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第2話 「死体あさりのルージ」

獰猛な聖獣 ~女神から授かった悲惨な能力の聖戦士~

第2話 「死体あさりのルージ」



 数日の野営で判ってきたのは、ピオが思ったより(失礼)器用で、食事も作れるし、森の食材も集められるし、馬の扱いにも慣れていると言うことだ。大切な銀の指輪と交換に手に入れた茶色の馬は若く力強かった。旅は随分楽になった。貧しいが。


一週間の慎ましくほほえましい旅のあと、2人は大きな町に着いた。高い壁に囲まれた城塞都市で、以前のような盗賊の襲撃とは無縁に思える。とはいえ、大きな町にはまたそれなりの問題があるものだが。


 名刺代わりともいえるメイスの紋章と首にかけた聖印を衛兵に見せ、フォルクスはすんなりと通ることが出来た。邪教ならともかく、神官戦士を拒む町は滅多に無い。問題はピオだが、答えあぐねているフォルクスに代わり、「従者です。フォルクス様にお仕えし、お慕いしております」とピオが言うと、門番は「それはお熱いことだな」と笑って通してくれた。


町で真っ先に探すのは冒険者の宿と相場が決まっているが、神官戦士の場合は少々違う。この街にマールカーナの教会があれば、間違いなく質素な食事と寝所が与えられるだろう。

だが、ピオはこの先を考え、フォルクスは冒険者として名を馳せるべきだと主張した。

神官戦士としてただ戦場に出向くだけでは、生活できる金は入りそうになかった。きっとフォルクスはそれでも文句ないのだろうが、自分は違う。それに。自分がマネージメントの様に仕事を選べば、フォルクスはこの間の様に、体をボロボロに傷つけて死にながら戦うことも避けられるのではないだろうか。普通の冒険者の仕事でいい。隊商の護衛とか、都市間の届け物とか、英雄みたいな冒険何て要らない。フォルクスに血を流さないでほしかった。


町の案内板によれば、中央には領主の居城があり、東西南幅には衛兵の詰め所が、特に東には大きな軍の施設があるようだった。主に南に商業施設、位の高いものは北の方に居を構えているらしい。冒険者の宿を探すならば南。彼らは南へ向かった。


さて、大きな町らしく宿は数件連なっていたが、どうやら冒険者の斡旋を兼ねている店は2件のようだった。見かけの貧しい方へ敢えて向かった。何故なら、2人にはもう手持ちの路銀が少なかったからだ。

馬小屋に馬を預け、宿泊の意思を告げると、馬の番号が書かれた木札を預けられた。馬番が馬を所定の場所へ連れて行く姿は流石手慣れたもので、大きな不安は無かった。そもそも、冒険者の宿に来るのは、ビギナーから手練れまで、戦うことを専門にしている化け物ぞろいだ。宿の者が彼らを騙すだの食い物にするなど、ほぼ有り得ないことだ。それこそ、命がいくつあっても足りはしない。


扉を開く。

「いらっしゃい。泊りかい?酒かい?」

髭の生えたドワーフの店主。荒事に向いてそうな顔つきだ。

フォルクスの後ろからピオが代わりに答えた。「泊まりで。」

フォルクスはピオにやり取りを少々任せ、見せの中を見渡す。

カウンターの他に6人掛け大きめのガサツなテーブルが4つほど、壁には手配書をはじめ、隊商の護衛や軍の臨時雇い、豪商による素材狩りなど、多くのとは言わないが、仕事の斡旋書が貼られている。済んだ仕事には赤く×が引かれ、請け負われた仕事には赤く請負人の、又はその一団の名が書かれている。要は赤くないモノはまだ引き受け人を探しているわけだ。フォルクスはそう理解した。


「一晩、5sだ。お二人さん。一部屋か?二部屋か?」

「5s?駆け出しなんだもんもう少し負けてよおじさん…」

周囲からくすくすと笑いが漏れた。

実際、1階は酒場となっており、冒険者の休息所であるし、仕事が舞い込むのを待っている場合もある。今は夕刻、現在15名ほどの客で賑わうこの場所には、自身に満ちた表情の、または妖艶な目線の女たち…冒険者や、金のある冒険者にすり寄る女たちだろう…が3,4人は居た。この時、ピオは15歳。フォルクスは18歳。二人とも駆け出しの言葉が相応しい若輩者にしか見えなかった。ましてピオは。


「負けらんねえ。冒険者は、誇り高く豪勢に金をばら撒いて生きるモンだ。だが、そうだな、一番北の小せえ部屋なら4sにしてやろう。どうする。一部屋か、二部屋か?」

「一部屋で。イイよね、フォルクス。いつも通りだし。」

少女の言葉に酒場に口笛が溢れた。やるねえ、若いの!そんな声も聞こえた。

「ハイよ、汚すなよ小僧共。」ドワーフは鍵を投げてよこした。

「てめえらも茶化してんじゃねえ。おめえらも似たような歳から悪さ始めたんだろうが。」

違ぇねえ。酒場に再び笑いが起こった。


部屋に食事を運び、2人で初めてテーブルを使って食事を食べ、疲れで眠ろうとして。初めて、そう初めて、最初に下の酒場で冒険者たちが囃し立てた意味をピオは実感した。

今まで、一緒とは言っても隣でそれぞれマントに包まっていただけ。でもこの部屋には、一つのベッドだけがあった。ピオは急に硬直した。考えてなかった。さすがに…でもフォルクスがそんなわけ…でもさすがに…それは…。


