14日目:レストさんは善人である。
「あーあ。俺が先にオーレンさんの呪いに気づいてたら、恩を売ってもうしばらく結婚に反対してもらったのになぁ」
がくーっと肩を落とすレストさんである。
「しばらくでいいの?」
と問いかけてみると、そりゃあな、とレストさんは頷く。
「想い合ってる2人をいつまでも引き離しちゃおけねえよぉ。そんくらいはわかってるって。でもそれはそれとしてビストは誓いの言葉で噛んで恥さらせと思うけど」
おお、レストさん結婚自体には反対じゃないのか。いい人だなあ。
まあさっきも仲は悪くないって話だったし、なんだろう、僕の脳内では犬獣人のビストさんがめちゃめちゃレストさんに懐いているイメージが鮮明に思い浮かべられる。家出る前に結婚の報告あったって、それもしかして許可もらって真っ先にレストさんのところに教えに行ったのでは?
「ビストさんって、もしかしてレストさんの初恋の相手がエーミルさんだと知らない……?」
「知らんだろうなぁ。言ってねえし」
「そこはなんとなく察したりとか……?」
「出来るようなら愚弟とか言わんし」
「ですよね! ということは多分、結婚の許可が出て嬉しくて、真っ先にレストさんに祝ってほしくて報告に走った可能性が濃厚では。多分ビストさんってレストさんのこと大好きだよね?」
僕、全然ビストさんのこと知らないけどなぜかそれだけは確信出来るよ。と言ってみたところ、レストさんは微妙な顔をした。綺麗な青い目を細めて、遠くを見るような表情だ。
「ビストは……まあ、馬鹿だけどいい奴なんだよ。馬鹿だけどぉ」
「2回言った……」
「頭は悪いんだよぉ。勉強できねーし計算苦手だし。でも珈琲に関することだけはすらすら覚えるし、店に関してはほんとによくやってる。頭は悪いけどぉ」
「2回……」
「テスト前に泣きつかれた数なんて両手じゃ足りねえからなぁ」
多分教えてあげたんだろうなあ、レストさん。もう一つにんじんクッキーを食べながら、レストさんは息を吐いた。あ、これはお兄さんの顔だね、イオくんところの長男の晴臣さんがよくこういう顔してる。仕方ないなあって感じの顔。
「でも、俺が風邪引いて寝てる時、隣で「死なないでー!」ってギャン泣きするような愚弟だぞぉ? 一周回ってかわいいやつだよぉ、許さんけど」
「許さないんだ」
「結婚式で絨毯につまずいて転べばいいのにと思ってる」
うむ、優しい。
「はぁ、もうこの年になって初恋の人が義妹に……。もうどうなってんだこの世界、俺に厳しい……」
「レストは今、何歳なんだ?」
あんまりこの手の話題に興味無さそうなイオくんも、レストさんの人柄には割と好印象だったのか、話を促す。
「俺は25歳」
「そうなのか。レストは良いやつだし、恋人はいないのか?」
「モテねぇんだよなぁ。なんでか昔からビストばっかりモテやがってよぉ」
あー、まあそれはなんか分かるかな。
実際の人柄がどうとかじゃなくて、ビストさんみたいな正直そうな人はわかりやすくて好かれそう。逆にレストさんの良さって第一印象からはあんまり見えてこないし、ある程度話をしてからいい人だなって分かると思うんだよね。年下にモテそうなタイプと見た。
「ちくしょー、俺だって一回くらい熱烈に告白されてみてぇよ。あなたが初恋です、とか言われたら俺はころっと落ちるぞぉ」
「いや、そこはちゃんと考えよう!?」
「今めちゃくちゃ凹んでるからなぁ、もう今優しくされたらイチコロだかんなぁ」
レストさんはそんなことを愚痴りながら額をテーブルにぶつけた。落ち込んでいらっしゃる。
だいじょぶー?
とテトがにゃうにゃう言いながらレストさんの横に陣取っている。テトー、レストさんはちょっとショックなことがあったから元気ないみたいだよ。なにか元気になる方法知らない?
