14日目:経験値効率の良い敵
高台から逃げ帰って来た僕とイオくんは、ご機嫌なテトに導かれるままに東門の近くから川を渡って南側へ出た。
必殺【足場】乱発でイオくんを川の向こうに渡し、僕はテトで飛んでいく。「俺も空中機動力欲しい」とイオくんがぼやいていたのだけれども、数少ない僕のアドバンテージを取らないでほしい。
どうせならイオくんはペガサスとかと契約すれば良いよ、すごく騎士っぽいし。白馬の王子様やれるじゃん? と言ってみたところすごくいい笑顔で「ねえよ」と一刀両断されました。ですよね。
「冗談だよ。正直に言うと白馬より熊とかのほうがイオくんには似合うと思いました」
「実は俺もそう思う」
思わず真顔で頷いてしまったね。
さて、そして川を渡ったのには理由があって、この辺にまた見慣れない魔物がいたから、どんな敵なのか視察するためだ。レベル帯にもよるけど、ちょっと倒してみて何をドロップするのかも知りたい。
それというのも、門番さんたちの魔物情報が偏っているからなのだ。仕方のないことなんだけど、門番さんたちは門の近くに出る魔物しか知らないんだよね。だから、ちょっと正道から外れると、近くであってもそこにどんな魔物が出るのかわからない。リバーイービルの時にそれが発覚したから、多分、こっちの方にもソードリモ以外の敵が居ると思ったというわけ。
ツノチキンとかいい例だと思うんだよね。食料になるからギルドでそこそこ高く売れるのに、門番さんたちの話題には一切上がってないし。
「ロワの森の奥の方にも、なんか強いのが居ると思うんだよね。あの辺すごく空気が重い感じだったし」
「フィールドボスみたいなのはいそうだよな」
と会話しながら、サンガから見て南東方向へと向かう。
アナトラには魔王はいないから、巨大な敵に立ち向かうことが目的ではない。
じゃあなんのためにレベルを上げるかっていうと、そういうフィールドボスを倒して良い素材を手に入れるためだったり、神と名につく神獣たちに認められるためだったり、一定のレベルがないと入れない場所に入るためだったりする。あと、ナルバン王国の魔物は比較的弱いって設定もあって、今後レベルが高くないと入れない国とかも出てくるんじゃないか、って話だ。
まあでも、現在の掲示板の様子を見てみると、みんな敵を倒してお金を稼いで超美味しい物食べたい! とか、めちゃめちゃ強い武器欲しい! みたいな理由でレベルをあげているっぽい。分かる。あとはスキルの詳細が知りたいとか、レベルアップの先で選べる職が知りたいとかだね。正直これは僕も知りたい。
とっても上機嫌で乗せてくれたテトには悪いけど、戦闘になるからここらで一度ホームに戻ってもらう。やだやだー! ってちょっとごねてたけど、イオくんに「ギルドに戻ったらマロングラッセだしてやる」と言われて即座にホームに戻っていったので、素直でいい子だなーと思います。
「扱いやすくていいな」
「イオくん、言い方」
「……素直で助かるな」
うむ、そういうソフトな感じで頼みます。
さて、やってきた南東方面だけど、結構荒れ地っぽい。サンガ南が崖だったけど、それがずーっと東方向に続いていって、その崖の高さがだんだん低くなってく感じ? 東に向かって緩やかに下ってるような地形で、そのずーっと先には海があるんだろうけど、ここからは見えない。
そんなわけで、南東方面にもまだ崖が続いているから、それほど探索場所は多くないんだけど……。
「<罠感知>がめちゃくちゃ反応する」
「このへんだな、石投げてみるか」
イオくんがちょっと大きめの石を拾ってひょいと投げると、落ちたところが崩れ落ちて穴になった。そしてその奥から石に向かって襲い来る昆虫的な……アリ? いやアリにしてはなんかちょっと……。
「……金ピカだ!」
「アリじゃねえな。コガネムシか?」
「コガネムシって地中に住んでたっけ?」
「こっちの世界ではそうなのかもな。<鑑定>……サンドインセクトっていういかにもな名前がついてる」
まんまじゃん、その名前。
僕も<鑑定>して……お、レベル13! ちょうどいい感じだ。
「とりあえず戦ってみようよ!」
何がドロップするか気になるし!