フォルクスは、何も言わず、疲れたと言って床にマントを敷いて包まった。

「お休み、ピオ。そっちを使ってくれ。」

それだけ言って、すっかり動かなくなった。


ピオは、色々と考えたが、嘘を言えないフォルクスの嘘の演技に甘えることにした。

ふふ、下手な演技。寝てないでしょ…。ありがとう。やっぱりフォルクスはフォルクスだね。

男たちにトラウマすら抱えている彼女にとって、最早信頼できる男はフォルクスだけだった。あの日を思い出すだけで、正直言えば吐き気がする。気持ち悪い。けがらわしい。


…その例外は、そこで転がっている、狂っているくらい清らかな男だけだった。

「ごめんね、ありがとう…おやすみなさい…」ピオは小さく呟いた。

数日ぶりに、柔らかい布を下に敷いて眠ることが出来た。そんな夜だった。



 さて、朝になり、暖かい朝食を食べ、ようやく二人は酒場の壁に貼られた依頼書の数々を見分した。


隊商の護衛は赤い×が付いていた。

軍の遠征随行、開墾の手伝い、隣国の商家への物品移送。

駆け出しの冒険者としては。隣国への移送が現実的だったが、ピオの願いとフォルクスの旅の目的は少々ずれがある。最終的にはフォルクスの意見で結局決めるしかないのだが、フォルクスは弱者を助け、悪を滅する旅を始めたのであって、金を稼ぐ為でも名声を得る為でも、地位を求めるわけでもない。


その時だ。老婆がこの宿の入り口を通って来たのは。

「聖騎士は、聖戦士はおいでだろうか、その方に仕事を頼みたいのです。私の息子が、例の東の戦場で討ち死にしました。形見の盾を、取ってきてほしいのです。その盾は心清い方に、息子の代わりに使って頂きたい。お譲りしたい。500g払いまする。どなたか受けてくださいますか。聖騎士殿は。聖戦士殿はおられぬだろうか?」


周囲で聞いていた数組の冒険者たちがザワつく。500だってよ。悪くねえ。しかし、あそこじゃなぁ…。

ピオが、張り切って声を出した。

「おばあ様!聖戦士ならばここにおいでです。こちらのフォルクスです!彼はマールカーナの聖戦士。ピッタリではありませんか!?」

たまりかねたドワーフのマスターが、ピオに忠告した。

「おい、嬢ちゃん。お前のツレがマールカーナの聖戦士ってのは少々驚いたが、あそこはここいらの奴らでも行きたくねえ場所なんだよ。古戦場どころか、真っ最中の戦場なんだよ。常に、隙を狙ってな、ゴブリンどころかオーガまで徘徊している。死肉を狙った化け物まででる。多くの兵士の亡骸が回収で来てねえせいで、死体泥棒を見かけると、今度は砦の兵士連中が弓を打ってくる。あそこは兵士の行く場所だ。冒険者は及びじゃねえんだ。」


ピオの後ろから、フォルクスが厳しい顔で声を掛ける。

「マスター、忠告ありがとう。おばあ様、その仕事、残念ですがお引き受けできません。」

「おお、何故です?なぜマールカーナの戦士殿ともあろうものが受けて頂けないのです?」

ピオは複雑だ。そんな危険な場所とは。戦わなくていい仕事が舞い込んだと浮かれていたのに。


「おばあ様、貴方は嘘をついておられる。お引き受けしかねる。」

フォルクスはきっぱり言うと、奥のテーブルに引っ込んでしまった。慌てて、ピオも続く。

「何という!何という酷い言いぐさ!もうよい、別の店に行きますわい!」

老婆は怒り去って行った。


酒場の中は、小声で賛否が囁かれていたがどうやら一番古株の剣士がフォルクスに向かってやや大きく、声を掛けた。

「小僧、どういう判断かは知らんが、俺もあの婆さんは怪しいと思う。大切な息子の盾を取り戻したいなら判るが、なぜ聖戦士に譲るという?息子も聖騎士だったとでも言うのか?しかも500かけてだ。裏のある仕事に思えるね。大したものだ。若造。」