よくわかんないけど、おいしいものたべたらげんきー。
そうだね、美味しいものは大事だね。
「テトが、美味しいもの食べたら元気が出るよって言ってるよ」
「お前、さては良い猫だなぁ? 撫でてやろう。……あれ、そう言えばお前たちはなにか買いに来たのか? 俺の店、あんまり人に広めてねえんだけど」
レストさんはテトを撫でながら、超今更なことをようやく口にした。そうだった。なんかインパクト強い話題になったから忘れてたけど、目的は買い物だった。聖水のことだよ!
「ああ、この店のことはミィティから聞いた」
「あー、あのお転婆なぁ。あいつ100歳くらいだから逆らわない方がいいぞぉ、あんなんでも超強いんだ」
「えっ、そうなの!?」
「フェアリー族だしなぁ。まあ、あいつの逆鱗に触れたらあれだ、氷漬けにされて噴水に沈められる」
「見てきたような言い方……!」
「家の愚弟が5歳の頃にやられたなぁ」
「事実でしたか……!」
ビストさん何したの……と思いつつ、でも5歳児にそれはちょっと厳しいと思う僕である。
「そのミィティが、聖水がほしいならこの店で売っていると教えてくれたんだが」
「へー。どのレベル?」
レベル……? あ、効果のレベルのことかな。破邪の聖水が一番良いものなんだよね、確か。
「まずそのレベルについて教えてもらえるか。俺達は詳しくないんだ」
というイオくんの言葉に、レストさんはちょっとだけ背筋を伸ばして簡単に説明してくれた。流石に仕事はきちんとするタイプ……真面目なんだろうなあ。長男ってたいてい真面目っていうか頑固なイメージある。一般論だけど。
「一番安い、この瓶がただの「聖水」。軽度の呪いとちょっとした浄化、レベルの低いアンデット系の魔物に効くやつ。次がこれ、「浄化の聖水」。一般に庶民がお守り代わりに家においておくのは、たいていこれ。中程度の呪いとかアンデット系魔物に効く。んで、「白光の聖水」。これは重度の呪いも解けるけど、呪いの解呪に特化してるから他の効果は「浄化の聖水」と同じくらいか。一番良いもので何にでも効くのが「破邪の聖水」だな」
ただの「聖水」と「浄化の聖水」は在庫があったみたいで現物を見せてくれたけど、残りの2つは作り手が少ないし作るのが難しいから流通が少ないらしい。
「家で買えるのは白光までだなぁ。今は在庫無いけど、まあ仕入れるのは難しくない」
「そうなんだ。ちなみにおいくら?」
「ただの聖水は、作れるやつも多いから5,000G。浄化は50,000G。白光は500,000G。破邪になるともう一つ0が増えるなぁ」
「お高い……!」
イオくんめちゃくちゃ良いものをもらってたんだなあ。でもこのお値段だと気軽に良いのを買えない……っ! 心情としては白光くらいを手元においておきたいけど、予算がそれを許さない感じだ。
「浄化を3本くらい買っておく?」
「そうだな。今後重度の呪いに遭遇するかもわからんし、この世界でも一番一般的だって言うし」
オーレンさんの呪いも中度の呪いだったから、重度の呪いってそこまで多くないような気がするんだよね。どこかでまたお金を稼いだら、念の為白光を1本欲しいけど。
今はちょっと予算がないので無理!
「2人はオーレンさんの呪いを解いたんだろ、聖水を使ったのかぁ?」
「ああ、ちょっとした伝で「破邪の聖水」をもらって手元にあったからな」
「あぁ、マジかぁ。オーレンさんの呪いに破邪を使ったのかぁ……」
レストさんは少し何事かを考え込んで、それから「しゃあねぇなぁ」とつぶやいた。
「聖水の作り方、教えてやってもいいけどさぁ」
「え、ほんと!?」
「ありがたいが、伝承スキルは面倒なんじゃないのか」
「身内になる人が迷惑かけて、破邪の聖水なんて高価なもん使わせたんだし、そこはなぁ」
心底面倒そうにそう言うレストさんだけど、正直めちゃくちゃ助かる! どうやって教えてもらうか考えてたところだったし!
それにしても、すでにエーミルさん一家を身内認定しているレストさん、ほんとにいい人だな?
