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召喚された勇者だけど、俺の嫁って生贄扱い!?でも、その生贄王女はいりません。そっちの女騎士が俺のツガイです。

作者: 木村 真理

「タキイ・ラグノール、呼び出しがかかったぞ!来い!」


緊急連絡が、ホールに響く。


「呼び出し……?」


「マジかよ!よかったな、タキイ!!」


ちょうど5VS5の無重力テニスの試合の真っ最中だった。

けど、仲間たちはラケットを放りなげて、俺のとこけ駆けてきて、バンバン背中をたたく。

その痛みで、これが現実だとわかった。


「呼び出し……、き、き、きたーーーーー!!」


緊急連絡での呼び出し。

これは文明が完成しきってなにもかもコントロールされてるh2@;k-で、唯一のイレギュラーだ。


h2@;k-は、この宇宙圏でぶっちぎりに文明が発達している小星だ。

いちおう先進国自主規制連合に加入しているものの、あまりにも他の星との文明差が大きくて、栄光ある孤立をするしかない小星。

俺たちの遠いご先祖様は、他の星を侵略したり、文明を促進したり、未開生物をさらってペットにしたりといろいろやりたい放題だったらしいが、そういう関わりすら近代では遠のいている。

あまりの文明差に、興味や関心もわかなくなるらしい。


けど、そんな中でも例外はある。

それが俺たち、ツガイ持ちってやつだ。


h2@;k-では、人類種の増殖は、男性種がマザーパールに自分の種を植え、マザーパールがある程度育った子を産みだすという形態をとっている。

けれどツガイ持ちは、神代のころと同じように、同じ人間種同士が交わって子どもを産むという、極めて動物的な関わりを求めずにはいられないイレギュラーな人類種だ。

もちろんh2@;k-では、子どもを胎に宿せる女性種は大昔に絶滅しているので、ツガイ持ちの相手は他星の人類種となる。


そしてこれがやっかいなことに、ツガイ持ちは、ツガイとなる相手たった一人しか愛せない。

いくらイレギュラーな人類種とはいえ、h2@;k-で生まれ育った人類種にとって、人間同士の交わりというのは生理的嫌悪があるからだろう。

連綿と体と心に受け継いできた常識すら跳ね返すほどの相手でなければ、男女としての愛情など育てられないのだ。


けれど、相手は必ず他星の人類種。


大昔のこととはいえ、わりとガチで他星を侵略したり、他星を狩場にしたり、滅ぼしたりしてきたh2@;k-は、先進国自主規制連合の取り決めに寄って、他星への干渉をこまかに規制されている。

ぶっちゃけそんなもの無視して好きにふるまっても、他星などh2@;k-の敵ではなく、気に入らなければぷちっと潰してしまってもよいのだが、h2@;k-の人類種はおおむね鷹揚で、自主的に他者に足並みをそろえることにしていた。


そんなh2@;k-の人間が、他星への関わりを許される例外事項。

それがツガイ持ちが申請するツガイがいる国への転移許可願。

ツガイ持ちというイレギュラーな人類種が、自分のツガイのいる星へ転移するのだけは、認められているのだ。

これは、ツガイ持ちだった連合国トップが他星を威圧して得た権利らしい。

けれど、転移許可にはひとつの条件がつけられていた。

相手の星から、h2@;k-の人間への招待がなされてなければいけないのである。


ツガイ持ち自体が少数だからか、実際にツガイがいる星へ転移許可が出ることはほとんどない。

年に1件か2件……、まったくないまま10年がすぎることもある。

俺も5年前にツガイを発見してすぐ転移許可願を出してはいるものの、あと数十年待つくらいの覚悟はあった。


けど、呼び出しは来た!


