14日目:鶏VS羊の激闘
いつも誤字報告ありがとうございます、助かります。
結論として、【耐毒】と【抗毒】にはあんまり差がなかった。
そして【レジスト】より微妙な効果だったのである、残念!
「うーん、なんかイメージが上手く出来ない」
「レジストが防御率100なら、【耐毒】は40から50ってところだな」
「微妙!」
多分僕が上手くイメージ出来ないからだと思うんだけど、<原初の呪文>だと半分くらいしか防いでくれないんだよね。色々イメージを変えたりして工夫もしたんだけどなあ。
「こう、膜を張って防御とか、皮膚で弾くとか、寄せ付けないとか、頑張ってイメージしたけど駄目だった!」
「思わぬ落とし穴だな、盾とかどうなんだ? 俺が持ってるし身近だろ」
「イオくんの盾は武器じゃん!?」
ゴメン申し訳ないけど僕に盾をイメージさせたら殴り武器になるんだよ、守りのイメージはまったくないね。主にイオくんのせいです! 最初に見た盾の使い方投擲武器だったからね!
「三文字欲しかったよ! 【毒無効】が使えたのに」
「流石に文字数は増えないだろう。通常魔法スキルの立場が無いぞ」
「だよねえ」
ラリーさんに見せてもらった本にも、3文字以上の文字数では効率が落ちるって書いてあったしなあ。2文字でも大分便利だから、無いものねだりはするべきではないか。
まあ、とはいえ【耐毒】が全く利かなかったってことはないし、そのうちジャストなイメージができればもしかしたら使えるようになるかも? これからも考えていくしかないか。
「結構時間もたったし、そろそろセーフゾーンで昼にするか」
「あ、もうそんな時間? お肉食べたい!」
「ステーキ丼の出番か」
サンガに戻ってお店に行っても良いんだけど、もう少し戦闘したい。幸いすぐ近くにセーフゾーンがあったから、そこに入ってテーブルセットを出すことにする。
「ステーキ丼、豚汁、サラダ、以上!」
「とても良いと思います!」
これ、イチヤで買ったフルーツ魔牛のステーキだね! ちょっと楽しみにしてたんだけど、イオくんなかなか出してくれなかったんだよなあ。まあ、サンガでは美味しいお肉を結構食べてたから、出すタイミングが無かった可能性もあるけど。まだゲーム始めたばっかりの頃に作ってくれたやつだから、シンプルな塩コショウの味付けなんだけど、それがまた素材の味を感じて良いね。
「うん、美味しい。なんかほんのり甘い……?」
「牛肉にしては甘いよな。口当たりもいいし」
あまいのー?
にゅっとホームから顔を出したテトさん。甘いって言葉を聞き逃さないね……。
「普通の牛肉よりは甘いけど、テトの好きな甘いのじゃないよー」
一応言い聞かせている僕を尻目に、イオくんはテト用のお皿を取り出して甲斐甲斐しくマドレーヌを盛った。イオくん自分では食べないのに時々いつの間にかお菓子を買っていることがあるんだけど、完全にテト用です、福利厚生に手厚い会社だよ……。
あまいのー! イオありがとー!
