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14日目:聖水を探そう

「も、申し訳ありませんでした!!」

 目覚めると同時に様々な事態を把握したオーレンさんは、それはそれは見事なジャンピング土下座を決めた。膝打ってない? 大丈夫? なんかドカッてすごい音したけど……!

「あー、オーレン。体は大丈夫か」

 イオくんが問いかけると、土下座したまま「大丈夫です!」と言い切るオーレンさん。なんか大丈夫じゃなさそうだ、主に精神面が。

「あの、呪われていたみたいなんですけど、自覚あります?」

「記憶はしっかり残ってます! ご迷惑をおかけしました!」

 そっかー、記憶残ってるんだ。

 逆にしんどいなそれ。自分がどんな態度とってきたかとか全部覚えてるってことだよね。

「エーミルさんのことは……?」

「うぐぅ……」

 あ、うめいてしまった。心を強く持ってほしい。


「オーレン、とりあえず頭を上げろ。お前の持っていた呪われた指輪は、俺達が預かる」

「か、重ね重ねご迷惑を……っ」

 オーレンさんは恐る恐るって感じに顔を上げて、若干涙目で僕たちを見た。さっき受注した重要なクエストっていうのが、この呪われた指輪をクルムのスペルシア教会本部に届けるというものだった。期限はないけど、旅の途中で呪いのアイテムを見かけたらそれも届けましょう、とのことだったので、多分複数の呪いのアイテムを目にすることになりそうだ。

「俺達は聖水を持っていたからな。呪いが解呪出来て良かったが……」

「聖水……貴重なアイテムを使わせてしまい、なんとお詫びしたら良いか……」

「詫びるつもりがあるなら、エーミルにはちゃんと話して、そっちに詫びろよ」

「はい……」

 しょんぼりしてしまったオーレンさんである。

 話を聞いてみると、呪いの指輪は戦後すぐくらいに見つけて、綺麗な指輪だったからあとでエーミルさんにあげようと思って持っていたものだったらしい。しばらくは復興のことで頭がいっぱいだったから、指輪の存在はすっかり忘れていて、3年ほど前に大掃除をした時に出てきて、気まぐれで身につけてしまった、とのことだ。


「ちょうどその頃、エーミルもそろそろ年頃だからと知り合いから見合いの話がきたりして、その、心の平穏が……」

「乱されてたわけですね」

「はい……。情けないことに、愛する妻の忘れ形見ですし、妻に日に日に似てくるエーミルを、どうすれば幸せに出来るのかと、そんなことを考えていた時期だったんです。……だんだん、自分が短絡的になっていくのも分かっていたんですが、指輪のせいだとは思い当たらず……自分でも不思議なくらいエーミルの幸せだけに固執してしまい……」

 呪われているわけだから、呪いの指輪のことが思い当たらなくてもそれは仕方が無いことだけど……呪いって怖いなあ。自分でも変化が分かっていたのに、それでもおかしいとは思わなかったんだ? 流石に悪質だな。

「えーと、今は正気に戻っているわけですよね。エーミルさんの交際に反対しますか?」

「い、いえ、しません。エーミルは頑固な子ですから、この人と決めたからには揺るがないでしょう」

 ちょっぴり寂しそうにそう言ったオーレンさんは、小さく息を吐いた。

「まさか呪いの指輪とは……。露天商から購入したものだったはずですが、買ったのは戦後ですし、もはや誰が売っていたかなんてわかりませんねえ……」

「あ、そういえば魔族が呪いのアイテムをばらまいていたって聞いたんですが、魔族ってどんな人達なんですか?」

「魔族は魔王の眷属です。ぱっと見は顔色の悪いヒューマンにしか見えませんが、魔王に隷属している者たちだったはずです。魔王が倒れた後どうなったかまではわかりませんし、そもそも数も少なかったと思いますが……」

