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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

セックスしないと出られない部屋

 クマノミって知ってる?

 そう、イソギンチャクに住んでる熱帯魚。

 あいつらって、基本的にオスで生まれ、メスがいない群れでは強いオスがメスに性転換するんだよ。

変わってるだろ?


 何故そんなことを言い出したかというと、オレも数年前に性転換して男から女に変わってしまった人間だからだ。


 数年前までは人間は性転換しないというのが常識だったのだが、男余りの現代社会に適応するためかどうかは知らないが、突然性転換する奇病が流行りだした。

 今では百人に一人程度が12歳前後で男から女に性転換するという。


 小学6年生の時に性転換し、中学校からは女として学校に通うようになって早7年。二度の受験を乗り越え、今や立派な?大学生。


 性転換したことで気持ち悪いと離れた友人や逆に下心を持って近づいてきたゲス野郎もいたりして、一時期不登校になりかけたりもしたけれど、親友の孝史(たかし)が男の時と変わらない態度で接してくれたおかげで持ち直し、今では孝史依存症とでも言うくらいにべったりくっついて過ごしている。


 ……依存症、なんていうと病気みたいだが、実際は孝史が他の女の子と会話してるとモヤモヤして気持ち悪いので、他の女を寄せ付けないためにべったりくっついているのが実情。大学で孝司に変な虫が付いてもイヤなので、わざわざ志望校を聞き出して、猛勉強して一緒の大学に入ったくらい。


 いや、まどろっこしい言い方はやめてはっきり言おう。オレは孝史が好きだ。親友としてではなく、異性として。正直付き合いたいと思っている。


 じゃあ告白すれば良いじゃないって? それが出来りゃ、誰も苦労してない。


 アイツはオレが女になったときも態度を変えず、今まで親友付き合いしてくれた。

 それは裏を返せば女としては見ていないって事だろ?


 しかもべったりくっついて、わざと胸を押し当ててみたりしても男らしい反応をしない。

 自分で言うのも何だが、オレは割と胸あると思うし、オレが男だったなら胸を押しつけられたら慌てて赤面するくらいするね。なのにアイツは眉一つ動かさない。


 それどころか「当たってるぞ」だとか「俺以外のヤツにやったら勘違いされるからやめとけ」なんて言ってくる。いやいや、オレはお前を勘違いさせてーんだよ!


 そんなヤツに告白なんてして、万が一(元男のくせして男を好きになるとか)なんて思われて嫌われたりしたら、オレは生きていける自信が無い。


 アイツのことだから、気の迷いだとか言ってスルーされる可能性もあるけれど、この恋心を気の迷いとか言われても、それはそれでへこむ。というか、考えるだけでもへこむ。


 だからオレはこうやってアイツに意識させてアイツから行動を起こさせようと、日夜胸を押しつけるだとかワザとパンチラしたりとかしているのに、全スルーされて今に至るわけだ。


 あまりにどうにもならないから、今朝なんて近所の神社に神頼みしてきたくらいだ。


 神様に頼んだからどうにかなる! なんて信心深いタチではないけれど、もう神頼みでもしないとやってられない。


 まあ、神頼みしたからそんなに急に変わるなんて事も無く、普通に変わらない一日を過ごし、もう寝る時間なわけだけれど。


 やってらんねーな! なんて思いつつ、ベッドで眠りについた。






 「おい、起きろ」


 ゆさゆさと揺すられる。ああ、孝史の声が心地良い。


 伝説の木の下。向かい合うオレと孝史。こんな場所、通っている大学にはない。つまりこれは夢。


 でも夢に好きな人が出るって素敵だよね? そして好きな人の声が聞こえるとか、正直夢から起きたくないよね?


 「もう少し寝かせて……」


 「俺も寝かしてやりたいが、緊急事態でな……」


 「今幸せだから、起きたくない……」


 「まったく、眠り姫かよ。あれか、キスでもすれば起きるのか?」


 「キス!?」


 心の奥底で望んでいる言葉。そんな言葉に思わず飛び起きてしまう。その瞬間、目の前の大木は消えて、白い壁が目に飛び込んでくる。


 ……白い壁? オレの部屋はもっとこう、花柄の模様の壁紙で、こんな殺風景じゃなかったはず…… えっ、ここはどこ?


