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ゆるだら令嬢、魔王になる ~それでもお嬢様は可愛いので僕は無限に甘やかす!~  作者: 川石折夫
第1シーズン・ゆるだら魔王生活編
18/70

第14話「ゆるだら令嬢、禁呪を覚える①」

 


 ――お嬢様の魔王即位から一週間。



 即位後間もなく襲った“魔の三連休消失事件”という悲劇を超えて、お嬢様の魔王としての生活が始まった。



 あの事件がお嬢様に与えた心の傷は甚大であったが、三日間ゆるだらしつくしたおかげで、体力だけは万全。



 休み明けにはだいぶぐずっていたけど、はじまってみればお嬢様は順調に魔王としての職務をこなしていった。



 もともと、オンオフの切り替えは僕以外の誰もが引くくらい極端な方だ。



 優秀で威厳ある“強い魔王”を演じきるため、お嬢様は毎日執務室で無限に持ち込まれる書類に判を押すだけの窮屈な仕事を、文句なくこなしていた。(ただし、屋敷に帰ったあとおもいっきりだらけながら愚痴る)



 そうしてお嬢様の魔王生活は思いのほか順調に進み、即位からあっという間に一週間(魔の三連休は除く)が経過した。




 


 そして、今日も魔王様の多忙な一日が始まる。



 今日の魔王様の一日は、週に一回早朝に最高議会室で開かれる三賢臣(さんけんしん)との朝食会――食事がてら、その週の反省会や次週の基本的な方針を話し合うものだ……からはじまる。



 本来は、魔王秘書であるシャロマさんでも同席を許されない極秘の会合だけど、お嬢様が魔王になる際に三賢臣(さんけんしん)と交わした約束にのっとり、僕だけはここでも魔王様のかたわらに立つことが許されていた。



 つねに魔王に寄り添う謎多き仮面の執事、フィールゼン……それが、魔王城における僕の役柄だ。




「――公務がはじまり、はや一週間。なかなか順調な仕事ぶりですな、魔王様」




 僕を除いた方々が粛々と食事をしていたさなか、この場では主に魔王様への小言が目立つバハル様が、珍しく彼女を褒めてくれた。



 ……多分に、奥歯にものがはさまったような物言いだけど。



 即位の儀ですこしは魔王様を認めてくれたと思っていたけど、いまだにバハル様の魔王様に対するわだかまりは解消されていないらしい。




「先代魔王が亡くなってからは、我ら三人でもなんとか支障が出ない範囲で回せていたとはいえ、それでも進行が滞っていた案件は少なくない……それを、この一週間でほとんど消化できた。たいしたものだな、魔王よ」



「……当然である」




 ナーザ様のねぎらいに対し、魔王様はあくまで憮然として応えた。



 この場にいるのはみな魔王様の正体を知る者とはいえ、それでも魔王城内ではつねに魔王として厳然と振る舞っていなくてはならない……



 それが、公務のはじまりに際して三賢臣(さんけんしん)が取り決めたルールだ。



 ただ、ナーザ様のはからいにより、彼女の秘密のお茶会だけはべつ。あそこだけが唯一、魔王城内でお嬢様が気楽に過ごせる場だった。




「ほっほ、臣民からの評価も上々。じつに完璧な立ち上がりと言えましょうな」




 そして、緊張感漂う態度のほかのふたりとは対照的に、相変わらず飄々(ひょうひょう)とふるまうジデル様。



 今のところ魔王様に対して苦言を漏らすようなことはないけど、いまだにこの方だけは腹の底が見えなかった。




「――時に魔王様。仕事も板についてきたところで、そろそろ“禁呪”のひとつでもご修得なされてみてはいかがですかな?」




 そのジデル様が、珍しく魔王様に対して意見を口にした。




「禁呪……?」




 それに魔王様はあくまで冷静に返すけど、心の中ではたくさんの?マークを浮かべているのが目に見えるようだった。




「ほっほ、禁呪とは魔法の中でも最高峰であり、もっとも危険な術であるため禁忌とされてきた魔法のことですじゃ。行使するには膨大な魔力を要し、これを満足に使えたのは魔族の中でも歴代の魔王のみ……ゆえに、禁呪の修得は魔王としての一種のステータスになる、ということですな」



「なるほど……」




 これにも魔王様は、粛々(しゅくしゅく)とした返事。けど、心の中では……




(禁呪ぅ~? なにそれ~? めんどくさいんですけどぉ~?)




 と言いたげなしぶい顔をなさっているのが見えるようだった。



「それはいい。せっかく大魔力をお持ちなのです、それを活かすために禁呪を身につけるのは悪いことではありません。そうすれば魔王として(はく)がつきますし、臣民のみならず人間どもへの示しもつきましょう」




 バハル様も嬉々としたふうに、ジデル様に同調する。



 三賢臣(さんけんしん)標榜(ひょうぼう)とする、人間たちに睨みをきかせられる“強い魔王”……その権威を示すために、禁呪の修得はたしかな一歩になるとお考えのようだ。




「そうであるな……」(ちらっ)




 ここで、魔王様はナーザ様を一瞥。



 三賢臣(さんけんしん)の中で唯一、信頼できる味方である彼女に助けを求める視線を送った。




「……ま、禁呪には存外便利なものもある。少しくらい覚えておいても、損はなかろう。今のおぬしなら、ほとんどの魔法は魔導書を読んだだけで修得できるはずだ。害の少ないものから、覚えてみるのもよかろう」




 ナーザ様からもたらされたのは、救いの手ではなく、先輩魔王としての適切なアドバイスだった、



 元魔王である以上、ナーザ様も当然禁呪は修得されている。



 その彼女がこう言う以上、今の魔王様が禁呪を覚えても危ないことにはならないという保証とも受け取れた。




「よかろう。我が力を知らしめるため、その禁呪……必ずや修得してみせよう」




 ……などと不敵に言いつつ、




(ちがうよう、ばーちゃーん! 背中押してどうすんのさ~! いやだよぉ~、そんなめんどくさいことしたくないよぉ~!)




