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4、『XYZ』

 ♤♤♤♤


 昨日、私は火事に遭遇し、瀕死状態に陥っていた彼女を救出した。

 今日の早朝、キンダーガーデンはクラスメート兼探偵仲間のメンヘラガールと協力し、仇級都市で最も有名なクリスマス神社へとやって来ていた。

 そこで事件は起きた。

 神社から離れた場所に位置する倉庫が燃え始めた。駆けつけると、既に消防偵が到着しており、消火活動を行っていた。


 倉庫内には頭を銃で撃ち抜かれた男が入っていた。


 消火の様子を見ていたキンダーガーデンを、背後から迫った何者かが鈍器で殴った。


「キンダーは大丈夫か?」


「ああ、当たり所が良かったらしい。何とか重傷には至らなかった」


 だが二日続けて探偵の近くで事件が起きるのは意図的か?

 いや、二十六人も探偵がいれば一人くらい事件に巻き込まれはするだろう。


「パラダイムシフトは平気か?」


「ああ。私は丈夫だからな。この程度じゃ死なんよ」


「今は一人でも失うわけにはいかないからね。すぐに復帰してもらうけど大丈夫?」


「むしろ私には解決しなきゃいけない事件がある。休んではいられんよ」


 今回の火事、私は幾つか違和感に気づいた。

 もしこの違和感が全て事実なら、もしかしたら他殺の可能性がある。


「パラダイムシフト、この二つの事件、何の関係性もないと思う?」


「同じ仇級都市とはいえ、二つの事件が関連しているようには思えないな」


「そうか」


 キンダーガーデンは何かに気づいている雰囲気を漂わせている。


「キンダー、何か気付いたことでも?」


「ああ、実は火事の現場でーー」


「ーーちょっと、何でうちの平家星にキンダーなんていうあだ名つけてるわけ。ちょっと馴れ馴れしくない」


 ゴスロリ衣装の少女ーーメンヘラガールが私を怪訝そうに見ながら口を挟む。

 名前の通りなら、ちょっと面倒なんだが……


「私は平家星の恋人のメンヘラガール。次キンダーとか呼び捨てしたらさーー呪っちゃうよ」


「怖いよこの子、滅茶苦茶怖いよ」


 メンヘラガールの、一切視線をはずさない凝視に恐れをなし、私は背筋を震わして脅えていた。

 今にもナイフを持って襲いかかってきそうな。


「わ、分かったから。キンダーガーデン、事件の詳細を聞かせてくれ」

「もっと敬語で」


「キンダーガーデンさん、事件の詳細を聞かせてください」

「もっと敬語で」


「キンダーガーデンサン、ジケンノショウサイ、キカセテクーダサイ」

「何でカタコト」


「キンダー……」

「もういい」


 メンヘラガールは立ち上がると、むっとした表情でその場を立ち去ってしまった。


「キンダー、なんか怒らせちゃってごめんかも」


「良いんだ。あの子は、そういう子だ」


 キンダーはメンヘラガールのことを凄く気にかけているようだった。

 好きなのか、それとも別の理由があるのか。


「ちょっと迷惑かけるかもしれないけどさ、あいつと仲良くしてくれないかな。あいつだけは、僕は失いたくないんだ。誰よりも大切な……僕の……」


 キンダーは途中で言うのを止めた。

 昔のことでも思い出しているのか、遠くの方を見てしばらく黄昏ていた。


 しばらくすると気持ちを切り替え、笑顔をつくった。


「じゃあ事件のことで話そっか」


「あ、うん」


 話を切り替え、キンダーは事件のことについて話し始める。


「僕がなぜ襲われたのか、それは不明だ。でもあの場で火事を起こしたのと、僕を襲ったのは多分同一犯だと思う」


「なぜだ。一見偶然にも思えるけど」


「確かにそうかもしれない。でも僕は昨夜、泊まっていたホテルの部屋の扉の前に手紙が置かれていたのを見つけた。それには、明日の早朝、神社で火事を起こすという内容」


「つまり火事に夢中にさせ、キンダーを襲える環境を作ったというわけか。なかなかの策士だな」


 キンダーの泊まるホテルは、尾行さえしていれば簡単に見つけ出せる。だがキンダーを呼び出してまで、今回の事件を起こす価値はあったのだろうか。

 本気でキンダーを殺すつもりなら、もっと確実な方法があったはずだ。


「ところで、私の事件とキンダーの事件がどう関係する?」


「神社で火事が起きた倉庫には、後々一枚のカードが発見されている。それには『XYZ』と書かれている」