周りに聞かせたのだろう。戦士は軽く手をあげてフォルクスのテーブルを去った。

フォルクスは小さく礼を言う。


「フォルクスって、嘘ってきっぱり言うよね?白いとか黒いとかも言うよね。それも、力なの?」

ピオが小さく聞いた。

フォルクスは嘘を付けないので、言いたくない時は黙り込んでしまう。

…丁度、今の様に。


女神の恩寵…フォルクスは、本当に戦神に愛されて生まれてきたのだろうか。

魂の色が見える。嘘を見抜く。死ににくい。まるで、悪人をことごとく殺せという命令にも思える。さっきの老婆は黒かったんだろうか。

…あたしは、何色に見えるんだろうか。


「ピオ、さっきの老婆の言っていた戦場へ行くよ。」

「何で!?」

「悪の企みがあるようだからね。潰す。僕が。」

フォルクスは2Fに上り戦支度を始めた。

「う~ん、そんな変な話かなぁ。あたし、下でもう少し話を聞いてくるよ」


 ピオは1Fの酒場に残り、話しかけやすそうな女性に。戦士風の女性に話しかけてみた。

「あの、こんにちは。戦士様ですよね。よければちょっと教えてほしいんですが、東の戦場の事。」

女性はククっ、と笑い、

「はい、昨夜から噂の子ネコちゃんね。」

ピオは何それと思いつつ、笑顔を作って話を進めた。

「レッスン1、情報が欲しければ、酒の一杯くらい、又は金貨の何枚かでも目の前に落としながら話をしなさいな。」

「え、そうなの!?」

女性は更にクスクス笑い、「男知っててもここらのマナーは知らないか」と恐らく皮肉を言った。

「フォルクスとはそんなんじゃありません。」

「へえ、そうなんだ、じゃぁアタシが遊んでみっか。」

「なっ!?」

女性は3度目の笑いをこらえ、「冗談。面白かったからオネエサン、商売敵にでもちょいと教えちゃうよ。何が聞きたい?紅い髪の子ネコちゃん。」

「…んと、東の戦場って、どうして敬遠されてるんですか?」

「はぁ、さっきのマスターの話だけじゃ分かんないかい?あそこはね、この国とオーガの集落の狭間にある。東に国を広げるにはオーガの集落が邪魔、ってわけだ。オーガはオーガで、ゴブリンやら何やら引き連れて人間を襲う。ゴブリンはともかく、オーガは人を食う。砦を落としてこっちの街に入れたらそりゃもう、餌場の完成だ。若くていい女のあたしはそこまで知らんけど、100年位ずっと諍いの途絶えない戦場だそうだよ。といっても、この20年は大きな戦が無かったって言うけど。だから、つい先日の大衝突は町中驚いたよ。」

「はぁ、なるほどお…。その大きな戦でどのくらいオーガは残ったんですか?彼一人で戦うのはもちろん無理ですよね…?」

女性は4度目の笑いを、今度は大きな声で酒場に響き渡らせた。

ピオは色々な意味で真っ赤になった。あたしだって無理は知ってる。

でも、彼は言いだしかねない。流石に今回は、何が何でも止めなければ、女性に笑われた通りの結果が待っているだろう。


オーガ。人食い鬼。2m程のバカ力の赤い鬼。新米の冒険者ではまず歯が立たず、1対1なら中堅どころの戦士でようやく勝てる。そう言われている。


散々、笑った後で、女性はピオの耳元で、これだけは真剣そうにつぶやいた。

「いいかい、ババアの言ってた盾をほんとに探しに行くなら、早朝に行きな。ここから砦までは10キロ。早朝に行って、すぐに引き上げて逃げな。そうすりゃ、食われずに済む。オーガの奴ら、早朝に動くことは殆どない、砦の馬鹿どもも早朝に襲撃は無いと思っている。いいな。早朝に着くように行け、だから男説得して、今夜のアレは程ほどにして、明け方行きな。」

ピオは最後のくだりに関しては大きく否定したかったが、まぁ一般的にはそう思われるのだろうとも思うし、何より女性が意外と親切に教えてくれたので言い返さず、礼を言った。

「ありがとう。稼げたら、あたしは飲めないけどお酒を奢ります。」

女性はニヤッと5度目の笑顔で。「期待してるよ。新人。」そう言った。



 さて、ピオが非常に苦労したのはこの後だ。

老婆の何かは判らない悪だくみを潰さねばと正義に燃えている彼に、一日待てと説得する努力。女戦士の話を上手に混ぜながら、真昼間に戦場に行く危険性を説く。とはいえ、危険を顧みるフォルクスではないことはもうよく知っているので、最期にはこの一言で彼を栂ぎ止めた。「フォルクス。あなたは悪を撃つ使命を感じているけど、むやみに波風を起こし戦を引き起こす人では無いはず!あなたが昼間っから何かと戦ったら、砦の兵士たちを巻き込むと思わない!?」


フォルクスは素直にピオの言葉に感銘し、手を取り、その通りだ、頭に血が上りすぎた。キミの言う通りにしよう。そう言ってくれた。


…夜。ピオは説得疲れを感じつつ、密かにフォルクスを丸め込んだ優越感にも浸っていた。このバカ正直を正しく導けるのはあたししか居ないんじゃない?

何時か、戦いを辞めるように説得できたらな…。説得出来たら。ん?あたしどうなるんだろ?

