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魔女、旅に出る

生きたいと、言えェー!!

 早朝の冷え切った空気が、先程まで夜だったことを分からせる。しかし、そんなことは関係無しに街にはガヤガヤと人々の声が響いていた。


「あー、しんど。つか荷物重っ。完全に体が女になった弊害出てますわこれ」


 黒ローブに身を包んだ怪しい人影が街を歩く。ローブに籠められた隠蔽機能によって、人々は黒ローブの存在を認識しないため、黒ローブが荷物の重さに今にも死にかけているのを誰も気に止めなかった。


「やっべ、このままじゃ、間に合わなくなんぞ」


 黒ローブの中身、マキは思わず駆け出した。今日はプレイシアへの旅出の日であった。今は街の郊外にある馬車の発着所に向かう途中である。予定ならとっくに着いている手筈だったが、マキの身体が想像以上に貧弱だったのだ。

 ローブに隠れた体長はおよそ130弱、体重は余裕で25キロを切っている。背負ってる荷物が7キロ程。およそ体重の1/4の荷物を抱えていた。

 その歩みは恐ろしく遅い。

 万が一遅れて、馬車に乗り損ねようものなら切符を用意してくれた師匠に申し訳が立たなかった。

 重い足をなんとか動かして走る。


「ふぎゃあ!」


 しかし、20歩ちょっと走ったところで愉快にすっ転んだ。この身体は神経系も鈍化しており、手足の末端の感覚など無いに等しい。当然、そんな身体で、更に荷物も背負った状態で無理をしようとするとこうなる。

 筋力の低さゆえ、立ち上がることさえ億劫だった。


 脇を通る人々は倒れた黒ローブの少女に気づくことも無く、過ぎ去っていく。

 

「ああ……きっと俺はここで死んでいくんだ……。誰にも看取られることなく……独り寂しく…………。」

「馬鹿なこと言ってないで立ちなさい」


 誰かに首根っこを捕まれ、グェッといううめき声を上げてマキは立ち上がらされる。


「りーさん……ッ!」

「場所分からないと思って今からあなたのこと迎えに行こうと思ってたんだけど」

「りーさん……ッ!」

「もしかしてあなた、いつもこんな馬鹿なことしてんの?」


 女神が居た。どん底から救い上げてくださる女神様だ。マキは感極まって語彙力を放棄した。

 リィナの目線があちこちに移動して見辛そうだったので、マキはとっさにローブの隠蔽機能を全て解除した。


「しかし、よく気付いたな」

「透明人間じゃあるまいし、居るかもって思いながら探してれば、むしろ分かりやすいわよ」

「そういうもんか」


 マキにはリィナの理屈がよく分からなかったが、気にしないことにした。


 リィナは明瞭になったマキの姿をじっとり観察すると、やがて何か合点が行ったのかマキの背負った荷物を無言で取り上げた。


「あっ!」

「さっさと行くわよ」


 そう言って、リィナは先へとズンズン進んでいってしまう。


「ちょっと待って、女の子に荷物持たせるとか俺の尊厳が」

「は? 公衆の面前であんな無様に寝転がっておいて、まだ自分に人としての尊厳が残ってると思うの?」

「辛辣ぅ!」

「そもそもあなたの亀みたいな歩みに付き合わされるのは私なのよ。何の権利が有って私の貴重な時間を奪うつもりなの? 随分偉くなったものね」

「ごめんなさい。荷物よろしくお願いします」


 まくし立てるような罵倒にマキは投了した。それが他人の荷物を持つための優しさからくる方便であり、同時に半分は本心なんだろうなぁ、とも思った。


 マキの運動神経はカスだが、それでも荷物が無ければ発着所にたどり着くのは容易である。


 街の東側に位置するそこは、馬のようなナニカが多頭飼いされた牧場だった。


「フオォォォオオン」


 体の形は馬に似ていた。毛並みは黒く、目付きは荒々しい。しかし、サイズがどうしてもこの生き物を馬と定義するのを躊躇させた。

 デカすぎる。

 足だけでリィナより少し高い、マキと比べようものなら、その体高は3倍はあった。


「……こんなの管理できるのか?」

「今まで特に問題らしい問題が起こってないってことは大丈夫なんじゃないかしら」


 思えばゲームの時もなんか馬がデカかったが、ただのグラフィックの問題だとマキは思っていた。しかしこれを見る限り、実際の設定として大きかったのかもしれない。


 馬っぽい生き物をジロジロ観察しつつ、二人は発着所内にある建物内にて切符を渡すと、出発準備が完了した場所の荷台に移動させられた。


 荷台は広く長く30人乗っても余裕がありそうな程だった。馬がデカければ馬車も大きくできるのだろう。マキは自分が想像していた馬車と違っていて驚く。これはむしろ日本で運航していたバスに近いものでは無いだろうか。この世界の物流関係は多分自分が思ってよりずっと進んでいるのかもしれない。

 マキはそう思った。


 マキは無難に景色がよく見えそうな、窓際の席を選んだ。ガキみたいな感性だった。


 その隣にリィナが腰掛ける。自分の足元に荷物が置かれた。ここまでずっと、隣の少女に自分の荷物を持ってもらっていたことを改めて認識し、マキは恥ずかしい気持ちになる。

 

 しょーがねーだろ赤ちゃんなんだから、と開き直れる強さが今だけは欲しかった。

 

「助かったよ、りーさん」


 ん。と無愛想な返事をしたリィナの顔を横目に見て、もしこのまま元の姿に戻れなくても、リィナなみたいなかっこいい女性になれるならそれでもいいかな、とほんの少しだけマキは思ったが、男の時でもかっこよくなれなかった自分が、ロリっ娘の状態でかっこよくなれるなんてそんな訳無いので、その思考はゴミ箱に捨てた。

次回、ハネウマのように乱暴な跳ね馬に跳ね馬されます

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