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12日目:ラリーさんしれっとそういう事するー!

「あれだけの本を、よく集めたな」

 お、僕がクッキーを食べ始めたから、イオくんが空気読んで会話してる。この気遣いのできるイケメン、本当に何かと気配り上手でとてもえらいと思います。

「はは、本当に大変でしたよ。瓦礫撤去作業中に混ざってないか確認して、焼け跡を漁って、かき集めた感じです。幸い、ここのメンバーは僕を含めて<原初の呪文>を使える人間が3人いますから、【修復】を使ってなんとか。困るのは保管なんですよねえ、どうしても紙は傷みますから」

「なるほど。確かに保存性は良くないか……」

 日光とかにも弱いもんね、本。さっきの円形ホールも、カーテンしっかり閉めてたし。口の中のものを飲み込んでから、僕もしれっと会話に加わる。

「それこそ保存のお守りとか便利ですけどねー。数作らなきゃいけないから大変かなあ」

「何個いるんだそれは」

「木材集めるだけでも手間がかかるよね」

 何千個とかの単位でしょ。あのお守りは失敗もするし、現実的じゃない……とか思いつつラリーさんに視線を向けると、何だかすごく真面目な表情のラリーさんが身を乗り出した。

「……詳しく教えて下さい」

「え」

「その、保存のお守りというのを、詳しく!」

「え? 知らないんですか?」

 お守りとかお札って、こっちの世界の文化なんじゃないの? 首を傾げた僕に、ラリーさんは「知りません!」ときっぱり断言した。


「お守りやお札の存在は知ってますけど、戦時中に作ってる人なんてほとんどいませんでしたから、どんな種類があるかまでは知らないんですよ。それに、戦時中お守りなんて買えるのはお金持ちだけでしたし」

「あ、そうですよね贈答用……」

「どんな事ができるんですか、お守りって。教えて下さい、ぜひ、詳しく!」

 ラリーさん、なんか目がきらきらしてる……!

 いや、うん? この世界の住人さんに、僕がこの世界の文化を教える……? なんかそれ妙な感じだな? まあ教えるくらい僕にでも出来ますけど……。えーと、スキルの説明……いや、実際作ってみせたほうが早いか。

「ラリーさん、ここで作業しても大丈夫ですか?」

「問題ないですよ、どうぞ!」

 それじゃ、保存のお守りを作ろうではないか! 失敗しませんように!



「これが、保存の守り……」

 <彫刻>と<魔術式>のスキルについて説明しながら、テーブルを借りてその場で作ってみた保存のお守りを差し出す。真面目な顔でそれを受け取ったラリーさんは、多分、今<鑑定>したかな? 効果を確認して、「素晴らしいですね!」とのコメントが出た。

「トラベラーより住人さんに便利なお守りですよね」

「使い道が色々あります、そしてこの巣穴に是非とも欲しいです! 本の保管がものすごく楽になりますよ。これ、僕にも作れますか?」

 ……ど、どうなんだろう。

 住人さんのスキルって、僕たちのスキル取得方法と同じなんだろうか。だとしたら、<彫刻>をとりあえずやってもらったら、取得可能スキル一覧に出てくると思うんだけど。

「えっと、簡単なのから、やってみますか?」

「いいんですか!」


 というわけで、僕の初心者用彫刻セットをラリーさんに貸し出す。これもどこかでもっと良いの買えると思うし、今度探してみよう。ちなみに、テトが暇そうにしていたので、イオくんはテトを連れて「本を見てくる」と言って円形ホールへ向かった。本当に気が利く親友だと思う。イオくんあんなに面倒見が良いのに末っ子って未だに信じられないよ。

「保存のお守りは、失敗もあるので……最初はこの頑健のお守りを作ってみましょう。これが一番簡単だと思いますし」

「分かりました!」

 見本として僕が作った頑健のお守りを出して、ラリーさんが慎重にそれを真似る。トラベラーはアシストがあるから<彫刻>するのは楽なんだけど、住人さんにはアシストがないみたいで、ラリーさんは僕の見本を見ながらかなり慎重に真似しているみたいだった。

 うーん、なにかアドバイスしたいけど、僕もアシストありきだからなあ!

「先生、ここどうなってるんですか?」

「あ、そこは横の線から引きます。……なんかこの前のスキル講座と逆ですね」

「ははは、この前は僕が先生でしたけど、今日はナツさんが先生ですね。これでどうでしょう?」

「そうそう、それで次が縦です」

 ラリーさんは手先が器用な方なのか、初めて彫刻刀を持ったにしては危なげなく模様を彫っていく。これってスキル持ってない人が彫っても効果あるんだろうか? と思って途中で<鑑定>してみたら、制作途中のお守りって説明文に出てきたのでほっとした。お守りと認識されるなら、効果もあるよね。


