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ゆるだら令嬢、魔王になる ~それでもお嬢様は可愛いので僕は無限に甘やかす!~  作者: 川石折夫
第1シーズン・ゆるだら魔王生活編
32/70

第27話「魔王秘書、ゆるだら令嬢の秘密に迫る②」

 


 ――バハル様との密談を終えると私は魔王城をあとにし、我が家へ帰宅した。



 我が家と言っても、私が住んでいるのは魔王城がある魔都(まと)タナトーの上流住宅街に置かれた、魔王城で働く上位階級用の宿舎だ。



 魔王城に常駐する者のうち、魔都に屋敷を持つ魔王や三賢臣(さんけんしん)など一部の特権階級者、それに妻帯者などを除いた職員は、基本的に宿舎暮らしだ。



 魔王秘書になる前の私はあくまで一般階級の下働き扱いで、本来なら中流住宅街の一般階級用宿舎に住む立場であったけど、父に取りなしてもらい、上級階級の宿舎に住まわせてもらっていた。



 ……言い方は悪いが、親の立場を利用したのである。



 父のバハルは、三賢臣(さんけんしん)の激務ゆえあまり帰らないけど魔都(まと)に屋敷を持っているし、母のレシルも妖魔族(デモニア)領領主代行として基本的に領から離れられない。



 よって、もう長いこと家族一緒に暮らしていないし、顔を合わせるのは月に一度の定例議会などで母が魔王城を訪れるわずかな機会しかなかった。



 ……しかたがないこととはいえ、寂しくないと言えばウソになる。



 もちろん、父からは自分の屋敷で一緒に暮らすよう何度か言われたけど、正直父とのふたり暮らしなんて考えたくもなかった。



 べつに、父を嫌っているわけではない。尊敬しているし、人並みに愛情もある。



 ただ、私が年頃の娘ゆえ気まずいというのもあるけど、父はあのとおり厳格な人物だ。



 魔王城にいる間は絶対父とは呼ばせずあくまで上司と部下としての距離感を徹底しているし、プライベートでもそれなりに節度ある振る舞いを要求してくる。



 ……それが正直息苦しかった。



 だから、プライベートくらいは息抜きできるよう、私は宿舎での気ままなひとり暮らしを選んだのだ。



 ……いや、訂正。ひとりではなかった。




「ただいまー」




 妖魔族(デモニア)領にある屋敷の一部屋にも負けないきらびやかで広い宿舎の自分の部屋に入ると、さっそくドアの前で、ここに住む“同居人たち”が出迎えてくれた。




「にゃーん」



「にゃんにゃーん」



「にゃおーん」




 それは三匹のヘルキャット――本来は狂暴だが、懐けばとても温厚で可愛らしいため魔族の家庭でペットとして愛されているネコ型の魔獣だ。



 人間の大陸にいるネコと変わらぬサイズの彼らは、ふりふりと尻尾を揺らしながら、我先にと私のもとへすり寄ってきた。




「あ~ん、かわい~いん! みんな、元気にしてまちたか~?」




 その瞬間、たちまち私の理性と表情筋はとろけ、三匹たちをまとめて抱いた。



 あー、可愛い……



 もふもふして、気持ちいい……



 こうしてるだけで、今日一日の疲れが取れるかのようだった。



 ペット厳禁のほかの宿舎ではこうはいかない。



 私が父の権威を使ってこの上位階級用の宿舎に住まわせてもらっている最大の理由が、この子たちだ。



 この子たちは、私が妖魔族(デモニア)領に住んでいたころから屋敷で飼っていたペットである。



 私は可愛い小動物が好きだ。昔から大好きだ。



 この子たちがいない生活なんて、考えられない……!



 だから、私は公私混同をいとわず、父の権力を利用したのだ。



 そしてじつを言うと、父と暮らしたくないのも、この子たちが理由だった。



 父は、こんな私の本性を知らない。



 子供の頃は微笑んで許してくれていたけど、今でも小動物に対してこんな有り様だなんて、夢にも思っていないだろう。



 このようなしまりのない振る舞い、父はけっして許してくれない。



 事実を知るのは、家族の中でも母だけ。



 そう。これは、ほかの誰にも知られてはいけない、私の“秘密”である……


 


 