「イオくんありがとうだって」
「おう」
むっしゃむっしゃしているテトさん、今日食べ過ぎじゃない? 相変わらずうみゃうみゃ言いながら食べるので和むけど。契約獣って体重の変動あるよね? 太り過ぎとか言われた時、僕たちはちゃんとテトの食事制限出来るだろうか、疑問だなあ。
「そういえば、ポイズンシープのドロップ品、これ使い道ある?」
「ああ、トウモロコシ」
「品質が★1と★2ばっかりで食用には向かないって出るから、用途がわかんないんだよね」
そう、なぜかあの黒い羊、トウモロコシの粒を落とすんだよね。
それだけじゃなくて、ポイズンシープの毛というアイテムも落とすんだけど、その3倍位の量のトウモロコシを落としていくから、インベントリの圧迫がすごい。毛の方は、ほんのり毒を含んでいるから、それを抜いて素材として使うらしいんだけど……。この品質の悪いトウモロコシ、人が食べるにはまずいらしい。何に使うんだろう。
「家畜の餌とかか?」
「えー、美味しく無いらしいけど……」
「んー、今掲示板で検索したんだが、これギルドで買い取ってくれないらしいな」
「不良債権……! でも捨てるにはもったいないしなあ」
とにかく粒で落ちるから大量なんだよね。その辺に撒いておけば大地の栄養になったりしないかな。
と僕が考えていると、イオくんが「ああ」と何かに思い当たったようだ。
「ポイズンシープの餌か、これ」
「魔物って普通の餌食べるの……?」
「もともとはこの世界の動物だったのが、魔王に変えられたんだろ。それなら食べるんじゃないか? それに、テトみたいに基本必要ないけど嗜好品で食べている場合もある」
なるほどー。そう言われてみればそうかも?
でもそうすると、どこかにトウモロコシの畑があるってことになる。栗と同じで、昔畑だった所が放棄されて、品質が落ちたけどまだ作物が実り続けてるってことなんだろうか。
「一応探してみる? トウモロコシ畑」
「あー、北東方向の、あの辺じゃないか? ポイズンシープ、あのへんから来てる」
「地図埋めてないところだし、一応確認しに行こう。なにか他にも作物があるかもしれないし」
のるー?
にゃっ、とテトが提案してくれたんだけど、流石に戦闘するから今回はやめておく。残念そうなテトである。そう言えばラメラさんに会った時しか、まだテトに乗ってないんだったっけ。帰りは乗るよーと約束すると、テトはぱああっと表情を明るくした。お仕事大好きな新人さんなのだ。
とぶー? いっぱいのるー?
「えーと、帰りはたくさんは乗らないよ。テト飛びたいなら飛んでもいいけど」
じゃあ、はこぶー? おうたもうたうよー。
「あー、そうだね。インベントリがいっぱいになったらお願いしようかな。お歌作ったの?」
やくそくー。おいしいののうたながくしたのー。
「はい、約束」
言質をとったら満足したのか、テトはにゃふーっと満足そうにホームに戻っていった。お菓子食べるためだけに出てきたなテト。虫歯とか大丈夫? ちょっとあとでシーニャくんに相談しに行こうっと。
「よし、俺達も行くか。トウモロコシ畑がまだ現存してるかわからんが」
「そうだねー。ごちそうさまでした!」
そうそう、午前中結構戦ったので、僕の<光魔法>が無事にレベル10になった。当然休憩中に<上級光魔法>を取っておいたんだけど、他の魔法の上級がSP5なのに、<上級光魔法>はSP8もするという……上級だと4属性魔法+3のSPがかかるんだね、闇と光は。
で、新たに覚えた魔法が、<光魔法>レベル9で【ライトランス】、レベル10で【ピュリファイ】。ピュリファイって僕には聞き慣れない単語だったんだけど、イオくんが浄化のことだって教えてくれました。穢れている物質への浄化が可能なんだそうで、敵に向かって放つと暫くの間光属性ダメージの倍率が上がるらしい。【ライトウォール】でも光属性弱点を付与できるけど、あっちは確率だし、体感そんなに成功しないから、こっちのほうが使い勝手が良さそうだね。
そして<上級光魔法>のレベル1でようやく! 全体攻撃の【ホーリーレイン】がきたよ。待ってた! 絶対きれいだと思うから後で使ってみたい。
「<風魔法>覚えたから、俺の<上級剣術>アーツに風属性のやつが2つ増えてんだよ」
「えっ、どういうの?」
「剣に風属性を付与する【アドウィンド】と、剣を振ることで風属性の攻撃を飛ばす【風刃】だな。ああどっちも俺の魔力参照だからそこまで強くないけど」
「えー、かっこいいじゃん! 【風刃】は遠距離攻撃ってことでしょ」
「使い勝手は良さそうだよな」
なんて話をしつつ、サンガの北東方面へ。ポイズンシープはそこら中に居るんだけど、攻撃しない限りは大丈夫だから、堂々と敵の群れを突っ切っていく。
やがて、ウォータースパイダーの沼地よりもっと東方向あたりに差し掛かると、ようやくトウモロコシの畑っぽいものが発見出来た。雑草生え放題で栄養も足りて無さそうだけど、かろうじてトウモロコシっぽいものが実っているし、ポイズンシープの巣みたいになってるね。
「<収穫>は反応するけど全然品質が良くないな」
「あえて集めるものではないか。……あ、イオくん見て! あそこに居るのってツノチキンじゃない?」
「ん?」
トウモロコシ畑のさらに北方向に、ちょっと高台になっているところがあるんだけど、そこの上にツノチキンっぽいシルエットが見える。この辺にも居るんだ。
「あの上がツノチキンの巣か?」
「わかんない。あ、そうだテトに乗って上から見てみ……」
コケェエエエーーーー!