 「ゆ、誘拐!?」


 まずは自分の体をぺたぺた触りつつ見る。制服だ。着替えた覚えもないし、わざわざ着替えさせたなんて無いだろうから、もしかして授業中に寝て、どこかに連れ去られた!?


 訳がわからず、あわあわしてると、


 「やっと起きたか……」

 

 親友のあきれたような声がした。相変わらず安心感を与えてくれる声だ。


 そちらを見ると、制服姿の孝史が、やれやれ、といったような表情でこちらを見ていた。


 「孝史!」


 不安でいてもたっても居られず飛びつく。


 温かさと安心させてくれる香りが、これが夢でないことを証明してくれる。


 「っと、まったく、(ひかる)は流石だな。こんなよくわからない状況でもいつもみたいに行動できるとか」


 「オレだって混乱してるけど、孝史にこうやって抱きついてたら落ち着くの!」


 「だから勘違いさせるような発言はやめろって」


 頬をつねってくる孝史。その容赦ないつねりは痛みを感じさせ、夢ではないことを改めて実感させてくる。


 と、どこからともなく『ピンポーン♪』とチャイム音がして、カチャッ、と鍵が開く音、そしてドアが開く音がした。


 「えっ、なになに!?」


 「落ち着け輝」


 「うっす」


 言われたとおりに落ち着くことにする。孝史がいれば、何とかなる気がするし!


 「落ち着けとは言ったが、素直に落ち着けるお前は大物だよ…… 俺なんて、気付いたら見覚えのない部屋で落ち着くまで時間がかかったというのに……」


 「大物です!」


 えっへん! と胸を反らして言ってみたら、はーっとため息をつかれた。なぜだ。


 「それよりも、だ。お前が起きるまでこの部屋を見てたんだがな、ここは白い壁で囲まれ、鍵の掛かったドアが一つと額縁があるだけの部屋だったんだ」


 しかもスルーして話を続けてきた。腰を折るのは本意では無いので、相づちだけ打ってやる。


 「ふむふむ」


 「そして今、鍵が開いてドアが開いた」


 「やったじゃん! さっさとこんな不気味な白い空間からはおさらばしようぜ!」


 しかし孝史の表情は優れない。


 「だがな、ドアの向こうも同じような空間に見えるんだ」


 ほら、と孝史の指さす方を見ると、そこにはドア枠があって、その向こうにも同じような白い部屋とドアが見える。


 つまり、さっきの喜びはぬか喜び?


 「で、でも、この部屋だってなんだかわからないけれどドア開いたし、大丈夫でしょ?」


 「これを見てくれ」


 そう言って孝史の指す方を見る。えーっと、ドアの上の額縁?


 「読んでみろ」


 「えーっと、『それぞれが相手にタッチ(触れ合う)しないと出られない部屋?』」


 「そうだな。起きるまで色々試してたが全然開かなくてな」


 「オレに触れてみたり?」


 「まあ、それも含め…… ってそんなのはどうでも良いんだよ。つまり、指示通り『それぞれが相手に触れ合』ったから開いたのだとしよう。じゃあ、次の指令は何なんだ?」


 「どうでも良くはないけど…… なら、とりあえず次の指令を見ようよ!」


 隣の部屋に飛び込み、そこにあった額縁を見る。


 「えーっと、『相手と恋人みたいにハグ(抱き合う)しないと出られない部屋』」


 「おいおい、何があるかわからないんだから、慎重に行けよ! まあ、何もなかったから良いけどさ……」


 そうブツブツいいながら、ゆっくりと部屋に入ってきた孝史に向かって満面の笑みで微笑んでやる。


 「恋人みたいにハグしないと出られない部屋だって!」


 驚いた顔で固まる孝史。ふふふ、この指示に従えば、オレからだけじゃなく、アイツからもハグしてもらえる!



――――――



 輝から言われた言葉につい固まってしまった。


 (恋人みたいにハグしないと出られない部屋だって!? 今までアイツのことを思って我慢してきたのに、恋人みたいに抱きしめろと!? いや嬉しいけど、アイツはそれでいいのか!? いや、嬉しそうな顔をしてるし大丈夫か? いやいや、あれはいたずらを考えてるようにも見えるな!)


