13日目:テトのお仕事
思ったよりとんでもないものを報酬にもらってしまった。
1日放置で劣化が始まるとか怖すぎるので、時間停止しているインベントリのなかで当分封印するしかない。でもいいのこれ? ★10を1個と交換に★10が6個戻って来るって、完全にもらいすぎ感がある。
「助かったわー、これで帰れるわー」
なんて呑気にいっているラメラさん……ま、まあいっか! 喜んでるし! もらっとこう!
ところでテトさんはなんで僕の背中にひっついて隠れようとしてるんですかね……。君大きくなっちゃったから、全然隠れられてないよ?
「テト、ラメラさん怖くないよ?」
つよいのー。
「うん、それは確かに強いねえ……」
何しろレベル165だからね。でも確かグロリアさんが、聖獣さんたちは強すぎるから下手に力を使わないように大人しく暮らしてる的な事を言ってたような気がする。
「お魚のときは綺麗って言ってたでしょ、同じだよ?」
おっきくなってもきれいー。でもいちげきでぺしゃんこになっちゃうー。
「しないわよぅ」
「しないって」
ほんとー?
恐る恐る僕の背中から出てくるテト。怖くないわよー、と笑顔のラメラさんに近づいて、すんすん鼻を鳴らしている。しばらく何やら考え込んでから、ラメラさんの鼻先に自分の鼻先をくっつけた。猫同士だったら鼻チュウというやつだね。猫のご挨拶だったはず。
「まあかわいい。良い子ね」
テトよいこー。
お、ドヤ顔してるのでいつもの調子に戻ったかな? くるっと僕の前に戻ってきて、ほめられた! ってまたもや報告があがったので「よかったねー」と僕も褒めておく。
あれだな、テトは強い存在に褒められたら報告するんだな、つまりイオくんは強い存在……知ってた。
「ラメラさん、さっきの素材は溶けちゃったんですか?」
「相克の存在だから反発し合ったのよ。植物由来じゃなかったらすぐ爆発してしまうんだけど、植物由来の火属性なら魔力水の水属性に負けて魔力を放出して消滅するの。それを取り込んだのよ」
「そうなんですか」
よくわかんないけど、石の中に封じ込められていた魔力が外に出たから、それを取り込むことが出来たってことだよね。それでラメラさんが竜に戻れたってことだから、あの樹宝石本当に品質が良かったんだなあ。
「あ、魔力水好きなだけ汲んでいいわよ。ちょっと変質しちゃってるけど、使えると思うわ」
「変質?」
「じゃあ、ありがとうね、助かったわナツ」
ラメラさんはざばーっと泉から体を起こし、竜の翼を広げた。大きくその翼を羽ばたかせると、周囲に風が起きて木々を揺らす。
かっこいー!
「あら、ありがとう。テトもゴーラに来たら遊びにいらっしゃいね」
大人の余裕、って感じの微笑みを残して、ラメラさんはしゅっと上空へ飛び立ち、美しくきらめく鱗を太陽に反射させながら、優雅に東方向へと飛び立つのだった。
なんか羨ましそうににゃあにゃあ言いながら空を見上げているテトは、ラメラさんの大きさに憧れを抱いたらしい。あのくらい大きかったら何人でも乗せられる! と興奮しているけど、さすがにあの大きさは困るなあ。
「テト、あんなに大きいと街中歩けないし、お店入れないよ?」
それはやだー!