ベッドの上から、既に寝息を立てているフォルクスの横顔を眺める。あぁ、子供みたいだなぁ。あたしより子供みたい。ふふ、おやすみ。



―――――――――

 まだ薄暗い早朝。二人は馬に乗って、戦場へ向かった。馬を直前でどこかに隠す必要があるだろうが、やはり必要だろう。


馬であれば10kmなどあっと言う間。日が明ける前に、本当に薄暗い時間に、2人は戦場にたどり着いた。岩陰に馬を隠し、静かに、身を潜めながら近づいた。


正直、ピオにとっては目を背けたい風景が一面に広がっているので、彼女は例の仮面をつけ、少しでも見ないで済むように工夫した、それでも死臭は鼻を突き、布を鼻まできつく巻いた。

フォルクスは既にメイスを手に持ち、あらゆる事態に対応できるよう、身構えながら進む。

ピオには言っていないが、戦えないピオを旅のパートナーにした時から、守るという重い役割を同時に背負ってしまった。彼女は自分とは違う、致命傷を追えばそこで死ぬ。彼女は、生き抜き幸せになるべき少女だ。フォルクスは心から思っていた。


戦場は敵味方向かい合って、約幅3kmの細い戦場だ。その盾とやらがすぐに見つかる特異なものかどうかも判らないので、まずは中央近辺にまで近づくつもりだった。

丁度、5,600m位中央に近づいた頃だろうか。早朝の戦場には野犬や死人食いのアンデッドの姿も無く、身構えていたよりは、危険は見当たらない。

だが、少し離れたところに、身を潜め、もぞもぞ動く人影を見つけた。細い人影は、亡骸を見分しては、両手を合わせて簡素だが祈り、それから亡骸の手にある剣をはぎ取り背の袋に入れた。あるいは、腰にある袋などを中身を確認して背に収めていた。


 例のごとく、フォルクスは堂々と立ちあがり人影に問うた。

「あなたは何をしている?」

振り返った人影は、まさに戦場の闇に溶け込むように汚く汚れた皮鎧で身を包み、顔を目以外は茶色い汚れた布で覆い隠していた。左手には弓。

「うわ…焦った、人間か。兵士?その恰好、違うよね?なら、静かにしてくんない?仕事の最中なんだよ」

背負った籠の中には、使えそうな剣や鎧、革袋などが無造作に詰め込まれていた。それなりの重さになるだろう。

「死体あさり、か。辞めろ。この場所は皆を守るために死んだ兵士ばかりだろう。悪人の持ち物ではない。あなたのやっていることは兵士たちへの冒涜だ。」

「偉そうに言わないでよ。世の中お金がいるんだよ。結構沢山ね。」

「町で仕事を探さないのか?」

「はぁ、女給じゃ全然足りなくてね。体でも売れと?」

「いや、そんな酷いことは言わないが…。」

「じゃぁ、ほっといて。丁度引き上げる所。兵士たちに撃たれるわけにもオーガに喰われるわけにも行かなくてね。」

「だからと…」

「ちょいまち、伏せて。二人とも喋らないで。」

2人は、言われるまま身を伏せた。静寂の中、足音が聞こえ、戦場の中央近辺に、老婆と若い戦士風の男が現れた。

「…何だアイツら?様子がおかしい…」

動き出そうとするフォルクスを、死体あさりはもう一度止めた。

「なぁ、アンタら、何でこの2,30年大きな戦いが起こらなかったか知ってるかい?」

2人は首を振った。

「聖なる盾。魔除けの盾を持つ男が砦に英雄として君臨していたのさ。派遣されてきた聖騎士だったというよ。何でも、その盾は、魔物では触れられず、壊すことも出来ず、前からの攻撃は弾き、後ろでも盾の近くでは動けなくなるそうだ。まさに奇跡の盾だね。その代わり、人間でも心が清くないと持てないらしいよ、熱くて。」

ピオは、フォルクスを見た。メイス一本で血みどろの戦いしかできない彼が持ったら、どれだけケガしないでくれるだろう。フォルクスなら持てるだろうし…。


 死体あさりのオンナは話を続けた。

「しかし、人間には寿命ってのがある。年老いた騎士様は、先日、決して大きくはない戦いの最中で盾を残して死んでしまったんだ。盾が無くなったと思ったオーガの群れは押し寄せた。沢山犠牲が出たが、盾は効力を発揮し続けて、その周りだけはオーガが近寄れなかったんだ。結局、そのおかげでこの間の戦いは互角だったそうだよ。あたしもその盾売れたらって思ったけど、どれがそうかも判んないし、ま、話が本当なら持てるはずもないよ。砦の入り口近辺に盾を持ってこれたら、再びオーガは砦に手出ししにくくなるだろうけどねえ。」

「じゃぁさ、オーガはその場所にずっと在るのが良いの?」

「違うだろうね、無くしたいんだよ、誰かに遠くに持って行かせたいんじゃないかな。または、人間に壊してもらうとか…」

「では、あの<黒い>お婆さんは何故そこに居る?」

「知るかいそんなの。喋りすぎた。じゃあね。アイツらに見つからないうちに帰った方がいい気がするよ。」


 その時だ。老婆と共に居た若者が、地中から、青白い光をはなつ盾を手にして掲げたのは。

遠くに離れていた老婆は、手を叩いて喜んだ。

だがしかし、次の瞬間、若者は手を慌てて盾から離し、痛そうに左手の平を押さえた。


遠くで見ていた老婆は、首を振った。そして呪文を唱え始め、若者に目掛けて容赦なく雷撃を放った。


ピオが何か声を掛ける前に、フォルクスは駆け出していた。

「辞めろ!邪悪な老婆よ!」

走り出し、メイスを構えて走り寄るフォルクスに、老婆は落ち着いて同じように電撃を放った。フォルクスは表情を歪め、一瞬ふらつく。だが、再び走り出した。老婆にではなく、戦士の若者を抱き起すために。

