
「……ユーグくん、君、虫眼鏡って知ってる?」
杖は沈黙。
「太陽光をレンズに集めて強い光線を作るテクニックがあってね、君にはそれをやってもらいたいんだけど、どう?」
真剣に話しかけてみるんだけど、ユーグくんからの返答はない。まあそりゃね、知ってたけど。
「ナツ、何やってんだぁ?」
とレストさんも不思議そうにしながらマフィンを食べている。そのマフィン美味しいから味わって食べてね!
「僕、この杖にユーグくんという名前をつけてるんだけど」
「変なことするなあ」
「話しかけ続ければいずれ僕の意図を読み取ってくれるのではないかと思って」
「あー、まぁ可能性はあるか? 名のある杖作成師が作ったみたいだし」
「僕に出来ないならユーグくんが自らやってくれないものかと……!」
「人任せにすんなよぉ」
レストさんはケラケラと笑った。ですよね。
「うーん、魔法を集束するっていうのがよくわかんないんだけど、光は集束できるじゃん? 僕子供の頃に虫眼鏡で薪に火をつける為に超頑張ったことあるんだけど、あの感じをユーグくんの紫水晶を使って出来ないかと思って……」
「よくわかんねえなぁ。トラベラーさんたちの世界の話かぁ? しっかりイメージできれば、それで行けるかもな」
イメージ。
そう、魔法はイメージ。
こう、ユーグくんを掲げるでしょ。そうするとその紫水晶に魔力が一斉に向かっていて集まって。その集まった魔力をまっすぐにレーザーのようにこのビーカーの水に注げれば良いわけで……。
と僕が考えている間にレストさんは新しい水を作ってくれた。さっきレストさんが作ったのは聖水として成功してるっぽいので、瓶に詰めて収納の中へ。
「ほら、とりあえずやってみろよぉ。感覚も少しは分かるから」
「はーい。……【ピュリファイ】」
まず僕がイメージしたのは、真っ先に思いついた虫眼鏡で光を集束するやつ。なんだけど、ぱあっと光は広がって、大体直径30センチくらいの円になった。
「大分散ったなぁ」
とレストさんがのんびりした口調で言う。ということは、これでは駄目だということ……!
「うーん、別のイメージ……」
次はこう、結束バンドみたいなのをイメージして、杖から放たれる魔法をひとまとめにして、押し込める感じで……。
「【ピュリファイ】」
「んー、さっきと変わらんなぁ」
うーん、これは先が長そう……! <原初の呪文>は2時間だったけど、さて、今回はどのくらいで取得出来るかな……!
*
「だーから、最後に気を抜くなって、むしろ最後こそ一番大事なとこなんだからさぁ。ほらMPポーション」
「10本目だよレストさん、タイム! 休憩入れよう!」
「こぉら、自分を甘やかすんじゃねえよ」
「スパルタぁ! じゃあレストさん、もう一回! もう一回お願いします!」
「はいはい、もう一回なぁ」
聖水作り、舐めてた。完全に舐めてたね僕が。
ラリーさんのときは本も読ませてもらって、基礎理論的なのは理解出来てたから、わりと方向性を掴むのは早かったんだけど、今回の「魔法を込める」ってのがどうやったら良いのか全くわからない。おまけに、【ピュリファイ】はわりかしMPを使うアーツなので、MPがすぐ尽きるんだよこれが。
いっそ<原初の呪文>でどうにかできん? と思ったけど流石に無理。【ピュリファイ】は浄化・アンデッド特効付与・呪い解呪などの要素がいくつも組み合わさった複合魔法なので、同じものを<原初の呪文>で再現できない。
というわけで地道に! 集束のイメージを頑張ってつかもうとしているわけなんだけど。
「そんじゃ使うぞぉ」
「あ、待って! 魔力の流れが見たい! なんかそういう魔法無かったっけ!?」
テアルさんが素材鑑定教えてくれた時、魔力に色つけてわかりやすくしてくれたじゃん! あれを今回もお願いしたいと思ったんだけど、レストさんは「そういうの無理」だそうだ。
「俺は<光魔法>特化だから他の魔法はからっきし」
「あー、そういうこともあるよね! 特化は特化でプロフェッショナルって感じで良いと思います!」
僕は万能に広く浅くのほうが好きだけども!
うーん、それならなんか僕がどうにかできないかなぁ。こんなときこそ<原初の呪文>を……!
「あ、そうか! 【可視】!」
ユーグくんを自分に向けて、レストさんの魔力をオーラのように色付きで見える様に……レストさんは緑! 緑色で! と強くイメージしながら唱えてみると、なんとか成功した。<原初の呪文>本当に便利でえらい! ラリーさんには無限に感謝しちゃうね。
「お願いします!」
「おお。<原初の呪文>かぁ、レアなの持ってんなぁ」
「師匠に恵まれたので」
「あんな面倒くさいの、よく覚えたなぁ」
ラリーさんの教え方上手だったから、実は言われるほど面倒じゃなかった……と思う。正直僕にはこっちの方が大分難しいよ。
「じゃあ、もっと強いのにしてみるか。【ピュリフィケーション】」
あ。<上級光魔法>で覚えるやつ!
レストさんがアーツを唱えると、【可視】のお陰で緑色の魔力が渦巻くのが見えた。レストさんが纏っていた魔力がするするとその指先に集まり、杖の先端部分から……勢いよく発射される感じ……?
あ、そうか。最初にレーザーをイメージしたんだから、僕も集束したあとはもっと勢いよく飛ばさなきゃ駄目じゃん。攻撃魔法じゃないから鋭さとか全然意識してなかった。ってことは、えーと、イメージ自体は最初ので良くて、その後か。
「くっ、レストさんの言う通り最後が大事だった! なんて的確な!」
「なんで褒めてんのにそんな悔しそうなんだよぉ」
自力ですぱっと気付けないのが悔しいんだよ!
でも、これでようやくできそうかも。