「ここをこうして……出来た、と思います」

「お疲れさまでした!」

 時間をかけて頑健のお守りを作り上げたラリーさんは、「集中力いりますねえ」なんて言っている。<鑑定>して……うん、頑健のお守り★1がちゃんと出来ててるね。

「ラリーさん、ちゃんとお守りになってますよ! これなら取得可能スキル一覧に出てるのでは」

「えーと……、あります! 多分何回か繰り返せば習得できると思いますけど、取っちゃいましょう」

「さすがラリーさん! <魔術式>が出てたらそれも取ってください」

「わかりました」

 どうやらスキル取得に関しては、住人さんもトラベラーと似たような感じらしい。ラリーさんは<彫刻>と<魔術式>を無事に取得して、満足げな顔をした。

「今ここに、頑健のお守りと保存のお守りがありますので、<魔術式>に記録されてるはずです」

「確認しましょう。……はい、ありました! これで僕も保存のお守りを作れそうですね」

 これで本の保存が捗ります! と嬉しそうにはしゃぐラリーさんである。この人、気さくでちょっと無邪気な所があるよね。スキル講座のときも「ほんとはだめなんですけどねー」とか言いながらしれっとすごいスキル教えてくれたし、なんかお茶目というか。


 あ、僕もなんか新しい<魔術式>覚えてるな。えーと……「防火のお札」。火事防止じゃん、これ欲しい人たくさんいそうなやつだ。ギルドに売れそう。あとは、「くもり止めのお札」……ガラス用だね、間違いなく。こっちは売れるかどうかちょっと謎だな。

「本当に助かります。本の保存って難しくて、ずっと頭を悩ませていたところだったんですよ」

「いえいえ。……そういえば、<原初の呪文>は使えないんですか? 【保存】とか」

「うーん、用途が違うんですよね。<原初の呪文>は永続しないんです」

 ちょっと疑問だったことを問いかけてみると、ラリーさんはすぐに答えをくれた。

「例えば、【氷塊】を使ったとします。でも、氷は溶けてしまいますよね」

「時間が経てば、そうですね」

 前に【氷柱】を使ったときも、砕けた欠片とかはすぐに水になってて足場が悪くなったっけ。あと、【加熱】した水とかも、放置したらそのうち冷えていく。加熱状態を維持したりは、たしかにしてない。

 そう言えば、テトの真似して作ってみた足場も時間経過で消えたっけ。ということは、【保存】とか唱えてみても、時間経過でその状態は消えるってことか。

「自然の魔力を借りる呪文なので、自然に戻りやすいのはあります。だから、持続性という意味では<原初の呪文>はあまり当てになりません」

「大事な情報な気がします、僕も覚えておかなきゃ」


 なるほどなあ。でも、分かるかも。自分の消費MPが少ない<原初の呪文>で、継続効果が期待できてしまったらバランス崩壊だと思う。あくまで一時的補助の呪文だと思っておくべきだ。

「それに比べて、このお守りは良いですね! 一度使ってしまえば一定の条件の間効果が継続するなんて、素晴らしい!」

「お札になると建物に使えますけど、保存のお札は作れないんですよねえ」

「流石に建物ごと保存は無理だと思いますよ。この屋敷も、防火のお札は設置してあるんですけど、できれば保全のお札とかあれば嬉しいですね」

 ラリーさんは楽しそうにそう言って、鞄の中をごそごそと漁った。それから「あったあった」と白い封筒を取り出して、それを無造作にこちらに差し出す。

「どうぞ、<彫刻>を教えてもらったお礼です、ナツ先生」 

「うわ、なんか照れますね! 大したアドバイスも出来ませんでしたけど……ありがとうございます」

 僕は遠慮などせずにもらえるものはもらう主義。というわけでその封筒を受け取った。開けていいですか? と聞くと、どうぞどうぞと言われたので、早速中を拝見する。

 ……ショップカードかな?

 引っ張り出した名刺大のカードは、一面箔押しってかんじのキラッキラのカードだった。


「ヨンド……こくりつ、としょかん……?」

 ……あれ、これってすごいやつでは。

 すっごくキラキラしてるし。

「そこ、紹介がないと入れないんですよねー。結構レアですよー」

「えええ!? 良いんですかこれ、もらっちゃっても!」

 ちょっと、なんかすごいものであるような気がする! こんな序盤にしれっと手に入れて良いものじゃないような気が、ひしひしと、する! 僕の<グッドラック>もこれは良いものです! ってバシバシに反応してるよ!?

「いいですよー。ナツさんのお陰で長年頭を悩ませていたものが解決しましたからね、遠慮なくどうぞ」

 ラリーさんめっちゃ軽いな!? そういやそういう人だこの人! <原初の呪文>もなんかさらっと教えてくれたっけ、ラリーさん天気の話でもするように爆弾放り投げてくる! 僕はありがたいけど!

「ありがとうございます。……い、イオくん! イオくーん!」


 なんかすごいものもらった! と見せたヨンド国立図書館のショップカードに、イオくんは深々とため息を付いてみせた。

「ナツ、そういうとこだぞ」

「いやこれはラリーさんなので!?」

 きらきらー!

 にゃにゃにゃっとショップカードにじゃれようとするテトからカードを守ってしまい込みつつ、不可抗力です! と主張する僕に、イオくんはゆるく首を振ったのだった。

「そもそもラリーを引き当てたお前が根本なんだよなあ」

「それを言われますと!」

「しかも引き当てたの<グッドラック>取得前じゃねーか」

「出会いは確かにそうですけれども!」

 でもスキル講座は<グッドラック>取得後ですので! つまり……つまりあれです、幸運ってすげー!

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