友人たちの祝福にハグで応えて、すぐさま他星転移場に転移する。

顔見知りの管理官はめったにない笑顔で、「おめでとうございます」と祝福してくれた。


「運がよかったですね。転移先であるエルクラード星の技術では倒せないグラ龍という龍の卵が出現したようです。そのままにすれば、エルクラードは滅ぶようで、こちらに救援要請が来ました」


管理官の説明にともなって、赤黒い巨大な龍と、どす黒い紫の卵の映像が目の前に見えた。

粒子硬度、力学量、威力、魔術量をざっとチェックする。

なるほど、ツガイがいるからと調べていたエルクラード星の人間では、とうてい倒せない相手だ。

エルクラードは、先進国自主規制連合の存在すら明かされていないめちゃくちゃ未開の星だからな……。


ま、俺も自分の力量じゃこんなバケモノ倒せないけどね。


現状は、グラ龍は卵。

だけどめちゃくちゃ硬度がある。

とすると他星の古い建物を破壊するときに使用する粒子鉾がいるかな。

つきさしたものの構造を粒子単位で変えられるやつ。

あれで卵を壊そう。


中身が育ってて出てきたらまずいから、元素変換鉾も持っていくか。

これで適当に動けないようにして。


後は、なんだ?

現地民がごちゃごちゃ言ってきた時用に、威圧雷とか、召喚獣とかもてきとうにピックアップしとこう。


ざかざかバスケットに武器を放り込んで、購入する。

エルクラードじゃ、買い物も「お金」という実在物と「商品」という実在物を交換するらしい。

神代かよ……って、まぁ、文明レベルじゃ神代レベルだよな。


エルクラード星の生活は、現在の快適で安楽な生活とはかけ離れてる。

でも、あそこには俺のツガイがいる。


めちゃくちゃわくわくして転移陣につく。

管理官が、ひらりと手を振った。


「どうぞ、よい転移を」


「あぁ!うちのめちゃくちゃかわいいツガイに会ってくるな!」






言い終わらないうちに、転移は終わってた。


ざわざわとした空気が、俺の登場によって静まり返る。

広いホールだ。

そこに重そうな衣服を来た未開の民がひしめいている。

野性的な雰囲気に、ちょっとたじろいた。


だけど、視線をめぐらせると、愛しい俺のツガイの姿を発見した。

こわばった表情だ。

けど、めちゃくちゃかわいい。

h2@;k-のデータで見ていたのの10000倍はかわいい。


「勇者よ……」


ツガイに見とれていたら、壮年のおじさんが話しかけてきた。

悲壮な顔をしているから、「ツガイを見つめるのに忙しいんで話しかけないでください」とか言えない。

とか思っていたら、ホールの人々がばらばらと俺に頭を下げる。

おじさんも俺に頭を下げて、


「この星は、今、消滅の危機にある。おそろしいグラ龍の卵が現れたのだ。この窮地を助けていただきたいと、古来から伝わる儀式にのっとり、貴殿を呼び出した次第。どうか我々をお助けください」


「いいよ。けど、対価は承知してるね?」


「それは、もちろん。世界でいちばんの美女を、貴殿に献上いたします」


深々と頭をさげて、おじさんが言う。

その隣にいた小さい女の子も一緒に頭を下げる。


うん、と俺はうなずいた。

その約束さえしてくれれば、いいんだ。


俺は、ツガイを見て言った。


「君を嫁にもらえるなら、あの龍の卵は滅するよ。いいね……」


ツガイは小さくうなずく。

なんでかおじさんと女の子、それにおじさんの奥さんっぽい人も悲壮な顔でうなずいている。

っていうか、この場にいる全員がうなずいているんだけど、これって了承ってことでいいんだよね?

