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迷宮色の没投稿。  作者: 石食み
序章:■■
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取り敢えず週一投稿目安で。

 入学式に出席している新入生達のファッションはまさに十人十色、文字通りに個性の主張のぶつかり合いだった。

 学校という一つの社会共同体を最低限維持させる程度の効力しか持たない校則は有って無いようなもので、しかしそれで十分なのだろう。()の倫理観で語れば学校教育の破綻だと叩かれそうな状況も、この学園都市内では瑣末事として切り捨てられる。

 それは本来の学校が持つ教育とは別のものを()()では重要視しているからであり……そういった事を気にしていてはキリが無いと諦めているからでもあった。

 学園都市アルケデイア。都市丸ごとが学園であるここに、全国各地から集められた生徒達が求められるのは【学力】ではない。学園が設けた独自の評価基準に適合し、()()()()と判断された人だけが入学を許可されるココは、勉学に励む場所ではなく――己が素質に合った【才能】を磨く場所。


 「……以上を持ちまして、第五十四期生入学式を終了致します。各科毎に学年主任の指示に従って退室してください。また、再三のアナウンスになりますが、本日は新入生の()()入場は許可されておりません。違反が見られた場合は、即退学となります……」


 迷宮(ダンジョン)。今から約半世紀程前、突如として全世界の各地に出現したそれは、世界の常識を一変させた。未知の生物、未知の物質、未知の技術。最初、恐怖と戸惑いの内に接されていたそれらが人類にとって有益であるとわかってからは、未曾有の迷宮ブームが到来し、各国はこぞって迷宮攻略に乗りだした。

 日本も例に漏れず、攻略に併せて徐々に迷宮に関する法を整備していき、今や“迷宮世代”と呼ばれる程に社会に浸透している。学園都市アルケデイアは、そんな迷宮を攻略する、通称“探索士(たんさくし)”の次世代を育成する事を目的に開校された、国内唯一の五年制学校だ。

 探索士を目指す者は皆ここ(学園)へ入学する――事を夢見る。学園は探索士になる為の登竜門としての役割も持つ為、競争率も高い。多くの者が夢破れる中、選ばれた者のみがここに在籍しているのだ。全ては迷宮を攻略する為に。


 入学式後は簡単なオリエンテーションと自己紹介のみで、初日は昼を回る前に解散となった。クラスメイト達は既にいくつかのコミュニティを形成していたが、俺は生憎一人。時間を持て余したので、昼食ついでに学園街を散策しようと適当にぶらついていたら迷った。迷宮(ダンジョン)の為に作られた場所がそもそも迷宮であるという罠。

 五股に分かれている裏路地っぽい交差路の中心で立ち止まり、途方に暮れる。もちろん学生手帳に頼れば良いのだろうが、それはなんか負けた気がして嫌だ。代わりに人に聞こうにも人気はない。来た道を戻ろうにもどこから来たのかが分からない。方向音痴なので。


 「詰んだ」

 「何が?」


 こうなっては仕方ない、最終手段だ。五本の内から一本選ぼう。ど、れ、に、し、よ、う、か、なっと。ああ、早く帰って飯を食いたい。

 そっちは違うよ、不幸な目に遭うよ、と頭の中で騒ぎ立てる声に無視を決め込み、神頼みで決めた、何となく見覚えがあるような道を歩く。歩けど歩けど人と会わないが、静まり返った石造りの路地に一人だけというのは、中々に風情がある。こういうのも悪くないな、なんて感傷に浸りながら歩みを進める。

 だが、流石に煩い。構わなければそのうち黙るだろうと考え放置していたが、一向に静まる様子がない。遂には顕在化しやがったので、諦めて口を開く。


 「勝手に出てくるな」


 言葉に、頬を膨らませ、明らかなむくれ顔を向けて来る()()()()()がそこには居た。えー、と不満をあげ、足ですねを蹴ってくる。そんな、子供がやるような仕草一つとっても彫刻芸術のような美しさと神々しさを醸し出すその姿に、一層嫌悪感が増す。

 故あって憑かれているのだ、俺は。コイツは人の姿を取ってはいるが人では無い。当人は自分の事を【迷宮姫】と名乗ったが、悪霊か何かの間違いだろう。


 「お前が出てくると周りの目が面倒なんだよ、いつも言ってるだろ。それに鬱陶しい」

 「またそんな事言う。照れないでよ、今ここには誰もいないよ?」

 「照れてない。お前と顔を突き合わせんのが嫌だってんの」

 「冷たいこと言わないでよ。私と」


 急に、グッと顔を近づけてくる。そこそこ高身長の俺と目線が合うくらいには彼女の背も高い。真っ直ぐに交差した向こう、氷の様に透き通った瞳の奥に、ハイライトが消え、濁った闇を覗かせ、息を吹きかけるように言葉を紡ぐ。


 「貴方の仲じゃない。ね?」


 抑揚のない声。顔を至近距離で固定させたまま、肩を手を置いて正面に立ち、こちらを覗き込んでくる。こんな時でも整っている顔が憎たらしい。

 ()()なっては梃子でも動かない事を長い付き合いの中で知っているので、心の内で溜息をつき、諦めて最終手段。まったく、どこで地雷を踏んだかな。この程度悪口、いつもだったら笑って受け流しているのに。

 思考で現実逃避しながらも、身体は滑らかに動く。肩を抱き寄せ、ただでさえ近かった距離をさらに縮め囁く。


 「……言い過ぎたよ。悪かったな、ハイネ」


 リップ音。長い沈黙の後、艶めかしい吐息がこぼれる。絡む視線にはいつの間にかハイライトが戻り、むしろ熱を帯び始めていた。

 嗚呼、帰りたい。飯は最早どうでもいい。帰って直ぐに口をゆすぎたい。脚を絡ませてこようとするハイネを避け、歩みを再開させようと顔を上げて、


 「――あ」

 「……不潔」


 物凄い表情で此方を睨めつけている美少女と目が合った。感情を怒り一色で染め、ワナワナと肩を震わせる少女は、一言吐き捨て足早に去っていく。だから不幸になるって言ったのに、と小さく呟くハイネの声に、ふと嫌な事を思い出してしまった。

 そういえばコイツ(ハイネ)、全裸だった……。

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