 心の中では終始、駄々をこねているのが目に映るかのようだった。



 ……今のお嬢様の魔力ならよっぽどの大禁呪でもない限り制御できないなんてことはあるまい。



 それに、ナーザ様の言うとおり、戦闘以外でも役に立つものが存外多いものだ、



 だから、今回は特に助け船は必要ないだろう。



 魔法習得は本人次第、他人がどうこうできる領域ではない。



 ……がんばってください、お嬢様。



 僕はあたたかーい目で、お嬢様を見守ることにした。

 


 ◆


 

 ……そういうわけで、あたしは公務の合間をぬって禁呪を覚えることになった。



 そのためにやってきたのは、魔王城地下の大図書室。



 およそ一万年かけて寄贈(きぞう)された希書やら禁書やらが数億冊保管された、大陸最大の書庫なんだとか……



 そして、そこから階段を降りたさらに地下深く……そこに、禁呪が記された禁術書を保管した部屋があるそうな。



 あたしはひとり、その部屋にやってきた。



 ここに立ち入れるのは、魔族の中でも魔王……つまり、あたしとあとはばーちゃんだけ。



 さすがにフィリーも入ることは認められず、あたしはひとりで本を探すことになった。



 ……ま、そもそも今回はフィリーも助けてくれる気はないみたいなんだけどね。



 まったく、あいつめー。あとでおぼえてろよー!



 そんなことを思っているうち、あたしは禁術書部屋を適当に見て回る。



 地下深くだけあってここには地上からの光はいっさいなく、あたしが持ったランプの灯りが唯一の光源だった。



 だから、とっても暗い! てゆーか、こわいんですけど!



 くそー、ばーちゃんくらいついてきてくれてもいいのに……




(はやいとこ、なんか適当にもっていこ)




 この部屋はあくまで保管室、本を読むためのスペースはないし、そもそもこんな暗いところで読書なんかできやしない。



 だから、一冊だけ本の持ち出しが許可されている。絶対に汚したりなくさないよう注意するなら、屋敷に持って帰ってもいいってばーちゃんが言ってた。




(これでいーや!)




 だから、手ごろなところにあった棚から一冊引っこ抜き、あたしは早々に部屋から退散した。



 屋敷でだらだらしながらテキトーに読もーっと!



 覚えられなかったら覚えられなかったで、ま、しゃーないよね! 禁呪なんてなくても、死にゃーしないし!



 あたしはそんな軽い気持ちで、図書室を後にするのだった。


 


 


 やがて今日の公務を終えて、あたしは屋敷に帰った。



 魔王城と屋敷の間はいつも、馬車での移動だ。



 朝と夕方、専属の御者が迎えに来て、魔王城と屋敷との往復を世話してくれている。



 いつもならフィリーも同乗するんだけど、今日はあたしひとりの帰宅だ。



 なんか今後の行事のことで三賢臣(さんけんしん)と相談があるとか……あたしは残業は絶対にしない主義なので、フィリーに丸投げしてきたのだ。



 そんなこんなで屋敷に帰ってきたあたしは、この重っ苦しい魔王の装束を脱ぎ捨て、ゆるだらスタイルに転身!



 ベッドに寝転がり、例の魔導書をさっそく広げてみた。



 でも、あたし小説とかは読むけど、こういう学術書みたいなの苦手なんだよね~。



 そもそも、魔法自体覚えたいって気はあまりない。



 戦争もないこのご時世、魔法なんて鍛えなくても生きるのに苦労しないからね。



 パパやフィリーも無理して魔法を覚えさせようとはしなかったし、あたしはついこないだまで自分のサキュバスとしての能力すら眠らせてきたのだ。



 だから、魔法を覚えるってのがいまいちぴんとこないし、禁呪なんておおげさな魔法、覚えられる気がまったくしなかったんだけど……




「あれ……?」




 黄ばんでくたびれた感じのページにびっしり記されているのは、見たこともないような形式の文字……たぶん、古代魔族文字? とかってやつだと思うんだけど……




「読める……ううん、()()()……?」




 読み方がさっぱりわからないのに、なぜだかあたしはその文字の意味するところがすらすらと理解できた。



 今のあたしになら禁呪を覚えることができる……



 これは、こういう意味でもあったんだ。



 たぶん、この文字は一定以上……それこそ、魔王級の魔力を持つ者にしか読めない魔法文字らしい。



 これなら、読める者はほとんどいない。もし紛失か盗まれたとても、悪用される心配はほとんどないってことだ。



 うまいこと考えたもんだね。




「どれどれ……?」




 あたしはひとまず、ひと通り本の内容に目を通してみた。



 恐ろしさのあまり禁忌とされる大魔法が記された、禁術書……



 そこに書かれていたのは……


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