14日目:隠されているものはたいてい罠かお宝
ちょっと高台を自力で上がれる気がしないので、テトを呼びました!
わーい!
と僕の周りをくるくる回るテトさん、お仕事が嬉しいらしいよ。えらいね君は。喉をごろごろ鳴らしながら、はやくのってー!と軽く頭突きしてくる巨大猫をなでながら、伏せてもらってよいしょっとその背中に乗る。誇らしげに立ち上がるテトは、尻尾を左右に振りながらご機嫌である。
「よし、テトついてこい!」
はーい!
イオくんが高台を駆け上がるのに、テトは空中に足場を作りながらぴょんぴょんとついていく。結構飛び跳ねているみたいなんだけど、テトのスキルのお陰でそんなに揺れなくて助かる。
さほど時間もかからずに高台の上に駆け上がったイオくんは、そこでぴたっと立ち止まった。テトもイオくんにぶつかりそうになりながらなんとかストップ。
「……うわあ」
僕はテトの上から高台の上の様子を見て、思わずそんな声をあげた。
「一面のツノチキン」
「地獄だ、地獄がある」
こっわ。これほんの少しでも攻撃したらアウトだよ。数が多すぎる。
……僕、テトから降りないようにしよ。間違っても攻撃しちゃわないように、万が一うっかり攻撃しちゃったときは、テトに飛んでもらってイオくんに【フロート】をかければなんとか……と脳内シミュレーションをしておく。うん、多分なんとか逃げられると思う、大丈夫。
「イオくん、気のせいかもしれないけどすごく見られてる……」
「いや気のせいではねえな……」
一面のツノチキンの目がもれなくこっちを持っているので、なんかこう、ホラーを感じる。いや分かるよ、警戒するよね普通に。でもこの「何者じゃワレェ」的な視線、怖すぎ。この中突っ切っていく勇気は流石にないな。
「とりあえずこの辺に、トウモロコシを適当に出すか……」
「友好的に行こう、友好的に……」
敵意はないです! って顔をしながら、イオくんがその場にトウモロコシ★1の山をざざーっと出した。粒だからか、このトウモロコシはインベントリ1枠で999個だ。普通のアイテムは99個なんだけど、なぜかこれだけは999個。変わったことが起こるということは、何かあると信じたい。
イオくんはさくさくとトウモロコシをインベントリで3枠くらい、続けて出した。そのくらいのタイミングで、なんかひときわ大きなツノチキンがのっしのっしと歩いてくる。立派なたてがみ、通常のツノチキンより一回り大きな体躯、そしてレベル22。
どう見てもボスです。
「あの、どうぞ……」
そして敬語になる僕である。
いやだって確実に格上じゃん……!
ボスは僕を見て、イオくんを見て、トウモロコシの山を見た。それが本当に無害であるか確認するようにふんふんと匂いを嗅ぎ、鋭い眼差しで十分に観察したあと、上空に向けてコケエエエエー!! と大きく鳴く。
その声に反応したのか、高台の奥の方からだだだーっと土埃をあげながら、小さめのツノチキンたちが走ってきた。あ、子供! 子供だ! え、ツノチキン偉いな、ちゃんと子供に優先的に食べさせるってことだよねこれ……!
「……全部出すか……」
ガツガツとトウモロコシを食べるミニツノチキンたち、よほどお腹が空いていたのかと思う勢いである。それに同情したのか、イオくんはインベントリに入っていたトウモロコシを全部その場に出した。8枠くらいインベントリを占拠してて邪魔だったし、これだけ食欲旺盛ならすぐ無くなるでしょう。
ボスらしきツノチキンは、鋭い眼光でこちらを一瞥すると、コケッ! と一声鳴いてばさっと羽を動かした。あの、これどう見てもついてこいって感じのジェスチャーに見えるんだけど。
どうするイオくん?
と視線を向けると、イオくんは少し考えつつも歩き出した。ついていくのかあ。まあ、たしかに気になるけどさ。いきなり囲まれて襲いかかられたりとかしないよね……?
流石にイオくんだけ行かせるつもりはないので、僕もその後からついていく。僕と言うか、テトが意気揚々と? スキップでもするかのような軽い足取りで、耳をすませば聞こえてくるよ、多分一生懸命作ったんであろう新しい歌が。
くーり、くーり、モーンブラーン♪ くーり、くーり、マローングラッセ―♪
……んにゃっ、にゃっ、にゃーん♪ と上機嫌なテト。結局美味しいものをつなげることで「おいしいののうた」として完成させたらしい。テトは人生楽しんでてとても良いと思います。
たくさんのツノチキンたちの中を突っ切って、ボスが僕たちを案内したのは、高台の端っこの方にあった小屋の跡地だった。コケッ! と一言鳴いて「あばよ」とでも言うように去っていくボスを見送り、僕も恐る恐るテトの背中から降りてみる。
もうおりちゃうのー?
