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14日目:趣味の店・月夜の調べ

いつも誤字報告ありがとうございます。

 ホタテとアサリのクリームパスタ、めっちゃ美味しかった!

 僕は基本的にはパスタはトマトソース派なんだけど、ギルド前通りの「夢見の雌牛亭」では、ヨンドに親族の経営する牧場があるとのことでクリームパスタ推しだったのだ。というか、ここはパスタ屋さんではなくて乳製品を使ったクリーム系料理全般のお店で、ディナータイムはメイン料理を1品選んでスープとサラダ付き1,500Gという、リーズナブルさである。

 にも関わらず地元の住人さんたちで賑わっていたのを見て、イオくんがこの店に決めたんだけど、これが大正解! 迷ったときは地元の人たちが行く店に行けっていうのは、旅行に行くときのイオくんの信条らしい。僕も参考にしよう。

 まあ貧乏大学生は常にお金がないので、当分旅行とか行けないけどね。


 そんなことより「夢見の雌牛亭」なんだけど、ここは地元の若い人たちに人気のお店だ。価格帯が低いから入りやすいし、お酒をおいてないから酔っぱらいに絡まれないってのがその理由。

 で、ここで一番人気の飲み物は、なんとラッシー。この店ではヨーグルトミルクというんだけど、家のお母さんが暑くなるとよく作ってくれるラッシーもヨーグルトと牛乳をベースにしてレモン汁と砂糖で混ぜたものだから、僕の中ではこれはラッシーだ。そしてそれに果実ペーストとか入ってるのもある。

「えー、これ最高なんだけど!」

 と思わず真っ先に注文してしまった僕である。

「飲物もいいけどメイン料理先に選べよ」

「昼お肉だったから、夕飯は魚介がいいかなー。あ、ホタテとアサリのクリームパスタにする!」

「そうだな、俺も昼は米食べたし、夜は別のにするか……。お、ポットパイがある。これにしよう」

「ポットパイ……?」

「ナツも好きだろあれ。シチューを深めの器に入れてパイ生地で塞いで焼くやつ」

「あ、アレめっちゃ美味しい。正式名称はつぼ焼きじゃなかった……だと!?」

「いやまあつぼ焼きでも間違いではないんじゃないか……?」

 へーそうなんだ。僕の家ではあれは「つぼ焼き」とずっと呼んでたので他の名称は知らなかった……けどポットパイかあ、言われてみればそのまんまな名称だね。

 

 そんなこんなであんまり期待せずに食べたディナーが、めっちゃ美味しかったんだよ。

 まずサラダのドレッシングがクリーミーでまろやかで最高に僕の好みだったし、スープも甘みがあって軽い感じのポタージュで口当たりよし。メインのパスタもボリュームがあって文句なし! イオくんの方も、パイ生地の下のクリームシチューがチキンがゴロゴロ入ったボリュームのあるやつだったのでご満悦っぽい。それに、別注文したラッシーがすっきりした味でこれまた美味しい。おかわりしなきゃ。

 ナツー、しろいのおいしいのー。

「ポタージュだよテト。もう少しいる?」

 わーい、ほしいー。

 テトが美味しそうに舐めているポタージュはじゃがいものポタージュ。栗とさつまいもが好きなテトなら気にいるかもと思ってあげてみたところ、見事に気に入ったようです。今日はテトもいっぱい乗せてくれたし、お礼にスープは譲るか、と思っていたら、イオくんが店員さんを呼んでテト用に小さいスープを頼んでくれた。これこそ気遣いの出来るイケメン、出来る友人である。

「別料金で300Gかかりますがよろしいですか?」

「お願いします」

 メニューにミニサイズはなかったけど、聞いてみるものだね。テトはイオくんに向かって「ありがとー!」とにゃーんと鳴いた。なんか僕とテト、そろってイオくんに頭が上がらなくなりつつあるな。


「安くて美味いのはありがたいな。ここはまた来るか」

 とご満悦のイオくん。サンガはどこで食べても基本美味しいから、これと言った行きつけはまだ決めてない。でも確かにこの店は通い詰めるのもありだ。テトのポタージュもすぐに持ってきてくれて、店員さんがテキパキしてるのも印象が良いよね。テトは店員の女性にありがとー! と愛想を振り前いてにゃうにゃうしていて、すごくほほえましい感じに見られていた。

 サンガは美食の街なだけあって、安めのカジュアルな店も軒並み美味しいところが揃っている。逆に言うと、美味しい店だけが生き残るってことなんだと思う。

 メガさんたちみたいに、まだ屋台で修行中の料理人さんたちもたくさんいるし、この街の競争率ってすごく高そうだよね。でも、この街で一定の評価を得た料理人なら、他のどんな街に行ったとしてもそれなりの成果をあげられそうでもあるから、その辺の厳しさっていうのも大事なものなんだろうね。



