15日目:スキルも色々あるものです
「実のところ、伝承スキルは僕も存在は知っていたんだよ」
と、帰り道に教えてくれたのはシスイさんだった。
帰り道に出てくるフォールバード対策にはどう考えてもシスイさんの弓が必要だろう、ということで、テトに乗った僕が男の子を一緒に抱えて、女の子は美月さんが抱っこしてくれる事になった。前衛をイオくんと如月くんに任せて、3人で後ろからついていく感じ。相変わらず<迷彩>がいい仕事してて、僕は全く敵に見つからない。
後衛からビシバシ矢を飛ばしながら、シスイさんが詳細を教えてくれる。
「イチヤで、鑑定を習得したくて鑑定士に弟子入りをしたんだ。SPを使って取得も出来るんだけど、なんとなく、どのくらいで習得できるのか知りたくてね」
「へー、シスイさんは検証班向きですね」
「はは、実は別のゲームでは検証クランに入っていたんだ」
なんのゲームかな、と思って聞いてみると、ワールド・ウォー・オンラインというチーム対戦型のアクションゲームだった。これも人気あるんだけど、若い子が多くて、その若い子たちがどんどん友達を連れてくるものだから年齢層が合わなくなって半年くらい前にやめたんだって。「最初の頃は年齢層がバラけていたんだけどねえ」としみじみ言うシスイさんである。
「必殺技の発動タイミングとか、スキルの組み合わせとか、色々楽しい検証要素もあったんだけど。若年層との対立が激化して年齢が上のプレイヤーは居心地が悪くなってしまってね。それで、このゲームの先行体験会に応募して、向こうをやめたんだ。先行体験会に外れても移住はするつもりだったけど、幸いにも当たったからね」
「ギスギスしてるんですか?」
「うーん、考え方が合わないというか……。若い子たちはとにかく、身内で固まりがちで、指示とかだしても聞いてくれなくてね。同年代同士で固まってしまうから仕切る人がいないし、なら自分がと思って仕切ると、オッサンが出しゃばるなとか言われてしまうんだ」
対戦ゲームだから余計に、攻撃的な言葉遣いをされることが多いのかも? いずれにせよ、僕には無理そうなゲームだなあ。アクション系では覇権と言ってもいいくらい人気あるゲームだけど、海外サーバとの軋轢もすごくあるらしいし。
「まあ、あのゲームのことはいいよ。アナトラの、のんびりとした雰囲気がすごく癒やされるんだ。プレイヤー同士で戦わなくて良いっていうのは気が楽だね」
「確かに、雰囲気がいいですよね」
「うん。それで、イチヤで鑑定士に弟子入りをして……3日くらいかな? 他に何もしないで鑑定の仕事ばかりしていたんだ。そうしたら師匠に、もし1ヶ月ほど本格的にやるつもりがあるなら、秘伝のスキルを教えよう、と言われたんだ。それが伝承スキルのことだったよ」
おお、これが王道ルートな気がする! 多分、真面目に仕事をする姿勢が評価されたってことだよね。
「とはいえ僕はトラベラーだからね。無事に<鑑定>スキルを習得できたところまでで区切るつもりだったから、1ヶ月は無理だと言って断ってしまったけど」
「あー、確かに1ヶ月は長いですよ。でも、そうか。本来そういう感じですよね、伝承スキルって」
僕みたいに、スキル講座受けたら知り合いが先生で、本の読者だからって特別に教えてもらうケースなんて稀だよね、知ってた。そんな話をしていると、暇そうにしていた美月さんも会話に混ざってくる。
「私は伝承スキルは知らないけど、私しか多分持ってないスキルを持っているわよ」
「お、どんなスキルですか?」
「普通の基本スキルではあるんだけど。私、動物が好きで、でも現実だとアレルギーがあって触れないの。それでこのゲームではできるだけのお世話をしようと思って、メグに色々食べ物を作ってあげてたんだけど、失敗作とか、メグの好みじゃないものが余ったりとかするじゃない? それを、街の鳥に全部あげてたのよ」