 頭の中は高速回転しているけれど、体は動かない。


 「孝史?」


 そういってこちらをのぞき込んでくる美少女。正直抱きしめて愛をささやきたかった。輝が性転換したあの日。一目惚れだった。正直告白しようと思っていた。


 でも、他のヤツから告白されてイヤな顔をしているのを見て、告白はあきらめて今まで通り、親友として付き合おうとしてきた。


 できるかぎり親友として付き合ってきたけれど、出来ているかは自信が無い。


 たとえば輝は抱きつき癖があるけれど、正直嬉しいのをこらえつつ、親友だったらたしなめるはず、と感情をひた隠して諭してきた。


 そんな今までの思いを、何者の手かもわからない額縁の指示とはいえ、解消できるのは嬉しくはある。でも、ホントに良いのだろうか。


 「ほら、早く」


 両手を開いて、受け入れる姿勢の輝。


 「あ、ああ」


 おずおずと抱きしめる。


 柔らかい


 そして温かい。


 ちょうど首元に輝の頭がきて、良い匂いがする。


 背中からぎゅっと抱きしめてくる感覚が心地良い。


 ついつい、抱きしめ返してしまう。


 はっ、いかんいかん。このままだと雰囲気に飲まれて襲ってしまうところだった。


 冷静になれ、俺。


 ほら、抱きしめあったぞ、ドアよ早く開くんだ!


 そんな願いも虚しく、開く気配はない。なんで!? 抱きしめ合ってるのに!?


 「こうやって抱きしめ合ってると、恋人みたいだね……」


 そんな俺の気持ちも知らないで、輝は甘い声でささやいてくる。


 「そ、そうだな……」


 正直、下がたたないようにするだけで精一杯で、上の空で返事をしていくしかない。


 「わかる? オレ、こんなにドキドキしてる……」


 「そうだな」


 俺のドキドキがすごいし、輝の柔らかい部分や体温が感じられて正直輝のドキドキなんてわからないけれど、下半身に意識を集中させつつ生返事。


 「オレ、こうやって抱き合いたかったんだよ? でも、いつも孝史は袖にしてきて一方的で、こんなこと出来なくて……」


 だんだん涙声になっていく輝に、気付けば右手が輝の後頭部を撫でていた。こ、こいつの髪の毛柔らかい……!


 そういや輝がまた男の子だったころ、こうやって泣いてるのを撫でてあげたこともあるっけ。


 そんなことを思いだしていると、下半身の高ぶりも収まってきて、懐かしい感じになってきた。


 ぐすぐす泣いている輝を抱きしめていて思う。こいつは今まで甘えることが出来なかったんじゃないか、と。


 女の子になるなんて大きな事があっただけに、親に甘えきれなかったんじゃなかろうか。


 そして、それを思いやって甘えさせてやるのも親友の役目だったのではないか。


 それなのに俺は、今まで俺自身がムラムラしてしまうから、と突き放していたのではないか、と。


 「ゴメンな、今度からはこうやって甘えてきても良いからな」


 気付けば口が勝手にしゃべっていた。


 「いいの?」


 鼻をぐすっとならしつつ、上目遣いでこちらを見上げて確認してくる輝に。


 「もちろん」


 そう言って抱きしめてあげたのだった。


 そのままギュッと抱きしめて頭を撫でていたら、気付いたときには部屋のドアが開いていた。



――――――



 なんか知らんが、これからはオレが孝史に抱きついても良いようだ。


 先ほどは、抱きつかれたときの気持ち良さについ気持ちが高ぶってしまい、素直な気持ちを表明してしまった。


 けれど正直嫌われたかも? なんて思って見上げたら、孝史はなんだか感極まったような顔をしていて、甘えてきても良いぞ? なんて言ってくれた。


 正直、額縁の指示である恋人っぽく、というのに従っただけかもしれないが、とにかく言質はとった。


 「あれはあの場の雰囲気で~」なんて言い訳もさせない。今度からは抱きついても孝史には止める権利はない!


 そんな幸せなことも言われたし、そもそも孝史からギュッと抱きしめてもらえるというだけでも幸せで体がぽかぽかする。


 目の前の、顔が当たっているがっしりした胸。そこから発せられるフェロモンと体熱!そして後ろから支えてくれる太い腕!! さらに頭の上を撫でていく大きくて無骨な手!!!


 これを幸せと言わず、何を幸せと言おうか!