「うんうん、テトはそのままの大きさが一番だよ」
僕がそう言うと、いちばんー♪ と喜んだので、テトは素直でかわいいなあと思います。
さて、それはそうとして、魔力水をもらわなきゃ。変質してるって言ってたけど、なにか変わったのかな? とりあえず<鑑定>して……相克魔力水……? 反発し合う属性を混ぜ合わせるときに一緒に使うことで反発を防ぐ、特に鍛冶で重宝される水。武器の強化素材としても優秀。特に水・氷・火属性の武器のポテンシャルを引き出す。品質★8。
「……うん、イオくん用だね!」
品質も十分高いし、多分結構有用。
早速ゲット……ってそういえば器がないんだった。えーと、こういうときはフレンドメッセージで……。
『イオくんへ。なんか魔力水という貴重そうなアイテムを見つけたんだけど、一番大きな鍋使って良い?』
『MPポーションの空き瓶使え、品質保持機能付いてるから! 【クリーン】忘れるなよ』
『空き瓶は捨てちゃったよ』
『ゴミ箱のアイコンタップして、サルベージ>絞り込み>瓶で検索』
『何この便利機能。なんで知ってるのイオくん天才か?? 10本あれば良い? あ、これ鑑定画面スクショね』
『おいとんでもない鑑定結果じゃねーか、瓶36本もあるだろ全部使えよ』
えー、面倒だなー。
『テト空間収納持ってるだろ、運ばせてやれ。仕事だ』
……おお、イオくん新入社員のやる気を伸ばす教育方法を分かっている……。流石社長、抜かりないな。
「テト、これからこの水を瓶に詰めるので、空間収納に入れて運んでくれるー?」
いっぱいはこぶー!
「そっかー、目キラキラしてるなー、やる気だねー……。よし、汲みましょう! 魔力水を!」
面倒だけど、テトが喜ぶというのなら仕方あるまい!
いでよ! ゴミ箱からサルベージされた瓶36本!
*
「おい幸運の申し子。なんだこの鱗報告に無かったぞ」
「いやそれが色々ありましてね……」
36本の瓶に地道に魔力水を汲んで、疲れたねーとか言いながらイオくんに合流した僕とテトなんだけど、何があったか説明する前に「うろこきらきらだったのー」とかテトが言ったものだから、うっかりそのまま翻訳しちゃった僕である。お陰で先に現物を見せることになってしまった。イオくんほどの美形となると無言の圧がとんでもなく強いんだよねー。
とりあえず劣化が怖いのでイオくんが<鑑定>終わったら即座にインベントリに戻しつつ、何があったかを順番に説明したところ、大きなため息を吐かれました。なんか解せぬ。
「俺が栗拾いしてる間にそんなことが……」
くり!! モンブラン!!
「モンブラン!!」
「やめろダブルで期待した目で見るな、流石に無理だ。甘露煮にしてやるから勘弁しろ」
珍しく焦った様子のイオくん、テトのキラキラした眼差しから目をそらしている。まあ流石にプロの料理人ではないのにヴェダルさんのモンブラン級の味を求められたらしんどいだろう。
「テト、甘露煮にしてくれるってー。甘くて美味しいんだよー」
かんろに? あまいのー?
「甘いよー。僕大好き」
なんかテトにとっては「僕が好き」だということが大きな判断基準になるようで、訝しげな表情からわくわくって感じの表情に変わった。テトは素直でかわいいなー。
「じゃあテトのお仕事だよー。ここに魔力水出して」
はーい!
テトがにゃんにゃん鳴いて地面を前足でぽんぽん叩くと、テトの影がぱあっと輝いてその場に36本の瓶が出てくる。テトの<空間収納>は影に入る形になるらしい。綺麗に並んだ瓶を前に、ドヤー! って顔のテト。イオくんは少し迷ってからその頭をわしわしと撫でた。「よくやった」と褒められて、テトのドヤ顔が光り輝くようだ。そして、てててっと僕の前にお座りして、ほめられた! とやはり報告する。家の猫かわいいな……。
「よかったねー!」
それでは僕も遠慮なく撫で回そう。ふわふわ毛並みを思いっきり。
「どう考えてもすごい物だと思うから、魔力水は共有インベントリに入れておくね」
「そうだな、互いになにか必要そうだったら遠慮なく使うか」
なんて話をしつつ、魔力水は収納。多分イオくんの氷雪の剣を強化する時に使えると思うんだよね、これ。
武器の強化には条件があって、例えば僕のユーグくんだと1段階目の強化をするためには「敵に向けて300回以上の攻撃魔法を撃つ/味方に300回以上の補助魔法を使う」が条件になる。クールタイムがあるから、特に後者はなかなか進まない。早く魔法の種類を増やさないとなって感じだ。