俺が嫁にしたいのは、ツガイだけなんだけど。


まぁ、いいか。

俺のツガイもうなずいてくれているし。


「では、行ってくる」


無重力装置を働かせて、ホールを飛び上がり、天井近くの窓から外へ出る。

はめ殺しのガラス窓だったので元素変換鉾で一瞬気体化し、外に出てから元に戻す。

ホールでどよめきが起こったけど、パフォーマンスのひとつです。


さて、龍の卵はっと。

目的地の設定はh2@;k-でしてきたので、光学ガイドに従って卵のところまでいく。

どす黒い卵に粒子鉾をうちつけると、卵はさらさらと粒状になって崩れていく。

あ、これ、中身まで粉末っぽくなってる。

まぁいいか。


粉末状の元龍の卵を手のひらにとって、再度固める。

証拠としては微妙だけど、現地民もこの場所は知っているみたいだし、不安ならここまで確認にくればいいだけだ。


ホールには簡易転移陣を置いてきたので、ひょいっと戻る。


「もどったよ」


ツガイにわらいかけながら、おじさんに卵のかけらを渡す。


「こ、これはグラ龍の……!まさかこの一瞬で……!?」


「破壊したよ。もうグラ龍は孵化しない。確認はしたければしていいけど、その前に報酬をもらおうか」


やっと彼女に愛を乞える。

君とツガイになりたいんだと言えば、彼女は喜んでくれるだろうか。


俺は、異星人だ。

この星は通常、異星人とは交流しない。

きっと普通に求婚しても、彼女は俺を愛してはくれない。

だからこその転移許可願いだ。

この未開の地ではなしえない功績で、彼女の歓心を買おうとしているのだ。

じゃなきゃ、初めから相手にしてもらえないから。


でも、最初のきっかけがなんであれ、俺は君だけを唯一の人として愛するから。

君も、俺を好きになってほしい。


生まれて初めて緊張しながら、彼女の前へ立とうとする。


なのに、なぜかおじさんが俺の前にたちふさがる。

そして、小さい女の子をぐっと差し出してきた。


「勇者よ、これがこの世界でいちばんの美女、わが娘アンリエール王女だ。貴殿の功績を称賛するため、報奨としてこの娘をさしあげよう」


「え?いや、いらないよ」


めちゃくちゃ悲壮な顔をしたおじさんと女の子が、俺の言葉にぽかんとした。

でも、その子、俺のツガイじゃないし。

っていうか、マザーパールが産む子どもより小さい子なのだ。

子どもじゃん。

それが嫁って……、ないわー。


ドンビキの俺をよそに、おじさんが顔を赤くする。

女の子は目から涙をぽろぽろ零す。


「勇者は……、我が娘を愚弄するか!」


「わたくしでは、生贄にはなれませんか?」


生贄!?

なんか悲壮な顔してると思ったら、めちゃくちゃ物騒な言葉が出てきた。


え、俺の嫁って、生贄扱いなの?

なんか、へこむ。


めちゃくちゃ大事にするし、苦労はさせないつもりなんですけど……。


「俺が欲しいのは、生贄じゃなくて、彼女なんで」


俺はごちゃごちゃ泣きわめくおじさんと女の子をふりきって、愛しのツガイのところへ歩く。

呆然と俺たちのほうを見ていた彼女の手をとって、一世一代の告白をした。


「一目見たときから、心を奪われていました。一生をかけて愛し、大切にすると誓います。どうか俺と生涯を共にしてください」


「え」


銀色に輝く鎧を身に着けた彼女は、ひざまづいて愛を乞う俺を綺麗な緑の目で見下ろしてきた。

真っ赤な髪を高く結い上げ、凛々しい目元をした彼女は、いつも凛としている。

けれど俺の言葉を理解したのか、すこしずつ頬が赤く染まる。


これは、脈ありか?


事前にエルクラードの求婚事情とか恋愛事情を調べておいて、ほんとよかった!

他星の女性種に「ツガイだから交わろう」と求婚して3年口をきいてもらえなかったマリウス、お前の失敗は俺の糧になっているぞ!