とテトは不満げだ。大丈夫、またすぐ乗るからねーとなだめてから、小屋を確認。
「えーと、これは……農作業小屋?」
「っぽいな。板材はもう腐ってるし、半分崩れてるが……中になにかあるか?」
そっと中を覗いてみると、どうやらクワや草刈り鎌などが収納されている。そして、壁沿い左側に積み上げられた木箱が破壊されていて、そこからトウモロコシのカスっぽいのがこぼれていた。中身はほとんど空っぽだ。
「下の畑を管理してた農家さんの小屋だったのかな?」
「多分な。この箱に入ってたのは種まき用のトウモロコシだったんだろうけど」
「これ食べたからトウモロコシが美味しいってわかって強奪に行ってるのかも? ツノチキンたくましいな……テト、ちょっとそこにいてね、中は狭いから」
わかったー。
家の猫、聞き分けが良くて賢いのでとてもえらいと思います。
腐食しているところも多いけど、小屋の中にある錆びついた道具類を物色して、人の名前が残っていそうなものを探す。特にめぼしいものは無さそう……と判断しかけたその時、ふっと<罠感知>が反応した。
「あ」
「お」
イオくんと同時に、床の同じ場所に視線が引き寄せられる。ここになにか隠されているみたいだ。
多分、床板の下かな? あ、ここ釘が外れてるから、こっちから引っ掛ければ……。思い立って手を伸ばしてみると、床板は簡単に開いた。床下収納と呼ぶにはちょっと小さな、20センチ四方くらいのスペースにぎっちぎちに詰め込まれているのは、金属製の缶だ。
持ち上げようとしたけど、僕の筋力ではびくともしない。知ってた。
「イオくんお願い」
「おう。なんで出来ないとわかってるのに1回はチャレンジするんだお前は」
「うっかり持ち上がったら嬉しいじゃん!」
夢とロマンだよ!
イオくんはあっさりと金属の缶を持ち上げて、空の木箱の上に置く。高さも20センチくらいの、正方形の缶だ。装飾や柄はなんにもないけど、お菓子の缶っぽい大きさかな? おじいちゃんの家にあった小さいおせんべいの缶に似てる。
「蓋開く?」
「おう。特に問題ないな」
ぱかっと蓋を開けたイオくん、なんのためらいも無いな。思いきりがよくて頼りになります。
さて、それでは中身を……。
「……石?」
「石っぽいけど、卵っぽくもあるか? <鑑定>……『???の卵石』、って出てくるんだけど、卵か石かわからん」
「<鑑定>……ほんとだ、しかもまた???かあ……ラメラさんが魚に擬態してたときも名前部分が???になってたんだよ。なんか強い存在のことをそう表現してるのかな」
ツルッとした、赤茶色の丸い石、品質★6。少し考えて、僕はその卵石を手にとってみることにした。僕に有害なら<グッドラック>さんがなんか判断するだろうから、安全と仮定して……っと。
「うわ、あったかい!」
「え?」
びっくりした。手に取ったらこの卵石、じんわりとあったかい。ホッカイロほどじゃないけど、マグカップにホットドリンクを入れた時くらいの温かさが感じられる。イオくんにも差し出してみると、イオくんはそーっと触って「うわ」と驚いた声をあげた。
「……逆に生き物では無い気がしてきた。卵の形の石って意味で卵石かもしれない」
「あー、ちょっと、あったかすぎるよね」
考えてみれば、生き物の卵を家の床下に閉じ込めたりはしないよね。もしかしてなんかの暖房装置の一部だったのかもしれない。だとしたら壊れた魔道具の一部とかかも?
何にせよ、これは持っていったほうが良いね。ここに置いておいたら風化してしまうと思うし。
あ、そうだ。テトなにか知らないかな?
「テトー、これなんだか知ってる?」
なあにー?
外で待っていたテトに卵石を見せると、テトはそれをじっと見たり、くんくん匂いを嗅いだりしたあと、すりすりと頬を擦り付けた。にゃうにゃうと説明して曰く、よくわかんないけどあんしんするかもー。だそうです。
「安心するって」
「妖精類に関するアイテムかもな。まあ、ナツ持っててくれ。俺のインベントリ食料で埋まってるから」
「うん。……あ、テト持っておく?」
そう言えばテトの空間収納、運ぶもの随時募集中だったはず。
僕が提案すると、テトはすぐさまはこぶー! とよいこのお返事をした。それからにゃんにゃん呪文を唱えて、前足で卵石にぽんっと触れると……無事にテトの収納に移動する。
すごーい、なんかあったかーい。
「え、そうなの。やっぱり暖房系の魔道具なのかなあ。熱くない?」
ぽかぽかー。
「それならよかった。じゃあ、大事に運んでね」
はーい。
テトの良い子のお返事もきけたことだし、さあ、そろそろこの高台から降りようか、イオくん。
ツノチキンの「もっとトウモロコシは無いのか」という視線がいたたまれないからね……!
明日は更新スキップです。