強化するときには、強化素材というものを最大5つまで選択できる。全部同じものを選ぶことは出来ないのと、品質に制限があって、例えば1回目の強化に使える素材は品質の合計が★10まで、とかそんな感じ。海竜の鱗なら1枚で条件を満たせるけど、もったいなかったら品質★5の素材を2つ、とかで代用も可能ってことだ。この品質上限は、強化回数を重ねるごとに上がっていくので、最終的には★10の素材5つ突っ込んで強化とかも出来るようになる。
というのがイオくんが調べた武器強化の概要なんだけど、一番進んでいる人でも3回目の強化が出来なくて検証がストップしている状態らしい。3回目の強化から、条件達成が難しくなるんだって。
「まあ素材選びがかなり重要だから、良いものは取っといたほうが良いぞ。今回みたいに★10を1つ犠牲にして★10を6つもらうとか、よほどの運がないと無理だろ」
「だってラメラさん困ってたしさー」
「まあ、ナツは幸運の申し子だからいいとして。……それにしても素材によって属性が付くのか。ちょっとそこはよく考えないとまずそうだな」
「氷雪の剣に火属性とかついたら、なんか微妙だよね」
「それな」
下手するとそれまでの利点が消えてしまうような可能性もあるわけだし、今はまだ縁のない機能だけど、強化する際には気をつけて行かないと。
なんて話をしながら、そろそろお昼なので街に戻るべく北門へ向かう。
あ、ちなみに周辺地図も結構埋まってきてる。
真っ白だったサンガ周辺に「栗群生地」とか「魔力水の泉」とかの文字が記入されてるし、あの森の名前もどうやら「ロワの森」という名前がついているらしい。ついでに、白地図のゴーラの更に東、端っこの方に青いドラゴンのマークが表示されたので、多分ここがラメラさんの住処だろう。
ゴーラに行ったら、ぜひ訪問しないと。テトも遊びにおいでって言われてたしね!
「あ。まずいな」
「うん?」
もう少しで北門というところで、イオくんが不意に顔をしかめた。なにかと思ってその視線の先を追うと、視界に飛び込んできたのは緑色のキラキラした髪に黒縁眼鏡……エーミルさんのお父さんか。
「エーミルさんのお父さんがどうしたの?」
「いやそれも問題なんだが、門の影に今エーミルとビストが居る」
「えっ!?」
マジで!? って思ったら本当だ、初々しい感じにはにかみながら会話してる! 詰め所の扉が開いてビストさんはその影にいるから、北門通りを北上してきているエーミルさんのお父さんの視界には入ってないと思うけど、このまま行くと鉢合わせしそう。
それはまずいと思う。あのよくわからない理屈で「家の可愛い娘に近づくな」と言われたときのことを思い出して、僕は焦った。マジでなんの関係もない僕相手にもアレだったのに、どこからどう見ても両思いですって感じのあの2人を目の前にしたら……!
「ど、どうしようイオくん、なんとかエーミルさんを応援する感じになんとかできないかな……!?」
「落ち着け。……そうだな。エルフも妖精類だし……テト」
なにー?
「お前に重要な仕事を与える」
おしごと!
イオくんの言葉に尻尾をぴん! と立てたテトがびしっと背筋を伸ばす。わくわくと目を輝かせたテトに、イオくんは言い聞かせるようにゆっくりとこう言った。
「あそこにいる緑髪のエルフがわかるか?」
ナツのこといじめてイオにめってされたひとー!
「テトその認識はどうなの……!?」
「分かるならそれでいい。あいつの目をそらしたい。今から全力であいつに向かって走っていって、とりあえず撫でろとごねて飛びつけ」
わかったー!
「よし、行け!」
ぽんとイオくんがテトの背を押す。テトは、にゃっ! と気合の入った声を上げて、だだーっと北門を駆け抜けた。通り抜けた風に驚いたエーミルさんが振り返るのを横目に、イオくんがテトを追いかける振りをし、僕は足が遅いのでビストさんに「隠れて!」って伝える係だ。
素早く状況を察したエーミルさんがビストさんを詰め所の中に押し込み、扉を閉める。そして僕の耳には、悲鳴とテトの副音声と、にゃー!という元気な鳴き声が飛び込んでくるのだった。
「ぎゃあっ!?」
なでろー! ってイオがいってたー!
巨大猫に飛びかかられたエーミルさんのお父さんは、無事に尻もちをつきつつもふもふに埋もれました。……契約主として謝罪に行かねばだ。




