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13日目:テトはやる気である

 断言するけど、カレーは普通のカレーでも美味しい。これもテストに出ます。


 というわけで、リアルで夕飯を食べて午後8時。お風呂も終わって寝るだけ! という状態にして再ログインしたアナトラ世界13日目の朝だ。今日は流石に徹夜するつもりはないから、24時過ぎたら区切り良いところで寝る予定。

「おはよう。フリースペース行くぞ」

「おはようイオくん。朝ご飯はサンドイッチ系でお願いします」

「おう」

 いつものようにギルドの二階で起床した後は、ブランケットを回収箱に入れてギルド1階のフリースペースへ。ぼちぼちサンガにも他のトラベラーさんたちが増えてきて、打ち合わせをしているパーティーの姿も見える。フリースペース、テーブルセットがあるところはパーテーションで区切ってあって、半個室みたいになってるからありがたいよね。

 椅子に座ってイオくんが朝食を出してくれていると、ブローチからぴょいとテトが飛び出した。おはよー、と体をこすりつけてくる巨大猫、今日もご機嫌の様子だ。


「おはようテト。魔力にする? それともかぼちゃクッキー食べる?」

 クッキー!

「了解」

 うーん、僕に似て食いしん坊のテト、かぼちゃは好きかなー? ほうれん草クッキーは、なんかラリーさんが気に入ってたから全部あげて来ちゃったし、にんじんクッキーはまだ食べてないんだっけ? でもなんとなくにんじんそんなに好きじゃ無さそうな気がするなあ。

 なぜって僕がそうなので!

「はいどうぞ」

 とテト用の小皿にかぼちゃクッキーを3枚乗せると、にゃっ! とご機嫌に鳴いたテトは早速それにかじりついた。うにゃうにゃ言うのを聞いていると、結構好きな感じっぽい。やはり僕が好きなものイコールもれなくテトも好き説、正しいかもしれない。

 イオくんが僕の前にクロワッサンサンドとカフェオレを差し出したので、お礼を言って僕も朝食にしよう。たまごサラダとレタスを挟んだクロワッサンサンドは王道のサクサク感が良い感じだ。アナトラ世界、パン屋さんのレベル高いんだよね。


「今日なにしようか?」

「川下りかキヌタの秘密基地か? エーミルもなんかクエストありそうだが」

「ちょっとレベル上げ行くのもいいよね」

 なんて話をしていたところ、はぐはぐとクッキーを食べていたテトがにゃっ! と挙手した。いや本当に、前足をひょいと上げて挙手したんだよ、何この子かわいい。

「テト、発言を許可する」

 イオくんが頷いてそう言うと、テトはきらきらの眼差しで僕を見据えた。

 あのねー、ナツのせてとぶのー!

「……あ、そうか。今日魔力あげると僕が乗れるようになるから、乗せて飛ぶそうです」

「おお、ビッグイベントがあったな」

 だいじー! はつひこうー!

 テトは騎乗用の契約獣さんだから、基本人を乗せるのが好きなんだろう。とても嬉しそうに羽をばっさーと広げた。飛びたいアピールをされてしまっては、やるしかあるまい。


「じゃあ、今日はテトの初飛行に行こう! あ、でもそれだとイオくん暇かも?」

「ちょっと森で<収穫>したいし、良いんじゃないか。この前は結局砦にまっすぐ行ったから、あの西方面の森全然探索してないしな」

「これだから気遣いのできるイケメンは。優しさの塊かな?」

「ナツの褒め言葉のレパートリーどうなってんだ」

 けらけら笑うイオくんに釣られるように、テトもにゃふにゃふ笑っている。でもそうか、テトこの前生まれたばっかりだと思ってたけどもう乗れるようになるのか。うーん、高いところ大好き勢としては期待が高まるね!

「イオくんのことも乗せられる?」

「え、いや。俺は別に……」

 おいしいのくれるならいいよー。でももっとおおきくならないとふたりのりはだめー。

「もっと大きくならないと無理だけど、美味しいものくれるならいいって」

「ナツ、そいつお菓子もらっても知らないやつについていかないようにちゃんと教育しとけよ」

 イオくんが真顔で言った。そんな心配しなくても……と思ったけど、テト賢いけどちょっと抜けてるからなあ。一応、「お菓子くれるって人がいてもついてっちゃだめだよー」と言い聞かせて置いた。テトはすっごく軽い感じに、わかったー、って返事してたけど、ほんとに分かってるのかなー。



 というわけで、やってきました北門!

 今日はエーミルさんがいたので元気に「おはようございます!」と挨拶をしたところ、今日はフルフェイスヘルメットを脱いで挨拶を返してくれたエーミルさん。かっこいい女性って感じだね。

「おはようございます、ナツさん、イオさん。契約獣がずいぶん大きくなりましたね」

「そうなんです! 今日これから乗せてもらうんですよー!」

 そう、テトはすっかり大きくなって、シーニャくんのお店で見たフォレストウォーカーと同じくらいになった。僕が抱きついても問題のない大きさだ。視線が高くなったことにご満悦のテトは、北門にくるまでずーっとごきげんで、モーンブラーン♪ さつまーいもっ♪ と歌い続けていたのだった。……僕がさつまいもを強調しすぎたせいなのか、スイートポテトという料理名よりさつまいもの方を覚えたみたいだ、ちょっと反省。

 にゃんにゃっ、と歌っているテトは、道中道行く人々にすごーく温かい目で見られていた。特に妖精類の人たちがふらっと寄ってきては「撫でさせてください」と言うので、どうぞどうぞーとやっていたら撫で待ちの列が出来るところだったよ、危ない。

 これからナツのせるのー! じゃましちゃだめー! おしごとなのー!

