13日目:薄っすらと青く透明な
誤字報告ありがとうございます、毎回助かります。
「うわー、良い眺め。綺麗だなあ」
テトが張り切ってわーっと空を駆け上がってくれたので、結構高いところから周辺を見渡せている僕。結構遠景まで見えるのでしばらくぼーっと周辺を眺めてみる。あ、向こうの方にうっすらと見える人工物っぽいのってイチヤかな? 近場だと、確かハイデンさんたちが居た砦があの辺に……。
「テト、あそこの塔の上に行ける?」
いいよー!
砦の物見の塔を指差すと、テトはすいっとそこに近づいて、石造りの塔のてっぺんに降り立った。物見のための塔だから、周辺の様子を探れるようにてっぺんは狭いけど円形のスペースがある。ここから見張り役の人が魔物の様子とかを伺ってたんだろうな。
テトは僕を降ろす気がないので、そのまま「つぎどっちー?」とのこと。うーん、そうだなあ。
「森の奥の方は強い敵とか出そうだしなあ。北の方行ってみる?」
ここから北方面は、延々森が続いた後緩やかな山に続く。その奥に広がるのはハウンド山脈だ。流石に山に入り込むつもりはないんだけど、様子見のための上空飛行なら北方面が広い。西の方の森の奥は、なんかちょっと重たい雰囲気でいかにもなにか強いのがいそうだから、今は無理。
じゃあいくよー!
テトがぴょんぴょんと飛び跳ねてから、ばさっと羽を広げてまた上空へ。今度はそこまで高度を上げずに、森も観察できるくらいの高度ですいーっと滑空していく。テトのスキルのお陰で風を強く感じることもないし、結構快適だ。周辺を見渡して魔物とか居るかな、なんて思っていると、ふと視界の隅に何かが光った。
「ん? テト、あそこになにかあるよ」
どこー?
いい天気だから、太陽に反射したっぽいんだよね。あの辺、と指差すと、テトはゆっくりとその当たりの上空に向かう。僕も身を乗り出して光るものを探していると、しばらくしてテトがにゃっ! と鳴いた。すべるように地面に着地するテト。そのまま少しだけ移動して、止まる。
ここ!
「テトって名探偵になれるね! 探しものが上手!」
えへへー。
照れるテトが、降りていいよとでも言うように伏せたので、僕は一旦テトから降りる。……イオくんならこういうのひらりとスマートに降りられるんだろうけど、僕はちょっともたもたするのを許されたい。飛び降りろ? 足首をぐぎっとひねる未来しか見えないので無理!
テトが見つけた光るものは、小さな泉だった。この辺はセーフゾーンになっているみたいなので安心だ。
森の中にぽつんと湧き水が湧いていて、その水の透明度が高かったから太陽の光を反射して輝いて見えたらしい。直径……3メートルくらい? なにか特別な水なんだろうなというのが一目で分かるくらいキラキラしている。
えーと、まず<鑑定>。
ふむふむ。高濃度魔力水……品質★8とはなかなか良い物では。武器の強化に使える素材で、特に水・氷属性と相性が良い、と。こんなのイオくんの剣のためにあるやつでは? 採取出来るかな……? 食器とかに汲んでも大丈夫だろうか、と思いながら近づくと、水の中に綺麗な魚が一匹泳いでいた。
30センチくらいの大きさの、よく見ないとわからないような透明な魚だ。ひらひらと泳ぐ尾びれが綺麗で、思わずじっと見つめてしまう。と、その時。
「……あら、私のこと見えるの?」
魚がぴたりと動きを止めた。そして聞こえる声。
「あ、こんにちは。あなたはこの透明で綺麗な魚さんですか?」
「まあ、綺麗なんてうれしいわ。そうよ、私はこの泉の主……みたいなものかしら。今はね」
「わあ、初めまして、トラベラーのナツです。こっちは僕の契約獣のテト」
「ああ、やっぱりトラベラーさんなのね。ようこそナルバン王国へ」
魚さんは名乗らなかったけど、<鑑定>はしていたから、この魚が■■の幼体、という存在であることが分かった。具体的な名前の所が伏せられちゃってるなあ。
「ここのお水を少しもらうことは出来ますか? 無理にとは言いませんけど」