「しっかりしろ!<ハイ・ヒーリング!>」まだ命はあるようだった。

老婆は、再び呪文の詠唱を始めた。フォルクスは咄嗟に、奇跡の盾とやらを手に取り、老婆に向けて構えた。

老婆から飛んできた雷は盾の前で打ち消された。

「おお!おお!持てるのか!酒場の聖戦士殿、来てくれたのか。約束通り、金も払うぞ。倍は払おう。その盾は私の息子のもの。私の家まで付いてきておくれ。この森の奥じゃ」

「魂の黒い老婆よ!ならば自分で盾に触れれば良かろう!森の中?そっちはオーガのテリトリーだろう!?」

「ち、誰の入知恵かのう!?」

老婆の姿は不思議に徐々に巨大になり、杖を持ち、何かの骨を数珠つなぎした首輪をつけたオーガになった。

「オーガに魔法を使えるものが居るとは!? だが、渡さん!この盾は砦まで運ばせてもらうぞ!」


オーガメイジが大きな奇声をあげると、周囲に身を隠していたのか、3体ものオーガと、7体のゴブリンが現れた。全員が、斧でも棍棒でもなく、巨大で、精度の悪そうな、よれた弓を持っていた。

「撃て!盾は前しか防げない!」

オーガ達は、フォルクスを取り囲み、弓を放った。

精度の悪い弓はそうそう当たらなかったが、左に抱え支える若者を守るために盾は主に左に。その場合、前と右、背中はがら空きだった。オーガ達は約20mの距離を持って取り囲み、弓を撃つ。その中には入れないのだろう。その一定距離を持って歪んだ弓を撃ちまくる。そのうち、背中に弓が刺さり始めた。脇腹に刺さった。太ももに刺さった。メイスを使うことは諦め、腰の金具に掛ける。

「 <ハイ・ヒーリング> 」

再び、今度は自分に呪文を掛け、傷を癒して歩き出す。

「さーすがは聖戦士どの。だが、呪文には色々使い勝手の良いものがあるのじゃわ。教えてやろうかのう?」

< サイレント! >

背中から飛んできた呪文を、盾は消してくれなかった。

フォルクスは、声を失った。術使殺しの呪文。沈黙の呪文。


再び弓が背中に刺さった。だが、歩みは止めない。この若者の命がかかっている。

ザクザクと、背中に弓が生えた。オーガメイジの呪文も再び飛んできた。光の矢だった。避けるすべもなく、フォルクスの横腹を焼いた。やがて、矢の一本は首に刺さった。沈黙の呪文が切れても、もう呪文は唱えられないかもしれない。


200mは進んだ。ピオの真横近くまでフォルクスは進んできた。砦まではまだ少なくとも500m。絶望的だ…。

ピオは、その光景を見て泣いていた。

「いつも、いつもこうなるんだから…!死なないで…!どうして自分を守ろうとしないの!バカなの!?」

ヨコでそれを見ていた死体あさりは、顔を隠していたボロ布を下げ、矢筒を取り出した。

ピオが立ち上がろうとするのを、手を引いて止めた。

「止めないで!アタシも神聖魔法使えるんだから!フォルクスを守るんだから!」

死体あさりのオンナは首を振り、こう言った。

「アタシが弓で1、2匹倒す。気を引いて逃げる。それが精一杯。その間にアンタは、城門に走るんだ!全力で叫んで、アンタの惚れてる男が盾を運んできたと告げるんだ。門は必ず開く。必ずだ!」

死体あさりのオンナは立ち上がって弓を構えた。

「嬢ちゃん、行け!!」

ピオが走り出す。足元に転がる兵士たちの亡骸に、むしろ加護を祈りながら走り出す。

「兵士の皆様!兵士の魂よ、あなたたちの誇りを取り戻すあたしたちの行いにどうか加護を!お願い!お願い!」


「さて、本当に2匹もいけるかねえ…」

死体あさりのオンナ、ルージは体躯に不似合いな長弓で、50mほど向こうの鬼たちに狙いを付けた。まずは、呪文を使っていたオーガを。弓は見事にオーガメイジの腕に命中し、メイジは怒りの目線を彼女に向けた。

「もう一発!」次の弓はゴブリンを貫いた。こちらは致命傷となり、その場に崩れる。

メイジの指さしで、2匹のゴブリンと1匹のオーガが、自分の方へ向かって来た。

ルージは背中の戦利品…亡骸からの盗品を降ろして、身軽になって逃げだす。どう考えても割に合わないことをしてしまったものだ…。


 一方、ピオの目的地である砦の城門までは斜めに約600m、最早足元にある亡骸にも目もくれず、転ばぬことだけを心掛け、駆け抜ける。足の速さには少し自信があった。

駆けて、駆けて、600mを駆けた時、砦の城門にたどり着いた。手が折れる程強く、叩きながら叫んだ!

