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15日目:青と赤の炎鳥

 北の砦は、ウォータースパイダーの沼地の北側、北門から出てぐるっと回り込んでいく感じになる。

 途中まで正道を通って、登りになってきたあたりで北東方向へ進路を変えて……とそこそこに険しい道なので、僕は定期的に【サンドウォーク】をかけ続け、テトの背中でまったり。にゃにゃにゃーんとご機嫌なテトは、僕が背中にいるのが嬉しいらしく、しきりに話しかけてくるのでその相手をしている。

 イオつよーい。

「そうだねー、イオくんはたまに信じられない身のこなしをするよねー」

 ナツもあれできるー?

「無理かなあ」

 と平穏無事な僕の隣では、シスイさんがバッシバッシと弓を引いてアクティブな敵であるフォールバードを撃ち抜いているし、先をゆく前衛3人が一撃食らって落ちてきたフォールバードを即座に殲滅していく。強い。僕【サンドウォーク】以外何もしてない……! まあそのおかげでテトに乗りっぱなしで楽しているわけですが……!

 地味に<迷彩>スキルがいい仕事してるみたいで、そもそも僕が敵に見つからないんだよね。ありがたいけど、仕事してる他の人たちに申し訳ない気持ちになるなあ。


「ナツー、ここ段差」

「はいはい、【クレイ】で足場を設置して……っと。どうぞー」

「ありがとう、助かるわ」

「ありがとうございます」

「<土魔法>は便利だね。僕も欲しくなるな」

「便利ですよ! テトも上って」

 はーい。いつものあしば! ってやつやんないのー?

「今日はやらないよ」

 テトはこういう時<原初の呪文>を使うって覚えちゃってるから、僕がわざわざ【クレイ】で粘土こねてるのが不思議らしい。普段より時間がかかるもんね。でも今日はシスイさんと美月さんが居るからなあ。如月くんには<原初の呪文>のこと教えてるけど、流石にまだ人柄もわからない人たちに広める情報じゃないと思う。

「あ、そろそろ【サンドウォーク】追加ー」

「俺もやります。<土魔法>レベル上がってほしい! 【サンドウォーク】」

 今は僕とイオくんで1パーティー、如月くんと美月さんとシスイさんで1パーティー組んで連結中。美月さんのところのメグはホームに帰還中だ。

 このパーティーだと僕とシスイさんが後衛、他の3人が前衛ってことになるんだけど、シスイさんは魔法は一つもスキル取ってないから、回復魔法は僕と如月くんが使う。美月さんのところのメグは戦闘終了後に回復してくれるらしいんだけど、現状は必要ないかな……って感じ。


「シスイさんは魔法スキル取らないんですか?」

「僕は弓士だし、パーティーには魔法士がいるからね」

 シスイさんは普段、友人たちと3人でパーティーを組んでいて、1人がドワーフで盾、1人がヒューマンで魔法、そしてシスイさんが弓でメインアタッカーという組み合わせなのだそうだ。余裕があれば前衛剣士を1人入れたいけど、知らない人を入れるのはちょっとなーという感じらしい。

「筋力特化でPP振ってるから、魔法を取ってもあまり活かせないと思うよ」

「あー、それはそうかも……?」

 ヒューマンのランダムステータス振り分けがあるイオくんでさえ、現在の魔力値は17だもんなあ。魔力20以下だと攻撃魔法の威力が全然足りないんだよね。


 そんな話をしていると、正道を外れてから30分くらいで目的の砦にようやくたどり着いた。西の砦を見つけた時のように、なにか透明な膜をすり抜けたような感覚の後に、一気に視界が開ける。西の砦と違って、石壁があちこち崩れてどこからでも中に入れそうな様子だった。

「西より一回りでかいな」

 イオくんが言う。

「<識別感知>……うーん、敵反応ばっかり。中はやっぱり魔物の巣になってそうですね」

「叩き潰しましょう」

 美月さん、案外好戦的。さっきから率先して戦ってるし、この中ではプレイヤーレベルが一番高いんだよね。

「落ち着いて。どうやら生存者はいないようだってことで大丈夫だね。如月くん、目的は?」

「はい。中がどうなっているかの調査と、可能であれば遺品の回収です。めぼしいものは依頼主から預かってきたこのアイテムボックスに収納します」

 如月くんは肩掛けの鞄を少し持ち上げてみせた。インベントリを使うとあふれることもあるから、別途回収用の鞄があるのは助かるね。

 テトにはそろそろホームに戻ってもらう方が良いかな? と思ったんだけど、イオくんがこっちを見て「そのまま」と言うので、僕は首をかしげた。目的地に着いたんだからもう戦闘では?