 そんな至高のひとときを過ごしていたら、「ドアが開いたからそろそろ行こうか」なんて優しい声で言われた。良いところで邪魔するなんて、ドアのヤツめ……!


 とはいえ、ぶーたれていても仕方ない。ならば、さっさとこんな空間からおさらばして、見慣れた場所でいちゃいちゃするまで!


 そんな気持ちで入った部屋は、今までとは違い、内装がしっかりしていた。


 具体的には、ベッドがあった。ガラス張りの風呂があった。謎の水槽があって、カマキリのつがいが入っていた。


 なんでカマキリの水槽があるのかはわからないが、これは、まるで噂に聞く……


 「ラ○ホテル?」


 「ちょ! そんな直球で言わなくても! 俺も思ったけど! ……っと。この部屋にもドアと額縁があったけど、良い知らせと悪い知らせがあります。どちらから聞きたい?」


 「じゃあ、良い方から」


 「わかった。額縁が二つあったんだけれど、それが正しいのであれば、この部屋が最後の部屋で、ここから出れば元の世界に帰れるらしい」


 「なるほど。じゃあ悪い知らせは?」


 「この部屋の脱出法だが、えーっと、その……」


 孝史は、あー、だとか、うー、だとか、変な声を出して結論を言わない。


 「なんだよはっきり言えよ」


 イライラしてきたので、こっちから突っつくことにした。


 「わかった。書いてあるままに言うからな」


 「おう」


 「『セックス(交尾)しないと出られない部屋』」


 なんだか(なまめ)かしい言葉が聞こえた気がする。確認してみよう。


 「……すまん、もう一度言ってくれ」


 「『セックス(交尾)しないと出られない部屋』」


 聞き間違いではなかったらしい。


 「……つまりあれか? ここはそういうホテルを模しているのだから、ヤれと?」


 「……端的に言えばそうなんだろうな」


 「この意味深なカマキリの水槽は?」


 「そんなのがあったのか。カマキリと言えば、メスがオスを喰う…… いや、なんでもない」


 「なんでもないって今更言っても聞こえたわ!」


 「しかしここまで来ておいて何だが、ここは水もあるしベッドもある。こんな指示に従わなくても助けが来るまで待つという手もある」


 「そりゃそうだが、いつ来るかわからない助けを待たずとも、ヤりゃ出られるんだろ? さっさとヤって出ようぜ」


 「女の子がそういうこと言わない! もっと自分を大事にしてだな……」


 ぐちぐちと孝史が言ってくるが無視無視!


 まずは避妊具とかがないかチェックしないと。


 聞きかじりの知識だけれど、ああいうのは備え付けられてるんだろ? 体を大切にしろって先生にも両親にも言われたし、そういう身を守る知識くらいはある。


 ごそごそ捜し物をしていると、後ろで息をのむ音が聞こえたかと思うと、孝史が大声で


 「はっ、もう初体験は済ましているから大丈夫と、そういうことか!?」


 「んなわけねーよ! 失礼な!」


 手元にあったティッシュケースを振り返りざまに投げつける! 見事顔に命中!


 「体験などしとらんわ! こちとら生娘じゃ!」


 「だったらこんなところで俺とではなく、好きな人とするべきだろ!」


 「言われずともオレだって好きな相手じゃなきゃしねーよ!」


 っと、つい勢いで言ってしまったが、これ実施告白では? 顔が赤くなってくるのを感じる。それなのに孝史ときたら。


 「それって俺のことを親友ではなく恋人候補として見てるということ……? いやそりゃないか。忘れてくれ」


 なんという鈍感主人公。なぜそこで日和(ひよ)るんだよ…… さっきの熱が引いていったわ…… もう…… なんなんだよこいつは。


 「ここまで言ってもわからねーのかよ…… そうだよ、お前のことは恋人になれたら良いかもって思って見てたんだよ! だからここで済ましてもいいって思ったんだよ!」


 思ってたことを言ってやって、スッキリしてさあ反応やいかに! と孝史を見ると、


 「そこまで思ってくれてたなんて……!」


 なんだか引いているのか、固まっている。い、一応フォローしとこ。


 「まあ、オレの勝手な思いだから、お前の迷惑になるかも知れないし、だからせめてこの部屋の中だけでも叶えてくれれば…… って、どした?」


 固まった状態から、なんとも言えない奇妙な表情になった孝史か気になり、話を打ち切って聞いてみる。


 「いや、俺もお前のことが昔から大好きで、でも迷惑かなって気持ちを隠してたから、両思いだと知れて、嬉しいのに、なんだか涙が……」


 そうか、孝史もオレのことを思ってくれてたんだ。嬉しい。

 

 ただ気持ちは嬉しいけど、男の涙はなんか、こう、うるさいな!