 顔色の悪いヒューマンかあ。

 そんなんじゃ、しれっと街に紛れ込んでいてもわからないかもね。魔族って言うとツノとか生えてそうなイメージがあったけど、こっちの魔族はそういうのも無さそうだし。


 まだ青い顔をしてふらついているオーレンさんは、謝罪を続けようとしてたけど、ドクターストップがかかってベッドへ戻された。無理しないでほしい。

 僕たちはテトを待たせているので、そのあたりで救護テントを出る。すぐそこの屋台のスペースまで戻ったところ、妖精類の撫で待ち列は最初よりは短くなっていた。うーん、きりがない。この辺で区切らせてもらおう。

「すみません、今並んでいる人たちまでで終了で!」

 思い切って声を上げると、妖精類のみなさんからは「はーい!」という良い子のお返事があった。素直でよろしいと思います。

「ナツ、ポップドーナツ買ってきてやれ。テトは俺が見ておくから」

「はーい。イオくんも食べる?」

「いや、俺はいらない。ナツとテトの分だけでいいぞ」

「分かった」

 イオくんは朝から甘いものを食べない派だからね。前回同様、フェアリーさんがやってるポップドーナツの屋台は、3人くらい並んでいたので最後尾に並んで、メニューをチェック。

 テトが好きそうなのは何だろ、とりあえずチョコパウダーと、なんか甘いの……。この前食べたレモンパウダーも美味しかったけど、テトは酸味あんまり好きじゃないからなあ。


 結局チョコパウダーとはちみつパウダーのポップドーナツを買って戻ると、ちょうどテトが最後の人に撫でられて満足そうにしているところだった。たくさん撫でられてご満悦のテト、僕の方にてててっと走ってきて、いっぱいなでてもらったのー! とご報告タイムである。よかったねー。

「テトの食べたかったポップドーナツ買ってきたよー」

 あまいのー!

「チョコとはちみつあるよ、どっちがいい?」

 チョコ……はちみつ……。

 テトは僕が両手に持っているポップドーナツの箱をくんくん嗅いで、どっちからもとても甘い匂いがすることを確認した。それからむむむむっと難しい顔で悩んでいる。イオくんが座っている席まで移動して僕が座ると、そんな僕の太ももにぽてっと顎を乗っけて、どっちもたべたいのー、とワガママを言った。

 上目遣いで完全におねだり体勢だ。どこから覚えてくるんだろうねそういうの。

「どっちも?」

 どっちもー。

「うーん、2個ずつでいい?」

 やったー!

 5個入りだから3個ずつでも良いんだけどね。テトは本来魔力だけでOKで、何も食べなくても大丈夫なはずの契約獣だ。あんまり食べさせすぎるのも良くない、多分。


「しかし、呪いか……聖水ってどこで買えるんだろうな」

「あ、それ僕も思った。スペルシア教会に売ってなかったよね」

 イチヤで教会には寄ってるんだけど、そこで売ってたのは道迷いのお札やお守りだけだったはず。テトがうにゃうにゃいいながらドーナツを食べているのを横目に、他に聖水が売ってそうな場所を考えてみるんだけど……。思い当たらないんだよね。

「そもそも、聖水って誰が作れるの?」

「あら、聖水がほしいの?」

 疑問を口にした僕に、頭上からそんな言葉が振ってきた。ぱっと顔を上げると、どこかで見たことのあるフェアリーさん……あ、この子、僕たちを妖精の朝市に連れてきてくれた人だ。えーと、確か名前が……。

「ミィティさん!」

「あら! 私名前教えたかしら?」

「リィフィさんから聞きました! 僕はナツ、こっちのイケメンがイオくんで、このドーナツ食べてるのがテトです」

「そうなのね! ミィティよ、よろしく!」


 よろしくって言いながらもテトにすいっと近づいて撫でている……ちゃっかりした子だね。

 おっと、それよりも……。

「聖水ほしいんですけど、もしかして妖精の朝市に売ってますか?」

 なんか心当たりがありそうな口調だったから、知ってるのかも。問いかけてみると、ミィティさんは「そうねー」と少し考え込む。

「多分ここには売ってないわ。……あなたたちは伝承スキルを知っているのね。それならちょっとだけヒントをあげちゃう」

「伝承スキル?」

「あのね、聖水を作れる人はごく僅かなの。でも、彼らは<光魔法>を極めた人たちなのよ」

 おお、新情報。

 <光魔法>を極める……ってどの程度極めたらOKなんだろう? <光魔法>の上が<上級光魔法>、その上が<聖光魔法>になることまでは検証班が検証してくれてるんだけど。