「んー、でも教えるならナツだろぉ? 今作れるの、聖水だけだぞ」
「十分だよ! 教えてくれるならとっておきのスイートポテトの作り方を伝授します! イオくんが!」
「俺かよ」
「イオかよぉ」
ケラケラ笑うレストさんに、テトが一生懸命「あのねー、イオのスイートポテトおいしいのー、おきにいりなのー」と訴えている。にゃんにゃん主張しているテトは何を言っているんだ? って感じに見られたので、通訳しておく。
「テトのお気に入りのスイートポテトだって」
「まぁこいつがそういうんなら美味いんだろうなぁ。食いしん坊な顔してるし」
「ナツそっくりだろ」
「イオくん!?」
まあそんなこんなで、明日の午後の早い時間ならレストさんの時間も空いてるし、教えてやるよぉ、と約束してもらえました。
<原初の呪文>のときのことを考えると、ちょっとどのくらいの時間がかかるのかよくわかんないけど、とりあえず師匠はゲットしたので安心だ。
浄化の聖水を買って帰る時に、ビストさんと仲良くねー、と言ったら、ケッて顔してたけど。
「あいつなんてスープにたまに入ってる生煮えの人参に当たってしまえ」
……なんていうかレストさんって、無害な人だな。幸せになってほしい。
***
ここまでのナツのステータス
ナツ プレイヤーレベル15 上級魔法士レベル9
HP:150 MP:460
筋力:5 物理防御力:15 魔力:46 魔法防御力:40
俊敏:10 器用:25 幸運:43
残りPP:0
■基本スキル
<瞑想>レベル2 <魔操>レベル9 <迷彩>レベル4 <原初の呪文>レベル5 <魔力強化>レベル1
■発展スキル
<上級水魔法>レベル3 【ウォーターアロー】【アクアクリエイト】【アクアウォール】【アクアヒール】【アクアレイン】【ディフェンシブ】/ 【アクアランス】【ミスト】【アクアウェーブ】
<上級火魔法>レベル3 【ファイアアロー】【イグニッション】【ファイアウォール】【パワーレイズ】【ファイアレイン】【ファイアヒール】 / 【ファイアランス】【ファイアウェーブ】
<上級風魔法>レベル2 【ウィンドアロー】【クリーン】【ウィンドウォール】【ウィンドヒール】【ドライ】【ウィンドラッシュ】/【ウィンドランス】【フロート】
<上級土魔法>レベル3 【サンドアロー】【サンドウォーク】【サンドウォール】【サンドラッシュ】【クレイ】【リフレッシュ】/【サンドランス】【バインド】【レジスト】
<上級光魔法>レベル1 【ライトアロー】【ライト】【ライトウォール】【ホーリーギフト】【ライトランス】【ピュリファイ】/【ホーリーレイン】
<上級闇魔法>レベル1 【ダークアロー】【ダークアイ】【ダークウォール】【カオスギフト】【ダークランス】【ブラインド】/【ダークラッシュ】
<MP回復量増Ⅱ>レベル7 <上級彫刻>レベル7 【フリードロー】【インスピレーション】【アンドゥ】 <識別感知>レベル8 <罠感知>レベル3 <総合鑑定>レベル9 <高度魔術式>レベル2 <強節制>レベル4 <ヘイト低下(中)>レベル3 <魔力ブーストⅡ>レベル1
■固定スキル
<ヘイト軽減Ⅰ>敵からのヘイト20%軽減
<MP軽減Ⅰ>使用MP20%軽減
<魔法回復量増加Ⅰ>自分が使用する回復魔法の回復量を20%UP
<グッドラック>レアドロップ率UP、レア遭遇率UP、レアイベント発生率UP
<妖精の眼> 妖精郷・それに準ずる場所への扉、隠れている妖精を見つけることができる。
<意思疎通> 自分の契約獣とある程度の意思疎通が可能になる。
おまけのテト
テト
■基本スキル
<飛翔>レベル2 空を飛ぶほどレベルが上がるよ! レベルが上がるほど高く飛べるよ!
<騎乗>レベル3 人を乗せて走ったり飛んだり出来るよ! レベルが上がるほど早く走れるよ!
<空間収納>レベル2 影に荷物を入れるよ! レベルが上がるとたくさん入るよ!
<空間魔法>レベル2 レベルが上がると、足場を作るだけじゃなくて空間をつなげたり出来るよ!
<一気加速>レベル1 発動すると一定時間、すごく早く走るよ!クールタイムがあるよ!
■固定スキル
<騎乗者保護> 騎乗者が振り落とされたり酔ったりしないように保護するよ!