「……お、おう……?」
メエエエエエーーー!
突然大声で鳴き声をあげたツノチキン。そしてそれに呼応したポイズンシープ。両者はたっぷり5秒間ほどにらみ合い、その後、ものすごく大きな鳴き声をあげて高台からツノチキンがトウモロコシ畑に突っ込んでいく。
……土埃が! 土埃がすごい!
「敵対関係なのか」
「え、なんで?」
鶏と羊の間に何があるっていうんだろう。リアルだったら別に何も争う要素が無いよね?
僕が首をかしげている間に、戦っているツノチキンの横をすり抜けて高台に数匹が戻っていくのが見えた。戻りゆくツノチキンたちは、みんな口にトウモロコシをくわえている。……あー、なるほど。
「食料の奪い合いかあ!」
「嗜好品はそりゃ人気があるか。ポイズンシープのほうが強そうだし、ツノチキンはどちらかというと掠め取ってる感じだな」
僕たちもやられたけど、ツノチキンのつつき攻撃結構痛いのに、ポイズンシープは毛が覆ってるからあんまり効いてない感じがする。レベル帯は同じくらいなんだけど、どうやら種族としてはポイズンシープのほうが強そうだ。
……あ、今ちょっとツノチキン悪夢の連戦を思い出しちゃった。あれは! もう二度と! やらないぞ!
「肉が手に入るなら倒しに行っても良いんだが……囲まれたら死ねるかもしれん」
「やめよう?」
無理は良くない。僕たちは低レベルで強い敵に挑むより、適正レベル帯でコツコツ戦うのが信条です。あとイオくん自分の特殊スキルについて忘れてるかもしれないけど、僕が死んだら強いバフが切れるぞー。
しばらく鶏VS羊の大乱闘を見ていたんだけど、結果としてはポイズンシープのもこもこパワーのほうが強いらしく、ツノチキンたちはトウモロコシをかっぱらって高台へ逃げ帰っていった。メエエーー! メエーー! とそこらじゅうで勝どきが上がっている。魔物の生態系を垣間見てしまったな……。
「高台、気になるな」
「見に行く? ツノチキンも攻撃しない限りはこっちに攻撃してこないはずだし」
「そうだな……。ああ、どうせならポイズンシープのドロップ、ツノチキンにやるか?」
「プレゼント大作戦……?」
なんでそういう発想に? と少し思ったけど、ツノチキンのほうが食材になるわけだから、今後の国の復興にも大事なのでは、と思い直す。
それにそもそも持ち帰ってもこのトウモロコシ★1とか★2、ギルドに売れないし。インベントリを無駄に埋めておくよりは、ツノチキンの肉に変換されたほうが良い……かもしれない。
何よりツノチキンは美味しいし。
「捨てちゃうよりは、ツノチキンの餌になったほうが良いよね、多分」
半分自分に言い聞かせ、僕たちは高台に登ることにしたのであった。
 