ちなみにこの世界、大型の鳥はもれなく魔物になっているけど、小型の鳥や動物は魔物になっていない子もいる。環境的に、魔素というのかな? そういうものを生み出す穢れた土地の近くにいた子は魔物になってしまっていて、街の中でだけ暮らしているような子は魔物化してないらしい。
「いつも決まった場所で小鳥に餌をあげ続けていたら、<バードフレンドリー>っていうスキルが出て……鳥からの一定数の好感度を得たらもらえるスキルらしいの。効果は、鳥に対する餌付けが成功しやすく、鳥が言っていることが何となく分かるって感じよ」
「へー! なにか情報貰えそうなスキル……!」
「うーん、無理じゃないかしら。会話が聞こえるだけで使役が出来るわけでもないしね。小鳥たちは人間のことそんなに気にしてないみたいだし、風が気持ちいいとか他の群れがゴーラの方を飛んでるとか、そんな話ばっかりよ。私がもらった情報で一番有益だったのって、サンガで一番美味しいパン屋さんの場所くらいだし」
「有益!」
それは確実に有益! なんなら僕が知りたいまである! と力説したところ、ショップカードを複製してもらえました。ありがとうありがとう。
「お礼は何が良いですか? 食器の店、手芸の店、家具店、私立図書館、珈琲豆の店、定食の店、ピザの店……があります!」
「すごく探検してるのね!? 珈琲は器具がないし、ピザのお店を教えてもらえるかしら?」
「どうぞ!」
エーミルさんから教えてもらったピザのお店。いつの間にかショップカードもらえてたんだけど、ショップカードでも店名は「ピザの店」だったよ。なんかちょっと面白いね。ちなみにラリーさんの「愚者の巣穴」に関しては、ショップカードは受付に「ご自由にお取りください」で置いてあった。何枚かもらったら複製回数が増えていたから、もし今後どこかのお店に行った時、ショップカードをもらえるようなら、何枚かください! って言ってみようと思う。
「ナツくん、その私立図書館、僕にもらえないかな」
「シスイさん本好きですか? いいですよー」
「ありがとう。僕じゃなくて僕のパーティーメンバーがね。……うん、代わりにこれをどうぞ」
ラリーさんの図書館をシスイさんに紹介すると、代わりにもらえたのは焼き菓子のお店だった。ダンワン橋の水辺通り側、西方面に少し入ったところ……かな? 焼き菓子「スイートメロウ」のショップカードはマドレーヌのイラスト入りでかわいい感じ。美月さんがくれたパン屋さん「スターブレッド」の近くだから、両方まとめて行けるね!
「やった、ありがとうございます! テト、甘いもののお店教えてもらったよー」
あまいのー? ありがとー!
テトはうにゃんと鳴いて、シスイさんと美月さんにちょっとずつ擦り寄った。ちなみにこの美味しいもの大好きな巨大猫、美月さんには未だに警戒心が強い。初対面で「うちの子にならない?」と言われたのがよっぽど嫌だったようだ。砦でちょいちょい呼び出して回復してもらってたメグに対しては、結構仲良しっぽかったんだけどなあ。
サンガの北門にたどり着いたのは、正午頃のことだった。僕たちが砦を見に行ったことは兵士さんたちも知っていたので……というかこの依頼、如月くんが仲良くなった北門の兵士さんからの依頼だったんだよね。初老の年齢に差し掛かったヒューマンの兵士さんは、北の砦に行く一団を前日に「武運を祈る」と送り出したことを、ずっと気にしていたという。
如月くんが先頭でサンガに戻ったから、北門での説明もスムーズに終わって、僕が抱えてきたヒューマンの男の子と美月さんが抱っこしてきたドワーフの女の子は無事に兵士さんへと引き渡された。
まさか生存者がいるとは思っていなかった北門は大騒ぎだ。歓声が上がり、近所の住人たちもなんだなんだと野次馬に集まってきたりしている。その大騒ぎの中に知っている顔を見つけて、僕は「エーミルさん!」と呼びかけた。
「ナツさん! お手柄ですね!」
明るい笑顔のエーミルさんが、すぐさま駆け寄ってきてくれる。
「今回のお手柄はテトです、褒めてあげてください」
テトがみつけたのー!
