世界で一番おいしいトマトを食べた
ある日のことです。
受付にやって来た患者さんが小さな段ボール箱を渡してきました。
「あげる」と一言呟いて黙ってしまいました。
中をのぞいてみると沢山のトマトが入っていました。
ツヤツヤしていて真っ赤なトマト。とても美味しそう。
「いいんですか!?ありがとうございます。」とお礼を伝えると
「皆さんで食べて下さい」と言ってくださいました。
トマトの出所が気になった私はそのまま患者さんとお話してみました。
「実家が農業をやっていて、収穫の人出が足りないから手伝ってほしいと言われて行ってきた。
出荷できないトマトを沢山貰って、食べきれないから病院に持ってきたんです」と教えてくださいました。
トマトをよーく見てみると傷がついていたり、形が歪なトマトばかりでした。
スーパーで見る綺麗なトマトとは全然違います。
ですが、もぎたてだからか色ツヤがとても綺麗でした。
この患者さんは病状が結構重い方で、1年の間に何度も入院の危機が訪れるくらい不安定です。
短時間の仕事をされていますが、悪化すると一定期間休んだり、最悪の場合は辞めてしまうこともあります。
そんな患者さんが、体調が良い時期だったとは言え、外に出て収穫をすることが出来たということがとてもうれしく、トマトが宝石のように輝いて見えました。
この患者さんのことを知っているスタッフや主治医もトマトの話を聞くと同じように感動し、口々にお礼を言っていました。
患者さんは恥ずかしそうにしながらも笑顔で収穫の話をしたり「どういたしまして」と返していました。
熟しているから早めに食べるよう教えてもらったので、職場の冷蔵庫に冷やしておきました。
休憩時間にさっそく貰って食べてみました。
うま。
甘ーーーーーーーーーーい!!!!!!!!
え!?めちゃくちゃおいしい!
トマトってこんなにおいしいものだったっけ?
もぎたてだったからでしょう。
冷やしておいたからでしょう。
暑くて疲れていた体に丁度良かったのかもしれません。
でも、患者さんが一生懸命収穫して、私たちのために持って来てくれた。
この事実がトマトのおいしさを何倍にも引き上げてくれた気がします。
気持ちのこもったものがこんなにおいしいとは。
きっとどんなトマトを食べても、私は患者さんから貰ったトマト以上に美味しいトマトには出会えないと思います。