 ネコたちに食事をあげつつ、私自身も食事をとって、ようやく人心地つく。



 ……疲れて、着替えるのもめんどくさい。



 私は下着にシャツだけを着た格好でカーペットに寝そべり、ネコたちをかまう至福の時を過ごす。



 父の目があるから普段はきっちりした格好でいるけど、私は本来、こういうラフな格好の方が性に合う。




「あーあ……ずっとこうしていられたらなぁ」




 三匹のうち、私の横でリッラクスしているヴィエル(メス)のフリーになったおてての肉球をふにふにと指で押しながら、私は何気なくつぶやいた。



 私が父を敬愛し、共に抱く魔族の幸福な未来という理想を叶えたいという信念に、偽りはない。



 けど、それはそれとしてずっと肩ひじ張って目標にのみ邁進(まいしん)するのも疲れる……



 職場ではなんでこもこなすパーフェクトウーマンとして振る舞った分、プライベートではこうして存分にガス抜きしないと、体がとてももたない。



 外では、とくに父の前ではけっして見せられない本性だけど……




「明日からはまた忙しくなるなぁ……魔王公邸への潜入任務、かぁ」




 父はわりとあっさり私に任せたけど、魔族最高権力者の屋敷に忍び込むなど、かなり無茶な仕事だ。



 潜入任務は私の得意分野だし、父もその能力を評価しての人選なんだろうけど、さすがに気が滅入る仕事である。



 だから、明日からのやる気をチャージするため、今日は念入りにネコたちにかまって癒される。



 あー、幸せ……




「仕事なんてしたくないなぁ……」




 幸福感に満ちるあまりに、そんな本音がついこぼれる。



 でも、受けてしまった以上、やらなきゃならない。



 仕事だからというのもあるけど、それ以上に私には個人的好奇心があった。



 バハル様が以前言っていた、ルーネ嬢には大きな秘密があるかもしれないという言葉……



 本当にそんなものがあるのだとしたら、私にもささやかながら興味があった。



 秘密を持つ者は他人の秘密に惹かれる……そんな感じかもしれない。



 ……ちょっとイヤな子だな、私。


 

 ◆

 


 ――魔王公邸への潜入を命じられてから三日が経過。



 その間に、父――バハル様を通じて公邸の見取り図を入手し、潜入プランを構築。



 装備の用意なども含め、この時点でおおまかな準備は整っていたが、私は任務を実行していなかった。



 私はこの手の任務をすでに何度か経験している……素人じゃない。



 もし私の潜入が露見し、屋敷の者に捕まりでもすれば事だ。



 仮に捕まってもバハル様が取りなして牢獄行きだけは免れるだろうが、あの方の立場が少なからず悪くなるし、私は間違いなく今の職を失うだろう。



 そんなリスキーな任務となれば、やみくもに実行するわけにはいかない。



 ゆえに、私は機を待っていた。



 潜入に絶好のタイミング……たとえば、もっとも注意すべき人物が屋敷を留守にするとか、そんな状況だ。



 そんな都合のいいことがそうそう起こるはずもないけど、そんなチャンスでもなければ、達成は困難な任務だ。



 だから、私は魔王城で素知らぬ顔で働きつつ、辛抱強く時を待った。


 


 ――そして、その機会は思いのほか早く訪れた。


 


 


 それは私が任務を受けてから、ちょうど一週間後のこと。



 ルーネ嬢――いや、魔王様の公務が終わり、私も秘書としての仕事を終えようという時だった。



 いつもどおり、私は魔王様にあいさつして一足先に執務室から失礼しようとした。



 が、その前にドアが開き、そこから思わぬ人物がやってきた。




「――フィリエル、ちょっとよいか?」




 ナーザ様だ。彼女が執務室までやってくるのはあまりないことで、私も思わず茫然としてしまった。




「なんでしょう、ナーザ様」



「うむ、話があってな。悪いが、我の執務室に来てくれぬか? すこし長話になる……」



「話、ですか……わかりました。そういうことですので、魔王様。僕はすこし帰りが遅くなるので、魔王様はどうぞお先に屋敷へ」



「………わかった」




 若干、寂しげな情緒がうかがえるような間を挿んで、了承する魔王様。



 そうして、ナーザ様はフィリエル氏を伴って執務室から出ていった。




「――では、魔王様。私も失礼します」



「うむ、ご苦労であった」




 それから間もなく、私は何食わぬ顔で魔王様にあいさつし、執務室をあとにする。



 ――思わぬ展開になった。



 フィリエル氏は若干ポンコツなところはあるが、この三ヶ月ともに魔王様に仕えている過程で、なかなか油断のならない人物だというのは承知していた。



 それとなく常に魔王様の周囲に気を配っている様子から、護衛としての技能もそれなりに持っているだろう。



 そのフィリエル氏に加え、ナーザ様の介入の心配もないとなれば、もはやこの機を逃す手はない。


 


 ――今宵こそ、魔王公邸潜入作戦を決行する時だ。



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