「そうなんですか。素晴らしいですねテト」
よしよし、と撫でてもらえてテトはにゃっふーと得意そうに胸を張っている。いっぱい褒められて嬉しいようで、尻尾もぴーんと伸びていた。
「あの子たち、10歳前後の年齢だと思うんだけど、エーミルさん見覚えないですか? 魔法で守られてて……」
「聞きました。おそらく魔法を使ったのはジド師匠でしょう。サンガで最も優れた魔法の使い手で、エンシェントエルフの血を引いていた方です」
「エンシェントエルフ!」
どこかで聞いたことあるなと思ったら、救国の乙女の話を聞いた時に出てきたね。ルシーダさんもエンシェントエルフの血を引いていて、珍しい制約魔法を使えたとかなんとか。その人と同じくエンシェントエルフの血を引いていたのか。
つまり、子供たちの時間を停止した魔法も、なにか珍しい魔法だったのかもしれないってことだ。テトの持っている空間魔法も結構レアだって聞いたような。
「そのジドさんって方のお弟子さんとかいたら、解除方法がわからないかと思って」
「はい。大丈夫です、すでに使いをやりましたので。それに、この子たちの血縁者も父が知っていると思います」
「オーレンさんが?」
「ええ。父はああ見えて、ジド師匠の一番弟子だったんですよ」
「えっ!?」
エーミルさんが教えてくれた話によると、戦争の末期の頃には10歳を超えたばかりの子どもたちでも、それなりの戦闘力があれば護衛任務についてもらっていたのだそうだ。もちろん、本人の意思を確認した上でだが。
単純に、それだけ戦力が足りなかったのと、主戦力は全力で防衛に回さなくては押し負けそうだったのが理由だ。砦に食料を取りに行く輸送任務は、前線に出るよりはずっと安全な任務だったのだ。
「ナツさんたちが救った西の砦にも、当時12歳で護衛について行った女の子がいたんですよ」
「あ、ミーアさんですか? 確かに僕より少し年上くらいかなって感じだったかも」
「皆さんやつれていたので、実際より年上に見えていたかもしれませんね。特に、弓や魔法などの遠距離攻撃を持っている子供は重宝されていたと聞いたことがあります。ジド師匠も、北の砦で兵士たちと合流し、翌日の決戦に備えていたのだと思います。終戦で閉じ込められた時、彼らがどの様に話し合いを持ったのかはわかりませんが……」
エーミルさんは兵士たちに抱えられている子どもたちの姿を見て、しみじみと言った。
「未来ある子どもをなんとしても助けたかったのでしょう、ジド師匠らしい」
こういう言い方をするってことは、エーミルさんにとってジド師匠という人は近しい人だったってことだよね。オーレンさんの魔法の師匠だったってことだから、もしかしてエーミルさん自身も魔法を習ったりしていたのかもしれない。
僕がエーミルさんとそんな話をしている間に、クエストの依頼主と如月くんの間では話がまとまり、クエストが完了となったようだ。如月くんに集合をかけられたので集まると、目に涙を溜めた兵士さんが僕たち1人1人に「ありがとう」と言って握手をしてくれた。テトのことも撫でてくれたので、テトはにゃっ! と元気にお返事していた。
おそらく全員にクエストクリアのシステムアナウンスが出て、ランダム報酬チケットというものが1枚ずつ配られる。これは破るとランダムな報酬を貰えるというアイテムで、金銀銅の3種類あるんだけど、今回のは金チケットだ。つまり、とても良いものが出る可能性があるやつ。
「人命救助出来たから良い報酬なのかな?」
「そうだろうな。俺達もあの小屋の地下室まではいいとして、テトがいなかったら子どもの救出までは行かなかったかもしれないし」
「んー、でもあの子たちが無事に引き取られたかとか、魔法の解除が出来たかまではやらないんだ。ちょっと気になるんだけど……」
「これ、連続クエストだろう、多分。後でまたなにか続きがある」
イオくんの冷静な言葉に、それもそうか、となる僕である。
アナトラのクエストって拘束時間が短いものが多い。長時間必要な場合はちゃんと事前に長くなるけどOK? って確認が入ったりするから、結構ありがたい。
そういう意味では、この砦イベントも半日はかかっているから、ここがちょうどよい区切り時間なのかもしれない。時間がないトラベラーさんならここまででいいや、って終わるかもしれないし、僕みたいに続き気になるなって場合はまた後日に続きをこなせるんだろう。
「イオくん、あとでまた様子見に行こうね!」
「おう。ナツは子供に甘いからなあ」
ナツあまいのー?
テト、今の話題は味覚的な話じゃなくて、対応的なやつので……ちょ、まっ、ざりざりする! 猫の舌ってすごくざりざりする!! ステイ!!
あまくないの……。
「すっごいしょんぼりされたんだけどイオくん!? なんでそんな爆笑するかな、だいたいイオくんのせいなんだけどこれ!」




