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ゆるだら令嬢、魔王になる ~それでもお嬢様は可愛いので僕は無限に甘やかす!~  作者: 川石折夫
第1シーズン・ゆるだら令嬢危機一髪編
59/70

第54話「甘やか執事、本気を出す」

 


「――そこまでです」



「ぬぅっ!?」



 ミランくんにトドメを刺そうとしたガラド様の体を、突如炎が包んだ。



 僕が放った魔法によるものだ。



 ……観戦はここまで。



 僕は炎でガラド様の動きを封じると、ミランくんのもとに歩み寄り、その体を抱き上げた。



 度重なるダメージで彼の獣化はとっくに解け、手足はもとに戻っていた。



 おかげで、ずいぶんと軽い。




「よくがんばりましたね、ミランくん……この戦い、きみの勝ちです」



「え……?」



「きみは力で暴れるだけの戦いを否定した。きみの戦いとは、自らの自由を脅かす者に屈さないための戦い。きみの体はボロボロだけど、それでも心はけっして父上に屈さなかった……だから、きみの勝ちです」



 それが、僕がミランくんの戦いを見て感じたことだ。



 お世辞でも、慰めでもない……自分の信念を貫くため、もっとも畏怖すべき最強の獣魔にして父に挑んだミランくんには、敬意さえ感じた。




「あ……」




 それを聞いたミランくんのまぶたに、じわりと涙が浮かぶ。



 自分でも意図せず、不意にあらわれた涙。



 やがてミランくんが浮かべた嬉しさがにじみ出た泣き顔は、父ですら一度として褒めくてくれなかった自分の強さに対する称賛を喜ぶような、そんな顔に見えた。




「――ふざけるな」




 でも、そこへ怒りをにじませたガラド様の声が割り込む。



 振り返ると、彼は火だるまになりながら、それでも悠然と佇んでいた。




「ふゥんッ!!」




 次の瞬間、ガラド様の気合の一声とともにその炎がはじけるように飛散。



 風圧を伴う闘気の開放で、身にまとう炎をかき消したのだ。



 炎の中から現れたガラド様の体は多少焦げているだけで、ダメージを負った様子は見られなかった。



 ……予想はしていたけど、実際に見るとあきれた頑丈さだ。




「相手を倒さずして、なにが勝ちか! そんなものは、力なき者の詭弁! 真の戦いから目をそらすための、逃げ口上に過ぎんわ!!」




 火だるまになった影響などおくびにも出さず、猛るガラド様。



 わかっていたけど、彼は僕の理屈がたいそうお気に召さないらしい。



 その物言いをいったん無視し、僕はミランくんを抱えて離れた場所に移動。



 手ごろな木の手前で彼を下ろし、木に寄りかかる形で寝かせた。




「ここで、しばらく休んでいてください。あと、これからきみの父上をボコボコにしてきますが、どうかご容赦を」



「えぇっ!?」




 僕の言葉に、息も絶え絶えなのを忘れたかのように驚くミランくん。



 そんな彼を置き去りに、僕は有言実行すべくガラド様のもとへ歩み寄る。



 歩きながら、“魔王補佐フィールゼン”を装っていたオールバックの髪型を崩し、ボロボロのジャケットを脱ぎすてる。




「真の戦いとやらがお望みなら、僕がお相手しましょう。ガラド様……今からあなたを、ボコボコにしてさしあげます」




 そして……僕をフィールゼンたらしめる仮面をも外して、ガラド様を見据えた。



 ……僕なりの戦う者としての礼儀だ。




「ほう……」




 その僕の不遜さに、ガラド様は怒るでも訝るでもなく、不敵に笑みを浮かべる。



 自分の強さを目の当たりにしても、果敢に挑もうとする勇者の出現を喜んでいるかのような笑みだった。




「それが君の素顔か、思っていたとおりの優男だな。だが、今のを見てもそんな口が叩けるとは、つくづく度胸のある男だ。ジデル殿の“仕事”が終わるまで、ただここで待ってさえいれば痛い目を見ずに済むものを」