 というような話をしつつ、美味しい夕飯のあとに向かったのは北門付近の新人通り、その奥の方から南下して木目通りに至る小道。

 名もなきその通りは、どう見ても住宅街だ。そして住宅にひっそりと隠れるように存在するのが、今回の目的の店「月夜の調べ」。ミィティさんが教えてくれた、聖水が売っているかもしれないお店なのである。

「どう見ても民家」

「看板無かったら見逃す自信があるよ」

 と、僕とイオくんの意見も一致した。

 ガラス戸だから、少しは民家と違った雰囲気はあるんだけどね。とりあえず入ってみるか、とイオくんがそのガラス戸をあけると、「いらっしゃーい」と中から聞こえてくる声は元気無さそうな感じ。僕もイオくんのあとから店に入って店員さんを探すと、奥のカウンターにいたのは狐獣人の男性……あれ。なんかちょっと誰かに似てる……?

「あ、ビストさんに似てる」

 思い当たって思わず口にしたところ、狐男性は顔をあげた。

「ん? 愚弟の知り合いかぁ?」

「ぐてい……?」

 なにそれという顔をした僕に、イオくんが「簡単に言うと弟って意味だな」と解説を付け加えたので、ようやく漢字に思い当たった。ああ、愚弟のことか。字面では知ってるけど、実際にそんな事言う人初めて見たな。


「俺はイオ、こっちのぼんやりしてるのがナツで、この白猫はテトだ。ビストとは珈琲を買った時に色々話した」

「ふぇー。トラベラーさんだろ? 世界狭いなぁ。俺はレスト、あの何も考えてない駄犬の兄だよ」

 テトだよー、よろしくー。とテトはいつものご挨拶。

 でもレストさんは契約獣には特に思い入れがないみたいで、テトにちらっと視線を向けて「おう」と言っただけだった。撫でてもらえなかったテトはちょっぴり不満げで、僕の手元にぽすっと身を寄せてくる。はいはい、僕が代わりに撫でるよー。

 レストさんはちょっと眠そうな、こういうのなんて言うんだっけ、気だるげ? な感じの狐獣人さんだ。ビストさんは若さはつらつって感じだったけど、こちらは年齢の割に大人びていそうな雰囲気がする。ビストさん19歳だっけ? じゃあレストさんは20代前半くらいかなあ。

 そういえばビストさんは犬獣人さんだったけど、レストさんは狐さんなのか。この辺の遺伝ってどうなってるんだろう。

 と不思議に思っていると、一瞬ちらっと僕を見たイオくんが口を開いた。

「獣人族は、家族内でも獣種が違うのか?」

 それ、今僕が聞こうとしてたやつ……! 思考を読んでくるのどうにかなりませんかねイオくん……!


「あー、家の両親は犬獣人だけど、母方の祖父とその両親は狐獣人だからなぁ。隔世遺伝ってやつ」

「なるほど。犬と狐の両方の特徴を持ってたりはしないのか」

「いや。トラベラーさんたちの世界では違うらしいけど、ここでは獣人とヒューマンとか、鬼人とヒューマンとか、種族が違っても類が同じなら結婚できるからなぁ。その時、子供がどっちつかずになったら、苦労するだろ。だから、異種族結婚の場合、子供は両親のうちどちらかの種族になるって決まってるんだよ。獣人の獣種についても同じ」

「へえ」

 そういえばキヌタくんもヒューマンと鬼人の間に生まれた子供だけど、外見的にはほぼヒューマンだもんね。ちょっと普通のヒューマンより体が大きいけど、そのくらいの体格差なら個性だし。

「血筋に他の種族がいたら、隔世遺伝が起こる、って感じか。その場合、例えば祖母がエルフで祖父と両親がヒューマンでも、子供にエルフが生まれる可能性があるということで合っているか?」

「そうだよ。まあ俺は祖父が狐だからまだわかりやすいけどなぁ。何代も前の隔世遺伝が出たときなんかは大変だ、調べるのも一苦労でさ」

 レストさんはため息をつきながら肩をすくめた。戦争が終わったばっかりだから、戸籍とかも混乱してるだろうしなあ。そういうのってどうやって調べるんだろう、やっぱり魔法かな?


 それにしてもレストさんは結構教えるのが上手……面倒見の良いタイプと見た!