「信仰は関係ないのか?」

 イオくんの問いには、ミィティさんは首を振った。

「スペルシア神は空間魔法の権威だもの、空間魔法は浄化や解呪に関係無いわ」

「それは……確かに」

「聖水というけれど、その昔その水を作り上げた人が呪いを解いたことから、聖なる水だと周囲が騒ぎ立ててその名がついてしまったのよ。作り出した人はとっても迷惑そうだったわ」

「見てきたような言い方だねえ」

「見てきたのよ。だってその人、ヨンドの桐の木の精霊なのよ。今も会えるわ」

「おお……」

 

 精霊さんは、本体が朽ちるまで存在することが出来るんだったっけ? ってことは木が樹齢100年200年になっても、存続していればずっと生き続けるということで……フェアリーさんって寿命どうなってるの? ちょっとあとで誰かに聞いてみよう……。

「えーと、<光魔法>を極めた人なら聖水を作ることが出来て、別に教会とは関係ないんだね」

「そうよ、ナツさんは……今のままだとだめだけど、もう少し頑張ったらただの聖水くらいなら作れるかも? でもただの聖水で解ける呪いは軽度のものだけなのよね」

 あ、<上級光魔法>に届いたら、聖水いけるのかな? 作れるんなら作りたいけど……実用性が微妙って感じ? 

「聖水って、呪いの解呪にしか使えないの? 他にも使い道ある?」

「色々あるわよー。植物にかけたら元気になるし、病人食にちょっとだけ入れると病気の症状が軽くなったり、瘴気が立ち込めるところに撒いたり、魔物よけにもなるわ。あ、でも一番はあれね、魔石を聖水で磨くの。そうすると倍長持ちするからお得よ」

「おおー、便利」

 良いなー、聖水。ちょっと作れるようになりたい。でもさっきの口ぶりからしてこれも伝承スキルだろうなあ。師匠を見つけるのが大変そうだ。なんて考えていたら、ドーナツを食べ終わったテトが不思議そうに首を傾げた。

 せいすいおいしいー?

「うーん、美味しくはないかな……!」

 なんだー。

 テトさん、食い意地はちょっと引っ込めといて!


「ミィティさん、聖水を買えるところって、どこか知らないかな?」

 ダメ元で一応聞いてみると、ミィティさんは「知ってるわよ」とさらっと答える。目を輝かせた僕に、「ただし!」と何やら胸を張って条件を出してきた。

「私が素敵! って思うようなアイテムと交換なら教えてあげるわ!」

「ええ!?」

「乙女心をくすぐるアイテムがいいわ! きれいなアクセサリーとか好印象よ!」

 ふふん、と上機嫌に笑うミィティさん。ちょっとそれハードルきついなあ。僕たち女性向けのアクセサリーなんてわざわざ取っておかないで売っちゃうじゃん……? あ、僕の装備している若葉のペンダントは結構きれいかも? でも乙女心をくするかっていわれると微妙だな……。

「万年モテ男のイオくん、なんか心当たりありませんか?」

「その形容詞必要か? あー、昨日ドロップしたやつはどうだ? 蓮の髪飾り」

「イオくん記憶力が良い! 賢い!」

「テトを褒めるのと同じ感覚で褒めやがるんだよなあ」

 イオくんは微妙な表情ですが僕は褒めることに対しては平等ですので!


 そっと共有インベントリから出した金色キラキラの髪飾りを差し出した僕に、ミィティさんはぱああっと表情を明るくして「素敵! 合格!」と叫んだ。そして僕の手元には、金色キラキラのラメが入ったレアカード……じゃない、ショップカードがやってきたのであった。

「趣味の店・月夜の調べ、夜間のみ営業……」

明日は更新お休みです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 心がほっこりする テト可愛すぎ!
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