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ゆるだら令嬢、魔王になる ~それでもお嬢様は可愛いので僕は無限に甘やかす!~  作者: 川石折夫
第1シーズン・ゆるだら令嬢危機一髪編
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第52話「獣魔の本性」

 


「――なるほど。やはり、ジデル様でしたか」




 ガラド様から語られた、今回の事件……さらにかつてケイム皇太子や先々代魔王様を殺めた黒幕の正体……



 その事実を聞かされても、僕にはとくに動揺は生まれなかった。




「フン、まるで最初から承知していたと言わんばかりだな」




 そんな僕の態度に、ガラド様は驚くことはなくても、すこし癇に障るとばかりに眉をひそめた。




「ええ、まあ……表向きにはそのような素振りは見せませんでしたが、あの方はあなたと同じ獣魔族(ビースター)。なにかしらの関係を疑うのは当然でしょう……あなたが魔都(まと)に来るたび何者かと接触しているらしいという話を聞きましたが、お相手はやはりジデル様だったようですね」




 あの方は穏やかな好々爺(こうこうや)としてふるまう一方で、自分の腹のうちは一切覗かせてこなかった。



 そういう相手こそ、もっとも警戒すべきものだ。




「お見通しか、気にくわんな……だが、我々の関係はせいぜいこの百年の間のものにすぎない。それまで、獣魔族(ビースター)出身の三賢臣(さんけんしん)としてあの方は我が領で有名であったが、ジルグード様の元家臣であったなど、この私ですら知らなかったことだ」



「百年……皇太子様の死、そして獣魔族(ビースター)領で自殺者が相次ぎ、衰退が顕著になってきたころですね。つまり、そのタイミングでジデル様はあなたに接触してきたと」



「そうだ。あの方は言われた、獣魔族(ビースター)を救いたければ自分に力を貸せと……人間との間にふたたび戦争が起これば、獣魔族(ビースター)は戦いの場を得られる。そうすれば、ゆるやかに滅びへと向かっていた民も息を吹き返すだろうとな」



「ずいぶん素直に従われたのですね。あなたの言った話が本当なら、獣魔族(ビースター)の衰退自体、ジデル様が仕組んだものだという可能性もあるのでは?」



 話に出てきた、ジデルのあらゆる毒を生成するという能力……それをもってすれば、自殺に見せかけて他者を殺すという芸当も可能だろう。



 人畜無害な好々爺(こうこうや)を演じる一方で、自然死に見せかけて邪魔者を謀殺するようなおそろしく狡猾な人物なら、そのくらいの非道くらいやるだろうと考えるのは当然だ。




「フン、見くびるな。私とてその可能性は考えたし、指摘もした……だが、あの方は言った。“ジグルード様の名と誇り高き獣魔の血に誓って、それはない”と。民の上に立つ一領主として、その時の言葉と目に嘘はなかったと断言しよう……それに、私をあざむいて仮に敵対した時のリスクを考えないほど、愚鈍な方ではあるまい」



「たしかに……」




 いくらジデルがおそろしい猛毒を操ると言っても、獣魔族最高峰の戦闘力と肉体を持つガラド様を一撃で仕留めるのは一筋縄ではいくまい。



 一発でも反撃を許せば、命はない……よくて相討ち。



 先代魔王たちを殺めておきながらここまで尻尾を隠してきたジデルが、そんな軽率なことはしないか。




「では、あなたは獣魔族(ビースター)を救うため、ジデル様の計画に加担したと」



「そうだ……が、そこにふた心がないと言えば嘘になるかな」



「どういう意味でしょう」




 僕がそう尋ねると、ガラド様はこれまでの自信たっぷりのそれとは違う、若干自嘲するような笑みをふっと浮かべた。




「力を存分に振るえない苦しみを味わっているのは、なにも民だけに限った話ではない。私自身、戦いたくて戦いたくてうずうずしていたのだよ……! 人間との大戦が実現すれば、思う存分戦いに明け暮れることができる! その魅力に屈し、私はジデル様の誘いに乗ったのだ」



「つまり、私情ですか」



「軽蔑してくれてもかまわん。だが、これが獣魔族(ビースター)なのだ……私も領主である前に、ひとりの獣魔。戦いへの願望は捨てられぬ」



「ですが、もし領主であるあなたがその戦いで命を落とせば、それこそ領はどうなるのです?」



「そのための跡取りだ。私が死しても、ミランがいる。私もそうして、かつての大戦で栄誉ある死を遂げた先代の跡を継いだのだ……獣魔族(ビースター)の領主の歴史はその繰り返しよ」



「好き勝手に戦って死んだ者の跡を継がされるなんて、迷惑このうえない話ですね……あなたはともかく、ミランくんは納得しないのでは?」



「ならば、その気にさせるまで! 首尾よく事が運んで我々強硬派が実権をにぎったあかつきには、人間との大戦がはじまる前にミランを再教育する! 戦いを喜び、戦いに死すことを誉れとする真の獣魔の男にしてみせる!」



「それは、せっかく獣魔族に生まれた新たな可能性を摘む行為です……! それではなにも変わらない……仮に次に戦争がはじまっても、それが終わったらまた獣魔族(ビースター)は今と同じ状況になることがわからないんですか!」



「ならば、また戦いを起こすまで! 戦いが絶えればその世代の獣魔族(ビースター)は生きてはいけないのだ……ならば、永遠に戦いを起こすだけのことよ!」



「そんな無茶な……!」




 まったく、ばかげたことだ。



 敵をいるだけ殺し続ければやがて滅びるし、そんなことを続けていれば、いきつくのは同族同士の争い……文明にとってもっとも愚かな終着点だ。



 こんな短絡的な魔族がまだいたなんて……ガラド様のこの物言いは、旧態依然の悪しき魔族そのものだった。



 本当ならもっと理性的な方のはずだけど、獣魔族(ビースター)の現状と宿命に縛られるあまり、この方は道を見失っているのだ。



 ガラド様にはもう、僕の言葉は届くまい。



 僕がこの方を止めるにはもう、力ずくしか……




「――いいかげんにしてください、父上っ!!」




 最後の手段が僕の脳裏をよぎった時、怒りにかられた雄々しい声が僕らの間に割って入った。



 


 ――それは、さっきまで恐怖で動けなくなっていたはずの獣魔の少年、ミランくんだった。



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