 でもそうするとちょっと疑問があるので、僕も会話に混ざってみようっと。

「えーと、レストさんは、ビストさんとは仲良し?」

「仲は悪かぁねえよ」

「そうなんだ。さっき愚弟とか言ってたから、仲悪いのかと」

 とりあえず気になっていたことを確認できてよかった。でも僕の言葉に、レストさんは不機嫌そうにむっと顔をしかめてしまう。ご機嫌斜め……というよりは、元気ない感じ?

「なんか元気ないですね」

「元気出せるかよぉ。初恋の人が弟と結婚するとか、なんの罰ゲームだよちくしょー」

「うえ、あ、エーミルさん!?」

 え、兄弟で!? 同じ人を!? それはなんていうか……!

「ご愁傷さま……」

「くぅっ、悪いかよぉ! ここらの子供なんてみんな1回くらいは北門から外に出てエーミルの「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」に心奪われてんだよぉ!」

「なるほど初恋泥棒……!」 

 エーミルさんって美人さんだしね、そりゃ仕方ないなあ。ビストさんとは喋ったこと無いけど、イオくんやエーミルさんと話している様子をみると素直で真っ直ぐな人っぽいし、真正面からストレートに好きですアピールされたら女性は弱いんじゃないかなあ。何しろ家の両親がわりとそういう感じの馴れ初めだったからね。


「あー、もしかして今日、結婚の報告があったか?」

「俺が仕事に行くって家出る直前になぁ……」

「すまんな、それ俺とナツがオーレンの呪いを解いたからだな」

「はぁ!? ちょ、ちょっと待てそれ詳しく! そこ座れ、紅茶くらいなら出してやるから!」

 レストさんが慌てたようにカウンター横のテーブルセットに僕たちを促す。まあ気になるのも当然だと思うので僕たちは素直にそれに従った。というか今日もう結婚の許可もらったんだねビストさん、すごい、仕事が早い。呪い解いたのって今朝なのに……!

 そしてレストさんはちゃんと茶葉から丁寧に紅茶を淹れてくれた。これ匂いで分かる、美味しいやつだ。ただで紅茶いただくのもなんか申し訳ないので、テトもラリーさんも食べなかったにんじんクッキーを出したところ、「なんだぁ、これ」とか不思議そうにしながらも食べてくれた。いい人だな。

「お、すげえ、にんじんだ。甘い」

 あまいー?

 レストさんが驚いたように言った言葉に即座に反応したテトは、レストさんににゃうにゃう言いながら近づいていったけど、多分その甘さはテトの求める甘さじゃないんだよなあ。

「テトはかぼちゃでしょ。まだあったっけ?」

「かぼちゃクッキーはもう無いぞ。他の焼き菓子出すか?」

「あ、それなら僕が」


 地味に色々買い貯めている中から、厳選してリィフィさんのところの琥珀糖っぽいのを出しましょう!

「あ、イオくんも食べる?」

「1個でいい」

 言うが早いか、イオくんはぽいっと1つだけ口に運んで、うむ、って顔をした。これはそこまでヒットしてないけど無難に美味いなって顔だ。

「テトー、リィフィさんの琥珀糖だよー」

 なでてくれるひとー。あまいー?

「甘いよ!」

 魔力が込められているお菓子だから、契約獣のテトにも良いのではないかな? と思ったので1個あげてみると、テトはにゃふーっと満足そうな顔をした。超美味しい! って感じの反応ではないけど満足げだ。どう? と感想を促すと、

 あまーい。なんかふわーっとするー。

 にゃーん、ととろけるような鳴き声でのお返事でした。やっぱり味というより魔力が込められていることで得られる満足感があるらしいね。

「レストさんはにんじんクッキーもっとあるのでどうぞ遠慮なく!」

「食うけどぉ」

 なんかちょっと微妙な顔をされる僕である。いや、ほら、お茶にはお菓子大事じゃん。そこは譲れないんだよ個人的に。


 レストさんが用意した紅茶を飲みながら、ざっと朝の出来事を説明する。イオくんが。

 いや僕だって説明くらい出来るけど、イオくんのほうが言葉選びが上手いからね! その間僕はテトとお菓子食べながら待ってるので……美味しい上にきれいなお菓子を作るリィフィさんはすごいなー。

 テトと一緒においしいねーって言ってたら、イオくんが今朝の出来事を説明し終わって、レストさんは深々と息を吐いていた。

 そして急に顔を上げたかと思うと、

「ちくしょービストの野郎! 超かわいい娘を授かってお父さんうざいとか言われて傷つけばいいんだぁ!」

 などと叫びながらテーブルに拳を振り下ろす。

 さてはレストさん、善人だな……?

連休中ちょっと出かけるため3日ほど更新無いです。

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