「門を開けて―!!お願い、フォルクスが死んじゃう!盾を、魔法の盾を運んでいます!オーガに追われています!助けてー!!」


城門には、小高い見張り塔と、門の横にはのぞき窓がある。先日の大きな衝突以来何事も無かったため半分眠りこけていた塔の番と入口詰所の2名は、美しい少女の泣き叫びを聞いて塔の兵に確認する。ただ、そこは手慣れたもので、事態を把握するのは早かった。門は大きな音を立てて開き、か弱い少女を招き入れた。喇叭が鳴り響いた。あわただしく、砦が目覚める。

「来てるぞ!大した数ではないがオーガだ!追われている男がいる!確かに魔除けの盾!援護しろ!全力で援護だ!!」

指示を出した指揮官は、そのあとポツリと呟く。

「盾を持てる者があの老騎士以外にも居るのか…世の中捨てたものでもない。鉄の小手ですら持てない物を…」


這いずる様に砦に近づくフォルクス。もう、意識は殆どなかった。この若い戦士を、砦に連れて行かなくては…この魔法の盾を、砦に届けなくては…。もはや本能的に、足だけが動いていた。


「その盾を!その盾を砦に渡すのだけは許さぬうううう!!」

オーガメイジは、連続して雷の呪文をフォルクスに浴びせた。

沈黙の呪文は、うめき声さえ出させてくれず、一撃食らうごとに体がガクガク震え、煙を上げ最早、立っているだけの様になってしまった。


フォルクスの足は。止まった。それは、女神の恩恵が終焉することを暗示していた。

だが、流石に砦に近づき過ぎたオーガ達は、メイジの命を無視して逃げ出し始めた。

門の向こうに、完全武装の兵士たちが姿を見せたからだ。

「調子に乗ってんじゃないよ!魔法使いのババア鬼!」

側面から、ルージの弓がメイジの足に刺さった。怒りの呪文をルージに与えようとしたことが、このメイジオーガの敗因だった。

砦の城壁には、2台の巨大なクロスボウが先ほどから稼働し始めていた。長い射程を持つ攻城兵器が、一匹のオーガに向かって放たれたことを知った時、その腹には巨大な穴が開いていた。

「お、のれ にんげん がぁ…」

敗走した数匹を兵士が追う。戦いは、終わったのだ。



「フォルクス!フォルクス―!!」

砦から100m程の所で立ち尽くし動かないフォルクスへ、ピオが掛けだす。

誰もが、死んでいると思っている。当たり前だろう。

背中に生えた矢、矢、矢、矢、矢。腹に突き刺さった5本。首を貫いた1本。

何故立ち続けているのか、誰もが不思議だった。

「立往生か。見事。見知らぬ戦士よ、見事!!」

砦から拍手が沸いた。そして、盾を回収する術を考えながら、近寄って来た。


「死んでない!フォルクスはまだ死んでない!」

少女は天を見上げて、いつかの様に叫んだ。

「イールファス!女神イールファス!慈悲を!今日も、この人は人の為に命を捧げようとしております!それは間違いです!この人は、生きるべき人なのです!生きて、生きて、幸せになるべき人なのです!あたしに…この人を守らせて!慈悲を、イールファス!」


少女の腕に、前より強い緑の光が宿る。

これは、きっとピオにしか聞こえなかった声だ。いや、意思だ。

<お前に、我が眷属として祈りの力を与える…癒し、平和に生きるものを愛し、生を踊るが良い…>

< フル・ヒール・リカバリー!! >


首の弓が勝手に押し戻され傷が消えていく。腹の5本の矢が足元に落ちる。背中のハリネズミのようだった矢がボトボト音を立てて落ちていく。

フォルクスの目に光が宿ったのを見届けて、ピオは気を失った。呪文の調節を知らぬ彼女は、寺院や神殿で回復の魔術を学ぶことも無く力を得た彼女は、その調節法をまるで理解していなかった。


フォルクスは、盾を降ろし、抱えて来た若者とピオを並ぶように横たえ、自分ではなくまず二人に懸命に回復魔法を掛けた。術者が死んだおかげか、沈黙の呪文は消えている。ピオの方は心の疲労…分かりやすく言えば精神力切れのようだ。若い戦士の方は…おそらく、自分の代わりに老婆に騙された哀れな青年は、自分ほどではなくとも弓矢や雷の魔法を受け危険な状況だ。フォルクスは何度も治療の呪文を掛けた。自分の背中からはまだ、とめどなく血が流れていた。


この光景を見た砦の兵士達、士官達。彼らは皆、目の前の奇跡を呆然と眺め、ある者は祈り始めた。ある者は剣を抜いて跪いた。そんな光景だった。門の角から覗き見ていたルージも、少なくとも光を見た。そんな心境だった。


――――――――――


 さて、盾は誰も触れることが出来ぬため、砦の門近くに在る王の像に立てかけられることになった。ここに在る限り、戦場に持ち出せぬとしても、オーガはこの砦を落とせない。それはすなわち、城塞都市への進軍を許さない、そう言うことだった。司令官は砦と盾を守った3人の英雄に礼を言った。

