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13日目:やはり軍資金は必要です


「気を付けてくださいと言いたいところですがとてもふわふわで素晴らしい手触りの契約獣ですね許します」

「息継ぎ無く言い切ったよこの人」

「エルフは妖精類だからな」

 ゆるされたー?

 うにゃん、と鳴いたテトがこてっと首を傾げた。その様子にほっこりする僕。真顔でテトを撫でるエーミルさんのお父さん。……そう言えばまだ名前聞いてなかったっけ。

「テトは人懐こくてな、知っている顔を見ると突撃することがあるんだ、すまん。俺はイオ、こっちがテトの契約主のナツだ」

「え、あなたが契約主じゃないんですか? それにしても人懐こい契約獣……とても良いと思います、ぜひそのまま育ててください。あ、私はオーレンと申します。北門に可愛い娘がいるので差し入れに行くところです」

 やっと名前を確認できたエーミルさんのお父さん。オーレンさんっていうのか、覚えておかなきゃ。さっき詰め所にビストさんを隠してたから問題ないとは思うけど、修羅場だけは回避してもらいたい。

 っていうかイオくんはテトの契約主じゃないのに、僕よりテトに命令しなれてる気がする。さっきテトに仕事を命じたときとか、あれ副音声聞こえてないんだよイオくんには。それなのに大体テトの言っていることを把握してるっていう……これがイオくんのイオくんたる所以……! 何なの気が利くから察する能力高いの? とりあえずイオくんはすごいと思います。


「ナツ、俺達もギルドカードタッチしてないから戻るぞ」

「あ、忘れてた! ちゃんと戻った記録つけておかないと」

 そうそう、忘れてたけど、門のところで円形の板にギルドカードをタッチして記録をつけてるんだったっけ。死に戻ったときはギルドの専用復活部屋で目覚めるから、そこから出るときも同じ様にする必要があって、ギルドカードを調べればそのトラベラーがどう移動したのかとか、どこで何回死んだとかも分かるようになっている。

 これを忘れないために門番さんがいるんだけど、今回は緊急事態ってことで許してもらいたい。僕とイオくんは駆け足で北門に戻って、戻りの手続きをした。途中でテトが、とつげきしないもんー、テトいいこだもんー、とにゃあにゃあ文句を言っていた、イオくんに。後で謝ってもらおうね……。

 ちなみに門にはオーレンさんより先にたどり着いたので、エーミルさんからは、

「イオさん、ナツさん、テト、感謝します。お礼は後ほど」

 という言葉をもらった。間に合ってよかったね。ちゃんとテトの名前も呼ばれたので、テトはちょっとだけ斜めだったご機嫌が戻ったよ。


 改めて差し入れを差し出すオーレンさんを横目に、さささーっと街へ戻る僕たち。

 別に悪いことしてないけど、なんとなく、隠し事をしていると後ろめたいのである。でもビストさんとエーミルさん、めっちゃいい感じだったし、多分あれはもうお付き合いしてるよね? あとでちょっとお話したいところだよ。

「ナツ、さっきからテトがにゃーにゃーうるさいんだが」

「イオくんがオーレンさんに適当なこと言ったから、さっきからずっと抗議してるんだよ。テトはいいこだから突撃したりしないって主張中」

「ああ。分かってる、ちょっとオーレンをごまかすために嘘をついただけだ。すまんな」

 イオくんが謝罪してテトを撫でると、テトはまだ多少不服そうにしつつも、ゆるすー! と言った。頑張って不機嫌そうな顔を作ってるけど、撫でられてごろごろいっているのであんまり意味がない。

「許すって」

「よし、許された」

 くりいっぱいつくってー。

「許すから栗の甘露煮いっぱい作ってほしいって」

「分かったからその期待の眼差しやめてくれ、プレッシャーを感じる」

 

 さて、昼時なので食事をしたい僕たちは、何にも考えずに水辺通りへ。次行こうかと話していたオムライス専門店でさくっと食事を済ませ、午後はもう一度北門から出てウォータースパイダーを倒すことにした。

 それというのも、明日の朝、妖精の朝市に行きたいという話をしたからである。

「あそこに行くには軍資金が必要だ……!」

 とイオくんが強く主張したため、午後は戦闘に決定。まあイオくんあそこで結構な散財をしてるからね、当然同じ失敗は2度繰り返さない男・イオくんである。

 正直あの空間でお金使わずに過ごすのって無理だよね。欲しいものが山程あるんだもん。でも今回は流石に前回ほど散財するわけにはいかないので、イオくんに食材はスルーすることを約束してもらう。

 すでにインベントリにいっぱい色々あるからさ、ある程度食事して減らしてからじゃないと。食品さえ避けられればそこまで大金使わないはずなんだ。……と言ったらイオくんに真顔で「ホタテがあってもスルーでいいんだな?」と念を押された僕である。す、スルー出来るよ! ゴーラに行けば食べられるからね!!

「まあ俺達はサンガの次はゴーラの予定だしな」

「海産物はそこで、より新鮮なものを食べよう……!」

 おさかなー。

「ほらテトもお魚楽しみだって!」

 そりゃあ、あったら食べたいけれども! ルールは破ったら意味がないので! 今回はホタテを諦めます!