 「あーもう、泣くなよ! 俺が先にシャワー浴びてくるから、壁の方向いて待っとけ! 間違ってもシャワー室の方を見るんじゃねーぞ!」


 照れくさくなったのでそれだけ言って、俺はシャワー室に逃げ込んだ。



――――――



 輝が俺のことを好きだったなんて。これはあれか、両片思いだったと言うことで、つまり両思いということか……!


 後ろから聞こえるシャワー音。それがよからぬ妄想を引き立ててしまうので、後ろを振り返りたい気持ちを抑えつつ、水槽の中のカマキリを眺めることで気を紛らわす。おっ、なんだか絡み合ってるな…… こんな空間だから、カマキリも空気に当てられたのか?


 と、なんともなしに眺めていると、後ろからきゅっとシャワーの止まる音が聞こえた。


 そして、ガラガラとシャワー室の戸が開く音。


 「もういいぞ~」


 その声に振り返ると、シャワー上がりの火照った体をバスタオルで隠した、芸術品のような姿の輝がいた。


 「綺麗だ……」


 「あ、ありがと……」


 しばしの無言。照れくさくて直視できない。


 「ほ、ほら、お前もシャワー浴びてこいよ」


 「あ、ああ」


 ぎくしゃくと歩き出そうとした瞬間。


 「ピンポーン♪」と音が鳴って、鍵の開く音、そしてドアが開く音がして、森独特の湿った土の香りが流れ込んできた。


 まだやってないのに…… まさか! とカマキリの方を振り返ると、カマキリは2匹でよろしくやっていた。あれか、(カマキリが)セックス(交尾)しないと出られない部屋だったのか。確かに今までの部屋とは違い、相手と、という指定は無かったけど! こんなの詐欺でしょ!


 ……いやまあ、ヤらなくてよくなったのは残念な気もしないではないけれど、輝を傷つけるところだったことを考えると良かったんじゃないかな、うん。


 そんな残念に思う気持ちを押し隠し、笑顔で


 「ヤらなくても出られるぞ! よかったな!」


 と輝の方を向くと、顔を真っ赤にしてこちらをにらみつけている。


 「ひ、輝……?」


 「うるさいうるさい! ここまで来たんだから男らしくヤっちまえよ! 据え膳食わぬはなんとやら、だぞ!」


 「それ男の台詞! って、ちょっと、ベルトをガチャガチャしない!」


 「なあに、オレだって元男だから、どうすればいいかくらい、わかるんだよ!」


 そう言って俺のベルトを外し、ズボンをずり下げようとする輝。目がいっちゃってる……


 「やめい!」


 とほっぺたをペシペシ叩いていたら、輝はいろいろ限界になったのか、きゅう、と言って倒れた。


 「お、おい、輝!?」


 心配して抱き上げると、すう、すう、と寝息が。


 「まったく驚かせやがって……」


 かくして、俺と輝の貞操は守られたのだった。




 気絶したままの輝に四苦八苦しながら制服を着させて、お姫様だっこをして部屋から出たら、摩訶不思議なことに、部屋は元々そこには何もなかったかのように消えてしまった。


 「輝と恋人になれればいいな、なんて神頼みしたから、神様が何とかしてくれたってことかな」


 きっかけはともかく、お互いの気持ちも知れたし、良い経験だった。そういうことにしておこう。


 腕の中に感じる重みと温かさに感謝するのだった。




 そんなわけで無事に元の生活に戻ることが出来た俺達。


 ただ一点違うのは、両片思いから、両思いになったと言うこと。



 両思いと言うことがわかってから積極的に俺を誘惑してくる輝と、もう少し付き合ってからと誘惑を退ける俺。


 それに対して輝から「意気地無しのドーテー」なんて言われてへこんでしまうのだが、それはまだ先の話。

  

なろうで大丈夫なオチ…… だよね?

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[良い点] 最高です(語彙力()) [一言] 続きはどこにありますか(目ぐるぐる)
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