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12日目:スイート・ポテト・スイート

いつも誤字報告ありがとうございます。 明日は閑話です。

 愚者の巣穴では、結局本を2冊購入した。もちろん、僕の個人のお小遣いから!

 契約獣がイラスト入りで解説されている「基本の契約獣」と、宝石や金属の解説本「鉱石の輝き」。契約獣の本は街中で召喚獣を連れている人たちにインタビューしたりして調べたもので、鉱石の本はロクトの鉱夫が監修をしているらしい。色々ある中でも、これからの冒険に役立ちそうなものがいいかなと思ってのチョイスだ。

 ナツー。もうテトいるよー?

 僕が契約獣の本を買ったから、テトが抗議するようににゃーと鳴くのだけれど、これは僕のためじゃないから。

「イオくんにぴったりの契約獣探そうと思って」

 イオのかー。

「いや自分で探すが?」

「テトの同僚なのでほら、多少関わりたいというか」

 どーりょー……?

 というのは建前で、普通に絵が可愛くて和むので! それだけです!


 時間を見てラリーさんに別れを告げ、病院に戻ってナルを回収する。

 ハイデンさんにちゃんと会えて、しっかり会話が出来たからか、ナルは来たときより大分落ち着いていた。契約獣屋さんに戻るよと声をかけたら素直についてきたので良かった。これでハイデンさんにしがみつかれちゃったりすると、無理やり連れ帰るのちょっとしんどいし。

「連れてきてくれて、ありがとうございました」

 と、深々頭を下げたハイデンさんに、「どういたしまして」とこちらもお辞儀を返す。

「早く元気になって、ナルのこと迎えに行ってくださいね」

「はい、必ず」

 ハイデンさんの顔にも決意の色が見えたので、お見舞いに来て良かったなと思うよ。


 で、帰りはなんのハプニングもなく無事にナルを送り届けて、夕暮れ時のギルドに戻ってきた僕たちなんだけど……。これからなにする? って話をすると。

「作るか、スイートポテト」

 腕まくりするイオくん。

「やったー!」

 バンザイする僕。

 わーい!

 テンション上がった僕に釣られてその場でぐるぐる回るテト。

 ギルドの待合室でとっても邪魔です、すみませんでした。でもスイートポテトと聞いてはテンションを上げないわけにはいかないので! 

「さすがイオくん! 料理人! 最高!」

「いや料理人ではねえわ。よし、作業場借りるぞー」

「テトー! 美味しいもの食べられるよー!」

 おいしいのー! すきー!

 テトはイオくんが美味しいものを作るとわかったようで、イオくんにまとわりついてにゃあにゃあ何やらおねだりしている。イオくんは、猫にモテたことないので無表情作ってるけど嬉しそうだね。



 作業場レンタル時間、とりあえず2時間。

 イオくんが美味しいものを作っている間、僕もぼーっとしていられないので、いそいそと<上級彫刻>のレベル上げにいそしむことにする。レベル10になると金属に彫刻出来るようになるから、そこまでは早く上げたい。

 こういうとき、イオくんの手伝いをしないのか、って言われることがたまーにあるけど、手際の良いイオくんのお手伝いを僕のような不器用で料理に慣れていない人間が出来るわけがない。邪魔になるだけだよ。

 一応、手伝おうか? って昔きいたことはあるけどね。話し合いにより、必要ないということで決着したのだ。イオくんは自分のペースを崩したくない派だし、僕は作るより食べたい派。そこは遠慮なく互いの主張を通した結果である。細かいところだけど、こういう意見のすり合わせは大事だからねー。


 うにゃうにゃ鳴きながらイオくんの手元を楽しそうに見ているテトは、副音声によるとさっきから「いーもいーも、おーいもー」と繰り返している。あれもおいしいのの歌なんだろうか……。

「テト何してるのー?」

 イオおうえんしてるのー。

「イオくんのこと応援してるんだって」

「なんかさっきからずっとにゃーにゃー言ってると思ったら」

 イオくん、呆れ顔してるけど、わしゃわしゃとテトのことを撫でたので応援は嬉しいようです。そして満足気に僕の前にやってきて、なでられた! と報告するテトである。なんで毎回報告するんだろう、本当に謎。

 とりあえず「よかったねー!」と言って僕も撫でておくと、テトはめっちゃ満足そうににゃふっと胸を張って、イオくんの応援に戻っていった。

 ……まあ、テトにはテトのなんかルールがあるんだろう。それか、褒められたとか撫でられたとか僕に報告すれば、僕もそうするだろうっていう打算があるかもしれない。だとしたら賢いな。


 さて、今日買った焼き芋をそのまま転用するらしいイオくんが、美味しそうな匂いをさせながらそれを潰している間に、お札をつくらねば。今日覚えたばっかりの防火のお札と、くもり止めのお札を……初回は★1確定だから、キガラさんのところで買ったまとめ売りの木材を使う。

 多分<高度魔術式>が拾ってくる魔術式って、<魔術式>で拾えたものよりワンランク上なんだよね、難易度が。防火のお札は枠が炎のイメージなのか、曲線の連続でめちゃくちゃなぞり辛い。それでもアシストのお陰でなんとか作れたけれども。

