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うさ耳会長と、二月十四日

※季節モノ

 うちの学校は県内でも有数の進学校と謳われているだけに、勉強への力の入れ具合は他校とは比較にならないと言う。

 そんな学校でも実は生徒会の粋な計らいというものがあって、俺の目の前には白くて長い耳が生えたラッピングの山が見えるわけだ。


「会長、大量ですね」


 ラッピングの山から生えている白いウサギ耳がピクリと動き、その辺りで椅子が身じろぎする音がした。

 同時に、ラッピングの山がこちらに崩れてくる。


「おわっ!」


 いつものように会計処理をしていた俺は避け損なって、会計資料ごとそれに押しつぶされた。

 それを笑う声にほんの少しが悪意が篭っている気がするのは、俺の気のせいだろうか。

 甘ったるいチョコレートの香りがするラッピングの山から抜け出した俺の前に、黒い影が座る。


 黒い影はうちの学校の生徒会長で、学校紹介に出てきそうなぐらいきっちりと制服を着こなしている。

 だが、背中に滑り落ちるまっすぐな黒髪は校則違反だよなとどうでもいいことを考えながら、俺はその人から視線を外して、ラッピングの山――バレンタインのチョコレートの山から抜け出した。

 当然俺が動いたせいで数個が床に落ちたが、そもそも俺に向かって崩れた時点で床には散乱しているのだ。

 そこまで気にすることではないだろう。


「ほら、キミも拾いなさいっ」

「は?」

「全部これに詰めて」


 ほらと渡された五十センチ四方のダンボールを反射的に受け取った俺は、思わず眉間にシワを寄せていたに違いない。


「用意いいでしょ」

「毎度のことですから、当然でしょうね」


 逆らっても仕方のないことなので、俺は黙ってチョコレートの箱詰め作業を開始した。

 会長の座っていた辺りには、既に十数個のダンボールが積み上げられていたし、目の前の会長も箱詰めをしているからだ。

 今日はやけに静かだと思ったが、どうやら黙々と箱詰めしていたらしい。


 一つ一つ手にとり、手紙を読み、丁寧に箱に入れている会長はやはり嬉しそうだ。


「……なんでうちの学校は三年の登校日が二月十四日なんでしょうね、会長」


 最後の一つを詰めて、会長に渡したあとで俺は尋ねてみた。

 俺が知っているのは初代生徒会長が定めたということだけだ。


 それに対して、会長は何を今更といった顔をしている。


「バレンタインだからでしょ」

「だから、それが何でなのかってことです」


 不思議そうに俺を見る会長が首をかしげ、いつものように会長の頭の上にある白い耳も揺れる。

 相変わらずの殺人的な可愛さで、直視しているだけで目の前がくらくらしてくる。


「もういいです。

 今日はお先に失礼します」


 今日の俺は変だ。

 会長に人気があるのはいつものことだし、バレンタインでチョコレートを山ほど貰うことだって知っているのに、苛々して落ち着かない。

 これ以上一緒にいたら、会長に向かって暴言を吐いてしまうかもしれない。


 会計資料を戸棚に入れ、ひっつかんだ鞄に筆記用具を投げ込んで、そのまま戸口へと向かう。


「え、何怒ってるの?

 もしかして貰えなかったの?」


 失礼な。

 会長の足元にも及ばないが、俺だって紙袋いっぱいのチョコレートを教室に置いている。


「そんなんじゃありませんよ。

 失礼しますっ」


 戸口で会長を振り返ったところで、目の前に飛んできた何かを俺は反射的にキャッチしていた。

 茶色い藁半紙みたいな安っぽい紙袋には、固いものと柔らかいものが入っている感触がある。


「なんですか、これ?」

「もらったやつじゃないから」

「へ?」


 こちらに背を向けている会長の表情はわからないが、ぴんと高く伸びたウサギ耳がぴくぴくと痙攣している。

 照れ隠しなのか、髪を耳にかける仕草で会長の耳が赤いように見えたのは、俺の気のせいだろうか。


 気のせいではないと嬉しい。

 かもしれない。


「ありがとうございます……っ!」


 生徒会室のドアを閉めたとき、さっきまでの苛々はうそのように消えていた。

読了有難うございます。

遅れましたが、バレンタイン創作です。

進展したようにも見えますが、この後はオチがつけ放題なのでやめました(え

(2010/02/17)


ケータイSNS「みんなのノベル」で更新して、こっちに上げるの忘れてました。

ごめんなさい!!!

(2010/03/09)

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