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ゆるだら令嬢、魔王になる ~それでもお嬢様は可愛いので僕は無限に甘やかす!~  作者: 川石折夫
第1シーズン・ゆるだら令嬢危機一髪編
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幕間「獣魔の終、髑髏は想う②」

 


 ――魔王暗殺未遂事件解決に関する緊急議会のあと、ナーザの執務室。




「よもや、ジデル殿があのような本性を隠していたとは……それを見抜けずこのバハル、一生の不覚です」



「言うな。可能性に気づいていながら、手をこまねいていた我も同じ思いだ。おぬしだけが責を感じることではない」



「いえ……さらには、我が娘シャロマの失態。敵の手に落ち、まんまと魔王を危機に陥れるのに一役買うとは、魔王秘書としても諜報員としてもまことに情けない……アレには重々言いつけておきます。ですので、どうか罰の方はなにとぞ……」




 そこには、執務席に座るナーザと、その彼女へ向かって頭を下げる、三賢臣(さんけんしん)バハルの姿があった。



 その言葉を受け、ナーザは神妙に首を横に振る。




「気にするな、あやつはまだ若い。年季も小賢しさもジデルの方が上手(うわて)だったというだけの話だ……説教はいいが、あまり叱ってやるな」



「は、ご温情痛み入ります……」



「しかし、我も老いたものだ。ヤツを手に掛けるなら、もっと早くやっておればよかったものを……やはり、人の上に立つには甘すぎだな、我は」



「いえ、そのようなことは……くれぐれも、妙な気は起こされぬよう。ジデル殿亡き今、あなたまで三賢臣(さんけんしん)の席を空けるとなれば、魔王城の存続は絶望的となりましょう」




 ――責任をとって、三賢臣(さんけんしん)の座から降りる。



 ナーザがそんなことを言い出そうものなら、バハルにそれを止める力はない。



 もし彼女を失えば、今回の事件を受けてただでさえ不安定な魔王城の内政は一気に崩壊……全魔族の統治にも致命的な影響を与えるだろう。



 ゆえに、バハルは切望をこめてナーザを引き留める。



 そんな彼に対し、ナーザはふっと薄笑みを浮かべた。




「安心せい。一度や二度の過ちで降りるようなら、ハナから三賢臣(さんけんしん)などやっておらぬよ……だが、不安にさせたのはすまなかった」



「いえ……」




 逆に詫びられ、バハルは恐縮してさらに頭を深く下げる。



 彼はほどなくして顔を上げ、その双眸を神妙に細めた。




「ところで、ナーザ様。魔王……ルーネ=ヴィリジオのことはあれでよかったのでしょうか。ジデル殿の処刑という業をあの娘に背負わせるのは、少々酷では……」



「ほう、おぬしがあやつを案じるとは意外だな。さすがに、これだけ身近にいれば多少の情がわくか……ま、同じ年頃の娘を持つ身としては当然か」



「いえ、そういうわけでは……!」




 ナーザの言葉に、かっと目を開けて声を荒らげるバハル。



 自ら図星と白状しているも同然のその態度に、ナーザはくつくつと愉快げにほほ笑む。




「提案したのはたしかに我だが、決めたのはあやつ自身だ。実際、さっきの立ち回りはじつに堂々としたものだったな。あの娘は案外、魔王としての素質が本当にあるやもしれぬぞ?」



「だと、いいのですが……」




 ナーザの言葉にバハルはうつむき、いまだルーネへのわだかまりを覗かせる。



 彼がルーネの素行に疑念を抱き、シャロマに探らせたりして真実を突き止めようとしているのはナーザも承知している。



 ひそかにルーネ側に寝返ったシャロマの偽情報と、徐々に魔王としての品格を備えつつあるルーネの振る舞いで彼の印象はだいぶ緩和されてはいるはずだが、それでもバハルは完全にはルーネを信用できないようだった。