「ナツはそのまま安全圏からなにか良さそうなものを探してくれ」

「えー……」

「ぶっちゃけ敵そんなに強くないから、ナツの出番ねえんだよ」

 

 あー、はい。それはちょっと思ってた。なんか道中の敵、弱いなって。

 フォールバードは木の上に潜んでいて、下を通りかかる獲物に奇襲を仕掛ける厄介な敵ではあるんだけど、<鷹の目>スキル持ちの弓士であるシスイさんがいるお陰で奇襲前に攻撃できている。レベル帯も10~15くらいで、タフさもないからウォータースパイダーやリバーイービルに比較してもすごくあっさり倒せちゃってる。 

 多分、奇襲されちゃうとかなり強いんだろうけど、現時点ではシスイさんに撃ち落とされるだけのHPの低い簡単な敵だ。

「中の敵も?」

「イビルドッグのレベル13~18、もう1種類居るけど、そっちも同じレベル帯でアクティブ表示だ。でもナツはターゲットにならないみたいだし、そのまま隅々まで探索係でいいだろう」

「僕このクエストで1回も攻撃魔法撃ってないんだけど、仕事してなさすぎでは!?」

 ちょっとそれは皆さんに悪いと思います! と主張したんだけど、美月さんからも「【サンドウォーク】助かったわよ?」みたいな反応。如月くんに至っては、「<グッドラック>期待してます」とのプレッシャーを感じる言葉を受け取った。解せぬ。こんなの寄生してるみたいで良くないと思う。どう思うテト? とテトを撫でながら愚痴ったところ、テトはご機嫌でにゃあにゃあとお返事をした。

 ナツいっぱいのってるからうれしいのー。

「うーん、そう言ってくれると僕も嬉しいけど! テト良い子!」


 まあ正直前衛職3人もいたら後衛魔法士には出番が無い。知ってた。

「【ダブルポイント】! 美月さん右お願いします!」

「了解、【薙ぎ払い】! 滅びなさい!」

 中距離リーチの美月さんは攻撃レンジが広いし、如月くんは手数が多い。そこに盾を思いっきり殴り武器にしている剣士が加われば、もはや後衛に回ってくる敵などいないのである。

「あ、シスイさん、そこの右の部屋多分なんかあります」

「ここだね? 誰かの個室だったみたいだな、家具が残っている。……如月くん、こっちへ!」

「はい!」

 そんなわけで3人が敵を倒したあとからテトに乗った僕とシスイさんが探索していって、怪しいところを見つけたら呼ぶ、みたいな形に落ち着いた。

 この砦、魔物の巣になってはいるんだけど、扉が固く閉ざされている部屋も少なくないから、割といろんなものが残っている。

「マグカップ、スプーン、食器類……。あ、このカップ、底に名前入ってますね」

「如月こっちに日記あったぞ」

「どうやら管理人室みたいね。物資の出納帳があるわ」

「この壁に飾ってある絵画も持ち帰るべきかな?」

 テキパキと手分けして遺品っぽいものを回収していく中で、僕はふと疑問に思った。


「ねえイオくん。この手のリアルさは別に求めて無いけど、骨とか遺体は残ってないんだね」

「ああ。浄化の炎で焼かれるそうだ」

 ……相変わらず、なんか聞くと即座に返答をくれるイオくんである。なんでも知ってるこの人。色々調べててえらい!