「本来は…貴殿のような聖戦士こそ、この盾を持つに相応しいのだが。どうか許してほしい。」

全くだよ。ピオは心の中で思った。

せめての礼として金貨ぐらいしか渡せぬことを恥じる。どうか許していただきたい。

司令官は。整列して英雄を見守る兵士たちの中、それぞれに500gの入った袋を渡した。

「盾を与えてくれた勇者に500を。勇者の危機を救った聖女に500を。勇者の力添えに弓を放った勇敢な乙女に500を。」

ピオは内心驚いた。思ったより大金だったからだ。しかし…。

「500など過ぎた金。必要ありません。この二人にあげてください、僕には、そう。10で結構です。頂けるならば。」

フォルクスの言葉に再び、兵士たちがどよめく。この若者は何なのだ。無欲、と言うにもほどがあろう。もしや、彼自身が聖なるものなのかも知れない。それともただの馬鹿か。


フォルクスが言いだしたことを曲げるはずもない。だが、ピオには腹案があった。

「では、お願いがあります。フォルクスは、盾を持っておりません。その残り金490で、彼にごく普通で構いません、<この砦の栄誉を刻んだ>鋼の盾をあげてください。そして、一週間で結構です。フォルクスに、戦士の、兵士の戦い方、盾の使い方をご教授ください。わたし達は毎日、砦に通います。如何でしょうか!?」


ルージは何か言いたげだったが、司令官の「良かろう。聖女の申し出に従う。」の一言で無駄と悟り飲み込んだ。ちぇ、増えそうだったのに。


――――――――――


 さて、城塞都市への帰路。

フォルクスは、ルージに言った。

「顔が知られただろう。もう、死体あさりはできないよ?大体、貴女には向いていない。」

「他の実入りのいいやり方を探すさ。アンタらのおかげで大金入ったからね。」

「ルージさん、ありがとう。私が砦に向かう時間を作ってくれて。ありがとう。」

ピオの素直な礼に、ルージは少し顔を赤くした。礼には慣れていないらしい。

「大体、向いてないってなんだよ。年下の癖に。」

「だって、貴女は亡骸に祈りを捧げてから剣を奪った。本当は嫌なのでしょう?」

「はぁ…見られてたかい。そりゃ好きな奴はいないでしょ。」

彼女は、少しため息をついてから、この二人なら良いかと、言葉を繋いだ。

「あたしん所は、父さんが戦で死んでから、母さんと兄貴が働いてた。ところが、まさにさっきの砦なんだけど、兄貴が片足を切る大ケガをして、兵士を辞めちまった。3人分の食いっぷち、あたしみたいな不器用じゃ稼げなくて…ね。」

「宿に戻る前に、貴女の家に寄らせて貰えないか?」

突然の提案にルージは呆気にとられるが、

「僕の回復魔法で兄さんの傷を見てみたいんだ。出来るかどうか、判らないけど。」

そういうことなら…ルージは渋々話を飲んだ。



 ルージの家。商人から借りている家。あまり良いつくりとは言えない。

挨拶し、中へ入ったフォルクスに最初に向けられたのは、兄の心無い言葉だった。元々兄はそんな人ではないのだが、ここ数年のただ寝転がる生活に張り合いを無くし、言葉も心も荒み始めていた。

「オマエ、ルージ。帰って来たと思ったら男連れか?お前より少し下か?随分世間を知らなさそうな小僧を連れて来たな。どっかの豪商のボンボンか?そっちの小さいオンナは妹か?」

母は、仕事に出ている。宿の給仕だ。大した稼ぎではなく苦しんでいる。

「…とまぁ、ヤサぐれているバカ兄貴何だが、見てくれるかい?」

「いや、見る見ないじゃないんだ。呪文の効力は、時間なんだ。だから試してみる。試させてほしい。ルージさんの兄上。」

「何を言っているんだ?」

フォルクスは、祈り、集中し、神の力を借りるべく聖印を握りしめる。

「失くしたものを取り戻す奇跡を。失った心を取り戻す勇気を。この者に、今一度戦う機会を与えたまえ…< リジェネレーション! > 」


あ、熱い、熱いぞ!貴様なんの呪文を!?

「あ、兄貴!兄貴!足が!足が少しずつ!?」


 暫くして。

兄妹は抱き合って喜び、泣いた。兄は非礼を詫び、見知らぬ神官に礼を言い、妹を嫁に貰ってくれと半分冗談で言った。ピオの横顔を見て、ルージは手で「ないない」と激しくジェスチャーした。

やがて、母が戻り、美しい団らんの時間に、フォルクスとピオもお邪魔することになった。

事の顛末を話題に、自分が死体あさりを辞めることも告げた。元々反対だった母は、それもまた喜んだのだが。


最期に、ルージは言う。新しい就職先、ここにしようと思うんだ。どうだろう母さん。兄貴。

ここ。

ルージはフォルクスを指さした。

面白いし、少なくとも清いやつらだ。稼ぎになりそうだしね。

彼女は母親に、今回の金貨を全て渡した。これだけあれば、兄貴が働きだせば十分な暮らしを始められるだろう。まして自分の分の食い扶持が減ればなおのこと。ルージは振り返り、二人に言った。