*
というわけで叩いてみたこのキンキラの虫、なんと光属性でした!
「ナツ! 穴塞げ!」
「了解! 【封鎖】!」
しかもこいつ、ちょっと大ダメージ食らうとすぐ地中に逃げようとする! 戦いづらい事この上ない……でも、そんな敵相手になぜか大活躍の<原初の呪文>なのである!
サンドインセクトは土の中に巣穴を掘って暮らしていて、この巣穴はアリの巣のように下方面に深いらしい。ダメージを受けるとこの穴に逃げ込んで立てこもっちゃうから、最初は【ファイアアロー】を投げ込んであぶり出してたんだけど、少しでも巣穴に戻ると微妙にHPを回復するのでうざったい敵なのだ。
そこでイオくんが「穴塞げないのか?」とアイデアを投げてくれたので、僕は頑張って考えてみた。そして瓶にふたするイメージで【封鎖】が使えたのである。まあ<原初の呪文>なので1分も持たないんだけど、それだけあれば穴の上からどかせるし、イオくんが上手いこと場所を誘導してくれるのでかなり楽になった。
穴にさえ逃げ込まれなければ回復しないので、こっちのもの。というわけで僕も<闇魔法>のレベル上げに忙しい。
「【カオスギフト】!」
「よっしゃ盲目! 【打撃】!」
「ラッキー! 【ダークアロー】!」
光属性の敵だからか、【カオスギフト】が100%で通るんだよねこいつ。ポイズンシープには全然利かなかったからちょっと嬉しい。結構ちょこまかと動きがうるさい敵だったけど、攻撃そのものはそんなに痛くないし、穴に逃げ込ませなければ倒すのは楽だね。
「よしラスト! 【突撃】!」
とイオくんがトドメを刺して終了だ。
「お疲れー」
「おう……おう? ナツこいつやべえぞ、経験値だ」
「え?」
何が? と思いつつ共有インベントリを確認したところ、なんとまさかのドロップなしだった。えー、何にも落ちないのつまんないなーと思いつつ経験値バーを確認すると……戦う前よりもぐーんとバーが上がっている……!
「……え、もしかしてこのサンドインセクトって、とんでもなく経験値くれるやつ……?」
「メタルなんとか的な」
「もう何匹か倒したらジョブレベル上がるよこれ!」
「やるしかねえな!」
というわけで、狩りました。
狩りましたとも、光る虫を!
倒していく内にわかったんだけど、サンドインセクトには金銀銅の3色があって、金色が一番経験値がもらえるやつで、銀、銅の順番に経験値量は減っていくし、弱くなる。銅は流石に手間だからスルーするとして、狙うのは金か銀、できれば金がいいんだけど、金は数が少ない。
10匹くらい倒したけど、金は2匹しかいなかった。ほかは全部銀。でもそれでもプレイヤーレベルと職業レベルが1つずつ上がったんだからすごい。この経験値量、とんでもないな……と思ってたんだけど……。
「プレイヤーレベル15に上がったら経験値ほぼ0になるとは」
「なんて世知辛い世の中なんだ……!」
そう、この経験値の素晴らしく良い敵、レベル13の個体しかいない上、レベル15以上になるともらえる経験値がほぼ無くなるのであった。無限レベルアップは無理ってことだね……。
「もともと敵より2レベル上がるともらえる経験値がくんと減るからねえ……。当然といえば当然の結果なんだけど」
「あの経験値の上昇率を一度味わうとなあ」
「あまりにも惜しい。でもこれ以上は駄目かあ」
一応イオくんが調べてくれたんだけど、サンドインセクトは出会えたらラッキー枠の魔物で、土の中を移動するので同じところにずっと留まったりはしないらしい。出現レベルも様々で、たいていは遭遇したパーティーの一番強い人のレベルより1つ下のレベルで出現する。僕たちの場合は、2人ともレベル14だったからレベル13で出てきたというわけだ。
出会った時に、例えばレベル10の人とレベル15の人がパーティーを組んでいて、レベル14のサンドインセクトが出現したら、レベル10の人はものすごい恩恵を受けられる、ってことだ。
「また出会える確率はそこそこ高いらしいから、そこは嬉しいんだけどねー」
「もうちょい戦いたかったな」
「極稀に同じレベルで出てくることもあるらしいから、次はそれだといいね」
まあ、ラッキーには制限があるよねって話だ。仕方がない。
「セーフティーエリアでスキル確認してPP振るか」
「あ、そう言えば僕も10以上溜まった! 器用欲しい器用」
「俺も器用欲しい」
というわけで、一度近くのセーフティーエリアへ。
今の僕のステータスは、こんな感じで、自分で振り分けられるPPは11たまっている。
筋力:5 物理防御力:15 魔力:46 魔法防御力:36
俊敏:10 器用:18 幸運:43
筋力と俊敏はなんか悔しいから放置として、物理防御……いや! いらない! だって僕まで攻撃来ないから!