だめって言われたら諦めるけど、一応聞いてみると、透明な魚は「そうねえ」と思案する様子。
「あなたは、<妖精の眼>を持っているのよね」
「あ、はい。サンガで妖精の朝市に招待してもらえて……」
「それなら、私のお願いをひとつきいてもらえるかしら。それと交換なら良いわよ」
魚はひらひらと尾ひれを揺らして僕たちのいる岸の方へ近づいた。尾ひれが豪華な魚っていうと、熱帯魚っぽいのかな。こんなに小さいのに、なんだかすごく強者感がある。レベル165ってなってたし、その気になれば僕なんか一捻りで死にそうだなあ。
「お願い事ってなんですか?」
「そんなに難しいことじゃないわ。もしあなたが火属性の素材を持っていたら、分けてほしいの。そうねえ……植物由来のものが良いわ。本来水と火の相性って良くないのだけれど、それでも植物由来の火属性なら、水とそこまで反発しないはずだもの」
「植物由来の、火属性の、素材……」
……あれ、持ってるな僕。
あの許すまじ自爆トレントの素材に、確かそんなものが。品質が★10だったからすげえって話をイオくんとしたっけ。でもユーグくんはまだ強化の条件を満たしてないから、武器屋さんとかでも強化する選択肢が出てこないし、使えるのは当分先だろうと思ってインベントリにしまい込んでたはず。
「この条件は難しいと思うから、別にすぐでなくても良いわ。あなたが<妖精の眼>をもっているのなら、この場所に何度でも来れるはずよ。だから、見つけた時に持ってきてくれたらいいの」
僕が考え込んだのを見て、魚はフォローのようにそう言った。確かに普通に探そうと思ったら難しそうだよね、植物と火ってそもそも相性が悪いんだろうし。ただ、持ってるんだよねハイ・ファイアトレントの樹宝石……。なんならここで交換しちゃっても全然構わない。僕はエリクサー使っちゃう派の人間だから、良いアイテム溜め込む収集癖はないので。
あ、その前に。
「ここって、<妖精の眼>を持ってないと来られない場所なんですか?」
確認のために問いかける。
「そうよ。ここはセーフゾーンごと隠されているの。普通のトラベラーさんには見えないと思うわ」
「隠しているのは、なぜですか?」
「私のせいなのよねえ」
魚は少し言いにくそうにそう言った。
「私、本当はもっと大きいのよ。戦時中に少し無理をしてしまって、今こんなに小さいの。それでも、一時期よりは大きくなったんだけど、もとに戻るまでにはなかなか、ねえ」
「ひょっとして、その火属性の素材って、あなたが元に戻るために必要なんですか?」
「あら、飲み込みが早い子は好きよ。そうなの、ちょっと無理やりだけど、火属性の素材があれば全盛期の半分くらいの大きさには戻れるはずだわ。そうしたら住処に帰れるの」
「もともとここに住んでいたわけではないんですね」
「そうなのよ。黙って出てきてしまったからきっとみんな心配しているわ。それに、もう十年以上帰れてないから、私も家に帰りたいし……。この魔力水に浸っていれば普通にしているよりもマシだからずっとここに居たのだけれど、流石に、そろそろ、ねえ?」
分かるでしょ、と言うように魚はぱしゃんと跳ねた。テトが目をらんらんと光らせているので、じゃれないようにね、と一応釘を刺しておく。うっかり引っ掻いたりとかしたら危ない、テトが。だって相手レベル165だもん。
きらきらしててきれーい。
にゃあにゃあとテトが言う。その言葉は魚にも聞こえているらしく、水の中から「あら、ありがとう」と返事があった。
「褒められるのは嬉しいわ。それに、会話をするのも久しぶり。私ってば今とてもご機嫌よ」
きらきらと輝く水面に反射する、透明な尾びれ。ガラス細工のような美しい魚を、褒めない人ってなかなかいないと思うけど。まあこんなところまで住人は来ないし、トラベラーが来るようになるのもまだ先かな? そういう意味では、僕はテトがいたからたどり着けて運が良い。<グッドラック>さんのおかげかもしれないけども!