 やれやれと心の中でつぶやき、ナーザは溜息を吐く。




「ま、それはそれとしてだ」




 しかし、すぐに表情をあらため、シリアスな眼差しをバハルに向けた。




「腹に一物あったとはいえ、ジデルのこれまでの働きに偽りはなかった。たとえ妄執でも、ヤツが魔族のことを真剣に考えていたのは事実であったからな……あれほどの男の代わりはそうそう見つからんだろう。()()()()()()()()()、当面は我らふたりで魔王城を支えていかねばならん。頼りにしているぞ、バハル」



「は……」



 政治的には素人のルーネを魔王に担ぎ上げたことで、ただでさえ三賢臣さんけんしんはオーバーワーク気味だ。



 そのうえ、貴重な人材の損失……これが、魔王城に与える影響はすくなくない。



 それでも、ジデル処刑という決断をした以上、やらねばならない……



 ナーザはその決意を、形は多少違えど互いにより良い魔族の未来を志すバハルと共有するのであった。


 

 ◆

 


 ――一方、魔王城にある来賓用の談話室。




「やれやれ、思ったより大事になってしまったかな」




 そんなことをひとりごちながらソファーにどっと体を預けているのは、海魔族(シーマー)領領主カイネスである。



 ほとんどの領主が議会の終わりとともにさっさと魔王城を後にした中、彼は残り、ここで物思いにふけていた。




「――多少は悪知恵が働くようだが、さすがにこの展開までは読み切れなかったようだな、カイネス」



「っ!?」




 そこへ、気配もなく唐突にかけられた声。



 それにカイネスはぎょっとして振り向く。



 そこに立っていたのは、漆黒のローブを纏ったドクロであった。




「これはこれは、リチル殿……まだお帰りになっていなかったのですね」




 ――いつからそこにいたのか、まったく気づかなかった。



 その動揺を、すみやかに貼りつけた愛想のいい笑顔に隠すカイネス。



 それに対し、リチルは「フン」と鼻を鳴らす。




「すこし、お前と話したいことがあってな。探していたのだ」



「私と? プライベートでは一部の者を除いてめったに他人と関わらないことで有名なリチル殿にそう言ってもらえるとは、光栄ですね」



「フン、心にもないことをヘラヘラと……まあ、よい。それより、だいぶアテがはずれたようだな、カイネス」



「はい?」



「以前の議会でお前が魔都視察を言い出したのはガラドを触発し、行動を起こさせるためだろう? 最低限の護衛のみを連れたお忍びの魔都視察……そんな絶好の機会をお膳立てすれば、現魔王を目障りに思っていたヤツは、かならずなにかしでかすと踏んだのだろう」



「………」



「まんまと魔王を排除できればそれでよし、仮に失敗してもガラドは失脚し、お前が強硬派の中心に立てる……どう転んでも、お前に益があるというわけだ」




 リチルがつらつらと語るうち、カイネスからは表情が消えていた。



 いつもの軽薄なニヤケ面は消え失せ、無表情でリチルのドクロ面を睨む。




「大筋はお前の目論見どおりになったわけだが、事態はお前の想定をはるかに上回った。まさかガラドの背後にジデル殿がいて、過去に先代魔王たちを手にかけていたとは、な……さすがのお前も夢にも思わなかっただろう。ヤブをつついて蛇を出すとはこのことだ」




 いつしか、リチルの声はカイネスをあざ笑うように弾んでいた。



 それを聞き、ギリッと歯を食いしばるカイネス。



 しかし、すぐ我に返ったようにふっと口を緩め、ふたたび柔和な笑顔をつくる。




「……たしかに、あのヨボヨボの爺さんがあんな大それたことをしでかすなんて、夢にも思いませんでしたね。ですが、それ以外は私にはとんと心当たりのないこと……ま、仮に私がそんな考えを持っていたとしても、魔王様を害するなんて恐れおおいことは考えませんよ。せいぜい怖い思いをさせて、追い出せればいいってところかな」