自爆攻撃してきたあのファイアトレント以外で、HPピンチになったこと無いし。イオくんの盾を信じる! なので僕は7を器用に突っ込んで、残りの4を魔法防御に入れよう。魔法防御が高いと状態異常になりにくいらしいし。
というわけで、これでOK。
筋力:5 物理防御力:15 魔力:46 魔法防御力:36+4=40
俊敏:10 器用:18+7=25 幸運:43
お守りの品質、これで上がるといいなあ。
これで後はスキルなんだけど……、SPの残りは42かあ。<原初の呪文>の発展スキル、SPどのくらいかなあ。なるべく貯めておきたいけど、基本スキルの<魔力ブーストⅠ>がカンストしたから発展スキルの<魔力ブーストⅡ>が取得できる……。
<闇魔法>もカンストしたので、レベル9で【ダークランス】、レベル10で【ブラインド】を覚えている。ランスはいいとして、【ブラインド】は、【カオスギフト】のようなランダムじゃなくて盲目の状態異常を敵に付与するデバフ魔法だ。【カオスギフト】が通常の敵に7割の確率で効くとしたら、【ブラインド】は状態異常無効系のスキルを持たない敵全てに効く。例え耐性を持っていたとしても、効果時間が短縮されるだけで効くことは効くらしいので、断然使い勝手は良い。
盲目の状態異常は、異常状態中ヘイトが溜まらなくなるし、敵からの攻撃は外れやすくなるし、全体的に動きが鈍くなるからすごく便利なんだけどね。クールタイムが長いから、使い勝手が良いかと言われると微妙かなあ。
「うーん、SP貯めたいけど、さっきカンストしたばかりの<上級闇魔法>と、<魔力ブーストⅡ>と<魔力強化>を取ります……!」
基本スキルの<魔力強化>は、宣言すると30秒間魔力+5状態になれるので、敵のHPを大きく削りたい時に使いたい。SP15を支払って、3つとも取得。
って、取得したら新しい発展スキルがたくさん出た。
「あー、なるほど。全部の魔法スキルを上級にすると、新たに<雷魔法><氷魔法><樹魔法>が出現したよ」
「あ、いいなそれ。俺<氷魔法>ほしい、氷雪の剣持ってるし」
「氷の騎士様って呼ばれてしまう……」
「ダセエ」
けらけら笑うイオくんである。まあイオくん青いし、氷魔法使ったら似合うと思うけど。
「一応、状態異常耐性に関わるから魔法防御あげて、あとは筋力と使いそうなパラメーターに適当に振ったけど、魔力17じゃ氷魔法は無理か」
「いや、僕も欲しいけどさ。SPが重いんだよこの魔法。基本スキルなのにSP5だよ、5!」
3つ取ったらSP15! せっかく増えたSPが無くなるよ!
「早く転職してまたSP大量にもらいたいもんだな」
「だよねー」
プレイヤーレベルをあと5もあげなきゃいけないので、ゆっくりやるけどさ。
スキルの見直しが終わったら、すでに時刻は夕方だ。
ちょっとテンション上がって頑張ってレベル上げしちゃったけど、今日は夜だけ開店するという、ミィティさんに教えてもらった「月夜の調べ」に行くから、そろそろサンガに戻って夕飯を先に食べようという話になる。
趣味の店っていうのが、何を売ってるのかよくわからなくてなんか良いよね。
さて、夕飯は何を食べようかな?




