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綺麗な字

作者: 黒福雲母

年々「綺麗な字」が書けなくなっている・


小学校の宿題は、よく書き取りをやっていた。

先生が綺麗な字で書いたコピーを見ながら、十字マスに、似せて書く。


上手く書けないと先生から、再提出するよう赤ペンで訂正される。

それを何回も直すのが、苦痛だった。

そんな記憶があった。

今でも覚えているのは、「夏」という漢字だ。上手く書けなくて、泣きながら何度も消しゴムで消していた。

「夏」の久しいの部分は、簡単に書ける。だが、この上の部分がバランスよく書けなかった。

しかも、その「夏」の漢字が、書取りの1発目だった。

泣きながら、母に八つ当たりをしていたものだ。


今思えば、書き取りの練習なんて、最後のマスから始めていいし、なんなら真ん中から書くと宿題も面白くできたと思う。そんなことは、学校は、教えてくれない。


小学校の際に先生方教えてもらった、「綺麗な字」は、年をとるにつれ、乱雑になってくる。

あんなに先生たちは、時間をかけて教えてくれたのが水の泡だ。


高校生で毎日持っていたシャーペンや鉛筆は、大学生になると片手にスマホだ。

すると、愕然と字を書く機会が減っていく。



ある日、大学の授業レポートを書く機会があった。レポートといってもレジュメ程度の文章を書く内容だ。夏休み明け、つまり2ヶ月ぶりの筆記である。

皆さんが予想している通り、「字」の汚さが目立った。

これは、私でもやばいと感じるほどの字の汚さだった。

半年後には、就活が始まる。


しかも、スマホが登場してから、就活の仕方が大きく変わった。

指1つとスマホを片手に持てば、多くの情報も入手でき、なんならエントリーシートもすぐ送ることができる時代だ。

なにもデジタルに頼れば、「綺麗な字」に縛られることはなかろうと高をくくっていた。



だが、世間は私が思った以上にアナログチックだった。

大手会社ほど、手書きという「綺麗な字」を求められる世界だった。


私は、すぐさま本屋に行き、「綺麗な字」を書ける本を買った。

1日目、ひらがなを書いた。

2日目、カタカナを書いた。

3日目、漢字を書いた。


一般的な字の練習とほぼ変わりない。


だが、こう「綺麗な字」を書いていると、どうも身体に合わなかった。

なんか、人の形にハマっているような気がした。


ふと自分は、こんな「ありきたりな」、「変哲」もない字を書きたかったのかと思い始めた。

確かに、「字のはらい」、「止め」、「バランスを捉える」技術は、大事だと分かっている。

だが、この字を書ききれば、「綺麗な字」に到達できるかもしれないと毎日、毎日練習をした。


ある日、就活のエントリーシート、試験、面接を受ける日々がやってきた。

毎日、綺麗な字をエントリーシートに書いていたら、何か「プツン」と切れた。


私は、一生誰かの枠にハマったまま生きないといけないのか?

字も服装も、言葉遣いも「私じゃない私」のまま生き続けるのか?

その何気ない疑問を持ち始めたら心が苦しくなった。



別に、基礎ができれば自分なりにアレンジしてもいいのではないか?

自分の癖を1つ加えれば、「私なりの字」になる。

「私の人生を表す字」になると。

それから、「私の字」を書くようになった。


ある社会では「綺麗な字」が求められるかもしれない。

だが、字というものは、私たちの「生き様」を表している。

それを一緒のレールに、のせる必要性はない。


「綺麗な字」はもしかしたら、昔の人達は、その人の人生に憧れてみんな描き始めたかもしれない。









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