うーん、どうしよう。
多分なんらかのクエストだからイオくんを呼びたい気もするけど、テトが張り切って飛んでくれたから結構奥の方来ちゃってるしなあ。一回戻ってイオくん呼んできてもいいけど、テトはまだ二人乗り出来ないし……それなら今回は僕の判断で進めちゃうか。
そうしよう、と決めたら後は早い。
僕はインベントリからハイ・ファイアトレントの樹宝石を取り出した。ピーちゃんのお陰でドロップしてくれたレアな素材だけど、いつまで取っておけばいいのかわかんないし、売るよりは良い使い道だと思う。
「これでいいですか?」
魚に向けて差し出すと、「あら!」と驚いたような反応があった。
「あなたすごいものを持ってるのね!」
品質が★10だからか、反応がすごく良いな。
「ハイ・ファイアトレントを倒した時に拾ったものなんですけど、まだ杖しか強化出来るものもないし、その杖もまだ強化条件を満たしてないので、宝の持ち腐れなんですよ」
「まあ、そうなの? 良いものだけど、武器に使ってしまうと火属性が付加されるわ、慎重に考えたほうが良いわよ」
「あ、火属性なんですか。それならやっぱり使わないので、さしあげますよー」
ユーグくん火属性って感じじゃないもんねー、紫水晶だし。あとアナトラ世界の火属性って自己バフ多めって聞いてるから、あんまり僕向きじゃないと思う。
「嬉しいけど、その品質のものをただでもらうのは心苦しいわね……」
「いえいえ、魔力水ほしいですし」
「そう? それじゃあ、この泉の真ん中に、それを投げ入れてくれるかしら」
透明な魚がくるりと水中で円を描いた。ここに投げろってことかな? 僕あんまりコントロール上手くないけど、このくらいの狭い泉なら……多分大丈夫でしょう!
ためらいなくえいやっと樹宝石を投げ込むと、ぽちゃんとそれが水に落ちた瞬間、ぶわーっと水蒸気が上がった。驚いている間に、水の中で樹宝石の赤色がどんどん小さくなっていく。なんだろう、溶けてるのかな? 魔力水ってもしかして塩酸的な危険な水だったりする?
と1人でハラハラしていると、魚がくるくるとその蒸気が上がっている辺りで回っている。やがて完全に赤色が無くなるころ、泉全体がばあっと眩しく光を発した。
「わ!」
眩しい! とっさに目を腕でかばってぎゅっと目を閉じた。幸い、光はすぐに収まったようなので恐る恐る目を開けると……。
そこには、美しい泉の中に上品に鎮座する。透き通る青色の……竜が一匹。
「おお……、聖獣さんでしたか」
「そうなのよー」
鱗が透き通ってはいるものの、今度は顔貌がはっきり分かるので目の前の竜が喋っている、とわかりやすい。やっぱりきれいな色だなーと思わずまじまじ見てしまった。
「私はラメラ。海竜よ」
「海! ということは、ゴーラにお住まいですか?」
「そうよ、ゴーラの沖合にある島に住んでいるの。ゴーラに来ることがあったら、訪ねてきてくれてもいいわよ……そうだわ! とても力のある素材をもらったお陰で、思っていたより力を取り戻せたから、私の鱗を持っていきなさい。5、6枚でいいかしら。これって結構高く売れるんでしょう?」
「えっ!?」
何言ってるのこの竜!? と思って声を上げた僕に、ラメラさんはぺぺぺっとめちゃくちゃ気軽に鱗を剥いで投げよこした。1枚が手のひらくらいある、きれいな青の、透明な鱗。ずっと見ていたくなるくらい綺麗なアイテムだ。
「1枚残しておくと良いわ。私のところに遊びに来るとき、それを持っていれば門番に止められないから」
「ありがとうございます! すごく綺麗だから嬉しいです!」
僕は遠慮しないぞ、くれるというものはもらうんだ! それに多分これ、要求された素材の品質次第で報酬が変わるタイプのクエストじゃないかなと思うんだよね。つまり僕が★10を差し出したからこそもらえる鱗ではないだろうか、と。
多分すごく良いものだと思う。というわけで<鑑定>!
『海竜の鱗』。生成されたばかりの海竜の鱗、全てが真新しく大変貴重な状態。海水につけることで色が濃くなり、強度が増すが、今の状態は柔らかいため様々に応用が効く。砕いて粉にすれば調薬や錬金術に、状態を保存できればアクセサリに、溶かして液体にすれば鍛冶や染色に、また他にも様々な使い道があるという。1日放置すると劣化が始まる。品質★10』
……インベントリ直行!
明日は更新ありません。