「今回のはあたしのおかげ、結構あるのな?自慢じゃないけど、弓ならかなり行ける。ピオを守るくらいなら働けるよ?どうだい?雇えってんじゃない。仲間に入れておくれよ。」


こうして、2人目の仲間、ルージが旅に加わった。少し、旅は賑やかになりそうだった。

「言っておくけれども、家族の元に帰りたくなったら、いつでも抜けていいから。僕は恨んだりしないから。」

「当たり前じゃん。いつか帰るさ。でもその前に、十分すぎる程稼いで、いいオトコ連れて。」

3人は笑って、ルージの家から旅立った。


――――――――エピローグ

 夜の始まりに宿へ戻ったフォルクス。ピオ。そしてルージ。

まず、ピオは初めに情報をくれた女戦士に、金貨2枚をと酒を届けた。

「あたし飲めないけど…ありがとう、お姉さん。」

女性は何も言わず、口笛を吹いて。ピオに向けて乾杯した。


「泊りか。酒か。仕事か。」

今日も不愛想に、ドワーフのマスターが問いかける。

フォルクスの剣技の特訓を司令官にお願いしたばかりだ。7日は泊まるだろう。

ピオが言う。

「冒険者は、気前よくばら撒いて一流だったよね、おじさん。7日泊まるよ。5sの部屋を2つ用意して。あと、この10gで皆にお酒出して。足りる?っていうか、足りて?」

酒場に、笑いと、驚きの声が上がった。やるじゃねえか、小僧共!乾杯だ!!



 まぁ、今回もギリギリのドロドロの命からがらだったけど、良い方向には動いているのかも知れない。ピオはそう思う。盾も手に入れた。ただの盾なら、フォルクスは何の迷いもなく差し出したり、金貨に変え施しにしてしまうだろう。でも、砦の誇り高い銘をうってもらった盾ならば、信義に厚いフォルクスは大切にするだろう。我ながら、いいアイデア。やっぱ、このバカ正直なオトコにはあたしが必要なんじゃないかな!


じゃぁ、お休み、ゆっくり休むとしよう。

お休み。フォルクスが新しい5sの部屋に入り、隣の5sにルージが入ろうと思ったとき、ピオも手を振ってフォルクスの部屋に入ろうとしていた所だった。

「ちょっとまてーい!」

ルージは通路の端までピオを連れて行き、深く深呼吸してから、小声で。

「あのさあ、あんたたちそういう仲ならそうと言ってくれないと、気ぃ遣うんだから少しは。ところでアンタ幾つ?」

「じ、15だけど?」

「…確かに15からは結婚できる年齢か…最近の若いやつはもう…まぁ、邪魔しないよ。じゃあね。」

「やだなぁ、あたしとフォルクスはそんなんじゃないよ。オトコなんて、ケダモノしか居ないし。」

その言葉に恨みにも軽蔑にも似た感情を読み取った年上の女性は、ここで初めてルージとフォルクスの旅の始まりを聞いた。

「…ということ。あたしはフォルクスしか男は信頼してないんだ。今日も、フォルクスは床で寝るよ?多分。」


…ふう。これだから。ふう。

「良いかな、ピオ。よく聞きな。」

ハイナニ。

「アンタは中々の美女になりそう。なりかけ。てか美少女。野党が追ってきたように、男にはアンタも立派な<対象>。だから身を守れ。レッスン1。」

アレ、ソレ下でもイワレタナア。

「ところで、判るかね、世の中の大神官や僧侶たちにもご子息ご子女がいらっしゃる。判るね、この意味。つまり、確かにア奴は紳士のようだけど、心が清い、と、女への興味は、別。ハイ、別。判るね。聖戦士でも、興味ないはずない。判るね。レッスン2。」

エー、ソウカナア、今まで一度もソンナ目で見られてないなぁ。

「ラスト。床で寝るのは何故でしょう。ハイ、それは、アンタを女性として見ているからです。でなきゃ一緒のベッドで良いじゃん!レッスン3!以上!」

3つ目のレッスンを聞いて、ピオの顔はみるみる真っ赤になった。髪の色と負けないくらいに。

「ハイ、アンタはこっちに来なさい。あたしそっちの系統じゃないから安心。いいね。」

ピオは「ふぉるくす~!るーじがこっちで寝ろって!?いい?るーじ、嘘ついてない!?」

フォルクスは荷物を整理しながら、後ろを向いたまま答えた。

「何の話かわかんないけど、嘘のニオイはしないよ。お休み、ピオ。」

ピオはズリズリ隣に連れていかれたようだ。


やれやれ、今日はぐっすり眠れるな。お休み。


ちょっぴり寂しい気もするが、ドキドキしながら寝ているのをバレるよりは1万倍ましだと思えるのだ…。

あぁ、僕も修行が足りない。いや、こういう気持ちって修行で鍛えるものなのかなぁ。



第2話 死体あさりのルージ 完


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