 テトにはホームに戻ってもらって、頑張って倒しまくったウォータースパイダー、その数30匹ちょうど。

 タフではあるんだけど、行動パターンが劇的に変わったりはしないから、大体大技が来るタイミングとかさえつかめれば、倒すのはそこまで大変じゃない。……地面に吐き出されている糸にさえ足を取られなければ、転ばないし。僕はまた転んだけどね!


 今回はレベル上げもしたいから<光魔法><闇魔法>を中心に使って、時々<原初の呪文>チャレンジをして、トドメに<上級土魔法>とローテーション。そのおかげで<上級土魔法>のレベルが上がって【レジスト】というアーツを取得した。これね、便利なやつ! なんと、これを味方にかけると一定時間、状態異常を無効化します! 

 と言っても20秒とかなんだけど、それでも状態異常を付与してくる攻撃が分かっているならば、予兆段階でかけておけばお守りの節約にもなるし、かなり有用。しかもクールタイムが短めなのでますますありがたいやつだよ。

 あと気になってた<闇魔法>の【カオスギフト】、使ってみた感じ敵がデバフにかかる確率はかなり高めだということが判明。未知の状態異常である、盲目とか感電とかを引き当てたときはちょっとおもしろかった。ローリスクで回せるガチャだねこれも。ただイオくんが掲示板でさっと調べてくれたところによると、一応、不利な状態異常もあるらしい。

 防御力が下がり防御行動を一切しなくなる狂化とかは、代わりに攻撃力が上がってて強いとか、自分を燃やして火属性を付与する炎化とかは、敵のHPが減り続けるけどこっちにも火傷ダメージが来たりするんだそうだ。

 まだ当ててないけど、そういうのがあたったら素直にイオくんにごめんなさいしよう。


「職業レベル上がったー!」

「お、俺もだ。よし、切りよくここらで帰るか」

 ちょうど30匹目のウォータースパイダーがイオくんの蹴りに沈み……いやおかしいとか言ってはいけない。イオくんといえば殴りと蹴り、つまりイオくんは体術と料理が得意な騎士なので! とにかくイオくんがトドメを刺した30匹目は「ウォータースパイダーの糸」と「ウォータースパイダーの眼球」の他に、「蓮の髪飾り」というアイテムを落とした。これは多分レアドロップだろうな。

 蓮……っていうと、水場に咲いている花だよね。共有インベントリから取り出してみると、普通に金細工っぽい綺麗な作りのかんざしだった。繊細な作りで、蓮の花を模しているのは分かるんだけど、色が金一色だからすごくゴージャス。装備アイテムなんだろうけど、女性用だね完全に……と思いつつ<鑑定>。

「あー、やっぱりアクセサリか。器用+5だって、イオくんいる?」

「いらん。ナツつけとけば?」

「ははは御冗談を」

 器用は欲しいけど、こんなキラキラしい髪飾りは無理。バイトラビットのレアドロップもかわいい毛玉だったし、レアドロップの装備品は基本女性物だったりするのかな? それだと困るのでかっこいいアクセサリも落としてほしいね。

 たしか、ステータスの器用と幸運を上げるアクセサリはあんまり無くて、人気が高いって聞いたような気がする。他のステータスは+10のアクセサリや装備品が結構あるのに、器用と幸運だけは+10がほぼ未発見で、+5が今のところ最高値なんだそう。僕のアクセサリの若葉のペンダントも幸運+5だったし。そんなわけでこの髪飾りも、多分結構良いお値段で売れると思う。


「えーと、糸が192個、眼球が87個……よし、結構良いお値段になるよ!」

「さっきのアクセサリはギルドに売るか?」

「オークションが解禁になってからトラベラーに売りたいから、ちょっと取っておいていい? 絶対これ女性人気高いと思うんだよね。……あ、イオくん金運上昇のお守りまだある?」

「★3のがある。明日の朝市は乗り切れそうだな」

 まあ共有財布と個人財布に割合でお金が入るから、個人的な買い物もパーティーの買い物もどうにかなるでしょ、多分。だらだらとそんな話をしながら北門へ戻ると、私服姿のエーミルさんが詰め所から出てきたところに鉢合わせした。……あ、ちがうか。多分エーミルさんは僕たちを待ってたんだな。

「エーミルさん、さっき大丈夫でした?」

「はい。機転を利かせて頂いてありがとうございます、本当に助かりました」

「ビストはどうした? もう帰ったのか?」

「その、休憩時間に合わせて会いに来てくれただけなので……」

 エーミルさんはもごもごとそんなことを言って、照れくさそうにはにかんだ。初々しい……! って彼女もいない僕が言うのも何だけど、でもなんかすごく甘酸っぱい感じ……!


「えーっと、オーレンさんには言ってないんだよね?」

 一応確認のために問いかけると、エーミルさんは「はい」と即座に頷いた。それから小さく息を吐き出す。

「そろそろ言う時期だとは思っているのですが、なかなか踏ん切りがつかず。しかし、頃合いでしょうね。……そうだ、皆さんにはぜひ夕食を奢らせてください、今日のお礼に。お勧めの店があるんです」

 にこりと微笑むエーミルさん。


 なるほど、有無を言わせぬクエストの気配がする……!

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