うさ耳会長と、制服
緋桜さん他からのリクエスト
うちの学校にはとても有名な生徒会長がいる。
それは学校の内外問わずの人気ぶりだ。
確かに会長は頭がキレるが、全国模試一位というほどではない。
確かに会長は運動神経も良いが、全国大会で優勝するほどではない。
確かに会長は綺麗な容姿といえなくもないが、雑誌モデルのほうが遥かに可愛いはずだ。
ではなぜ会長がそこまで人気なのかというと、俺が思うに性格が七割を占めている気がする。
「会長、今度の生徒総会についてですけど、」
いつもより少し遅れて俺が生徒会室に入ると、会長はいつもどおりに窓際で外を眺めている。
開け放した窓枠で頬杖をついて、いつも何がそんなに楽しいのか俺にはわからない。
校庭を一望できるこの生徒会室からみえる景色はいつも手前のグラウンドがサッカー部で、奥からは野球部の声が聞こえる。
グラウンドの周囲を走っているのはチアリーディング部で、進学校にしては珍しく全国大会まで行ける実力の声援は、運動部でなくとも嬉しくなる応援だ。
「会長?」
いつもだったらすぐに気づく会長が、今日はやけに熱心に眺めている。
風に流れる黒髪と、同じく風に流れる会長の頭の上のアレ。
会長を別な意味で有名にしている、白くてふわふわとした細長いウサギ耳が揺れている。
一年の秋頃から会長の頭に生えた正体不明のウサギ耳は、今日も変わらずそこにある。
本物のうさぎの耳みたいなそれが単なるアクセサリーなら良かったのだが、会長の頭から直接生えているというそれには神経まで通っているし、会長の感情に合わせて動いてしまうので始末が悪い。
情に篤い硬派といわれていた会長は、このウサギ耳のおかげで無限大の可愛さを手に入れてしまった。
会長人気の残り二割がこれではないかと、俺は睨んでいる。
足音静かに近づいていた俺に気づかない会長の、ウサギ耳の片方を俺は右手で握る。
「か、い、ちょー」
「い……っ!」
びくりと震えた会長が固まったのは、俺の声に気づいていなかったか、俺の静かな足音にも気づいていなかったからか。
とりあえず、会長のウサギ耳はただの飾りで、まったく聞こえないらしい。
「仕事もせずになにしてんですか、総会は来週なんですよ?」
「いたいいたいいたい、はな、離してー……っっっ!」
「まだ全然準備だって終わってないんですから、ひとりでのんびりしている暇なんてないんですから、ねっ」
言いたいことを言ってから俺が手を離すと、会長は涙で潤んだ目で俺を下から睨みつけてくる。
ウサギ耳が生える前なら多少は怖さもあった視線なのだが、今は可愛さが増すだけだ。
効果は……可愛いと言うだけなら殺人的。
だから、俺は会長からさっさと目をそらして、棚から電卓と会計ノートを取り出し、いつもの席に座る。
会長は悔しげに俺を見てから、不意に目をそらした。
「何度もいうようだけど、」
「ウサギ耳を引っ張るな、ですか?
引っ張られたくなかったら仕事してください」
俺がいつもの会長のセリフを言うと、悔しげに睨まれる。
そんなに頬を紅潮させて怒っても、まったく怖くない。
俺が握った箇所が少し赤いということに、多少の罪悪感はある。
だが、そこで気にしているようでは会長の相手は務まらないし、仕事も終わらない。
俺は会計ノートを開き、もってきたばかりの資料をノートの左に開き、その上に電卓を置いて。
それから、シャーペンの芯を出し、いつもの作業を始めようとした。
「私だって仕事してるわよ。
さっきまで総会の衣装合わせをしてたから、今はちょっと休憩してたのっ」
「衣装合わせ?」
俺の知る限り、会長の総会準備スケジュールにそんなものはなかった気がする。
どうせ、会長の親衛隊か誰かが言い出したんだろう。
会長は面白そうだと思うと飛びついてしまうから、それも絡んでいるのは間違いない。
「あんまり派手なのはやめてくださいよ。
俺たち生徒会が教師を敵にまわすわけにはいかないんですから」
ただでさえ会長にうさぎ耳が生えて以来、風紀に関しての教師から風あたりが強くなっているのだ。
会長に言っても通じないから、俺が事あるごとに教師から小言を受けるはめになっている。
「わかってるわよ。
だから、巫女姿とか、バニーちゃんとか、水着とか、そういうのは全部却下したわ」
だったらいいんですけど、と呟く俺の前で、会長が席を立つ。
軽い違和感を覚えた俺は、会長の全身を視界に収めた。
「だから、いろいろともめたんだけど、この制服で手を打っといたわ。
どう?」
さっきまで会長が座っていたから気付かなかったが、その制服は一見いつもの制服のようでいて、いつもよりも、その。
「見た目はそんなに普通の制服と変わらないけど、スカートの後ろにうさぎの尻尾があってねー」
くるんと俺の前で回転してみせた会長のスカートの後ろには、確かに耳と同じような毛玉がついていた。
だが、そんなものよりもそのスカートから伸びる足がいつもよりも長くて、膝上十センチまで上げられた黒のニーソックスの上でスカートのひだが揺れていて。
「み、」
「み?」
俺の区切った言葉を会長が頭を軽く右に傾け、繰り返す。
当然、会長の頭上でウサギ耳も右に傾く。
でも、そんなことは今の俺には関係ない。
会長に、ミニスカートと黒のニーソックスなんて、なんて殺人的な組み合わせだ。
「ミニスカはダメです!」
会長のミニスカなんて、昨年のクリスマスでも大変な目にあったっていうのに、繰り返されちゃたまらない。
会長が可愛いのは認めるが、そのとばっちりは間違いなく俺にくる。
そう決まっているのは俺と会長が付き合ってるとか、余計な噂が流れているせいもあるのだが、そんなことはどうでもいい。
「これ以上風紀を乱さないでくださいっっ」
俺が言うと、会長は不満そうに、だが何故か嬉しそうに笑った。
「ちなみにキミにも衣装あるから、後で合わせてきてね」
「……」
「わかった?」
どれだけ反対しても、所詮俺も会長には甘くならざるを得なく。
「……わかりましたよ」
仕方なく頷いた俺を、会長はうさぎ耳を風に揺らして、にんまりと笑った。
――了
読了有難うございます。
一応会長の立場を考えて、ミニスカは書かないつもりだったんですが、あまりにリクエストが多かったので書くことにしました。
いかがでしたでしょうか?
お気に召していただけたら、書いた甲斐があります(笑)
ではでは。
(2010/4/21)