「それがどうかしたのか?」


 私が困惑の表情を浮かべていると、神楽が私に一枚のカードを渡した。

 焦げ跡で見にくくなっているが、カードには『XYZ』と書かれていた。


「それが、パラダイムシフトの現場でも発見されている」


「同一犯!?」


「そうだ。そして奇妙なことに、二人の身体にはそれぞれ『X』と『Y』の文字が刻まれていた」


「……気味が悪いな」


 この時期にこんな事件が起こっている。

 まさかとは思うが……


「これは憶測に過ぎないんだが……」


 キンダーは口元に手を当て、深く考え込んでいた。

 キンダーはすぐに続きを言った。


「《エンドローガー》が……関わっているのかもしれない」


「否定はできない」


 実際、そうである可能性が高い。

 もし火事が一つの現場でしか起きておらず、また現場にカードが残されていなければ疑わなかったはずだ。

 しかし事実はそれと相反する事態である。


「パラダイムシフト、これについてどう思う?」


「今は何とも言えない。ただ、関わっているとすれば事件はこれでは終わらない。だってそうでしょ」


 《エンドローガー》とはーー


「《エンドローガー(彼ら)》は、いつだって世界を滅ぼすために事件を起こす」


「うん……」


 キンダーは、酷く《エンドローガー》に脅えている様子だった。

 私も同じだ。


 彼らは常に世界と戦ってきた。

 何度も世界と戦っては、滅ぼし、恐怖を歴史に刻んでいる。


 ーー逆英雄そのものだ。


「でもね、キンダー。この事件に彼らが関わっているかは分からないけど、私の方の事件の犯人が誰なのかは大方予想はついているの」


 事件現場には、幾つか違和感があった。

 一つ目は、被害者がいた部屋の扉が下半分だけやけに燃えていたこと。

 二つ目は枕元に血痕があったが、被害者は足を負傷していたこと。

 三つ目は女性の行動。


 三つ目に関しては違和感がある程度で、それが事件に関係するかは不明である。


「その三つで犯人が絞れるのか?」


「事件が起きたのは昼間、空き巣が入るには人通りが多く、彼女の知り合いでない者がわざわざ彼女を殺す必要はない。」


「では知り合いだと?」


「それに加え、今回の事件現場には銃があったはずだ。犯人は被害者のいた部屋と向かい側にある部屋に銃を置き、扉の下半分を切り取り、銃口を枕元へ向けた。時間が来ればベッドに眠る彼女のこめかみに当たるよう仕掛けた」


「でも、現場からは銃は発見されてないよ」


 神楽は言った。


「なるほど……」


 私の推理は完璧だと思ったのだが……


「ねえ、もし銃が使われていた場合、もっと犯人は絞れたのかい?」


 キンダーは私の推理の続きを聞きたそうにしていた。

 彼も事件の答えに近づいているのかもしれない。そう感じた私は続きを話す。


「一般に銃は普及しておらず、それに昼間から放つんだからサイレンサー付きが必要。それを得るには闇市場か、そこらだろ」


「あと、《エンドローガー》だろ」


「あ、ああ……」


 推理して思ったが、やはり《エンドローガー》の可能性が抜けない。それどころか強まっていく。


「パラダイムシフト、今回の事件は《エンドローガー》が関わっている。僕はそう見ているよ」


「そうっぽいね」


「だからこそ、この事件を止めることができれば《エンドローガー》による大災害はこの仇級都市で終わる。パラダイムシフト、ここで奴らを食い止めて、一泡ふかせてやろう」


 自信に満ちたキンダーの表情に吸い込まれるように、私はキンダーと固い握手を交わした。


「ああ、そうだな」


「必ず勝とう」



 ♡♡♡♡



 ーーそこは第三の事件現場。

 仇級都市海岸、そこにある一隻の船に男が一人投げ捨てられた。男は手足を縛られている。

 転がる男の頭部に向けて、黒いローブの何者が拳銃を向けている。


「さよなら、嘘つき」


 男は撃ち抜かれた。

 銃声に気付き、近くの造船所に勤務していた男は船の方まで駆け寄った。その時既に、船は炎上していた。


「皆、大変だ。船が、船が燃えてる」


 後々、そこで発見されることになるだろう。

『XYZ』と書かれたカードが。

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