 防火のお札は、家が火事にならないお札。隣家からのもらい火なども防いでくれるから、絶対に住民に需要が高い。しかもこれ、難しいからか期間が長くて、★1の効果が3ヶ月、★2で半年、★3で1年、★4で2年、★5で4年……と効果期間が倍々に増えていく。お札ってたいてい、★1で半年、★2で9ヶ月、★3で1年、★4で1年半、★5で2年……って感じなんだけど、やっぱりお札にもグレードがあるのかもしれない。道迷いのお札みたいに、極端に効果が短いのもあるしね。


 これは絶対ギルドに売れるお札なので、難しいけど、練習のために何枚か作る。★3をようやく1枚作れた頃には、★1が3枚、★2が5枚出来ていた。やっぱり器用にPP振りたい。

 疲れたなあ、と伸びをする僕。そしてオーブントースターから甘い匂いが漂う作業場。

「もう出来あがる?」

「おう、これはな。2回目も焼くぞ」

「勤勉!」

「その褒め言葉は珍しいな」

 けらっと笑ったイオくん、次に焼く成形済みのスイートポテトを用意している。イチヤで買ったアルミホイルっぽいものが大活躍だ。

 ……僕もサボってないで、くもり止めのお札1枚はがんばって作るか。


 と決意したのは良いものの。模様の難易度が高い!

 窓ガラスを表現しているのか、斜線が多用されている図案なんだけど、線のすぐ近くにまた線って感じでちょっと気を抜くとすーぐはみ出たり重なったりする! <上級彫刻>レベル5で取得したアーツ【アンドゥ】がなかったら、完成すらちょっと危うい。あ、【アンドゥ】は文字通り、1個戻る的なアーツです。

 こんなに難しいのに需要あるのかなあ。売れるとは思うけど、どこで使われるのかが謎。保全のお札がたしか外壁を汚れから守るお札だったはずだから、役割が被りそう……って思ったけど、もしかしてガラスは外壁に含まれないのかな。それならそこそこ需要あるかも?

 とにかく難しいお札をこの美味しそうな匂い漂う作業場でこれ以上作り続ける気力はない! ということで本日の彫刻は終了です。ま、<上級彫刻>のレベルは1つ上がったからよしとしよう。


 僕が彫刻セットをインベントリにしまい込むのと、

「ナツ、できたぞー」

 と声がかかったのはほぼ同時だった。反射で「やったー!」と叫んでそそくさとイオくんの作業テーブルへ向かう。そしてテトの横に座った僕を見て、

「お前ら本当に同じ顔する」

 としみじみ言うイオくんである。思わずテトと顔を見合わせてしまった。

「テトと僕、同じ顔だって」

 ナツとおんなじー!

 なんか多分食いしん坊の顔なんだと思うけど、テトが嬉しそうなので何も言うまい。

「ほら、リクエストのスイートポテト」

 イオくんは小皿に2つずつスイートポテトを乗せてこちらに差し出した。リアル時間の兼ね合いで、これが終わったらもう寝るかーって事になっていたので、夕飯代わりに食べろということだろう。甘いものを夕飯にするのって、すごく禁断な感じがする。僕が高校時代にこっそり夜中にホットケーキ焼いて食べたあの背徳感と同じやつ。ちなみにお母さんに見つかって「寝る前に高カロリーの物を食べるのはだめよ」って怒られたっけ。


 ナツー、てきおんってしてー!

 にゃっ! と自分のお皿を僕の方に押すテト、すでに僕の<原初の呪文>を覚えている様子。家の子本当に賢いなー、自慢の新入社員です。そう思いませんかユーグくん! あ、ユーグくんはもう中堅社員なのであしからず。

「熱々だからね……。はい、【適温】」

 さあ召し上がれ、と差し出した小皿に、テトがにゃーんとかじりつく。そして目を見開いてぴしゃーんと尻尾を立てた。ふふ、そうでしょうそうでしょう、スイートポテトは美味しいのだ。特に天才料理人イオくんの作ったスイートポテトが美味しくないわけがないのである。

 じゃあ僕も一口……っと。

「んー! あまーい! なめらかー! これだよこれ、このさつまいもの滑らかさとバターの味わい、ほんのり感じる塩気と、それに引き立てられる甘み! オーブントースターでこんがりと焼いた表面の焦げ目の香ばしさも合わさって、最強の一角を成すのである! つまりイオくんは天才! 美味しい! ドヤ顔は常に許されます!」

「ナツは本当に食レポ向いてるよな」

 イオくんは「お前はどうだ?」とテトの様子を気にしている。テト、さっきからふるふる震えてるけど、これ多分ツボにハマった感じのリアクションだよね。モンブランのときもこんな感じだった。


「テト、美味しい?」

 に、にばんめー! スイートポテトにばんめにおいしい! あまーい!

「おお、イオくんでもヴェダルさんのモンブランには敵わなかったかー」

 でも2番目ってことは焼き芋は超えたね。さすがイオくん、プロの料理人に次いで2番目とは。と、僕が納得してうんうん頷いている間も、テトはうにゃうにゃ言いながら夢中でスイートポテトを食べている。

 おいしい! おいもはおいしい! おぼえた! みたいなことを何度も言ってるんだけど、多分イオくんにはうまうま言いながら食べてるようにしか見えてないだろうな。めっちゃ微笑ましいって顔で見られてるし。

 でもねテト、一つだけ訂正をさせてほしい。

「テト。甘いのは、いもじゃなくて、さつまいもだよ」

 これ本当に大事なところだから! 食いしん坊テストに出ます!

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