またもや再会というより探した
佐藤さんがお見舞いに来てくれた次の日、僕は冷気を纏ったそよ風が吹く屋上にいた。天気は快晴で、雲ひとつ無い満天の青空だ。そのおかげか強い風が吹かない限り、太陽の日差しで暖かい。何故屋上にいるかというとある人を捜すためだ。
人気の無い屋上で僕の目的の人が見つかった。彼女はベンチに腰を掛けながらボーと空を見上げている。何を見ているかはわからないけど、僕が短い間、この二日間会ったなかで空を見上げている彼女は見て初めて楽しそうに見えた。そんな彼女に近づき話しかける。
「こんにちは、いま時間はありますか?」
この時間は誰も来ないと思っていたのか、彼女は凄く焦っているように見える。
「あ、えと、誰ですか?」
だがこの状況で的確かつ適当な返答をしてきた
「昨日話していた人です」
彼女の返答に対し僕は事情が事情といえど明らかに不適当な返しをする。すると彼女は僕の返答に体を強張らせる。彼女からしたら僕は不審者だろう。だって屋上で空を見上げてたら、男の人が昨日話していた人ですって明らかに不審者丸出しな自己紹介だよ?ちょっと自分の不審者具合に絶望して涙腺ちょちょぎれそう。
「一応、二日間会っているんだけど、僕の顔って忘れられやすいかな」
そこで彼女はハッとし何かを思い出した顔になり、強張らせてた体を直ぐに緩ませ、さっきまでの表情とは嘘のように笑顔になっている。というより変わりすぎじゃないかな。昨日までの反応から初対面のような反応されるかと思ってきたのだが不要だったみたいだ。もし初対面のような反応されたら、僕のなけなしのコミュ力を総動員して彼女と会話をしないといけなくなってた。
「もしかして石弥心さんですか?」
え__?なんで僕の名前を知ってるんだ。彼女に名前を教えた事なんて無かったのに
彼女は僕の様子を見て可笑しそうにふわっと笑う。
「秘密です」
彼女は少し楽しそうに、座ったままの体勢で腰に両手をあてちょびっとだけ誇らしげに告げてきた。その様子はとても可愛らしくてつい見惚れてしまった。忘れかけてたけどその前になんで違和感無く、自然に僕の思考読んでるの?この子も孤羽と一緒というか同類?……うん……とりあえず思考放棄して。
「お隣に座らせて貰ってもいいかな?」
彼女を探している時、色々な人に何処にいるか尋ねてその都度名前を聞かれて、わからないって伝えたら、八割がたが不審そうな目をして僕を見るから、大分メンタルが削られた。彼女の居場所を教えてくれた親切なおばちゃんたちには、何故か頑張りなさいよの言葉や、生暖かい目線を頂戴してメンタルは削れなかったけど……もう色々と疲れた。
僕が少々遠い目をしていると彼女は全てを受け入れ許す聖女のような微笑(主観)を浮かべながら
「はい?良いですよ。」
と天使のような……………。というよりさっきから無防備すぎないかな、坂口さん、さっき知り合ったばっかりの不審者フルアクセルな男なんだけど……僕。うん、もう自分で何に言い訳してるかわからないけど泣けてきた。
空を見上げると太陽が僕をねぎらうように僕の体に紫外線やらなんやら色々と含んだ光を浴びせて来る。彼女に対して邪な事を考えたせいだろうか。凄く心が浄化されて逝ってる気がする。今の僕の心はカビキ○ーに浸されて脱色したTシャツのように真っ白だからどこかに逝ける気がするよ。たぶん、きっと、めいびー
「あれ?心さん?すごく疲れた目をしてますけど大丈夫ですか?!」
彼女は僕の異変に気づいたのか。顔を人生初めての体験?!みたいな驚いた顔で僕の体を揺さぶってくる。
あぁ……そうだ。もともとの目的を忘れてた。
僕を揺さぶってたせいか耳に掛かっていた彼女の髪がさらりと落ちる様子を見ながら僕は聞く
「一昨日から会った君たち、、、いや、君について教えてくれないかな」
彼女はピクリと肩を揺らして、先ほどまでの顔とは一転少し困った顔になっていた
「それはなぜですか?」
僕は彼女の問いに対して、色々と合ったせいでうまく思考の回らない頭で正直に返した
「好奇心かな?」
彼女はきょとんとしたあと、僕を揺さぶってた体勢のままくすくすと面白そうに笑い始めた。どうやら僕の回答はお気に召したらしい。そんな事よりこの体勢まずくない?物凄く距離が近いと思うんだけど。最初は離れて座ってたはずなのに、いまでは顔を至近距離で見れる距離だ。
彼女はひとしきり笑い、笑顔のまま僕に伝えてきた
「私たちというより私は多重人格障害なんです」
多重人格障害、詳しくはしらないけど聞いた事はある。正式名称は解離性同一障害、子供の頃にあったトラウマが原因で感情、記憶が分離して分離した状態でひとつの人格が生まれてしまうらしい。
大分前に孤羽から聞いた話だからよく覚えてはないけど、こんな感じだったような気がする。
「不気味ですか?」
僕が難しい顔で考えてたせいか彼女は不安げに瞳を揺らしながらに僕に聞いてきた。
だが僕の返答はもちろん迷う必要もなく僕の口から放たれる
「いや、全然」
僕が迷いなくに言ったせいか彼女は目を見開きそんなの嘘だとばかりに僕を見てきた。
「なんでですか?」
彼女は信じたくても信じ切れないようだ。さっきの言葉が物語ってる。今の彼女は凄く辛そうで、泣きそうで、寂しそうだった。その時、この二日間会った彼女、いや彼女たちの諦めと寂しさが入り混じった顔や、自分の不甲斐なさで泣いている顔を思い出した。
だから僕は一人の人間として彼女たちの笑顔を見てみたいと思った
少しだけ僕は別の仮面を被ることにする。これからやるのは道化師つまりはピエロの真似事だ。僕は椅子から立ち上がり彼女から数歩の距離まで歩き止まり彼女に向かって振り返る。そして彼女の目をまっすぐみた。彼女の綺麗な瞳をまっすぐ、しっかりと見る
「君はここに居る」
一語一語しっかりと、彼女に聞こえるように
「肉体がひとつでも」
普通なんて糞食らえだ。普通なんてものに固執するから得体の知れないものを否定し排除する
「一人の人格として」
肯定して受け入れた上で否定し排除しろ__そう僕は決めた、いや定めた
「しっかりこの世界で生きている」
君はこの世界でしっかりといる__混ざり者とは違う
「それでも納得できないんだったら」
君を受け入れるよ__その後どうなるかわからないけど
「君を歓迎するよ」
君という人格を肯定する__今、この世界で確実に、永遠に
「君という人格を認めるよ」
ノイズの走った昔の僕の記憶が今の状態のせいか少しだけ蘇った
「だからさ、そんな表情しないで笑おう?ニッコリとさ」
今は大切な人達に囲まれているが僕は今、しっかり心から笑えているのだろうか
少しだけ主人公の歪んだ場所がわかってくれれば幸いです




