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光の勇者の討伐記 戦争の傷跡残る異郷の地

作者: テンユウ

黄昏時、黄金の光が差し込む廊下にて、最後の魔族を殺した少年の行手を遮る様に、フード付きマントで顔を隠した人形が現れた。


陶磁器の様な体に、絹の白髪、眼帯の無いほうの目には、青いダイヤモンドと水晶で作られた綺麗な眼球がはまっている。


「昔、私お姫様だったの、忌み子として捨てられたのだけれど、お姫様として育てられた時代が私にもあったの。」


私は昔を懐かしむように自分の心臓に刺さった針に思いを馳せる


「呪われた装備を押し付けられたのよ攻撃力1の針、あの人は最後まで善人の仮面を被ってこの針を私にくれたの、指先から心臓に突き刺ささる呪の針、それを笑顔で渡したの、苦しむ私を前に変わらない笑顔で⋯⋯、ひどい話よね。」


フード付きマントで顔を隠した人形は、手の中の針を見せながらそう言って、ため息を一つこぼして見せる。


「自分語り?それとも不幸自慢、下を見れば僕が止まるとでも、今は魔族の魔石を集めるので忙しいんだ、光の石が僕に力をくれる。光の石は魔石を求めている。」


少年は、赤いナイフ片手に俺を睨む。



ここは地下の魔族の世界、現実からは切り離され数百と言う時間が過ぎた、かつて光の勇者と呼ばれる者が残した異世界と呼ばれる傷跡の一つである。


「時間の勇者、私もあなたと同じ迷いこんだ人間に過ぎない、お互い面倒はよしましょう。見て見ぬふり、それで世界は幾分か平和になる。」


「そうか、そうだな、そうかもな、倒しても魔石が手に入らないなら意味が無い。」


互いに背を向け、少年は少し歩いた所で振り向き走る。


「それでも情はあるの、どれ程長く生きようと、しがらみからは逃れられない。」


「そろそろこの光の勇者の力を試してみたいと思ってたんだ、試運転と行こうぜ。」


振り向いた少年、その目に飛び込んで来たのは服の袖から針を構える美しき人形、互いの好戦的な笑み。


「昔魔王を襲名していたこともあったかしら、攻撃力も防御力も最弱の魔王、針の魔王が相手になる。」


勇者は停止した時間の中進み、ナイフを投げる、投げる、投げる。


クルクルと回る光の石、その一瞬の輝きの後に無数のナイフは動き出す。


「物量でどうにかなると思うのなら滑稽よ、針の一本でく覆る程に。」


針はドロリと溶け、水銀の洪水が周囲を薙ぎ払う。


「嘘つきな大人めそれを針一本と言い張るのか、とんだ詐欺師だな。」


「見え方の問題に過ぎない、貴方と私では見える世界が違うのよ。」


地面から無数の針が、杭の如き規模で現れ消える。


「液体の様に見えるのに鉄筋を切り裂いてるみてーだ。」


「針の一刺し特異点、世界は例外を許容しない。」


捻じ曲がるピンクの光を纏った黒い球体、それが破壊のビームとなり、触れる全てを抉る様に少年を消滅させた。


「貴方の痕跡も、私は残さない。」


彼と私達の遭遇は良い物ではなかった、でも、あの雪山で一度命を落としたあの子が光の石を手にした時、答えが出ない、光の石を管理していた魔族の善意が世界を滅ぼそうとしている。


「は悪い子じゃない、強そうなふりをしているだけなの、貴方の様に。」


「救いようの無い悪党でも、変わったから許せって言うのか?」


人も魔族も、理不尽には理不尽で返したくなる生き物らしい、あの子は自分を殺した犯人を殺して理不尽を返し、セイラムの部下は報復で私の弟を殺した。


サラエボは優しい魔族だった、私を姉と呼び私も彼を弟と呼んだ。


「貴方の罪を測るつもりはない、ただ私のワガママで消えて。」


再起動リスタート


「何もさせずに切り裂くぜ。」


赤い軌跡が人形の首を狙う。


MISS(異なる次元)


「あら、ここに戻るのね。」


針が、記憶を縫い留めていたらしい。


世界は巻き戻り、一方的な虐殺が始まる。


MISS(異なる次元)


再起動リスタート

MISS(異なる次元)

再起動リスタート


MISS(異なる次元)

再起動リスタート


再起動リスタート

再起動リスタート


再起動リスタート

MISS(異なる次元)


再起動リスタート


再起動リスタート 


何故勝てない、革鎧も腕の篭手も意味が無いから捨てて身軽にした、相手の動きにも慣れた、もう奴を殺せるとこまで来たはずなのに。


「よぉ飯でも食えよ坊主、腹がふくれれば心も落ち着く、もうやめちまえよ、楽しくねぇだろそれ。」


「サラエボ、ハハ未練って奴か、あんたがいない世界で僕は心から笑えないんだ。」


雰囲気が変わった?


「確かに一本の針だ、嘘つき呼ばわりして悪かったよ。」


不味い、心を折る完全に今ここで。


MISS(異なる次元)

MISS(異なる次元)

MISS(異なる次元)

MISS(異なる次元)


速い、動きの出だしを読んで、それに私の次元に対応しつつある。


「動きが単調になって来てるぜおばさん。」


「超重力操作」


壁に叩きつける、叩きつける、上上下下、右左、砕けた瓦礫を駆け上がり、迫る針をナイフでズラして宙に浮かぶ私に迫る。


速い、それに針を押し戻される様になって来た。


両手に武器として持てる角度で針を持ち、足場の針を滑り落ちるように移動し少年に斬りかかる。


重力操作を併用した高速移動、限定的な時間操作も、命の本質を切り裂くナイフ技術も、単純な身体能力による速度も力も関係ない。


針は、最果ての塔じみた世界の基準である針は、矮小な時間操作を持ち主ごと無効化し、異なる次元の影にすぎない針をいくら砕いた所で無意味、どれ程の怪力で押し切られそうになろうと空間に固定してしまえば私の非力さに関係なく防御出来る。


経験と技術で押し込み、時間を稼ぐ。






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