炎鳥えんちょうという鳥がいるそうでな、赤と青でペアで行動しているそうだ。赤は生命の誕生を祝い、そして青が生命の終わりを弔うんだと」

 イオくんが話してくれたのは、住人から聞いた話を色々集めている雑学掲示板みたいなところに載っていた話なんだって。

 赤炎鳥は生まれたばかりの赤子の居るところに気まぐれに出向いては祝福を授け、祝福を受けた赤子は2・3日間暖かな光に包まれ、その後病気をしにくい健康な子供に育つのだそうだ。

 対する青炎鳥は、人の死を悼む。野に打ち捨てられた死体があれば浄化の炎で焼き、すべての穢れを祓い、大いなる川へと誘導する。時折葬儀にも姿を現し、その特別な炎で焼かれた死者は、迷わず川へたどり着くことが出来て、会いたい人の居る岸辺へたどり着くことが出来るという。

 とても縁起の良い鳥なのだそう。


「この辺とか、焦げてるように見えますし、本当に炎鳥が来たっぽいですね」

 イオくんの話を一緒に聞いていた如月くんが、外の砦の壁を指差す。確かにそのあたりは、焦げているように見えた。この打ち捨てられた砦の中に、たくさんの死者がいたのだとしたら。それらを浄化の炎で焼き、川へ導いた存在が本当にいたのだとしたら。

 それは、ほんの少し、救われる話だなと思う。

「炎鳥の話は、僕も聞いたことがあるよ。イチヤの兵士さんからだったかな」

 僕がしみじみしていると、シスイさんも話に加わってきた。

「戦時中も戦後も、夜になるとあちこちで青い炎が見えて、生き残った人たちに希望を与えたと言っていた。戦争だからね、すべての住人たちの遺体が戻って来るわけじゃない。それでも、例えば森の中で青い炎があがれば、確かに弔われているという証拠のようなものだから。皆、自分の大事な人があの炎なのではないかと、そう信じることができたそうだ」

「なるほど。……そっか、見えるところで死ぬ人だけじゃないですもんね」

 この世界の民話や伝承なんかがまとめてある掲示板、あとでじっくり読んでみたいなあ。



「……大体回収が終わったかしら。ナツくん、どこか気になるところはない?」

 さて、しんみりしながらも砦を見て回った僕たちは、建物を一旦出て中庭へ降りた。一応全体的に全部見たかな? というタイミングでそう話を振られる。美月さんとシスイさんには、<グッドラック>というスキルについては話してあったんだけど、まあ僕の<グッドラック>さんと言えども、そう簡単に毎回何かしら特殊な発見をするわけではない。

 ない、けど。

 ナツー、あそこー。あそこなにかあるよー。くーかんまほうなのー。

 にゃうにゃうとしきりに訴えかけるテトの尻尾がゆらゆら揺れている。そう、僕には<グッドラック>さんだけではなく、この名探偵テトもついているのである!

 っていうかぶっちゃけ<グッドラック>もなんとなく反応してる気がしてる!

「えーと、あそこの、門入ってすぐの小屋なんですけど」

 すでに1回ざっと探索はしてる部屋なんだけどね。あそこを出る時なんか引っかかったんだ。イオくんの<罠感知>は反応しなかったらしいんだけど、僕の<罠感知>は微妙にちょっとだけ、反応した気がしてる。

「あそこは何も無かったはずですけど、何かあるんですね」

 確認するように問いかける如月くんに、僕は「あると思う」と即答した。改めてしっかり見てみると、全体的になんかこう、もやもやとかすかに揺れているような感じ……!


 僕は改めて小屋の中を見渡して、前日に見たツノチキンの高台、そこにあった作業小屋のことを思い出す。放置された年月はあそことそこまで変わらないはず、だとしたらやっぱり、ここの木材の床が腐り落ちてないのはなんかおかしいと思うんだよね。

 この床、特別に良い木材を使ってるってわけでも無さそうだし。

 僕は一度テトから降りて、しゃがんで床を触る。……うん、やっぱりなんか違和感がある。

「テト、さっき空間魔法って言った?」

 くーかんまほうなのー。

「この床怪しいよね。どうやったら解けるかな?」

 どかーんってするー。

「力技かあ……」

 テトもイオくんに毒されてきたかな? でもこの床、特につなぎ目とかも見つからないし、隠し扉とかあるのかわからない。とりあえずみんなに「この床が綺麗すぎて怪しい」ということを伝えると、イオくんと美月さんが同時に口を開いた。

「ぶち抜くか」

「ぶち破りましょう」

「イオくんはまだしも、美月さんまでなんでそんな好戦的なの……!」

「はやいでしょう?」


 そうだけど!

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