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夢みる枕とパンケーキ



最近どうしてか夢見が悪い。

……そう漏らしたら、薬屋さんが不思議な枕をくれた。

箱枕というやつ。

試しにそれに耳をくっつけて横になってみると、中からトンテンカンと音がした。

こんこんと木に釘を打ち付ける音。

積み上げた荷が崩れたらしく、大勢の人が泡をくっている気配。

重たい材料を運んでいる人たちが交わしあう符牒めいた掛け声。

……工事現場?

耳を離すと、賑々しい営みの音は遠くなる。

枕の中でこびとが今まさに工事中だとか?

「へんてこな枕」

っていうかこれは本当に枕なのだろうか。

はてさて…。

私は再び横になり、ぴったりと枕に耳をつける。

そしていつしか眠りについていたのだった。


「そら混ぜろ」

底に真っ白な液体の溜まったプールに、どっさりと白い粉が投入された。

もうもうと粉の舞い上がるなか、割烹着をつけたこびと達が号令に合わせてオールのような棒でプールをかき混ぜ始める。

なんだこれ。

どことなく温泉地で見たことがあるような光景だけど、揉まれているのはお湯ではなく粉が混ざってねっとりとした……何の液体なんだろう。

「そら混ぜろ」

怪訝に思いながら眺めているあいだにも、プールの中にはまたざざっと新しい粉が流し込まれていた。

こんどの粉もやっぱり白いけれども、さっきの程目が細かくないのかずぶずぶとプールの中に沈んでいく。

「そら混ぜろ」

ねちねちとかき混ぜられるプールの中身……。

突然現場の空気を引き裂くように、甲高い笛の音が響いた。

オールを漕いでいたこびと達がわーっと一斉に待避する。プールの中身はまだちょっと粉っぽさが残っていた。

わっせわっせ、とたくさんのこびとが立派な丸太を遥か頭上に渡す。それには巨大な茶色い玉がロープで結わえて吊り下げられていた。

まんまるではなくて、ちょっと歪な楕円の玉だ。

それは上手い具合にプールの真ん中で止まった。

丸太を固定したこびとたちは、わーっと二手に分かれて玉を支えているロープに群がる。

粉をかき混ぜる担当だったこびとたちが、今度は一斉にスリングショットを放ちはじめた。

かっこよく言ってみたけど、別に言葉ほどかっこよくはない。

おもちゃみたいなぱちんこで、茶色っぽい石を打ち始めただけのことだ。

石はこつん、こつん、と玉の表面に弾かれてプールの中に落ちる。それでも繰り返し同じ場所に石を当てているとやがて玉の表面に小さな亀裂が入った。

ぴしぴしと亀裂が大きくなると思ったら、玉を支えているロープを両側からこびとたちが引っ張っているのだ。

そしてぱかりと玉は割れる。

「そら混ぜろ」

再びの号令が響いた━━。


甘い匂いで目が覚めた。

香ばしいバターの匂いと、砂糖の焦げた甘美な香り。

きゅう、とお腹が鳴る。

窓の外はすっかり明るくなっていた。

いいにおいを辿ってキッチンに行き着くと、そこには退屈そうな顔で猫目が頬杖をついていた。

驚いてはいけない。

この街で猫目の入り込めない場所などないのだ。たとえ鍵のかかった蔵だろうが、独り暮らしの若い娘の家だろうが。

「きみが驚かすから逃げていっちまったよ」

頬杖をついたまま、猫目は視線だけ動かして言った。

視線を辿った先では、コンロに炙られたフライパンの上で今まさにパンケーキが焼き上がろうとしているところだ。

「逃げて行ったって誰が?」

勿論、こびとたちに決まってる。

私が意地悪く訊ねると、猫目は鬱陶しそうに欠伸をひとつ。

「薬屋から枕を貰ったろう」

「おかげでお目覚めスッキリよ。……なんでそんな機嫌悪そうなの」

「別に」

むっつりと猫目が顎をしゃくる。

私はコンロを止め、ふんわりと焼き上がったパンケーキをまるごと食卓に運んだ。

温かくて美味しいものを食べれば、猫目の機嫌もきっとすぐになおるだろう。


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