 そして、大仰な手ぶりをまじえて、おちゃらけたふうを装ってそう言った。



 カイネスのその態度に、リチルはほくそ笑むように鼻を鳴らす。




「その口ぶり、お前もあの魔王のことはあまり愉快に思ってはいないようだな」



「そりゃあ、ガラド殿ほど過激ではないけど私も彼と同じ派閥ですからね。人間どもを放置してのらりくらりしている魔王様が鼻につくのは当然でしょう。だからといって、命を狙うほどのことではありませんが」



「フ、そういうことにしておこう」



「リチル殿はどうも私を悪者にしたいようだ。そのこと、ナーザ様にでも報告しますか? ま、根も葉もない濡れ衣なんですけどね」



「そんな気はもとよりない……ただ、お前という男を多少は見定めておこうと思って、話をしたまでのこと」



「ほう?」



「これまでの議会におけるガラドとの語らいは、私にとってなかなか有意義な暇つぶしだった。それが失われたのは非常に残念だ……ヴィザルにはもう飽き飽きだし、張り合いのある新しい“おもちゃ”が欲しいと思っていたのだよ」



「それが私というわけですか……やれやれ、恐ろしい人だ。できれば、あなたとやり合うのだけはカンベンしてもらいたいですね」



「それはお前の動き次第だ、次の議会が楽しみだな」




 わざとらしく肩をすくめるカイネスに対し、表情がないはずのドクロ面に陰湿な笑みを貼りつけるリチル。



 その態度が癇に障ったようにカイネスはぴくりと眉を動かすと、すっとソファーから立ち上がった。




「では、話が済んだのなら私はこれで……」



「最後に忠告だ、カイネス。今回にかぎっては、ほかに最有力の容疑者がいたからお前への嫌疑は薄かったが、事件のきっかけとなったお前の進言に疑いを持ったのは私だけではない。お前はとうにマークされている……ナーザ殿はもちろん、あの仮面の青年にもな。ガラドやジデル殿の二の舞になりたくなくば、ゆめゆめ忘れぬことだ」



「……肝に銘じておきますよ」




 そう言って軽く手を振りながら、カイネスは最後まで振り向くことなく談話室を後にした。



 ……途端、




「あ~っ、カイネスく~ん☆ ここにいたんだ~、さがしたんだよ~☆」



「げっ、ララニア……!」



「あっ、まって~☆ いっしょにかえろ~☆」




 そんな声が部屋の外から聞こえたと思えば、どたどたとした足音とともに遠ざかっていった。



 その様に、リチルは笑みまじりのため息をこぼす。




「……ヤツもいろいろと抱えているようだな。しばらくは退屈せずに済みそうだ」




 そうつぶやき、自らも部屋の出入り口に歩を進めるリチル。



 その足が、不意にぴたりと止まった。




「――まあ、つまりそういうことだ。せいぜい、ヤツには気を許さぬことだな、()()()()()()()()……」




 最後にそう言って、音もない緩やかな足取りでリチルは部屋を去っていった。



 それから間を置き、談話室に並んだ本棚の陰から、すっと現れる人影。




「……お見通し、か」




 それは、人知れず部屋に潜み、さきほどの会話を盗み聞いていた仮面の青年フィールゼン……いや、ルーネの執事フィリエルである。



 リチルの言葉どおり、彼はカイネスをマークしていた。



 ジデルが死に、ガラドが失脚した今、ルーネに対する次の脅威になる可能性がある者として……



 リチルは部屋に入った時からカイネスを監視するフィリエルの存在に気づき、カイネスの本性を彼に伝えるため揺さぶりをかけたのだ。




(完全に気配を消していたというのに、あの方もつくづく油断ならない方だ……)




 ――屍魔族(コープス)領領主ルチル=ネクロシア。



 ()()もまた、けっして気を許してはならない相手だ……



 フィリエルはその認識を新たにし、こっそりと部屋から抜け出すのだった。



今回をもって、ゆるだら令嬢第1シーズンは完結となります。

ここまで読んでくれた皆さま、お付き合いいただきありがとうございます!

一応続きの準備はしていますが、小説家になろうでの連載はひとまずここで一区切りとさせていただきます。

再開についてはまだ確約できませんが、気長に待っていただければ幸いです。

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