 とテト本人……本猫が注意してくれたので事なきを得ました。


 あの中に、朝市で祝福くれた人もいたのかなあ。イオくんと相談してからだけど、できれば明日の朝は朝市にもう一回顔を出して、無事に大きくなったよーって報告したいね。

 エーミルさんに気をつけて行ってらっしゃい、と見送られ、フィールドに出る。同時にテトは待ち切れないとでも言うようにばさっと羽を広げて、すごくきらきらした眼差しで僕を見た。

 ナツー! のってー!

 期待にあふれる表情である。

「鞍とかいらないのか、今更だが」

 イオくんが言う。乗馬だと居るだろ? とか言われましても僕、今までも人生で乗馬とかしたことないですイオくん。でも鞍がなんなのかはなんとなーく分かる。あの競馬とかでジョッキーさんが座ってる椅子みたいなのでしょ。でもそれを言うなら手綱もないけど。

「テト、このまま乗っていいの?」

 いいよー。みえるようにしてあげるねー。

「え、何を?」

 テトはなにか気合を入れて、んみゃー! と叫んだ。魔力あげたあと体を大きくしようとする掛け声よりも気合が入ってた気がする。そうすると、テトの背中に背もたれ付きの透明な椅子っぽいものがふわーっと浮かび上がるようにして出現した。おお、これはどう見ても僕が乗る場所……!


「すごい! これテトの魔法? スキル? かっこいー!」

 でしょー。これはスキルだよー。

 褒められてご満悦のテトは、にゃふふーっとその場で伏せた。目が「のって!!」と訴えている。では遠慮なく……えーっとこれに足をかけて乗ればいんだな。よし!

「おおー! テト素晴らしい! ふかふかだ!」

 あの透明な椅子っぽいのは、僕が座ったら見えなくなったけど、確かにそこに設置されている。テトのスキルをもう一回確認してみたんだけど、多分これ<騎乗者保護>のスキル効果かな。騎乗者が落ちないように防御したり、ちゃんと乗れるためのアシスト用スキルとのことなので。

 正直柔らかそうな猫の背中に乗るのってちょっと抵抗あったんだけど、この椅子みたいなのがあるなら安心だね。テトも別に痛いとか重いとかないようで、ひょいと伏せから立ち上がって、にゃっにゃっにゃーとご満悦な軽やかな足取りである。おおー、揺れない! 素晴らしい!

 わーいとはしゃいでいる僕の隣で、イオくんが様子を見ながらふむふむと頷いている。

「なかなか様になるな」

 とのことだ。でしょー、と思った僕、さっきテトも同じ事言ってたなと思い出してちょっとほっこり。真似っこ好きなのかなテト、かわいいので全て許されます。


「よし、今日はこのまま砦のあった森を探索に行く。ナツ、川渡るから足場は頼む」

「了解」

 とぶー?

「イオくん連れて行かなきゃだから、水面近く飛んで。ゆっくりねー」

 わかったー!

 テトの足取り、ぴょんぴょん弾んでいるので多分めちゃくちゃ喜んでるなあ。そして羽をばさばささせて超やる気。川べりまでついたらていっと飛び上がったテト。僕は川の上に足場を……うーん、面倒なので一気に……。橋を作る的な単語ないかな、なんか便利そうなのがあったと思うんだけど……。

 あ、別に橋に固執することないか! 足場だって橋じゃないわけだから、一気に向こう岸に渡すには……。

 一番楽そうな単語があったじゃん! というわけで魔力の道路を川を横切るようにイメージして、頼むよユーグくん!

「これだ! 【道路】!」


 僕の言葉に反応して、幅2メートルくらいの魔力の板がびょーんと伸びる。光の橋みたいな感じで結構綺麗だ。イメージ通り! と喜ぶ僕だけど、イオくんはその道路をじっと見つめているだけで、歩き出そうとしない。

「イオくん、渡らないのー?」

「いやお前、これ何秒持つんだよ、足場は30秒だろ」

「あ」

 そうだった、効果時間とかありましたね。川の真ん中で消えてイオくんが落ちる……とかになったらまずい。案の定、【道路】は足場より短く20秒くらいですっと消滅した。これはだめだ。

「ナイスアイデアだと思ったんだけどなあ」

「普通に足場くれ、足場」

「はーい」

 横着すんなってことか。しょうがない、前回と同じ様に足場を一定間隔で……。

「いくよー、【足場】!」


 イオくんに合わせて足場を作り、危なげなく川の向こう側に渡ることに成功する。

 前回はここでリバーイービルを倒してレベル上げしたけど、もうやらなくてもいいかな。ほしかったのは水の魔石だったんだけど、ドロップ率渋かったし。

 今回の目的はテトの移動を試すことだから、一旦イオくんとは別行動しよう。この辺にいる魔物は、まだノンアクティブばっかりのはずだし。このゲームは距離が離れても勝手にパーティー解除されたりしないから楽でいい。

「イオくん、ちょっと空行ってくる」

「おう。俺は森で食えるもの探す。後で適当に合流してくれ」

「了解。美味しいものお願い!」


 さあテト、空の散歩の時間だよ! なんか上から見て面白そうなのを発見したら教えてね!

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