期待をこめて、彼女の瞳を見つめる。

その新緑の瞳がうるみ、いまにも「諾」の返事がもらえそうなとき。


「カミーユなんかのどこがいいっていうの!?」


なんともヒステリックな甲高い声でわめきながら、さっきの女の子が俺の腕に抱き付いてきた。


「アンリエール!」


おじさんが叫んでいる。

けど女の子……アンリエール王女は、俺のツガイを睨み付けて、言う。


「アッシュバーン男爵令嬢のカミーユは、今年28歳にもなるいき遅れですわ。身長も、並の男よりおおきく、体つきもごつごつして醜い。騎士としては有能ですけど、女性としては最低の女です。その女を、このわたくしを差し置いて選ぶとおっしゃるの?」


「え、そりゃ、まぁ」


女の子の剣幕に驚きながら、簡単な事実を告げる。


「俺も28歳で同じ年だし、彼女の身長が高いと言っても俺の肩より小さい。体つきや顔も、どうみても君より彼女のほうが綺麗だ。なにより人格も君よりずっと美しいと思う」


h2@;k-の人類種は、一時期自分たちをより優れたものにするためにあれこれ遺伝子を操作したことがあった。

だからたいていの異星人より、h2@;k-の人類種は大きく、美しく、知能や体力に優れているっていわれている。

このホールにいる人間種も、ほとんどの人間が俺の肩くらいまでしか身長がない。

カミーユは、女性種としては珍しい長身であることは事実のようだ。

けれど、俺から見れば他の女性は小さすぎる。

マザーパールが生み出す子どもが彼女たちより少し大きいくらいの背丈なので、顔だけ老けた子どもがいっぱいいるようで、正直にいえば若干気持ちが悪い。


ツガイの星の人間だ。

未開人への差別意識は持たないようにしているけど、ツガイ以外の未開の人類種にはやっぱりちょっと嫌悪感を感じてしまう。

彼らの野性味が、h2@;k-とは違いすぎるからだろう。

たいていは時間が解決してくれると、他星へ転移した諸先輩方は言っていたが。


アンリエール王女の言葉は、俺から見ればくだらないの一言で片づけられる的を射ないものだったけど、ツガイは傷ついたようだった。

これは、ダメだ。


「貴女の名を呼ぶ栄誉をいただけますか?」


もう一度、ツガイの前にひざまづく。

ごちゃごちゃわめくアンリエール王女を無視して言えば、ツガイは王女を気にしながらも「ええ」とうなずいてくれた。


「では、カミーユ。美しい人。ご存じの通り、俺はこの星を一瞬で支配することができる能力を持っています。貴女が望むなら、この星のすべてを貴女に捧げましょう。もちろん、無礼な女を処刑するのもお好きなように」


「処刑!?」


王女がごちゃごちゃうるさいので、その場にあった石像をひとつ、粒子鉾で砂に帰す。

エルクラード星人たちは、口々に悲鳴をあげながら、平伏する。


「そんな……、そんなことを、私は望みません!」


ツガイは叫ぶように言う。

その手は俺の手を握りしめている。

ぶわっと体温があがる。

心臓が鼓動を大きくする。

胸の奥から、ふわふわするような駆けまわりたくなるような、甘酸っぱいなにかがあふれ出る。


ツガイだ。

これが、俺のツガイだ。


いま、改めて、俺はそれを悟った。

全身の細胞のひとつひとつが、目の前のツガイを求めている。

彼女に出会うために、俺は生まれてきたのだと。


ツガイは、そんな俺の激情に気づかない。

自分が俺の手を握っていたことに気づいて、おずおずとした笑みを浮かべながら手を離す。


「お話をしましょう。勇者様」


「話……?」


「私は、貴方のことを何も知りません。貴方もそうでしょう?でも、私はこの星を救ってくださった貴方に、心から感謝しています。貴方が私と生涯を共にすることを望んでくださるなら、そうしましょう。だから、お互いにもっと知り合えるようにたくさんお話をしてください」


頬を染めて語るツガイは、ヤバいほどかわいかった。


「もちろんです、カミーユ」






後で考えれば、俺はこの時すでにカミーユの尻にしかれていたのだと思う。

まぁ、カミーユの尻にしかれるのは、世界でいちばん幸せなことだと思うので、俺の生涯に悔いはなし!だ。


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― 新着の感想 ―
[一言] じゃあアンリエールは私が貰いますよ ムフフ・・・・・ 超スパルタで伝説級の女冒険者に育ててやる!!!!
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