「その痛い目を見ずにというのは、苦しませず殺すという意味でしょうか。ここまで話を聞いてしまった僕を、生かしておく道理はありますまいに……」




 その事実を、僕は冷静に指摘する。



 たとえお嬢様を手中におさめても、僕が生きているかぎりジデル様の目論見はいつでも崩壊する危険性がある。



 計画を暴露した時点で、僕の死は絶対条件……ガラド様も、ハナからそのつもりで懇切丁寧に語ったのだ。




「フ……」




 僕の指摘に、ニヤリと笑むガラド様。



 その直後、彼の獣面がくわっと闘志をむき出しにした。




「そのとおりだ、小僧ォォォ―――ッ!!」




 そして、凶悪獰猛な肉食獣の本性をあらわにして、僕に襲い掛かる。



 鋭い爪をむき出しにした巨腕を振りかぶって突進してくるガラド様に、僕はすかさず爆裂系魔法を連射。



 一発で並みの獣人なら簡単に吹っ飛ばせる威力がある魔力の爆弾を、無数に放った。



 けど、それすらガラド様の行進を止めるには至らない。




「なによりッ! あの腑抜けの未熟者を勝者などとぬかすたわけ者を生かす道理なしッ! 貴様がその気なら、こちらも喜んでなぶり殺してくれようッ!!」




 爆ぜる炎の中でもかまわず突撃しながら、自らの誇りを傷つけられた怒りを吐き出すガラド様。



 あとひと飛びでその爪が僕に届くという範囲まで差し掛かったところで、僕はさらに魔法を発動。



 目の前の地面を隆起させ、岩の壁でガラド様の行く手を阻んだ。




「ふゥんッ!!」




 ガラド様は、己よりもさらに巨大なその壁を巨腕の一振りで粉砕。



 それによって生じた石つぶてと土煙に紛れて、僕はその場から飛びのいた。



 今の魔法は防御のためではなく、いったん距離をとるための目くらましだ。



 それで闘志に水を差されたように、ガラド様は足を止めた。



 僕らの間を遮る土煙がはれると、彼は忌々しげに僕を睨んでいた。




「フン、これほど多彩な魔法を使う器用さはたいしたものだが、所詮私にはすべて子供だましに過ぎん! 貴様程度の本気など、私の本気と比べれば赤ん坊同然よ!」




 僕の距離をとった手堅い戦術に、ガラド様は相当じれているようだ。



 隙丸出しの大技を誘ってか、そんな挑発まで浴びせてくる。



 ……そう、挑発だ。



 けど、それは僕にとって聞き捨てならない言葉だった。




「本気……? これが僕の本気だと、いつ言いましたか?」



「なに?」



 すこし棘のある僕の言葉に、怪訝に目を細めるガラド様。



 有効打を与えられずとも、獣化という本気を出した自分と渡り合う魔法の数々から、彼はすっかりこれが僕の本気だと思っていたのだろう。



 けど、そうではない。




「この程度の魔法、あなたの言うとおり、子供だましにしか過ぎないということです」




 ……安い挑発に乗るようでシャクだけど、そろそろ時間も惜しいし、やるか。



 実際、子供だましでどうにかなるほど、ガラド様は甘い相手ではない。




「これ以上お嬢様をお待たせするわけにもいきませんし、さっさとカタをつけましょう。僕の本気で……!」




 僕が啖呵を切るとともに、ガラド様がぎょっと顔色を変えた。



 ――僕の内側からあふれ出る力を察知したのだ。



 普通の魔族が持つ魔力とは異なる、異質な力を。



 今こそ、僕は解き放つ……



 僕の本当の力を……



 お嬢様とナーザ様にしか知らせていない、僕の正体を……!




「こ、これはァッ……!?」




 力の開放に伴って生じる強烈な光が、僕の体を覆う。



 その輝きと衝撃に、ガラド様が怯んだ。



 今まで抑えてきた力の爆発に圧倒されたのだ。



 そして、僕はただの魔族に()()していた体を捨て、真の姿をあらわす。




「貴様、その姿は……!?」




 この光景に、愕然とするガラド様。



 今彼の前に立つ者……それは、彼がおそらく生涯ではじめて目にする存在だった。




「あらためて名乗らせていただきます。魔王補佐フィールゼンというのは仮の姿……僕は幻魔族(ナイトメア)領領主家令嬢、ルーネ=ヴィリジオ様の筆頭執事、フィリエル!」




 戦慄するガラド様に対し、僕は毅然とそう名乗った。



 これは僕流の礼儀であり、そして……



 ()()()姿()()()()()()僕はあくまでお嬢様の執事だという、自らへの意思表明でもあった。




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